キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人達がうたの家で雑談の中で出たお土産の話を終えて、こころは先程影人がピアノの話を話題の候補の一つとして挙げたためか……早速スマホでニュースを探していた。
「そういえば、なな先輩は先輩のお母さんが出ているピアノのコンサートを観に行ったんでしたよね。そのコンサートは……あっ、ありました!」
「速っ!?もう見つけたの!?」
「こころ、すぐに見つけるなんて凄いプリ!」
こころがななが観に行ったコンサートについて早速調べようとすると、まさかの検索サイトのホーム画面にそのニュースが存在していた。
そのため、こころはななの母親が出演したコンサートの話題が取り上げられたニュース画面を開く。
「“ピアニスト、蒼風睦美”……やはりなな先輩のお母さんのニュースですね」
「こうして見ると随分と早いな。一応現地時間で考えたら今は夜のコンサートが終わってまだ一夜明けたばかりだろ」
流石はネットニュースと言うべきか。こういう時の情報発信はかなり速い。そして、当然ながら今回の記事はななの母親こと睦美を褒め称えるための物であるために反応の方では賞賛の声で溢れていた。
「改めてこの記事は……“ピアニスト、蒼風睦美。フランスでの長期ツアー開催中”なのメロ」
「カッコ良い……!!」
うたはこのネットニュースに一緒に掲載されているピアノを演奏する最中の睦美の写真を見るとその時に見せた彼女凛々しさを感じ取って大興奮である。
そんな時、突如としてうたの持つスマホの着信音が鳴り響くと彼女はその画面を見る。そこにあったのはななの名前だった。
「あ、ななちゃんだ」
「なながフランスから連絡してきたのか」
するとななの名前にレイが素早く反応して興味を示す。この辺りは流石にななの彼氏と言うべきか。
「じゃあ、早速出るね」
「ああ。できればビデオ通話の方で頼む」
「オッケー」
それからうたは折角この場にフランスにいる電話相手のなな以外全員揃っている事もあってビデオ通話にした状態で彼女からの電話に出る事に。すると、早速画面にはななの顔が映し出されるとうたが話しかけた。
『もしもし』
「ボンジュール!」
「こんにちわ!……あ、そっちはおはようですか?」
うたはフランス語で“おはよう”を意味するボンジュールと話しかけ、こころは今のフランスの時刻的に朝である事を考慮した発言をする。
日本とフランスの時差は8時間。そして、フランスの方が遅れている側なので日本時間では14時〜15時だとするとフランスでは6時〜7時頃。そう考えると今のこころの発言は何も間違っていない。
「うん」
「トレビア〜ン♪」
すると、今度は“素晴らしい”という意味の言葉をうたが使う……のだが。どう見てもそれはこの話の流れで使う言葉では無い。要するにうたがただ使いたいというだけの物である。そのため、こころは呆れたような顔でその言葉にツッコミを入れた。
「……先輩、それはただ先輩が言いたいだけじゃないですか」
「あはっ、バレた?」
「そりゃあそんなにもわかりやすい使い方をしてたらバレるだろ」
影人やこころは相変わらずのうたのノリに彼女は平常運転であるという事を思い知る。それはさておくとして。まずはななの事を聞くことに。
「それよりもどう?フランス!」
『ッ……』
するとななは少し悩んだような、曇ったような顔を見せてしまう。当然ビデオ通話なのでこれはガッツリと影人達にも見えていた。
「なな、どうしたんだ?顔つきの時点で元気が無いぞ」
『えっ!?あっ、ごめん……。そっか、レイ君もそこにいるんだね……』
「まさか、俺に聞かれたらマズイ事?」
レイはななの口振りから自分がここにいるのは彼女にとって不都合があるのではないのかと考える。そんなレイの心配にななはすぐに反応した。
『大丈夫!……ただちょっと覚悟がいる事を言わないとだから』
「覚悟がいる事……」
『それじゃあ、勿体ぶるのもだし言うね。……私達の方から皆に伝えたい事、それはママから提案された話で……私もパパもこのままフランスで一緒に暮らさないか?って』
「「「「(ええっ)(プリ)(メロ)!?」」」」
それは、フランス時間の昨日の夜の時点で睦美から言われた事。そして同時にななにとっての究極の選択を強いる物でもあった。
「そうか……」
ななの発言を聞いたレイは確かに覚悟がいる物だと納得する。ただ、そうなるという事はつまり……現時点で恋人同士であるななとレイはこの関係を継続するつもりなら超遠距離恋愛をしないといけない事を意味していた。
『……こっちには、ママの先生もいて。私がピアノを勉強すること環境が整っているからって』
「確かに、蒼風さんのお母さん……蒼風睦美さんは世界的にも有名なピアニスト。しかもその睦美さんに指導をしている先生も一緒となると蒼風さんにとってはこれ以上無い程の練習環境になるのか」
これからななが母親である睦美のようにピアニストとして生きていくつもりがあるのなら、良い環境で練習できる時にしておくべきである。それだけで周りにいる同世代のライバル達に大きな差を付けられるし、蒼風睦美という名前自体も世界的に有名なので最初は彼女とセットになるだろうが名前を売り込みやすくもなる。
「なな先輩、この話をされた時。なな先輩のお母さんは何と?」
『私のママの言ってた事……』
それからこころの質問に応えるためにななは自身の記憶を遡る。それは、前日の夜の2人の会話の時の事だった。
〜回想〜
「ママ、どうして私やパパとフランスで過ごす事を言い出したの?私がレイ君の事ですぐに答えを出せない事くらいだったらわかるよね」
「そうね。だからこの事を伝えるかは本当に迷ったわ。……だけど、さっきのななのピアノの旋律を聴いてどうしても伝えたくなってしまったの」
睦美としてもなな相手にこの話を持ち込むかは本当に悩んだ。……当然だろう。何しろ、この話は日本で幸せな学生生活を満喫していたななと彼女と最近お付き合いをしているレイを引き剥がす物であるのだから。
だが、睦美は悩んだ結果……ななにこの事を話すという答えに辿り着いた。その後、実際にななにこの話を持ち込睦美事になる。それ程までに先程のななの演奏が心に響いたのだろう。
「……今のななからは、ななにしか出せない色を感じるの。前まではこんな気持ちにならなかったんだけどね。……だからこそ海外で暮らす事は……その色をもっと鮮やかな物にしてくれると思う。だから……」
「ッ……」
それでもななはどうしてもレイの事が頭から離れず。気持ちは纏まらなかった。
〜現在〜
結局、その場では明確な答えは保留となり……今こうして相談するのに至る。
「蒼風さんがフランスに行く……」
「でも……そしたら私達、ななちゃんに会えなくなっちゃうの?」
「寂しいプリ!」
なながフランスに行けば影人達は今のように早々ななに会う事ができなくなる。そのため、影人達の中には寂しい気持ちが湧き上がってきた。……しかし、そうは言ってもそれはあくまで影人達の意見でしか無い。大事なのはこの話をもちかけられたなな自身の気持ちだ。
「ななはどうしたいのメロ?」
『私は……アイドルプリキュアの事もあるし、それに……』
「悩んでるって所か」
ななはメロロンの問いにまだ明確な答えを出せておらず。加えて最後まで言い切らなかったものの、ななの事なので彼氏であるレイの事も当然頭から外すなんてできなかった。
そんな風に今の段階でかなり迷っているなな。そんな彼女へとメロロンがひとまずフォローを入れる。
「どうするかはななの自由メロ。アイドルプリキュアの事は一旦忘れて、よく考えるメロ」
『うん、そうだね……』
「プリィ!?」
メロロンは変に他の事を考えたら決められる物も決められなくなるため、ななに一旦アイドルプリキュアの事を忘れるように提案。彼女もまたそうするべきと考えたのか……メロロンの提案に頷いた。勿論、プリルンはなながいなくなるという話が現実味を帯び始めたせいで驚きの声を上げていたが。
『ありがと、また連絡するね』
「ッ……」
ただ、その言葉を最後にビデオ通話が切れてななの姿は見えなくなってしまう。そして、影人達はななからのまさかのフランスに行くかも宣言に話が終わった今でも信じられないと言った様子だった。
「ななちゃんが遠くに行っちゃうなんて……」
「はい……。でも、フランスでそんな話が出てしまうのは私達にはどうしようもできませんよ」
「だが、こればかりは俺達にはどうする事もできない話だ。もし仮に蒼風さんがフランス行きを選んだ場合はその選択を受け入れないとだよな」
ななの気持ちがフランス行きの方にも傾いているという事は影人達も当然別れる覚悟は固めないといけないだろう。
すると、プリルンは覚悟を決めたようなメロロンに対して慌てた様子を見せて彼女へとなながいなくなってしまった時のことを問いかける。
「メロロンはななと会えなくなっても良いプリ?」
「メロロンは……ななと会えなくなったって……」
プリルンの問いに対してななと過ごしてきた時間やその想い出を辿っていく。そこには勿論、メロロンがうた達と心を開くための大きな第一歩となった図書館での時間もあった。
そして、メロロンはその大切な想い出を脳内に浮かべる度に胸が締め付けられていくような感覚に陥ってしまう。それでもメロロンはどうにか寂しさを皆に見せないようにできる限り平然と答えを返す。
「寂しく無い……別に寂しくなんて無い……メロ」
「「絶対嘘(だよね)(ですよね)!?」」
「プリ!」
……だが、メロロンは自分の中では抑えたつもりでも心は正直だったのか。かなり寂しそうな答え方を返してはうた達に指摘されてしまう。
「メロ……」
そんな風にメロロンを含めてなながいなくなる事への寂しさが話題に多く挙げられる一方で、ななが話を始めてからずっと1人で大人しく考えている者がいた。
「………」
「レイ、お前はどうするつもりだ」
影人は先程からずっとレイが大人しいのを見て流石に彼の事を気にするべきと思ったのか。様子を見るという意味も込めて話しかける。
「……別に、ななのやりたい事はやりたい事だ。俺がどうこう言った所で何も変わらないだろ」
「はぁ……お前な。そう思うのは別に個人の勝手だけどな?こういう時くらい素直に言わないと、蒼風さんに見放されるぞ」
レイはななのフランスに行く宣言を受けてそれなりにダメージを受けてしまっていた。そして、半ば自棄になっているのかもしれない。
「ッ……わかってるよ。そりゃあ、俺だって別れるのは寂しいし辛れぇよ。だけどな……今の俺が、何を言ったって蒼風さんが固めた決意は変わらない。だったら……もう尊重してやるしかねぇだろ……」
すると、影人はレイの声が震えて嗚咽に塗れているのを感じ取っていた。毅然と振る舞ってこそいるが、この様子からかなり心に来てしまっているようである。
「なぁ、レイ。そうだとしても、蒼風さんに自分の気持ちを伝えるくらい……」
「必要ない。……元々俺はななと付き合ったらいけなかったんだ」
影人はそんな風に捻くれた事を言い出したレイへ物申したかった。しかし、そんな彼を見ると今にも涙を流しそうな状態で耐えている状態で。今のレイはメンタル的に危険な状態に思える。
「そりゃあ、別れるのは寂しいに決まってる。俺だって1人の人間だ。だけど、あくまでななの気持ちが大事だ。それに……普段から家の都合ばかり押し付けるような彼氏だぞ?……優先されなくて当然だろ……」
レイはなながやりたい事に従うべき……そのスタンスを通すつもりのようだが、今の彼はなながいなくなってしまうという事実を前に自分をとことん下げる事で無理矢理受け入れようとしていた。
特に、自分が毎度のようにハジメから呼び出しを受けているせいでななの気持ちに寄り添えてないと思い込んでしまっている。このように完全な捻くれモードに入ったレイへと影人はどう話せば良いかわからずに悩む。
「(ああもう………。レイの奴なんでこんな時に限ってここまで頑ななんだよ。というか蒼風さんの事だからレイの事で凄い悩んでいるんだろうし、さっきから凄い気にしてくれてるんだぞ?……じゃないと、あの時蒼風さんは言い淀んでなんかないって)」
レイがななから見放されているという主旨の主張をするが、実際は違う。なな本人は影人の言う通り、レイの事を相当気にかけてくれている。フランスでの生活を即決できない理由の何割かはレイのためであり、先程もそれを言いかけていた。
影人はその事を理解できていないレイに半ば呆れた気持ちさえ起きているくらいである。ただ、レイもレイでななにとって自分とフランスで考えたらフランスに行くと考えるのが当然だと思っていた。
「(蒼風さんは付き合いの悪い俺よりも将来を見据えた海外移住の方が彼女のためなんだ……。だから、だからもう俺の側になんていたらダメなんだよ)」
「……はぁ、レイ。ひとまず今日の所はこの辺にしておくけど、もし今回の件で悩むにしても早めに立ち直ってやれよ?もし蒼風さんと彼氏彼女を解消して離れ離れになる選択になったとしても……蒼風さんはレイに笑顔で見送って欲しいだろうからな」
「……ああ、わかってるよ……」
結局、レイの気持ちを戻す事はできなかった。そのくらいレイの心は乱れてしまっている。それでもどうにか立ち直ってほしいと願いながら影人はこの話を終えるのだった。
また次回もお楽しみに。