キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
こころが立ち直ったその日の夜。チョッキリ団のアジトではカッティーがむきあまぐりのお菓子を食べながらザックリーと話をしていた。
「……で、この前もやられたみたいだけど。ザックリ言って何の話だ?」
「この前、あのプリルンとか言う妖精が……」
カッティーは前回の出撃でプリルンはこころがプリキュアになると言っており、その際カッティーは三人目が増えるかもと身構えたのだが結果的にプリキュアでは無かった事を話す。
「あんなタイミングであんな事を言うとは、随分と性格悪いのですぞ!それだけじゃない。あのいつものお邪魔小僧もプリキュアに変身しかけて、冷や汗を流したのですぞ!」
「へっ、何だそりゃ!まぁ、あのお邪魔小僧もプリキュアになるってのは俺様が見ても冷や汗をかくだろうが、結局変身できてないんだろ?だったら敵じゃ無いぜ」
そんな風に豪語するザックリー。すると二人のやり取りを聞いていたチョッキリーヌが僅かに苛立つとその怒りを隠しながら二人へと声を上げる。
「アンタ達二人揃って何も分かってないんだね。……少しでも可能性がある奴の芽は摘むんだよ。容赦無く……チョッキリとね」
チョッキリーヌはそのまだ見ぬ三人目のプリキュア候補にいつものお邪魔小僧こと影人。この二人のどちらかでもアイドルプリキュアになるのならかなり面倒な事になり得ると考えていた。
「大体、アンタ達二人共。プリキュア候補の奴はともかく、あのお邪魔小僧にはどれだけやられたと思ってるの?アイドルプリキュアでも無いただの一般人にやられてる事、恥に感じなさい!」
チョッキリーヌはそう言って部下二人を叱り付ける。そして、彼女はとうとう影人をどうにかするべき策を考え始めた。そうしないと本当にアイドルプリキュアですら無い影人にやられてる現状のままだといつまで経っても二人の部下が勝てないと踏んだからである。
「……その話はそこまでですよ」
「スラッシュー、アンタ今までどこ行ってたんだい?」
「別にどこでも良いでしょう?……それよりも、黒霧影人。あなたがお邪魔小僧とか言ってるその子を潰すのは勿体無い。私達の仲間に引き入れるべきよ」
その言葉を聞いてカッティーとザックリーは反対意見を口にする。ただの人間をチョッキリ団に引き込むなど今まで聞いた事が無いからだ。
「おいおい、いくらスラッシュー様でもそれは」
「そのような勝手な真似、ダークイーネ様がお許しになるわけが」
『……許そう、スラッシュー』
その瞬間、突如として四人の脳裏に女性の声が響き渡る。その瞬間、チョッキリーヌはビクリと体を震わせた。実際にダークイーネを見た事のある彼女はその恐ろしさを身に染みてわかっているのである。
「だ、ダークイーネ様」
『黒霧影人という男。妾も興味を持っていた。あれだけアイドルプリキュアに目覚めそうな行動を行いながらも未だに目覚める事のないあの力。……上手く使えば妾の目的を果たす助けになる。既にスラッシューには例の物は渡している。……スラッシュー、あの男を引き抜くのはそなたに任せよう』
「ありがたき幸せです。ダークイーネ様」
そのやり取りを最後にダークイーネの声は聞こえなくなった。どうやら接続が切れたらしい。目の前に出てきてすらいないのにこの圧力、彼女の恐ろしさをようやく無知な部下二人は思い知ったようでブルブルと震えていた。
「さて、ダークイーネ様のお許しも出たという事はもうお三方に文句はありませんでしょうね?」
スラッシューが問いかけるとカッティー、ザックリーは頷き、チョッキリーヌは仕方ないと言わんばかりに肯定を返す。
「では、私はいつものトレーニングをしてきますね」
そのまま姿を消したスラッシュー。チョッキリーヌはこうなった以上、うかうかとはしていられなかった。
「……ザックリー、あなた、ここまでの二戦においてお邪魔小僧に完全にマックランダーを無力化されたわよね?……スラッシューがお邪魔小僧を引き込む前の今のうちにリベンジぐらいはしておきなさい!」
「い、イェス!ボス!」
チョッキリーヌの命を受けてザックリーはいつものチョキチョキポーズを冷や汗をかいたまま取ると急いでその場から去っていく。
「……おのれ、スラッシュー……。今までずっと部下を持たない一匹狼だったくせに何故こんないきなり……」
チョッキリーヌが呟くものの、その場で答えを返す者はいない。彼女はスラッシューへの困惑の気持ちを抱くのであった。
翌日の朝。影人はまた目を覚ますとこころのいる朝練の場所に向かおうとするが、その動きを途中で止めてしまう。
「……ダメだ。まだ俺はこころと向き合えてすらない。それに、こころにとって俺はただの友達……いや、もう今はそれ以下だ」
影人はまだこころが立ち直ったのを知らない。そのため一人落ち込むと部屋に戻ろうとした。
「お兄ちゃん、そろそろ元気出しなよ。ほら、私がハグしてあげるから」
「夢乃、お前はもうちょっとそういう行為に対して遠慮を覚えろ。……周りの奴らに変な目で見られるだろうが」
「えー?私はお兄ちゃん大好きっ子だから抵抗感なんてなーんにも無いよ?」
「……やれやれ、やってられるか」
影人はそんな夢乃なんてどうでも良いとばかりにさっさと行こうとすると夢乃はそんな兄を見て不安そうな顔つきになる。
「……お兄ちゃん、折角明るくなってくれたのに。私にはどうする事もできないのかな」
「……」
それから影人はそんな夢乃を置き去りにするようにさっさと部屋に戻ると頭を抑えて崩れ落ちる。やはり自分が傷つけてしまったこころとまともに向き合うなんてできないと。どの面を下げてこころに会えば良いのかと、こころと向き合うための勇気が無くなっていくのを感じてしまう。
「俺は……こころのために何もしてやれないのか……。いや、俺なんかもうこころと顔を合わせる事すらできないんじゃないのか」
影人は完全に心が弱り切っており、いつもの頼もしさは欠片も無いぐらいの落ち込みっぷりである。
この日は土曜日で学校も休みであったために影人は一度ゆっくりと心を落ち着けようとしたその時。レイからの連絡が入ってくる。
「レイ……ッ!?」
そこに書かれていたのはマックランダーが出てきたという物であった。そのために影人は急いで準備するとレイの言われた場所へと走り出す。
そんな中、時間は少し遡ると朝練のために外を出歩くこころ。ふと彼女が目をやった先にあったのはキュアアイドルとキュアウインクのライブがあるという看板だった。
「……あれ?本日開催……二人のライブ?今日、これから?」
こころは首を傾げる。あの二人がファンである自分へとライブをやるというのに何も言わないのは不自然だ。加えて、こころは二人からアイドルプリキュアは普通のアイドルとは違うという説明をちゃんと受けている。
「お二人共、そんな話なんてしてなかったはず。怪しいですけど行ってみましょうか」
こころはその看板に描かれている地図が示す場所へと走り出すと少ししてその場所に到着した。するとそこにはそれなりの人だかりが出来ており、キュアアイドルやキュアウインクがやってくれるライブを楽しみに待っている様子である。
「いつの間にこんな所にライブ会場が……。しかも皆さんこのライブを信じちゃってますし」
とはいえ、アイドルプリキュアが普通のアイドルでは無いと知ってるのはこの場にいる面々だとこころだけ。それに彼女自身も少し前の自分なら普通に信じてこの場所に行っていただろう。
「……!寸田先輩も来てる」
するとこころはその視線の先にダンス部所属の先輩である寸田もいるのを見て彼もアイドルプリキュア目的でここに来たのだと察する。そんな中、その場所へとやってきたのはアイドルプリキュアでは無くザックリーであった。彼はライブ会場の真上に現れると会場のステージの方に釘付けになってる客達を一望した。
「さぁて、三人目のプリキュアを誘き出してやろうかなっと!どれどれ……」
ザックリーがマックランダーの素体を探す中、その中で一際大きなキラキラを放つ寸田を見て目が止まる。
「紫雨さんがハマってるキュアアイドル達のライブだよなぁ。きっとダンスの参考になるぞ〜!」
そんな風にウキウキとした顔つきの寸田を見たザックリーは笑みを浮かべた。今回のターゲットは彼に決めたらしい。
「お!丁度良いキラキラ発見だぜ!アイツに決めた!」
ザックリーは早速マックランダーを呼ぶためにキラキラを引き抜くと寸田はキラキラを抜かれたせいで叫び声を上げる。
「お前のキラキラ、オーエス!」
「うわぁああっ!」
「……えっ!?」
「はい、ザックリ行くぜ!」
寸田の叫びを聞いてこころが驚く中、ザックリーはすかさずマックランダーを召喚した。
「来い!マックランダー!世界中をクラクラの真っ暗闇にしやがれ!」
「マックランダー!」
ザックリーがマックランダーを呼び出すと今回は寸田をモチーフにしたダンサーのようなマックランダーとなる。そして、そうなれば何も知らない一般市民の前に怪物が出てくるわけで……。
「「「「「「うわぁああっ!」」」」」」
人々はアイドルプリキュアのステージを楽しみにしていたのにそれをぶち壊す形でマックランダーが出てきたため、ワクワクでいっぱいだった人々の心は恐怖に塗り替えられると慌てて逃げ始める。
そのタイミングで何も知らないうたは危機察知をしたプリルンに言われてマックランダーの出現を知ったため、なな達に連絡を飛ばす。
「ブルっと来たプリ!」
「ええっ!?ななちゃん達にも知らせなきゃ!」
場面は戻って現地では会場をマックランダーが跳び上がっての踵落としで粉砕すると貼られていたチラシが無惨にも散らばる。そんな中、ザックリーはある事実を言い放った。
「かーっ、かっか!ライブなんてねーんだよ!こんなザックリとした偽物に引っかかるなんてな!」
ライブはザックリーが人々を貶め、三人目の候補のプリキュアを呼び出すために仕掛けた罠であったのだ。そんな言葉を聞いたこころは絶望の目から光が戻る。
「……偽物?」
「さぁプリキュア、出て来ないと世界が真っ暗闇になるぜ!」
ザックリーがそう言うとマックランダーが勝ち誇ったようにブレイクダンスを踊った。
「ダ、ダ、ダ、ダ、マックランダー!」
マックランダーはブレイクダンスの勢いでステージのセットを更に蹴って粉砕。こころの胸にはそんなザックリー達への怒りの心が湧き上がってきた。
「……やだ。止めて……」
しかし、こころの言葉は小さくてマックランダーには届かない。その間もマックランダーはステージの破壊を続ける。こころは怖かった。涙も出そうで体も震えていた。
「(……正直、まだ凄く怖い。あんな怪物に立ち向かえるなんて思えない……。でも、だからって……私の大切な物をこれ以上、壊されたく無い……。だから、カゲ君。私に……勇気を貸して)」
「もっとだ!もっとやれー!」
ザックリーが誰も来ないのを良い事に調子に乗りまくる中、こころは胸の辺りで影人の事を想いながら彼ならこうすると……。ようやく自分の意思で勇気を持って叫んだ。
「止めてってば!!」
「……あぁん?」
「皆楽しみにしてたんだよ?キュアアイドル達に会えるって。その気持ちを踏み躙って楽しいの?」
こころは震えた声色だったが、怖がってはいられないと声を張り上げる。そんな彼女を見てザックリーは笑みを浮かべながら高圧的に話す。
「何だ?お前……やられに来たってのか?」
「ッ……」
こころはザックリーに高飛車に睨まれた上にマックランダーの目線を受けて体の震えは更に大きくなる。そのタイミングでうたやなな、プリルンと別方向からレイも到着した。
「こころちゃん!?」
「……もう心に蓋なんてしない」
「何?言いたい事があんならハッキリ言ってみろよ!」
ザックリーがこころの様子を見て弱虫だと判断したのかヤクザのように話しかける。
「……忘れるのなんて無理。可愛い、カッコイイ。二人みたいになりたい。戦うとしたって一緒にステージに立ちたい!好きは……止められないんです!」
その言葉はこころの中に封印されていたアイドルプリキュアへの憧れの気持ちが復活した事を示す物だった。当然こんな話が気に入らないザックリーは声を荒げてマックランダーへと攻撃の指示を出す。
「だから何なんだ?マックランダー……行けぇえっ!」
「ダ、ダ、ダ、ダ、マックランダー!」
マックランダーは頭でブレイクダンスをするとエネルギーを脚に集約。そのまま凄まじい斬撃波として攻撃を繰り出す。
「「こころちゃん!?」」
「……折れるな、紫雨さん」
うたやななが生身のこころを案じて叫ぶ中、レイはそんなこころを影人の代わりに見届けるために小さく呟く。そして、そんな彼女の心は……もう折れなかった。
「私……心、キュンキュンしてます!」
こころの言葉は彼女の胸の中にある光を呼び覚ますと紫のバリアとして展開。マックランダーからの攻撃を弾き飛ばしてしまう。
「げっ!?まさか……!?」
ザックリーはこの現状を既に一度見ているために慌てた顔つきになる。そんな彼を尻目にこころの胸から飛び出したリボンは蝶々結びされるとそれがプリキュアリボンへと変化する。
「プリキュアリボンプリ!!」
その瞬間、プリルンのポシェットの中に残っていた最後のアイドルハートブローチは前に一度見限ったこころをようやく認めると飛び出して自分の認めた持ち主に引き寄せられるように飛んでいく。こころはそれをノールックで掴むと構えを取った。
「行くよ!」
こころは自分の決意と共にアイドルプリキュアに変身するための光に包まれる事になる。
同時刻。この場所に向かうはずの影人は一人ボロボロの姿で膝を付くと倒れ込む。
「はぁ……はぁ……」
彼は既に戦ったあとなのか、息切れしていると体の所々に痛みを感じていた。そんな彼の前に悠々と立つのはローブを脱ぎ捨てて本来の姿を晒したスラッシューである。そんな彼女は笑みを浮かべるとその手に前日持っていたブローチを出す。
「ふふっ。影人君、手間を取らせたけど……これでようやくあなたも私の仲間入りですね」
スラッシューはブローチを影人に押し当てると影人の体がドクンと高鳴る。
「あ……ああっ!?あがああああっ!」
「最初は痛いですよ。でも、すぐに馴染むわ。あなたの中の力はその力をちゃんと受け止めてくれるもの」
スラッシューのその言葉通り、ブローチへと影人の中から出てきたバイオレットのエネルギーが巻き付くとそれを受け入れるかのようにゆっくりと彼の体に馴染んでいく。
「……あ、あぁ……」
そして、影人の瞳の色が元々の赤と青のオッドアイから黒一色に染まると彼の感じていた痛みも消える。
「……俺は……何を?」
影人は立ち上がるとスラッシューを見やった。そんな彼を見てスラッシューは笑みを浮かべる事になる。
また次回もお楽しみに。