キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
こころが出馬した生徒会選挙が進む中でこころは甲斐が出した“50のおやくそく”を目の当たりにした。そのため、彼女は今のままで甲斐に勝つのは無理だと考えて教室に戻ると居残りで公約を考える事に。
そこに後から戻ってきた影人も到着すると2人揃って公約を一緒に考える事になる。
「カゲ君、何で……」
「俺はこころの応援者だからさ。一緒に公約を考えるくらいやるよ」
「すみません……ありがとうございます」
こころは影人が来てくれた事に感謝しつつ2人で一緒に公約を考える流れになった。しかし、いざ考えるとなるとこころは中々良い案を思いつく事ができず。考えるのが行き詰まってしまう。
「ッ……どうしよう。全然思いつかない。カゲ君は何か思いつきました?」
「ある程度ならあるよ。……だけど、多分俺が今ここでこころに示すのは正解じゃ無い気がする」
「えっ……」
影人はこころの事を手伝うとは決めて一緒に考えてはいるものの、その答えをいきなり彼女に教えてしまうのは違うと思っていた。
「それは、どうしてですか?」
「確かに俺が今すぐこころに自分の考えを話すのは簡単にできる。だけど、それはこころが目指したい学校像とはかけ離れてるかもしれない。それに、生徒会長は自らがお手本にならないといけないと思うんだ。だから、他人が勝手に公約とかを出したらダメだと思う」
こころはそれを聞いて影人が先程から手伝うと言ってくれたのに妙に大人しかった理由に納得する。同時に今の自分では生徒会長候補として程遠い事実を実感した。
「そっか……そうですよね。だから私……まだまだちよ先輩に及ばないんだ」
「こころ?」
「まだ支持率で圧倒的に負けてるんですよね……私って」
「ッ、知ってたのか?」
「カゲ君がそんなに言いづらそうな顔をしてたら嫌でもわかっちゃいますよ」
こころは影人がレイから言われていたのに伝える事ができていなかった支持率の低さについては薄々察しており、だからこそ彼女の抱く危機感も強くなってしまう。
「はぁ……どうすれば私は、学校の皆のためになる事を……」
こころは落ち込み、悩んだような顔つきで目の前に広げた白紙の紙と向き合う。影人はそんなこころを助けたいと思いつつも、今自分が下手に手を貸すのは生徒会長を目指す彼女のためにならないと考えて苦渋の思いながら踏み止まっていた。
「(俺はこころのために何ができるんだろ……。結局助けるって言いながら何の役にも立ててないんじゃ……)」
影人はこころと向かい合う席から立ち上がると外を見る。するとその視界には大粒の雨が降る様子が映った。
「ッ!?こころ!雨が……」
影人は慌てて雨の事を伝えようと振り向いた瞬間、同じタイミングでこころのいる一年生の教室に1人の少女が入ってくる。それは先程まで選挙活動をしていたはずの甲斐ちよだった。
「紫雨さん、あと黒霧君。もう下校の時間ですわよ」
「ッ!ちよ先輩!」
「そっか、もうそんな時間か。教えてくれてありがと。すぐに片付けて……」
影人は甲斐の指摘を受けて時間を見ると確かに今は部活動の時間も終了し、最終下校の時刻に迫りつつある。そのため、教えてくれた甲斐に感謝を伝えつつ片付けをしようとした。
「あ、あの!ちよ先輩!」
「えっ?」
すると突如としてこころは甲斐に対して声をかけると胸の中にあったモヤモヤとした気持ちをぶつけるように彼女へと問いかける。
「あ。えと……ちよ先輩は学校の事、ずっとずっと。考えてきたんですよね?」
「……ええ。学級委員長をしている内に、クラスだけじゃなくて。学校中の皆にとってよりよい学校にしたいと思いましたの。……必ず実現してみせますわ」
甲斐はこころからの質問に対して凛とした様子で自らの強い意志を示すように話しつつこころの近くの窓際に来るとそこから外を見た。するとこころはそんな甲斐が右手に抱えている一冊の赤い冊子を見つける。
そこにあったのは“生徒会長としてやりたいこと”と書かれたノートであった。
「(生徒会長としてやりたい事を纏めてるのか。……それ程までに甲斐さんは生徒会長に懸ける気持ちがある。そりゃあ、勝てないわけだよな。俺達が戦ってる動機はあくまで自分達の研究会を守るためだけだから……)」
影人は甲斐の持つ信念の強さを感じ取ると今のこころに彼女と同じくらいの信念や覚悟は存在しない事を懸念しており、こころもまた同じ事を考える。
「私……そこまでは……」
「雨、止みませんね」
すると、甲斐は突如として先程から降り続く止まない雨について指摘すると影人達はその話題に意識が移る。
「えっ?」
「確かにそうだな。さっきから強い雨が降りっぱなしって感じだ」
「傘は持っていますの?」
「俺は持ってるよ。予報で降るかもしれないって言ってたから」
影人は甲斐の言葉に対して大丈夫である旨を即答。ただ、こころの方はそうで無かったようで。
「いえ、実は……」
「でしたら……」
こころが言いづらそうな声色で傘を持ってきていない様子を示す。恐らく、選挙活動の事で頭がいっぱいになったせいで天気の事まで気が回らなかったのかもしれない。
すると甲斐はその返事を受けて何の躊躇いも無く自身の鞄の中に持っていた折り畳み傘を出すとそれをこころへと差し出した。
「こちらをどうぞ」
「えっ……」
「私はもう一つ持ってますから。風邪をひいてしまっては勉強もできませんわ」
「……」
甲斐は傘をもう一つ持ってる事からこころに貸しても問題無いとばかりにそう言うと差し出されたこころはそれを受け取る。
「ありがとう……ございます」
「では……」
その言葉を最後に甲斐は踵を返して下駄箱の方に去っていく。そんな彼女を見届けたこころは彼女の信念の強さや、例え選挙活動をする対抗馬相手でも生徒達を想う行動に胸が打たれたような気持ちになる。
「ちよ先輩は凄いな……私は……」
「確かにそうだな。甲斐さんは誰にも真似できないくらいに学校や生徒の事を想ってる。こころ、その折り畳み傘。貰うよ」
「えっ?」
すると影人は折り畳み傘を手にして急いで走り出す。こころはそんな影人の姿をただ黙って見ているだけしかできなかった。
同時刻、丁度甲斐は下駄箱に到着すると靴を履き替えて雨の降る空を見上げる。それから覚悟を決めたように鞄を両手で持って玄関から出ようとした。
「待って、甲斐さん!」
「黒霧君……ッ、それは」
甲斐はこころに渡したはずの傘をここに持ってきている事に驚くとその事を問いかける。
「黒霧君、どうしてその傘を。それは紫雨さんに……」
「甲斐さん、俺達は俺の傘一本で足りてる。だからこの傘は返すよ」
影人は甲斐へと折り畳み傘を返すために差し出した。そのため彼女は困惑する。
「ッ、どうしてですか。一人一本無いと……」
「じゃあ、どうして甲斐さんは傘を持ってるなんて嘘吐いたんだ」
「……」
甲斐は影人の指摘が図星だったのか珍しく黙り込んでしまう。それから影人はこの考えに至った経緯を話す。
「今日の朝偶々登校する所を見てたんだけど、甲斐さんは今朝普通の傘を持ってきて無かった。だからもう1本持ってるのなら折り畳み傘を2本持ってきた事になる」
実は影人はこの日の朝、偶然にも甲斐が登校するのを目の当たりにしていた。この辺りは影人がこころの応援者として一緒に早く登校する必要があるからこそできた事だ。
「……けど、折り畳み傘は1本あるだけでも鞄の中を圧迫するからな。幾ら生徒のために尽くす甲斐さんでも折り畳み傘2本なんて普通持ってこないだろ。生徒会選挙のための荷物が増えてるのなら尚更」
「黒霧君って探偵だったりするんですか?私が傘を持ってないって見抜けるなんて」
「別に。他の人よりもちょっと視野が広くて頭の回転が速いだけ。大した特技でも無いよ」
影人は少し気恥ずかしいのか謙遜しつつ少しだけ顔を背ける。ただ、実際に甲斐の傘が無いことを見抜いたのは事実だ。
「……どうして私の事を心配したんですか?あなた方アイドルプリキュア研究会の会員からすれば私が風邪をひいた方が」
「その言葉、そっくりそのまま甲斐さんに返すよ。それだったら甲斐さんがこころに傘を貸す必要性は無い。むしろ、傘を貸した方が甲斐さんにとっては不利になるだろ」
甲斐は影人にそう言われて黙り込んでしまう。それから影人は甲斐へと話を続けた。
「俺はこころの応援者である以前にこの学校の一人の生徒だ。それに、それは甲斐さんだって一緒。生徒会長は生徒のためになる行動をするんだろ?だったら、甲斐さんも自分の事を大事にしないと」
「それは、確かにそうですね」
甲斐はそう言って影人に差し出された自分の傘を受け取る。それから彼女は改めて影人に問いかけた。
「あの……黒霧さんは前に成果にばかり拘り過ぎると大切な物を見落とすって言ってましたけど。あれってどういう意味でしょうか」
「あれか。甲斐さんの言う成果ってさ、すぐに見える物と見えない物があるだろ?例えば何年かけても上手く行かなくて。その間成果を求め続けて努力して。それでもダメな事みたいな」
「確かにありますね。私も自分でやってて中々上手くできない事くらいはあるので」
「でも実際は少しずつ上手くやれるようになってるとかで出てきている時もある。まぁ、目標達成に程遠い事とかになると自分では気が付かないかもだけもな」
影人の言う通り、成果と一口に言ってもすぐに出る成果と出ない物がある。しかし、実際は少しずつ前に進めているという形で目には見えないが出ている場合もあるわけだ。
「でも、それとアイドルプリキュア研究会の成果がゼロである事に何の関係があるんです?」
「甲斐さんにとっては目立った成果が出てないように見えるかもしれないけど、俺達から見たら出ている成果もあるって事を知ってほしいんだ」
甲斐は影人の話を聞いて少し考え込む。ただ、やはり甲斐の中では影人達アイドルプリキュア研究会が何か成果を出しているようには思えなかった。
「やはりわかりません……黒霧君の言ってる成果というのが」
「無理にわかってもらわなくても大丈夫だよ。だけど、一つの視点に拘り過ぎるとそれ以外の考え方ができなくなっちゃうからさ。俺はそのせいで……」
「そう、なんですね。この事はまた後で考えてみます。今は下校時間が迫ってるので」
「ああ、気をつけて」
「はい。黒霧君も風邪をひかないように。失礼します」
こうして、話を終えた影人は甲斐と別れてこころのいる教室に戻ろうとするとそこには片付けを全て終えて影人の鞄も持ってきていたこころが立っていた。
「カゲ君、もしかしてちよ先輩」
「ああ、こころに貸した折り畳み傘を一本しか持ってなかった。だから返したよ。俺は大きい方の傘を持ってきたしな」
そう言いつつ影人は自分のクラスの傘立てに入っている自分の傘を手に取るとこころから鞄を受け取る。
「カゲ君すみません……私、生徒会長候補として全然ダメですね。こんな気遣い一つできないなんて」
「こころ、俺はこころが生徒会長候補として甲斐さんに劣ってるとは思ってない。少なくとも、自分の目指した物に情熱を注げるハートがある事に関してはな」
影人はこころに来るように促すと二人でピッタリと肩を寄せ合う形で影人の傘の下に入りつつ下校するために歩き出す。勿論影人はこころが雨に濡れてしまわないようにこころの方に傘を多めに寄せていた。そのせいで影人は傘からはみ出ている部分から濡れていく。
「カゲ君、大丈夫なんですか?」
「えっ?」
「その……私に傘を貸してるせいで」
「このくらい大丈夫だよ。生徒会選挙が控えてるんだしこころが濡れる方が問題だからな」
「ッ……」
こころは自分が傘を持ってきてないせいで影人が雨に濡れてしまっている事に申し訳無さを感じていた。そして、その気持ちに加えて先程の甲斐の見せた生徒会長に向けた想いを聞いたために余計にこころは頭を悩ませてしまう。
「私が皆のためにできる事……」
「さっきの甲斐さんの話を聞いて悩んでるんだろうけど、あまり難しく考え過ぎるなよ」
「カゲ君?」
すると影人は色んな事で悩むこころに対して改めて彼女に肩の力を抜くように伝えた。
「甲斐さんには甲斐さんのやり方があるように、こころにはこころのやり方がある。勿論学校の生徒達のためにできる事を考えるのは大前提だけど、それが甲斐さんみたいに直接的な物にならなくても良い。例え回り道になったとしても……最終的に生徒達のためになる物だったらきっと理解してくれる人はいるからな」
「カゲ君……ありがとうございます」
影人は先程甲斐に教えた事と同じ、無理して一つの考え方に凝り固まるよりも色んな視点から答えを探すべきだとアドバイスをする。こころがそれに対してお礼を言っているとそこにこころのスマホに電話がかかってきた。
そこに表示されているのは先に学校から帰っていたうたの名前である。そのため、こころは急な電話に混乱した。
「うた先輩?」
「ひとまず出てみろよ」
「はい」
それからこころはうたからはなみちタウンの出張所にて待っている旨の話を受ける。そのため、早速2人は進路を変更。出張所の方に向かう事になるのだった。
また次回もお楽しみに。