キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
生徒会選挙にて生徒会長候補である甲斐がアイドルプリキュア研究会廃止を宣告。窮地に立たされた研究会だがそれを打開するべくこころは自分が選挙に出馬する事を決意。
その翌日の登校時間。はなみち中学校に向かって歩いていく3人の影がいた。それは勿論うた、なな、レイである。尚、プリルンとメロロンは学校到着までぬいぐるみのフリをする形でうたの持ってきたポシェットに2人で入っていた。
「こころ、何するつもりなんだろ?」
「そうだね。昨日いきなり帰っちゃったから」
「まぁ、あの流れからして多分だけど……」
こころの出馬の事を知らないうた達は前日にこころが何故急に帰ってしまったのかを考える。ちなみにレイは何となく察してはいたが、敢えて言及はしなかった。
「おはようございます!」
「よろしくお願いします!」
すると、学校の校門が近づいてきた所で聞き覚えがある声が聞こえてくると3人は校門の影からそっと覗き込む。
「あれっ?どこかで聞いた事あるような声が……」
「「ええっ!?」」
そしてその光景を見てうたやななは驚き、レイは予想通りと言わんばかりの顔つきを見せる。そこにいたのは甲斐と同じように立候補者として自分の名前を書いた襷を肩からかけて登校する生徒達に自ら声掛けをするこころであった。
勿論その斜め後ろにはそのこころのサポートとして彼女の応援者となった影人もいる。
「紫雨こころです!」
「紫雨こころをよろしくお願いします!」
流石に選挙活動初日でまだ公約やらを話していないからか、甲斐の時のように立ち止まってくれる人はほぼいない。だが、それでも影人とこころは名前だけでも覚えてもらうため生徒達に声だけはかけ続けていた。
「あはっ、やっぱそう来たか」
「こころ、どうしたの!?」
「影人君も立候補するって話だったんじゃ」
そして、そんな2人へと思わず駆け寄るうた達。特に昨日の話の終わり方だと選挙には影人が出馬するという話だったのに何故かこころが出馬して影人がそのサポートだったためにうたとななは余計に混乱してしまう。
「いや、元々はそのつもりだったんだけどな。……俺は選挙に出馬できないって思ってしまって。その分こころが頑張ってくれるって話になったんだ」
「そういうわけで、私が生徒会長に立候補しました!勿論クラスの信任は取ってますよ!」
「「えっ!?それってどうやって……」」
こころからのまさかの宣告に一同は混乱した様子を見せる。こころが立候補する決意を固めるだけならまだしも、クラスの信任投票は昨日の下校時間以降に決めたのに何故もう確保してるのかわからなかったからである。
「ふっふっふー。クラスの全員が入っているグループのトーク画面がありますからね。そこで信任投票を募らせてもらいました。それから先程先生にこの事を報告して、一応正式な信任投票は後でやる事を条件に許可をもらいましたよ!」
「ええーっ!?」
「それにしても早すぎない!?」
「出たな、こういう時のご都合主義展開……」
「レイ先輩、そういうのをわざわざ言うのは野暮って物ですよ」
どちらにせよ、こころは生徒会長候補として立候補して選挙活動をやる許可ももらった。これなら甲斐と堂々と選挙で対決する事ができる。
「アイドルプリキュア研究会を守るため、ひいてはこの学校を良くするためには私が生徒会長になるしかありませんよ!」
「それで立候補したんだ!」
「流石の行動力だね、応援するよ!」
「「フレッ!フレッ!こころ(プリ)(メロ)!フレッ!フレッ!こころ(プリ)(メロ)!」」
こころの強い決意による立候補の話を受けてうた達は勿論応援する意思を表明。ついでにうたのポシェットにいたプリルンとメロロンは周囲にバレないようこっそりと紫色のキラキライトを振る形で彼女を応援する。
また、その様子を遠くから見ていた者達もいた。それは勿論、こころが打倒しようと考えている選挙の対戦相手である甲斐ちよとその取り巻きだ。
「紫雨さんが選挙に立候補。……でも、私だってそう簡単には負けませんわよ」
甲斐はこころの出馬に対して狼狽えるどころかやる気を見せると自分も同じように選挙活動をするべく声を上げる。
「生徒会長候補の甲斐ちよです!私はこれまで、学級委員長として尽くして参りました!」
「「「ちよさんを生徒会長に、よろしくお願いします!」」」
すると、甲斐の周りには登校していた生徒達が足を止めてその方を見ていた。こころの時はスルーする人が多かったためにこの差は未だに大きい。
「うわぁ……人がいっぱい……」
「手強いライバルだね」
「ああ、今から巻き返すのは結構難しい。何しろ積み上げてきた物が違うからな」
レイは冷静に現状を分析する。甲斐は入学してから1年半の間、下手したらその前の小学生の頃から学校や生徒のためになる行動を沢山してきた。そして、2年生でもここまでで学級委員長を務めている。
この選挙に向けて準備もしっかりしてきただろう。対してこころはまだこの学校に入って半年程度。小学校の時も甲斐程の経験や行動は積めていない。それだけでも彼女との差は大きいのに今回の選挙に対しての準備だって昨日唐突に始めたばかり。当然学校内での認知度では大きく出遅れている。
「確かに、レイの言う通りかなり厳しい現状なのは間違いない。だけど、そうなる事くらいはこころだってわかってるはずだ」
「勿論!選挙活動の期間はこれから一週間程残ってますし、勝負はまだまだここからですよ!」
こころはそんな現実を前に悲観するどころかそれを受けてやる気を滾らせるとこの状況からでも巻き返せると考えていた。
こうして、この圧倒的出遅れスタートという不利な状況からのこころの選挙戦は幕を上げる事になる。
「まずは私の掲げる理念からです!」
「ああ、大事なのはこころが生徒会長になった後どういう学校を作るかをわかりやすく伝えないとだからな」
こころが最初に取り掛かったのは生徒会長になって掲げる理想の学校像である。詳しい政策は後回しになるにしても、まずはこれが無いと生徒からの共感なんて得られない。
結局の所、選挙というのは多数決制。自分の掲げる理念に対して相手より多くの共感を得られた方が勝つわけである。
「はい!こころキュンキュンな学校。それが私の目指す道です!」
「次に必要なのはそのキュンキュンをどう上手く言語化するかだな」
「ええ、確かにキュンキュンだけでは皆さんにはわかりませんもんね……」
その辺りは選挙活動の中で上手く伝えていく事になるだろう。そんなわけで、早速こころは完成した選挙のポスターを掲示板に貼りに行くことになる。
「それにしても改めてですがカゲ先輩って本当に何でもできるんですよね。絵も普通に上手いですし」
「流石に本職やそれを専門的に極めている人相手には勝てないけどな」
ちなみに、ポスターに描かれているこころの似顔絵は影人が前日の夜にこころの姿を見ながら描きあげた物だ。その正確さはその場にもう1人こころがいると思える程である。
すると、隣には甲斐ちよのポスターもありポスターの見出しの一つには“50のおやくそく”なるものがあった。
「甲斐さんの方は……ッ!?“50のおやくそく”か」
「それって公約の事でしょうか?」
「多分な」
公約とは、選挙活動をしている候補者が当選した後に任期期間で必ず行う事という投票者との約束事である。そして投票者はこの公約で示された事を候補者が実行する事を期待して投票するため、もしこれを守らないと投票者からの信頼は地に落ちてしまう。なので、当選したら投票者が納得できる余程の理由が無い限り絶対に履行しないといけない。
そして、これを甲斐は既に出しているとなると政策の方向性は既に具体的な形で投票者である他の生徒達に示されている事になる。
「だとしたら私達も早めに公約を考えないとですね」
「ああ。だが今は生徒達向けの選挙活動が先だな。公約とかは学校が終わった後に家でじっくり考えよう」
そのため、本来ならこころもそれを考えないといけない……なのだが、繰り返す通りこころにはそれにばかり気を取られていると街頭演説の時間が減ってしまう。そして、甲斐ちよは当然のようにこれもやるのでこころは今は一旦それは放置して街頭演説の方に繰り出す事になる。
「紫雨こころです、私が生徒会長に選ばれたら心キュンキュンな学校を目指します!」
「紫雨さんは真面目で自分の目指す目標には真剣に全力で取り組みます。どうか紫雨こころさんに清き一票を!」
こころは影人と共に登下校の校門付近で選挙活動を続けていくと少しずつだがこころの意見に賛同し、応援してくれる人が現れ始めた。
更に影人だけで無く、うたやなな。ぷりんにめろん。レイも人脈を活かして少しずつこころ側に人を引き入れていく。アイドルプリキュアの関係者だけで無い。研究会の会員やこころと仲の深い寸田、影人やレイと共に球技大会を戦い抜いた高村、藤堂、早川の3人にレイのバスケのライバルだった浅野までが選挙活動に協力。
正に、こころの選挙活動はこれまでの影人達の出会いや友情を活かした総力戦になりつつあった。
それから選挙を開始してから数日後の昼休み。影人達の地道な選挙活動のおかげで多少は甲斐の人気に追いつき始めつつあった。ただ、勿論甲斐の方が優勢なのは変わらない。割合的には3対7って所だろう。
「もしこころが生徒会長になってくれたらきっとキラッキランランな学校にしてくれるよね!」
「まだ決まったわけじゃありませんよ。生徒全員の投票で、ちよ先輩に勝たないといけないんですから」
実際の所、3対7くらいの割合なら決選投票の乱数次第でギリギリひっくり返す事も可能ではある。ただ、まだ劣勢側なのは変わらないだろう。
「でもさ、でもさ。“こころに投票する!”って言ってくれる人、増えてるよね!」
「うん!こころ、大人気だよね!」
「毎日選挙活動を頑張ってるから!」
しかし、この劣勢の事に関してはまだこころを含めた一同は知らない。一応影人はレイの情報網からそれとなく話は聞いているが、今この場で言う事でも無いというのとそれを知ったらこころが余計に気負うと考えて影人は敢えて話さずに黙っていた。
「私は兎に角、アイドルプリキュア研究会を守りたいんです!」
「どうなるんだろうなぁ……」
「えっ?」
こころがアイドルプリキュア研究会を守るために頑張る決意を露わにしているとななはある事を考えつつ空を見上げる。それを聞いてこころがキョトンとした様子を見せた。
「こころちゃんが選挙に勝ったら、どんな生徒会長になるのかなって」
「どんな生徒会長に……」
そして、ななの話を受けたこころは改めて自分が生徒会長として目指すべき姿について考えてみる事に。
「こころ……」
「なぁ、影人。こころに劣勢の事は……」
「言いたいけどまだ言えないな。今こころは考える時間に入っちゃったから」
「そうか。でも、ちゃんと話しておけよ。今のままで勝てるなんて油断してたらボロ負けする危険もあるからな」
影人はレイからの言葉に頷くとあくまで今のままではこころが勝てないという事を再認識する事になる。そして、それから時間が経過してこの日の放課後。
影人達がいつものように選挙活動のための演説をしに行くために校門近くに移動する。
「さぁ!今日も演説頑張ろう!」
「おーっ!」
「ね、こころちゃん!」
うたやぷりんが張り切っているとなながこころへと話しかける。それをこころは考え込んでしまったせいで聞けてなかったのか。ワンテンポ遅れて慌てて反応する事になる。
「うぇ!?は、はい!」
「皆さん、ご覧ください!」
そんな時だった。突如として甲斐の声が前方から聞こえてくるとそこには人だかりができており、彼女が何かを説明している様子である。
「私が生徒会長として実現したい事はこちらですわ!」
「「じゃじゃーん!」」
その瞬間、甲斐の取り巻き2人が突如として大きなプラカードのような物を掲げた。そこには選挙ポスターに表記されてあった50のおやくそくの詳細が箇条書きで記されており、甲斐の口からその説明が入る。
「選挙ポスターに記されてある“50のおやくそく”を考えてきました!」
『おおーっ!』
まさかの選挙ポスターにあった事を本当に考えてきたという事でその場にはどよめきが響き渡るとうた達は驚きの声を上げた。
「実現したい事が50個も!?」
「うわぁ、びっしりあるよ……」
「用意周到な甲斐さんらしいな。ちゃんとポスターにあるだけじゃなくて準備してきたのか」
影人達が甲斐の出した“50のおやくそく”が記されているプラカードに押されていると彼女は更に話を続ける。
「例えば、放課後には宿題教室を設けて。生徒同士が宿題を手伝えるようにしますわ!」
「凄く考えてあるね」
「これは、こっちも公約をもう出さないと政策の具体性で押し負けるかもな……」
影人がこの甲斐の出した公約の数々に危機感を覚えていると、こころの気持ちにも焦りが生まれていく。そこにぷりんとめろんが励ますように話しかける。
「心キュンキュンは最強なんでしょ?」
「負けないよね!こころ!」
「私ももっと考えなくちゃ……」
「「うん?」」
すると、こころは甲斐の出した50個にも及ぶ公約を見て自分も色々と考える必要があると判断。踵を返すと急いで校舎へと戻っていく事になる。
「私、居残りしていきます!」
「ッ!皆、今日の選挙活動はビラ配りや声かけの方だけお願い。俺も残るから!」
影人もそんなこころを見て自分も彼女を助けに行くべきだと考えて急いで彼女の後を追う。そんな2人を見て一同は思わず唖然としてしまうのだった。
「えっ、ちょっと影人!?」
「こころ……影人君……」
そして、そのタイミングで空は少しずつ暗さを増していく。いつもならまだ少し明るいのだが、今日は雲が分厚いためかかなり暗めだった。こうして、怪しくなっていく天気とは裏腹に影人達は甲斐に負けないためにも居残りで公約を作る事になる。
また次回もお楽しみに。