キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
ななから降ってきた突然のフランスに移住する話を聞いたレイがかなりの精神的ダメージを受けてしまっている頃。フランスの方で通話を終えたななは自身の母親がレッスンで出かける事になった。
「じゃあ、レッスンに行ってくるわね」
「「行ってらっしゃい」」
「気をつけて」
「うん」
そのため、睦美を見送ったななと一の2人。その後、ななはピアノの自主練の方に取り掛かる。普段からの自主練も上手くなる上で大事な要素だ。なのでななはこの自主練についても手を抜く事無く真面目に取り組む。
ただ、やはりその頭の中には昨日母親に提案された話が残ってしまっていた。そのため、ななはピアノの練習にそこまで集中できなかったのである。
「(どうしよう……。ママと暮らせたら嬉しい。ずっと離れ離れだったし、その気持ちは余計に強い。それに……今、こっちに住むのはきっと貴重な経験になる。……でも、私は……)」
ななは睦美から提案されたフランスでの生活はきっと将来の自分のために必要な物であるとわかっていた。ただ、だからこそ今の生活を捨てるのも心苦しい。
特に、彼氏であるレイを日本に置いてくる事は特に今のななにはとても辛い事だった。
「(そもそも、ママが言ってくれた私の色って何だろう……)」
“ななにしか出せない色を感じる”ななの母親、蒼風睦美はこの話の時にななへとこの言葉をかけた。ななはどうにかこの言葉の意味を理解しようと考えるが……やはりその答えは出ない。
「(どんな色?パッと思いつくのはキュアウインクの青……ううん。それはあくまでキュアウインクとしての色。だからきっとこの答えとは違う。……ママが言っていたあの言葉の意味、私にはわからない……)」
ななは完全に答えに詰まってしまっており、このままではどうにかピアノを弾くために残しておいた集中力も切れてしまう。……そんな時だった。
「おーい!」
「ッ!?」
突如として部屋に入ってきたななの父親である一がキョトンとした顔を向けるななへと話しかける形で彼女を手招きする。
「なな、おいで」
「えっと、どうしたの?」
なながいきなりの事で気になったのか。席から立ち上がると一のいる方へと向かう。そして、一はななが来たのを見て窓の外を指差した。
「ほら、見てご覧」
「見るって何を……あっ!」
ななは一から促されるままに窓の外を見る。するとそこにはフランスの街並みの奥。街の上にかかる形で遠くに虹が見えた。同時に先程まで降っていた雨もすっかり止んで雲の隙間から眩い光が差し込む。
「わぁ……!」
「1、2、3……七色の虹って言うけど、本当だね!」
一応フランスで見れる虹は光の加減で五色くらいにしかならないはずなのだが、何故か今は七色に見える。それはまるでななの事を迎え入れているようでもあった。
ななはこのフランスでは珍しい七色に光る虹に見惚れると同時に一が言った言葉を反復。そして、ある事実に思い至った。
「七色の虹……そっか。私……!」
「なな?」
そして、ななは思わず動き出すと出かけるための服装に着替えてからすぐに家の外へ。そのままヨーロッパの街並みによくあるようなレンガによって作られた道を走りながら先程出かけていった自身の母親の後を追う。
「(そっか……わかったよ。ママが昨日言ってくれた言葉の意味……。だから私は、私は……!)」
その顔つきはつい先程まで見せていた迷いのある物では無く。逆に答えが纏まって吹っ切れたようであった。そして、ななは暫く走り続けるとようやく先に出かけ行った自分の母親である睦美を見つける。
「ママ!」
「なな!?どうしてここに……」
睦美は先程自分を見送ってくれたはずのなながここにいる事に少し困惑したような表情を向ける。しかし、ななはそんなのお構い無く睦美へと声をかけた。
「私……どうしてもママに伝えたい事ができて」
「えっ?私に……伝えたい事?」
ななは完全に睦美に追いつくと2人は向き合う。そんなななの顔は真剣その物であり、自分の心が思うがままに睦美へとある事を言い出した。
「ママ、あのね。私、ママとピアノを弾きたい!」
「ッ!」
その言葉はまるでなながフランスを選んだかのような物である。それからななは睦美へと胸の内に秘めた想いを吐露する事になるのであった。
日付が変化して今現在、日本時間の日曜日の昼前くらい。場所はチョッキリ団アジト。そこではいつものバーのカウンター席にチョッキリーヌとジョギが2人揃っており、チョッキリーヌがジョギへと話しかける。
「アンタ、今日もずっとここにいるつもりかい?」
「……放っといてください」
どうやら、ジョギは学園祭での全員出撃以降、ずっとこのアジトの外にすら出かけていないらしく。また1人でバーのカウンター席に座ってずっとボーッとするかスマホを弄っている事が多くなったようだった。
そんな彼を見かねて声をかけたのがチョッキリーヌである。そのチョッキリーヌは1人アジトに引きこもり状態のジョギを見過ごせないらしく。彼を元気づけるために話しかけたのだ。
「はぁ……」
「よーしわかった!ここは一つ、先輩達として悩める子羊の愚痴を聞いてやろうじゃないか」
チョッキリーヌはカウンター席から立ち上がると何やらジョギの心に寄り添おうとする。ただ、ジョギからするとこの行為は迷惑以外何物でも無いのか。迷惑そうな顔つきでチョッキリーヌの方を視線だけで一度見てからすぐにスマホに視線を戻す。
「……そういうの良いんで」
「遠慮するんじゃ無いよ!ホラホラ、話してご覧なさい!」
ジョギはチョッキリーヌの相手なんかしても面倒だと思っているのか。全くもって取り合おうとすらしない。対してチョッキリーヌはそんな彼の心境などお構い無しに話すように語りかける。
「……チッ……はぁ。チョッキリーヌ先輩の相手をするくらいなら、仕事をした方がマシですね」
「今しれっと舌打ちしたね?」
ジョギはチョッキリーヌからのウザ絡みが面倒だったため、これ以上相手になどしたく無いとばかりに舌打ちをしつつ席から立ち上がる。それから出口付近に向かって歩き出した。
「お、おい!もう大丈夫なのかい?」
「はぁ……大丈夫も何も、あなたがわざわざ変に絡んで来るからでしょう?あなたが部下に愛想を尽かされるのもそういう所じゃないんですか?」
そう言ってジョギは皮肉をチョッキリーヌへとぶつけながらさっさと出て行ってしまう。そんな彼を見送ったチョッキリーヌは未だにキョトンとした顔つきでそれを見送っていた。……どうやらこの調子だと自分のやらかしには気がついていないらしい。
「……なんだい。いきなり私への文句ばかり。ノリが悪いね」
ただ、チョッキリーヌとしては先程の声かけ自体はカッティンやザックリーがいた頃からのいつものノリだった。つまり、特に悪気やジョギを苛立たせたい等の悪意があるわけでは無い。だが、だからこそタチが悪いと言えるのだろう。
それはさておくとして、今回の出撃はジョギが担当する事になる。同時刻、サウンドプロダクションの事務所内。そこではレイが社長であるハジメと対面していた。
「以上が今回の企画です」
「……わかった。詳しい返事はまた資料を改めて見てから返す」
今はレイが担当しているアイドルプリキュアの企画について話し合っている所である。また、この頃にはアカペラ企画の後始末の方も順調に進んでいた。……ただし、レイの目の前にいる男……ハジメの方はそうでも無いらしく。未だに以前の不調から抜け出せていなかった。
「社長、いつまでそうやって不機嫌なままなんですか」
「……別に、私は何も変わってないよ。強いて言うなら少しだけ感情的になってしまうだけだ」
これは実際その通りだ。普段なら話相手の思考をコントロールするために威圧的な雰囲気や視線を送って相手との会話を制するわけだが……特に今は必要以上に相手に圧をかけようとしている。まるで自分に反抗なんてさせないと言わんばかりに。
「はぁ……あなたも大人気ないですよね。わざわざ幼い小学生を無理矢理押さえつけようとして……それで失敗してこのザマですよ」
「チッ……あんな物はマグレだ。そもそも、あの黒霧夢乃という子供自体が異常なだけだ。そうで無ければこの私が遅れを取るはずが無い」
「……でしょうね。でも、それはあなただって知っていたはず。対策不足だったんですよ。あなたのね」
レイはチャンスとばかりにハジメへと詰め寄っていく。普段彼に良いようにやられているレイだが、今回はハジメが不調状態なのも相まってまともにやり合えていた。
「煩い……。そもそも私の考えはいつも正しいんだ。なのに……それなのに」
「ッ……そんなんだからアンタの妻は……俺の母さんは……」
レイが自分の母親の事に関して話し始めたその瞬間。ハジメの瞳から凄まじい怒りの感情が発せられると座っていた席から立ち上がって睨みつける。
「何だと?」
「ッ……ああ、そうだ。アンタのその身勝手な都合で周りの人間を振り回して……そのせいで母さんは……」
レイは怒りの目線を向けたハジメに対して臆する事無く自身の母親の事を話し始める。対してハジメの方は感情的な気持ちを少しだけ戻して話す。
「確かにそうかもしれない。だが、もう過ぎてしまった事だ。今更私に何をしろと」
ハジメはレイからの言葉に多少動揺こそしたものの、それ以上彼の感情が動く事は無い。
「ッ、ふざけんな!そんな簡単に割り切って良い物でも無いだろ!何でそんなあっさりと済ませられるんだ」
ただ、そうなると今度はレイ側がどうしても感情的になってしまう。そして、この2人の喧嘩はレイの怒りのボルテージが上がるたびにどんどん悪い方へとエスカレートし始める。
「私にとっては最早過去の話だからだ。それに、あの事はあくまで不慮の事故。私のせいに見えてしまうのはあくまで巡り合わせの悪さが原因だ」
「ッ……自分の愛する人が亡くなったんだぞ……何で、何で……」
「いつまでもその死を引き摺るよりは未来の事を見ていた方が遥かに建設的な考えだ。むしろ、レイは引き摺り過ぎなんだよ。……それとも、私に同情してほしいのかな?」
「ふざけんな!!」
このタイミングで完全に立場は逆転。やはりレイはハジメが相手だとどうにもペースを乱されてしまうらしい。そして、優位に戻ったハジメはレイへと更にダメ押しを仕掛けてきた。
「……レイ、父さんにとってお前の母さんは過去の人だ。勿論忘れる事はこの先永遠に無い……だが、だからと言ってその死にいつまでも囚われていては私を超える事は到底不可能だ」
「別にそういうわけじゃ……」
「ならば何故引き摺る必要の無い母親の事をわざわざ持ち出す?弱っている私に勝つためにわざわざと。……その程度の考えに至るのはあまりにも浅はか過ぎるぞ」
レイはそれを聞いて拳を強く握りしめる。確かに自分は焦った。今の弱ったハジメ相手なら勝てると思っていたのだ。……しかし、レイは持ち出す話題を完全に誤った。それ程までに母親の事で父親の事を否定したかったのだ。
「ッ……この声は社長にレイさん……」
そのタイミングで丁度ハジメの方に確認をしに来た姫野は凄まじい会話を扉一枚挟んで向こう側で聞いてしまう。そして、姫野に聞かれている事を知らないレイはハジメ相手にまた負けている事実を見せつけられて悔しさに震えた。
「ぐ……クソ……」
「どうした?もう私への攻撃は終わりかな?」
「(何でだ……何で父さんに勝てるチャンスなのに、何で母さんの事が出てしまった?……俺だって割り切ったはずなのに……)」
レイは内心自分への情けなさでいっぱいだった。何しろ、今回の口論の際に出てきた母親の事は最初話題にすら挙がっていなかった事だ。
そして、その話を口にしてしまった事で余計にレイは感情的になってハジメに完敗。無様な姿を晒してしまう。
「はぁ……。折角のチャンスを棒に振るとは……まだまだ君では私を言い負かすのは無理なようだね」
「ぐ……失礼します」
レイは自らの負けを認めるように部屋を出るとそこに立っていた姫野と鉢合わせした。
「ッ、姫野さん……」
「お疲れ様です。レイさん、今のは……」
「何でもありませんよ……いつもの父との意見衝突ってだけです」
だが、姫野はここまで取り乱したレイをそのままにするなんてできない。そのため、どうにかフォローしようとする。
「レイさん、あの……」
「良いですよ……今回のは完全に俺が悪いんです。父さんの弱みにつけ込もうとして負けた……ただのダサい奴ですから」
そう言ってレイは落ち込んだような顔つきのままその場を後にする。姫野はそれを見て後を追いたかったが、ひとまずは自分の仕事が優先であるために扉をノックして社長室に入った。
「失礼します」
「姫野君か。……さっき聞いての通り今は取り込み中だ。話は簡潔にしてくれ」
「いえ、先程社長に頼まれた目を通すだけで十分の資料です」
「そうか、ならそこに置いておいてくれ」
そんな風に2人がやり取りをする中でハジメは姫野に背中を向けた状態で席に座ると虚空を見上げていた。
「……どうしてこんなにも仲良くできないんですか。社長にとってはたった1人の……」
「わかっている。……だが、妻を事故で亡くして以降……いや。事情はもっと複雑か。私とレイの間には埋まらない溝ができてしまった。今更どうにかは無理だよ」
「……誤魔化さないでください。そんな事言って……本当は愛したいんでしょう?そうやって見栄を張って」
姫野は珍しくハジメへと意見すると彼は背中を向けたまま一瞬だけ姫野を見るように少しだけ横を見てからまた虚空を見上げる。
「どちらにせよ、レイは私の事を許しはしない。それに、私としては私を超えるべき敵に見てもらった方が都合が良い。……それが、レイの成長のためだ」
ハジメの言葉に姫野は彼もまたままならない想いを抱えてしまっているのだと察する事に。果たして2人が本当の意味で仲直りする日は来るのだろうか。それを知る者はいない。
また次回もお楽しみに。