キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
ダークランダーからレイが救い出され、ななはレイから過去についての話を聞く事になった。そして、レイは早速話を始める。
「……俺がこうして悩んでいる1番の大元を辿るとその1番のキッカケは小学5年の頃かな」
「5年生……って事はまだレイ君がバスケを辞める前の話だね」
「ああ。丁度俺がバスケの天才少年って言われていた頃かな。……あの時は何もかもが上手く行ってるような気分になってた。大好きなバスケで結果を出してて……家族仲も良かった気がする」
レイは当時の記憶を思い出すのが少し辛そうではあったが、ななのためなら幾らでも思い出せるとばかりにその記憶を辿った。
「俺の父さんは大体そのくらいの頃から自分のワンマンによる会社の急成長を志すようになってた。それまでは本当に小さな事務所で。……だから夏祭りのあの日も最後の最後で来てくれたんだけどな」
夏祭りのあの日というのはレイが前にはなみちタウンの夏祭りでななと2人きりでデートをした際に話してくれた思い出の日の事だ。改めて振り返ると仕事で忙しかったせいで幼かったレイは楽しみにしていた夏祭りを父と回る約束が果たしてもらえず。
そのせいでどうしても楽しめていなかった所、最後の最後だけハジメが仕事を片付ける形で一緒に回ってくれたのだ。
「その頃はまだ今ほどは忙しく無かった……という事?」
「今考えたらそうなのかもしれない。でも、当時は父さんが来てくれた事自体が嬉しくて……そんな事を考える余裕なんて無かったんだけどな」
レイはそう言うが、そもそも当時の彼は園児だ。そのため、難しい事なんてわからないのが当たり前である。なので、大好きだった父親の参加はごく自然の事だろう。
「……問題なのはそのワンマン体勢に移行した後だ。それから父さんは周りの意見なんて聞こうともしずに強引な事をやり始めた」
「ッ……今のハジメさんみたいになったって事?」
「簡単に言ったらそうなんだけど……ワンマンをやり始めた頃、今以上にやりたい放題だったって言えば良いのかな。自分の目的を果たすために手段を厭わなかったというか」
レイは苦い顔つきを見せつつハジメがワンマン体勢で仕切り始めた時の話を語る。……それは聞くだけでもハジメの容赦無さがわかる物だった。
「例えば?」
「例えば……自分達への支援を打ち切ろうとしたスポンサーの弱味を握って無理矢理脅したりとか……ちょっとした失態を犯した社員を“一歩間違えたら会社が倒産する”って言って内部の意見を聞かずにクビにしたりとか。後は当時有望株だったタレントを事務所から引き抜こうとした大手の事務所に対してその大手事務所の不正を暴いた上で無理矢理世間に晒しあげて逆に返り討ちにしたとか……」
「うわぁ……」
レイからの話を聞いて流石にななも思っていた以上の鬼畜の所業に唖然としてしまう。ハジメの経営におけるスペックが幾ら段違いとはいえ……彼の自分の企業のためなら周りがどれだけ壊れようとも構わないとばかりに無理矢理回す姿勢は当然多数の敵を内外に作ってしまうわけで。
「その後、父さんの経営に不満を持った人達が結構な人数辞めちゃって……。その時も会社存続の危機だったんだけど……何だかんだで乗り切っちゃったんだよな」
「えっ?」
どうやら一時的に事務所に勤務する人数が減りまくったせいでかなり不味い状況に落とされたものの、これもまたハジメのワンマンのおかげで一時的な物に収まってしまった。
「うちの事務所にはキラキランドの妖精さんがちょくちょくお手伝いに来てるでしょ?」
「あ、確か前にそんな事を……もしかして?」
「ああ……足りない人手は一時的にその妖精さんを総動員する事で対応しちゃったんだよ」
ハジメは自身のやり方に反発されて人手不足に陥るという危機的状況をまさかのかねてより雇っていた人間になれるキラキランドの妖精を使う形で解決してしまう。
「それにしても結構な無茶するね……」
「ああ……でも、何だかんだで父さんはその状況からでも上手い事切り返してしまったんだ。……だから余計に自分の意見が正しいって思うようになっちゃって」
一応、一時的に陥った人手不足はその後少しずつサウンドプロダクションに興味を持って尚且つハジメの思想を受け入れられる人が揃ってきた事で半年程で解決。そこからはハジメの強引だが確実に事業を拡大するやり方で事務所はどんどん大きくなっていった。
勿論、その間に揉め事が全く無かったわけじゃない。ハジメのやり方が強引なせいで取引先とトラブルを起こす事や他の事務所から色々妨害も受けてしまった。……それでもハジメはこのサウンドプロダクションの規模と名を業界に広めていく。
「……俺は父さんがどんどん忙しくなってるのは小学生ながら何となく察してた。昔と比べて家にいる時間は短くなったし家族の時間も明らかに減って。でも、俺は父さんが忙しいのは仕方ないって少しずつ割り切るようにはなったんだ」
「そっか……その頃だもんね。学校とかでもどこか寂しそうにしてたのって」
ななは当時の事を思い出すとレイが小学校で少しずつ暗い顔つきをする事が増えたのが大体そのぐらいの時期だと考える。
「ま、まだそこまでだったら良かったんだけど……この頃になると父さんと母さんが揉め事をしてる事が増えたんだ」
「ッ!?」
レイの言葉を聞いてななは唖然とする。学校で自分達と接する裏でまさかそんな事になっているとは思ってなかったからだ。
「多分だけど、この頃からなんだろうな。……父さんが俺に中学生になったらバスケを辞めさせる事を決めたのは」
「って事はレイ君のパパとママが喧嘩してたのは」
「……詳しい事は俺にはわからない。何しろ俺の前ではできる限り喧嘩を止めて普通の両親でいるようにしていたんだろうからな。だから俺も多少喧嘩する事は増えたけどそれが結婚して時間が経った夫婦の当たり前だと思ってた」
だが、もし仮にハジメがこの段階でレイにバスケを辞めさせる事を決定して……それをレイの母親に相談した結果猛反発を喰らったのだとしたら。それが夫婦仲の悪化に繋がっていてもおかしくは無い。
「はぁ……。何で俺はあの時2人が喧嘩してたのに気付けなかったんだろ。少なくとも言い争いの回数自体は増えてたんだから予想くらいできたはずなのにさ」
「………」
ななはレイが悔しそうに空を見ているのをただ隣で黙って聞くだけしかできなかった。
「で、そんな2人の喧嘩の頻度が増えてから半年くらい経った頃。小学5年が終わった春休みかな」
〜回想〜
時を遡り、レイが小学5年を終えた春休みの頭。この日は前々から決められていた音崎一家での家族旅行の前日の夜だった。
この時、家には部屋で春休みの宿題を早めに済ませようと頑張っていたレイと丁度お風呂上がりで髪を乾かすレイの母親の2人だけだった。ハジメは未だに仕事中であったものの、もう少しで帰ってくるという段階である。
「明日は家族での旅行日……楽しみだ」
レイは前々から決まっていたこの旅行を楽しみにしており、父親の帰りを待っていた。それから少しして仕事が終わったハジメが帰ってくる。
「ただいま」
「(父さんが時間通り帰ってきた……ッ!迎えに行きたいけど、今はまだ今日終わらせる分の宿題が終わってない。だから早くこれを終わらせて……)」
レイは旅行に行くのに合わせて春休みの宿題を進めるペースを決めており、それに沿って早めに進めていくつもりだった。これで宿題が終わってない事によるキャンセルも無い。そして、宿題を終えたレイはハジメの元に行くつもりだった。
「ッ!?それってどういう事よ!?」
「えっ……?」
そんな時、突如として家の下の階から聞こえてきたのは自分の母親である音崎凛が怒りに近い形で声を荒げるのが聞こえてくる。レイは普段は優しい母親が何故こんなにも怒っているのかがわからずに困惑。
「母さん……父さんと何を……」
レイはいきなりの事で状況が上手く呑み込めず。慌てて下の階に降りるとそこで見た光景を見て絶句する。それは、帰ってきて早々に怒りを露わにする凛とその凛を軽くあしらうように平然とした顔のままのハジメ。
「行けないってどういう事!?明日は家族での旅行って前々から決めてたでしょ!?」
「言葉通りの意味だよ。明日は大事な商談が入ってしまった。だから行けない」
「ふざけないで!レイは、レイは明日をずっと楽しみにしてたのよ!?あの子になんて説明するつもりなの!!」
どうやら、翌日の旅行日に重なる形で取引先との大事な商談が入ってしまったらしく。そのせいでハジメは行けなくなってしまったのだ。
「別に。事実を伝えるだけだ。それ以上も以下でも無い」
「あなたは本当に……どうしてそんなに仕事仕事って!バスケの件だってそうだったでしょ?レイに我慢ばかりさせて……。あなたにとって仕事と家族。どっちが大事なのよ!!」
ハジメはあくまで冷静な顔で話を進めるものの、当然凛は納得が行かない。ただでさえ最近は家族の事を軽視して仕事にばかり勤しんでいるのにこれでは仕事優先で自分達家族のことがどうでも良くなったと思われても仕方がない。
「私にとってはどちらも大事だ。家族の事も、仕事の事も」
「そこはあなたが折り合いをつけるべき場面でしょう?旅行のためのホテルとかはキャンセルしろって事なの!?」
「……そういう事になるだろうね」
「ッ……何で、何で……」
凛は頭を抱えて崩れ落ちてしまう。ここ最近、ハジメはすっかり変わってしまった。どれだけ言っても家族よりも仕事の事ばかり優先。しかも息子のレイに対しては大好きなバスケを無理矢理引き剥がすつもりで。
「凛。私だって辛いさ。だが、会社が潰れれば私達は路頭に迷う。それだけは避けないといけない」
「だからってあなたの場合はやり過ぎなのよ!!」
「……父さん?母さん?何でそんなに喧嘩してるんだよ……」
どんどん2人の喧嘩がエスカレートしてしまうそんな時だった。レイはとうとう我慢できずに2人に話しかける。
「あっ……れ、レイ……」
凛はずっと隠していた自分の息子の前での夫婦喧嘩を見られてしまったせいで顔から血の気が引くと真っ青になってしまう。対してハジメはレイに見られても特に何も思わないのか。無言のままだった。
〜現在〜
レイは春休みの旅行日の前日夜に起きてしまった2人の喧嘩の模様を話し終わるとため息を吐く。
「……もうこの頃には2人の間に走った亀裂は決定的で。2人の離婚は時間の問題。しかも俺は楽しみにしていた翌日の家族旅行が台無しになったと聞いて最初それを受け入れられなかった」
「それだけ楽しみにしてたんだよね」
「ああ。でも、本当の地獄はここからだった」
翌日、本来ならば旅行に行く日。だが、この日の朝の音崎家の朝食の空気感は最悪の一言だった。両親は互いに口を効く事は無く終始無言で。レイはその間に挟まれて何も言えなかった。
〜回想〜
「「「………」」」
3人が気不味い空気感のまま朝食を食べ終えると早速ハジメは仕事に行くための準備を終えて玄関に移動。その流れに従う形でレイと凛の2人もそこに来た。
「行ってきます」
「待って……」
ハジメは仕事の時間に遅れるのはダメなのでさっさと出て行こうとする。それを呼び止めたのは凛だった。ハジメは仕事前に呼び止められて僅かに迷惑そうに顔を歪めると彼女の方を向く。
「何だ?」
「……あなたにとって私達は何?出世のための道具?口を開けば仕事仕事って。もう私達なんてどうなっても良いの?」
凛の心はボロボロであり、レイはそんな母親を不安そうな顔で見ている。そして、ハジメは僅かに考え込むと答えを返した。
「……どうなっても良い?そんな事は無い。……わかったらそろそろ行くからね」
「ッ……」
ハジメはそう返してそのまま行ってしまい、凛はハジメの言葉の淡白さに絶句してしまう。そのままその場に崩れてしまうとレイを抱きつつ泣きながら謝り始めた。
「ごめんね……レイ……折角楽しみにしてくれてたのに……こんな事になっちゃって」
「母さん……」
レイはいたたまれない気持ちになりつつもどうする事もできない自分に悔しさが湧き上がってくる。
〜現在〜
「旅行が中止になったって事は……」
「ああ、それから父さんが行けないのなら自分達だけで行っても意味が無いって事で旅行はキャンセル。キャンセル料とかはお高くついたけどどうにかキャンセルはしてもらえたよ」
流石に当日キャンセルとなると当然宿側にも損が発生してしまうため、そこにキャンセル料を支払う事になってしまった。その後、2人は何をする気にもなれず、家でどうにか過ごす事に。
「だけど、旅行のために食料品を意図的に減らしていたせいで冷蔵庫の物はほぼ尽きてしまいそうで。だから母さんは買い物に行ったんだけど……不慮の事故で……」
「えっ!?事故……?」
どうやら、レイの母親である音崎凛はハジメと喧嘩別れのような形で家に残った後。食料品の買い出しのために家にレイを残して車で街に行ってしまう。
しかもその母親が運転する車は右折しようとしたタイミングで反対側にいた信号を無視して直進してきたトラックと衝突。凛はそのまま帰らぬ人になってしまった。
「ああ。だから母さんは父さんと仲直りすらできずにこの世を去ったんだ」
「ッ……」
こうして、ななはレイが両親の仲直りをする前にその片方である母親を失った彼の悲しみ。加えてそのせいでどうしても父親に対して当たりが強くなる彼の気持ちの本当の意味を知る事になる。
「……これで話は終わりかな。聞いててくれてありがと」
「うん……」
同時にレイは自分が思う以上に辛い過去を1人で抱えてしまっていたのだと感じ、この状況をどうにかしてあげたいという気持ちが湧くことになるのだった。
また次回もお楽しみに。