キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人達の通う中学で行われている生徒会選挙。その生徒会長候補である甲斐ちよが掲げたアイドルプリキュア研究会を廃止するという案を聞いてこころは黙って見ている事ができず。早速彼女は抗議をしに行った。
「もう!我慢なりません!!」
「ちょっ!?こころ!」
影人はこころがいきなり飛び出したのを見て慌てて追いかけるとそのこころは丁度演説を終えた甲斐へと話しかける。
「アイドルプリキュア研究会廃止ってどういう事ですか!?」
「あら、アイドルプリキュア研究会会長の紫雨こころさんに……副会長の黒霧影人さんですね」
「はい!」
「ああ」
甲斐は2人の存在に気がつくと早速彼等に話しかけてきた。それに対して2人は返事を返す。すると甲斐はあくまで礼儀正しく綺麗な姿勢を取ると会釈をする形で改めての挨拶をした。
「甲斐ちよと申します。初めまして」
「うえっ!?は、初めまして」
「初めまして」
一応影人は同じ学年なのもあってある程度知ってはいたが、面と向かって喋るのは初めてなので特に問題無く初対面の相手として話す。
「甲斐さんって確か2年C組で学級委員長だったよな?」
「その通り!」
その瞬間、突如として甲斐の後ろにいた取り巻きのような生徒達が出てくると甲斐の事を援護するように持ち上げる。
「ちよさんは2年C組の学級委員長として!」
「いつでも全力!」
「頼れるリーダーです!」
「何だこれは……」
甲斐の取り巻き達は何故か用意してあった紙吹雪を撒いたり扇子を使ってもてはやす。そんな様子に影人は多少呆れたような目を向けた。
しかもご丁寧にももてはやした後はその場に落ちた紙吹雪を回収するなどその後片付けもバッチリである。
「うっ……これは凄いですね。でも負けてられません!」
「そこは張り合う必要無いけどな?」
するとこころは甲斐のもてはやされっぷりに押されるが、すぐに首を横にブンブンと振って気を取り直す。
「確かにそうですね……。ではそれはそれとして。研究会を廃止するって本当ですか?」
「ええ。調査の結果、そう考えてますわ」
そう言いつつ甲斐はその手に調査のために使ったと思われる手帳を取り出す。こころはそれに対して慌てたように反論した。
「私達の意見も聞いてください!」
「勿論ですわ」
「あ、意外とそこは融通効かせてくれるんだな」
影人はこういう容赦無く切り捨ててくる相手の場合、他人の意見を聞かないというパターンもあり得る。なので甲斐がちゃんと自分達の言い分も聞こうとしている辺りは生徒会長の器として有望視されるのも納得した様子を見せた。
「では、時間も惜しいので意見をどうぞ」
「私達は真剣に活動しています!」
「なるほど」
「学校にだって認められています!」
「それで?」
「うぐっ……」
甲斐はこころからの意見を聞いてもまるで動じて無い様子であり、彼女の心には全く響いていない事がわかる。そして、その光景を遠目で見ていたうた達は甲斐の強さを実感していた。
「つ、強い……」
「でも大丈夫。こころなら……」
うた達はこころを信じている様子であり、彼女なら甲斐の心を動かせると思っていた。ただ、レイは1人だけ少し厳しそうな様子を見せている。
「どうかな……。確かにこころの研究会にかける気持ちは強い。だけど、甲斐さんの意見は気持ちだけじゃ動かない」
「気持ちだけで動かないってどういう事?」
「見てたらわかる」
もう一度復習するが、レイはクラスの内外に情報網を作っている。それはサウンドプロダクションの会社を継ぐための後継者としての勉強の一環だが、それを侮ることはできない。当然学級委員長をやっている甲斐の事はよく彼の耳に入ってくるのだ。
「私達はアイドルプリキュアを応援する事で、心キュンキュンしてます!」
「心……?」
甲斐はこころからの熱弁を聞いてその中に出てきた“心キュンキュン”という単語がよくわからずに首を傾げる。するとこころは一通り主張が終わったからか、甲斐へと研究会廃止の理由を改めて聞いた。
「どうして研究会を廃止したいんですか?教えてください」
「……良いでしょう」
こころの問いに甲斐は考え込むのを止めると真っ直ぐな眼差しで彼女を見据えつつビシッと指を差す。そして、研究会を廃止する最大の理由を打ち明けた。
「アイドルプリキュア研究会は、何一つ成果を出していません!成果、ゼロッ!!」
「成果……」
影人は甲斐の主張に対してこころにとって一番弱く、脆い部分を突かれたと考える。そして、その一撃を受けたこころの精神的なダメージは大きく。彼女の言葉の優位性は完全に打ち砕かれてしまった。
「うわぁああああっ!」
「ッ、こころ!」
こころはあまりの精神的ダメージに思わず後ろに倒れそうになるが、そこは影人がすぐにフォローしてそっと後ろから支える。
「大丈夫か?」
「は、はい……すみません」
「「「「こころ!」」」」
そして、とうとう外野から見ていたうた達も我慢できずに飛び出すと理念を打ち砕かれてしまったこころを助けに行く。
それを見たレイは予想した通りの展開になったという事で彼女達の元に歩いて出ていく事に。
「やっぱこうなっちゃうよな……。甲斐さんは人の精神論よりも目に見える成果を大事にする人。うちの父さんみたいに成果無い物に意味は無い考え方だから。まぁ父さんレベルになると色々と重症なんだけど」
「流石ちよさん!」
「「痺れるぅ〜っ!」」
甲斐の取り巻きは彼女がこころを華麗に打ち破ったためにその良さを強調。対してこころは完全に自分の理念を打ち砕かれたせいでその場に両手をついて四つん這い状態になると項垂れた。
「成果ゼロ……」
「甲斐さん、アイドルプリキュア研究会に足りない物というのはこころがさっきから話していた気持ちの問題じゃなくてもっと具体的な。他人からも一目見てわかる成果って事?」
「……ええ、今の紫雨さんの話だとただ気持ちが強いだけでしかありません。そしてそれは口だけなら何とでも言える事でもあります」
残酷ではあるが、これに関しては甲斐の言ってる事が正しい。こころが熱弁したアイドルプリキュアへの想いというのは悪く言ってしまえば活動をしている人にしかわかり得ない事だ。例えばやってる人が“頑張ってる”と言っても他人から見るとそれがどのくらいの頑張りかはわからない。
その人にとっては全力のつもりでも解釈次第では手を抜いていると思われても仕方のない話でもある。だから甲斐が求めているのはそんな綺麗事ばかりの精神論では無く、もっと可視化ができる何かと言えるのだろう。
「それでは、あなた達の意見は聞いたので。私達は失礼しますわ」
「くっ……」
こころの主張通り、話を聞いた上でアイドルプリキュア研究会は不要だという判断が付いたのか。甲斐やその取り巻きはさっさと活動に戻るべく移動しようとする。
こころは完全に打ち負かされてしまった事を悔しそうにしていると歩き始めていた甲斐やその取り巻きの前に影人が立ちはだかりつつ話しかけた。
「甲斐さん、ちょっと待ってくれよ。たった数分話を聞いてそれで終わりっていうのは流石に生徒会長としてはダメだろ」
「それはどういう意味ですか?黒霧影人さん」
「甲斐さんは俺達が目に見える成果を出してないって言うけど、要するに甲斐さんは可視化した何かが見たいんだろ?」
「まぁ、あるのでしたらそれは見るべきでしょうね」
「だったら尚更ただここで話し合って“成果ゼロ!”って勝手に断言して終わるのは勿体なくないか?」
影人は敢えて名言はせずにその言葉の続きをこころに言わせられるよう匂わせる形で甲斐を足止めしつつ時間稼ぎをした。そして、その意図を受け取ったこころは甲斐に話しかける。
「ッ……カゲ君の言う通りです。さっきの“成果ゼロって言葉”!ちゃんと私達の活動を見てから言ってください!」
「活動を見る……ですか」
「ええ。研究会は、アイドルプリキュア研究会は……成果ゼロなんかじゃありませんから!」
影人が繋いでくれたおかげでこころは甲斐に研究会を直接見るように言う事ができた。そして、甲斐はその提案を受ける事になる。
「わかりました。……では、今からそのアイドルプリキュア研究会を見に伺いますわ」
「えっ……どうして今から?」
「やっているんでしょう?アイドルプリキュア研究会。だってアイドルプリキュア研究会をやってないのだとしたら紫雨さん達はもっと早く校門で演説してる私達に意見を言いに来ていたはずですから」
甲斐は影人達が物申しに来た時間の遅さからうた達が一度校門前まで来てからすぐに研究会のある教室に向かって影人達を連れてきた事を見抜いており、だからこそ今から行くという提案をしたのだ。
「え、えぇ。ですが、今度こそちゃんとちよ先輩に私達の活動の成果を示してみせます!」
「楽しみにしてますよ」
それから一同は移動を開始。その中には勿論校門付近で合流したレイも来ている。どうやら今日は家の都合で振り回される日では無いようだった。すると、移動開始した段階で甲斐はレイの方を向くと話しかける。
「音崎さん、確かに黒霧さんはあなたが気にいるだけの事はありますわね」
「だろ?影人はこういう時の頭の回転が速い。それに、チームメイトを支える能力も高いんだ」
「ええ。今も彼が私を止めなければ紫雨さんの意見をこれ以上聞く事も無かったかもですわね」
どうやらレイと甲斐は過去に直接話す機会も何度かあった様子であり、その時に甲斐は影人の事を聞いていたらしい。
「でも、私には無駄な時間になるとしか思えないんですけど」
「そこはまず一回見てみる事だろ。情報っていうのは自分で直接見た物が一番信頼できる事くらい、甲斐さんだってわかるだろ」
甲斐はレイに言われて小さく頷くと気を取り直してこころの案内に大人しく着いて行く事になる。
そして、アイドルプリキュア研究会に到着するとその場を仕切っていた東中や彼女と一緒に活動をしていた会員達に事情を説明。
研究会存続の危機とあればその話に協力せざるを得ないとして会員達は急いで机を移動させると二つを隣り合わせる。その上にアイドルプリキュア研究会で制作したグッズを並べた。
「頑張ってこころ!」
「うん!」
うたや他の研究会の会員達が祈るようにその光景を見守っているとこころは早速甲斐やその取り巻きにアピールを始める。
「では、どうぞ」
「はい!早速ですが、最近の活動の目玉はこのファンブックです!」
こころが最初に手にしたのは一冊の冊子だった。それを開くとそこにあったのはアイドルプリキュアが写っている写真の数々やそれに対する説明である。
「アイドルプリキュアの魅力を広めるために作りました!何と、貴重なオフショットまで載ってるんですよ!」
そのファンブックにはまさかのプリキュアの変身バンクに使われている写真やアイドルプリキュアの近くに行けないと撮れないような重要な写真まであった。そして、この写真を撮られている当の本人達はと言うと……。
「あんな写真撮ってたの!?」
「いつの間に……」
「お姉様素敵です……」
「アイス、美味しかった!」
どうやら、本人達の知らない所で勝手に撮られていたらしい。うたやななは驚いた顔を見せるとめろんはいつも通りズキューンオタクとして一面を見せ、ぷりんは写真を撮った際にアイスを食べていた事からその感想を述べていた。
「ふむ……。ちなみに、その写真は何故あなた方が持ってるんですか?そのファンブック、非公式ですよね?普通オフショット写真というのは関係者しか持ってないと思うんですけど」
「それは問題無いよ。そこにいる咲良さんがアイドルプリキュアのマネージャー見習いをやってて、尚且つアイドルプリキュアのマネージャーさんから許可は貰ってる物だけを使ってる」
影人は甲斐の鋭い指摘に対してその質問は想定内とばかりにすかさず反論。うたはいきなりの事に驚くが、自分がアイドルプリキュアのマネージャー見習いという話は夏休みの登校日の一件で既に周囲にバレている。
甲斐はその情報も一応事前に仕入れていた事もあってそれ以上は言及する必要無しと判断してくれた。
「確かに、調べた情報にはちゃんとありますわね。……失礼な事を聞きました。続けてください」
「ええ。そのファンブックだけでなく、こちらの応援グッズ!想いを込めて皆で手作りしました!」
こころは甲斐に促されるまま、続けて机の上に並んだ数々のグッズを紹介する。そこにあったのは団扇、缶バッジ、アクリルスタンドなど。どれもアイドルプリキュアを応援するために研究会のメンバー達で手作りしたまさに彼女達の涙と汗の結晶のような物。
最後にこころは手にキラキライトを持つとそれを光らせつつ応援するように振ってみせた。
「更に、応援の練習もしてます!」
『してます!』
こころの言葉に合わせて他の会員達も手にキラキライトを持って応援をするように振る。ここまででアピールポイントを終えたのか。甲斐に纏めとなる言葉をぶつけた。
「こうやって私達は楽しく熱く。アイドルプリキュアを応援してるんです!……廃止なんて止めてください!」
「それが、あなた達の言う成果ですか」
「はい!」
甲斐は少しだけ考えるような仕草を見せつつ頭の中で思考を纏める。そして、彼女は結論を出した。
「……残念だけど、私にはわかりませんわ。応援する事によって、あなた達が得られる成果が何なのか」
「えっ……」
その言葉を聞いてこころの顔が青ざめる。甲斐にとって、先程からのこころの主張はまるで響いておらず。彼女の中では満足する答えが得られないという残酷な現実を見せつけるような物だった。
そして、甲斐は青ざめて絶望感に包まれるこころへも無慈悲な言葉を更に投げかける事になる。
また次回もお楽しみに。