キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
レイの過去を聞き、驚きの顔つきを見せるなな。何しろ、今までずっとレイは母親を亡くしている事を知らなかったのだ。そして、それなのに自分達はそんなレイの心境も知らないのにこれまで母親の話も沢山してきた。
正直な所、辛いだろう。それでもレイは周りの空気を壊さないようにずっと耐えてきたのだと考えるとななは申し訳ない気持ちになってしまう。
「レイ君……その」
「俺の前で家族の話をした事だろ?それは気にしなくて良いよ。皆だって悪気があったわけじゃないからさ」
レイは申し訳なさそうにするななに対して気にしないように言って安心させると当時の事を改めて考えてから話す。そもそも、レイの母親が亡くなったのは春休み期間中。そのため、亡くなった後の後始末が休みの間に消化されてしまったがために学校に通う他の子達が知らなくても無理はない。何ならハジメが学校側に口止めしたまであるため、誰も知らなくても
「でもさ、母さんが数年前に事故で亡くなって無かったとしてもいつかはきっと父さんと折り合いが付かなくて出て行った気がするんだ。だから母さんが俺の前からいなくなってしまった事自体はまだ受け入れられてる」
何しろ、彼女が亡くなる日の朝のやり取りの時点で2人の仲は最悪だった。そして、レイが中学に進学するのと同時に彼からバスケを取り上げる話で度々揉めていた事から夫婦仲はもうこの時点で冷え切ってた可能性は高い。
もしかするとレイが仲を取り持てば持ち直せたかもしれない……が、バスケを取られた事に関しては中学進学以降も心のつかえとして残っていた事から鑑みるに恐らくは無駄な努力に終わるだろう。
「結局俺は母さんが亡くなった後、父さんと母さんが喧嘩していたのをやっと知って。そのまま父さんにバスケを取り上げられて。……それ以降かな。ずっと大好きだったはずの父さんの事を憎んで、敵対的な立ち位置になってしまったのは」
「そんな事があったんだね……」
ななはレイが話し終えるとまずはレイがずっと1人で溜めてしまっていた彼の中の暗い過去を話してくれた事に安堵の様子を見せる。レイは彼女であるななに対しても今まで弱い所を見せる場面は殆ど無かった。
だがそれはレイの中に決して弱い部分が無いからというわけじゃない。むしろ、弱い部分があるからこそななに対しても見栄を張っていた所があるのだろう。
「レイ君、私にちゃんと話してくれてありがとう」
「別に……ななだから特別ってだけだよ。それに本当はななにこんな事話して巻き込みたく無かった」
「そうかもしれないけど、私はこれからレイ君とお付き合いする上でレイ君の事をもっと知らないといけない。だから遅かれ早かれ知る必要はあったと思う」
ななの言う事は正しい。もし仮にレイの過去をここで彼自身から話をされなかったとしても、今後2人がお付き合いしていくのであればいずれどこかしらのタイミングでこの事は話さないといけないのだ。
そのため、ななはまた一つレイの事を新しく知れたという事実が今後お付き合いする上で大事な事だと考えていた。
「はぁ……それもそうだよな」
「……それで、レイ君はどうしたい?」
「俺の気持ち……」
ななはレイの話を一通り聞いた後、特段彼女はレイを励ます事はせずに彼にどうするかを聞く。一見励ましが無いため冷たい対応に見えてしまっても仕方ないだろう。
だが、もしなながレイに励ましたとして。ななの立場から見ると今のレイの気持ちを100%理解するのは不可能だ。なので中途半端な励まししかできず、逆にレイの反感を買うリスクがある。
「うん。……私にはレイ君の気持ちを全部理解するのは難しいし、そんな状態で偉そうにアドバイスとかなんてきっとできない。……でも、レイ君の背中を後押しするくらいならできるから」
「なな……」
だからこそななが選んだのは敢えてレイにどうするかを委ねて自分はその答えを全力で支え、困っている事があったら力になる事だった。
「私がどんな事を言っても、結局最後に決めるのはレイ君自身の判断になるし、それに……さっきのレイ君の話し方を見てるとね。レイ君、本当はパパと喧嘩なんてしたくないようにも見えたから」
「喧嘩したくない?どうして……親父は俺や母さんを蔑ろに」
「うん、多分その気持ちは間違ってない。でも、それとは別でレイ君はレイ君のパパとの過去の因縁を終わらせたいように感じたから」
ななからそう言われてレイは自分が心の奥底でハジメとの関係性をどうしたいのかを考える。既に太陽は西に傾き、辺りは暗くなりつつあった。そして今はもう11月。日が暮れれば昼と比べてかなり冷え込んでしまう。
だが、ななはそれでもレイが答えを出すのを待っていた。そして、5分程時間をおいてから彼の答えが纏まる。
「俺は……父さんと……もっと普通に接したい」
「!!」
「確かに父さんは会社を存続させるために強引な手ばかりとって、母さんを悲しませた。だけど、俺がその時一番心に思ってたのは父さんへの憎しみじゃない。家族揃って笑顔でいられる時間を過ごす事」
レイは父が仕事に染まり、母を失ってしまったのを幼いながらに目の当たりにしたせいで当時は自分が本当に望んでいる事を見失ってしまう。
だが、今はレイもあの時と比べて変わった。母の死やバスケを取り上げられてしまった事による感情の荒ぶりも落ち着き、物事を冷静な視点から見る事もできる。何より、レイは昔のように父親の事を何の色眼鏡も無い純粋な気持ちで接して他の家庭と変わらない普通の父親とて接したい気持ちがあったのだ。
「ふふっ、やっと本音が出てくれた」
「ああ、なな。俺のためにありがとう」
「どういたしまして。私、レイ君に貰ってばかりだったから。やっと大きな何かで返す事ができた気がするよ」
ななはレイが本音を聞かせてくれた事が嬉しかったのか、優しい微笑みを見せる。それからレイは立ち上がるとどこか胸の奥に引っかかりを感じた。……それは、ななへの感謝の気持ちと共に湧き上がった彼女に対してやりたいと思った事である。
「なぁ、なな……」
「何?レイ君」
「……その、こんな所でやる事じゃ無いかもしれないけど……ななの事。抱きしめても良いか?」
それを聞いてななは驚くと共に少し顔を赤くする。それでも彼女は自分の気持ちが赴くままに両手を広げた。
「良いよ、丁度体が寒くなってきた頃だから」
「ッ!じゃあ……」
それからレイはななからの許可が降りたためにもう我慢なんてする事は無く彼女に抱きつく。
「なな、ありがとう……。なながいてくれなかったら……俺は……」
「ふふっ、レイ君って意外と甘えん坊さんなのかな?」
「な!?ちょっ、揶揄うなって」
レイはななに自分の事を抱きしめて良いと言われたせいか、思わず嬉し泣きをしてしまう。それはまるで、普段こういう恋人らしい事を沢山できない分を発散するかのようでもあった。
「えー?レイ君っていつも皆の事揶揄ってるでしょ。偶には揶揄われる側になるべきじゃない?」
「ッ、それを言われたら何も言い返せないだろ……」
レイはなながちょっとズルいと思いつつ俯く。ただ、それでも恋人らしい事をしたいのはななもだったのか。彼女はある程度抱きついてから少し離れたタイミングでレイの方に上目遣いを向け、彼がそれを見たタイミングで目を閉じて唇を差し出す。
「えっ、なな?」
「んー?私も少しくらいは恋人みたいな事したいかな〜って」
「もう、わかったよ。俺だってずっと我慢してたんだ。だから……するよ」
それからレイはななの唇に自分の唇を合わせると2人はそのまま流れるようにキスをする。2人はその感触に幸福感を覚えると暫く続けていた。そして、2人共息がそろそろ苦しいというタイミングでそれを離すとお互いに軽く息が乱れる。
「「はぁ……はぁ……」」
「なな、俺……頑張ってみる」
「うん。私もレイ君がレイ君のパパと仲良くできるようにできる限り助けるよ」
その後、2人は手を繋ぐとレイが自分に付き合わせて暗くなってしまったためにななの事を彼女の家まで送り届ける事に。
「それじゃあまた明日の学校でね」
「おう。今日は旅行帰りで疲れてるだろうし、風邪をひかないように暖かくして寝るんだぞ」
「うん!」
そして、ななの家の前で2人は別れるとレイは自分の家に到着。その数時間後。夜も遅めの時間になったタイミングでレイの父親であるハジメが帰宅した。
「ただいま」
「……お、お帰り……父さん」
そんなハジメをレイはできる限り柔らかい顔つきで迎えようとする。……だが、今まで散々敵対的な対応をしてしまったせいでハジメに対して自然な笑顔ができなくなってしまったのか。
「……レイ、どうしてそんなに引き攣っているのかな?」
「ッ、別にこんなの何でもない」
レイはハジメに顔を引き攣らせている理由を聞かれると彼はそれを慌てて誤魔化す。そして、そんな息子の様子にハジメは困惑していた。
「(……どういう事だ?私との会話でムキになって出て行ったはずなのに何でこんなにも無理してまで笑おうとする)」
「父さん、これからいつも通りご飯か?」
「ああ、そうするつもりだ」
するとレイはハジメが先にご飯を食べるという話を聞いて早速その準備を開始。それを見て彼はまた脳内が混乱するが、準備をしてくれる分にはそれを責めるわけにはいかないためにあくまで平然とした顔を作る。
「いただきます」
少しして片付けを終えたハジメは食卓に座って食べ始める。そして、レイはその反対側に座るとソワソワしていた。
「(ッ……ここからどうすれば。どうにか対面で話すチャンスは作ったけどなんて言い出せば良い……?ななに頑張るとは言ったけど父さんと仕事以外の場でまともに会話するのは久しぶり過ぎて……)」
「……レイ、さっきから何を言いたいのかな?そうやってソワソワしているだけでは何も伝わらないよ」
「なっ!?」
ハジメからの指摘を受けたレイは恥ずかしさで顔を赤くする。普段ならこの時点で苛立ってその場から去って行っただろうが、今回は先程ななに言われた事もあってどうにかハジメと普通に接するために耐えていた。
「(やはりおかしい……。いつもならムキになっているはずなのに)」
そして、ハジメもレイの様子が普段と違う事からどうしても警戒してしまう。これは普段のレイがハジメに対して反抗的にであるため、どうしても最初はこうなってしまうのだ。
「すぅ……ふぅ……さっきはごめんなさい」
「ッ!?」
レイはそんなハジメの警戒に反して頭を下げるとまずは今日の昼の事を謝ることにした。この後何を話すにしてもまずは昼の喧嘩の際のわだかまりを解消するのが先決だからである。
「レイ、急にどうしたんだ?」
「いや、事務所を飛び出した後に色々考えて。周りにも相談して。まずは父さんに昼の事を謝るべきだって思ったから」
ハジメはレイがあっさりと自分の非を認めて謝罪したのを受けて脳内が混乱。今までなら昼のように大喧嘩した後は暫くお互いに口すら聞かず。それから仕事の事で業務連絡をしている間にいつの間にか会話ができるレベルにまで回復するがお約束だった。
だが、先程からのレイの対応はぎこちないながらもハジメに対しての敵意を無くした状態を作ってあくまで普通に会話をしようとする。勿論それはこの後仕掛けるための策では無く、レイが気持ちを切り替えようとしている事の現れだ。
「そうか……」
ハジメはそれを受けて何かを言いかけて止めてしまう。彼はレイの対応を見てレイが自分と普通に接しようとしているのはこの段階で何となく察した。
だが、今までが今までだったのでどうすれば良いのかハジメにもわからず詰まってしまう。
「ッ……」
そして、同じようにレイはハジメが特に何も言わなくなった事で彼が話を切り出す事もできず。それから暫く無言の気不味い時間が流れるとハジメは夜ご飯を食べ終わってしまう。
「ごちそうさまでした」
「……」
結局、これ以降の2人はお互いに話すキッカケが掴めず。音崎家の中に会話の二文字は無かった。ただ、少なくともレイがハジメ相手に強い敵意を抱かずに接する事ができたために2人の間に流れる空気感がそれ以上悪くなる事も無く。
部屋に戻ったレイは扉を閉めると扉にもたれかかる形で息を吐くと安堵の顔を浮かべた。
「ふぅ……はぁ……はぁ……。気持ちが荒そうになる度にななの事を考えたらどうにか抑えられた。……それに、父さんは俺が思ってる以上に怒って無かったし。もしかして、もっと落ち着いて接してたら今までも……」
レイは今回の事で今までの不仲はずっと自分がハジメに向き合わなかったからだと思い至る。
「クソッ、だとしたら俺……今までどれだけ損してたんだよ」
レイは今までの自分の過ちを悔やむのと同時にななにちゃんと話す事ができて良かったと考えた。やはりこういう悩みは1人で溜め込むよりも信頼できる誰かに話した方が良いらしい。
「まだ今日は最初だから警戒されてたけど、これからこういう接し方を継続できるようにしよう。そうすればきっと父さんも気づいてくれるはずだ。なな、今日は本当にありがとう……」
レイは1人ななに感謝の気持ちを抱くと彼女に感謝の気持ちをメッセージとして改めて送る。こうして、レイは父親であるハジメとの確執を少しでも解消するためにこれから頑張る事を決意するのだった。
また次回もお楽しみに。