キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
レイの呼びかけによってハジメの心を取り戻し、その後アイドルの技によって浄化されたダークランダー。その様子を目の当たりにしたスラッシューは悔しそうに歯軋りしてしまう。
「ぐ……また!」
「Kotoneさん、もうこんな事は」
「煩い!……何で、何で私はいつもこうなの!」
その直後、スラッシューは声を荒げつつその場に崩れ落ちる形で膝を着くと頭を抱える。その瞳には涙が流れていた。
「私のやろうとする事は全部否定される。私は、私は……」
スラッシューはどうにか気持ちを吐き出そうとするが、心がメチャクチャになっているせいか思うように気持ちが纏まらない。それ程までにスラッシューの心は揺れていた。
「Kotoneさん、あなたが優しい人な事はもう知っています。ダークイーネに味方してももう意味なんて」
「ッ……そういうわけにはいかないわ。いつも言ってるでしょう。ダークイーネ様のために私は全てを投げ打ってるの。もう戻る場所なんて無いし、今更裏切るわけにもいかない。……それに、ダークイーネ様を1人にしたらきっとあの方は……」
「ダークイーネが1人?」
それを聞いて一同は驚いたような視線を向ける。ダークイーネの周りにはまだチョッキリーヌやジョギがいて、少なくともスラッシューが抜けたとしても1人にはならないはずだ。だからこそ余計にスラッシューの言葉の意味が気になるのである。
「……ええ。ダークイーネ様は過去から来た私を受け入れてくださった。それに、ダークイーネ様も私と同じでずっと1人で苦しんでいるの。だから、あのお方の側に私がいないと……」
『その気持ちは嬉しいが、あまりそういう話は他所では喋らないでもらおうか』
その瞬間、スラッシューの言葉を遮るようにダークイーネの声が響き渡ると彼女がスラッシューの影から現れる形で出てきた。
「ッ!?ダークイーネ様……」
「ダークイーネ、あなた。まだKotoneさんを手放さないんですか!?」
『当然だ。妾にとってはKotoneの存在は欠かせぬ。だから役立たずのカッティーやザックリーとは違って切り捨てていないだけの事』
ダークイーネはスラッシューを後ろから抱きしめるような形でスラッシューが大切な存在である事をアピールするとアイドルプリキュアを鋭い眼光で睨みつける。
「そういえば、スラッシューがいなくなったらダークイーネが1人になるって言ってたけど。それってどういう……」
『お前達が知る必要は無い。それと、世界が真っ暗闇に堕ちるのは運命だ。受け入れろ』
その言葉を最後にダークイーネはスラッシューを回収しつつ撤退。これによりハートガーデンが解除されると一同は元の空間に戻ってくる事になるのだった。
それから少しして変身を解除したプリキュア達はダークランダーにされていたレイの父親であるハジメを一旦社長室の中にあるソファーへと移動させる。これはハジメも目を覚ました時に社員に倒れている所を見られては彼のプライドが許さないだろうという判断だった。
「さてと、ひとまずこれで大丈夫か」
「うん、後はハジメさんが起きてくれるのを待つだけだけど……」
ななはそう言った所で考える。一応自分達がプリキュアである事はハジメもまた知っているわけなのだが、ここは社長室。ハジメの息子であるレイは兎も角、あまり長い時間一般人であるうた達がここにいるというのはあまり良いことでは無い。
「……皆、ここからの事は俺に任せてもらえないか」
「レイ……でも良いの?」
「お父さんと一緒にいて気不味くない?」
「まぁ、気不味いと言えば気不味いんだけどさ。でも、今回父さんがダークランダーになった理由って多分父さんが俺の事を警戒したからだと思うんだ。だからここで話さないといけないのかなって」
レイとしてはこれ以上父親がチョッキリ団が原因で闇に堕とされてしまうという事態は避けたい。加えて、動揺した父親が事務所の経営をミスすればそれだけで自分達親子を含めた社員全員を路頭に迷わせる事になってしまう。
「俺も父さんと今のままの状態でいるのは嫌なんだ。だから、ちゃんと話し合いできる時に話し合いをしたい」
「そっか。それなら、ここはレイ君に任せるよ」
「なな……すまない」
「そのくらい良いよ。レイ君だってパパと今のままの関係でいるのは辛いって事がわかったし。2人の仲直りくらい、レイ君の彼女として支えたいな」
レイの決意に同調したのは勿論レイの彼女であるななだ。そして、レイの事を一番信頼しているなながレイの行動を纏めた以上は他の皆もレイの行動を受け入れる事になる。
「そうね、ななが受け入れるのなら私も異論は無いわ」
「レイ先輩、しっかりお父さんと仲直りしてください!」
「うん!今度学校で会うときはキラッキランランなレイ君になってるって信じるよ!」
「そうだね!」
「皆もありがとな」
こうして、レイは父親であるハジメと仲直りをするために彼が目覚めるまでの間は社長室に残る事に。同時にうた達他のメンバーはこれ以上ここにいても仕事の邪魔になってしまうため、場所を変えるべく移動を開始するのだった。
「すぅ……ふぅ……父さん。今度こそ、ちゃんと話し合おう。俺も、父さんの事をちゃんと見るから」
レイが父親であるハジメと話す覚悟を決めてから少し後。黒霧家では熱を出していた影人の体調が昼を過ぎた段階でようやくほんの少し戻り始めていた。
「はぁ……はぁ……やっと熱下がってきたか」
「もう、それでも今は絶対安静にしてないとダメだからね?下手に動き回ってまた熱がぶり返したら目も当てられないし」
夢乃はそう言いつつ影人の世話を続けていく。そんな妹に助けられながら影人は横になりつつ上を見上げていた。
「皆、大丈夫かなぁ」
「一応今さっき出てきたダークランダーは無事に浄化したって話が来たからもうチョッキリ団の方は大丈夫でしょ」
「どっちかと言えばこころの方だよ。選挙のための準備がいるのに」
「あー、そっちね」
影人はこころと一緒に生徒会長になった際の公約を考えるつもりだったのだが、結局それはお流れになってしまった事に改めて後悔している様子だった。自分の彼女が大変な時に力になってあげられないというのは今の影人にとってかなり不安な事のようである。
「はぁ……俺無しでもダークランダーを浄化してくれたのは本当に良かったけど、こころに負担をかけてるって考えると気が重い」
「うーん、私としてはどっちかと言うとこころ先輩の方が……」
夢乃は影人の溜め息に対してある懸念を口にしかける。そんな時、黒霧家のインターホンが鳴り響くと誰かが来たという事を知らせた。
「っと、お兄ちゃんごめんね。出てくるから」
「ああ、すまん」
夢乃はそう言い残して家に来た客の方を確認するために玄関口付近の映像を確認する。
「えっと、誰が来たのか……へ?」
夢乃は玄関でインターホンを押した後に待っている人が誰なのかを確認すると思わず息を呑んでしまう。しかし、その人をこれ以上待たせるのはそれはそれで申し訳ないために夢乃は慌てて玄関を開けた。
「え、えっと……こころ先輩?何で……」
「夢乃ちゃん、ちょっと失礼しますね」
「も、もしかして……」
「はい、そのもしかしてなので通してください」
夢乃は何故こころがここに来ているのかがわからずに混乱する。何しろ、今日の朝に影人が来ないように言ったばかりなのだ。また、今日の彼女は選挙のための公約を考えるなどの準備時間に全力を尽くすはずだったのである。
それなのに今現在。こころは黒霧家の前に来ており、しかも影人の部屋へと突撃しようとしている。夢乃は影人に言われていたのもあって慌てて止めようとした。
「こころ先輩、少し待ってください。お兄ちゃんからの話は……」
「勿論聞いてますよ。ですが、色々あってダークランダーを浄化するために応援を頼まれる事になって。その帰り道に偶々この家の前を通りかかったので折角だから寄り道する事にしました」
夢乃はそれを聞いて今にも頭を抱えそうになってしまう。こころは今偶々をわざと強調して話をした。つまり、あくまで偶然を装ってここに来た事になる。
「そ、そうなんですね。あはは……」
「では、そういう事なので失礼しますよ」
「へ?」
その瞬間、こころは夢乃の油断を突く形ですぐ隣をすり抜けるとあっという間に黒霧家の中に入っていく。夢乃は慌ててそれを追いかけていくが、もう先に奥の方に入られた時点で夢乃に対処する術は無い。
「何だ……夢乃。何でそんなバタバタと……」
「カゲ君!」
「えっ……?」
影人はボーッとした様子で家の中に聞こえるバタバタとした足音に疑問符を浮かべていると考えが纏まるよりも早く部屋の扉が開け放たれてこころが声をかけた。
「な、何でこころがここに」
「ごめんお兄ちゃん、入られちゃった……」
影人は夢乃が謝るのを聞きつつ自分の元に詰め寄ってきたこころへとボーッとした顔ながらも慌てたような声を出してしまう。
「こ、こころ?その、えっとだな」
「よ……良かった……カゲ君」
「へ?」
影人は目の前に迫ったこころに弁明をしようとした時。こころは安堵の息を吐くと今にも泣きそうな顔つきを浮かべてベッドの上で寝ている影人のすぐ隣に崩れ落ちるように座り込む。
「えっと……こころ?」
「私、心配してたんですよ……。私が傘を忘れてしまったばかりにカゲ君にこんな、こんな辛い思いをさせてしまって」
こころは啜り泣くような形で影人の胸の辺りに顔を埋めると自分のせいで影人が高熱を出すという事態を招いてしまった事を深く後悔した様子だった。
「(そっか……今回の高熱、元を辿ればこころが傘を忘れて俺が雨に濡れたからだったな)」
同時に影人はこころに心配させてしまったのを申し訳なく感じると彼女を安心させるようにその小さな背中をそっと撫でる。
「私、カゲ君がどこか遠くに行っちゃうような気がして。不安だったんです。でも、今度に迫った選挙の準備が優先だったから会いに行けないのをずっと我慢してて……」
「そっか、ダークランダーを浄化するために一度外に出かけたから俺の方に来てくれたのか」
こころがずっと家の中であれば影人のお見舞いに来なくても大丈夫という言葉は、こころが余計な外出をして時間を取られてしまうからという理由として機能する。
しかし、プリキュアとして一度外に出た以上は影人の元に寄り道したかったのだろう。自分のせいで苦しめたという後ろめたさもあったのだから尚更だ。
「カゲ君……もう今度から私の事ばかり気を配って自分の事を疎かにしないでください……。この前の山登りの時だってうた先輩を探しに行って高熱を出したじゃないですか」
「ああ、そうだったな」
影人はあまり無理をしないようにこころの言葉にしっかり答える。それから彼はこころを安心させるために微笑みを浮かべた。
「こころ、俺の方こそ心配をかけてごめん。こころ、お父さんを病気で亡くしていたから俺がこうなって余計に不安だったよな。……だから約束する。絶対にこころの事を置いて遠くになんて行かないよ」
「本当ですか?絶対に絶対の約束ですよ?」
「ああ」
影人は体を起こすとそっと彼女の頭を撫でる。それを見届けた夢乃は今は2人にさせるべきだとそっと部屋から出ていく事になる。
それから影人はこれ以上会話をするのは回復の妨げになるため、ベッドで横になるとまた眠り始めた。
「カゲ君……さっきの私を置いて行かないって言葉、約束ですよ。破ったら許さないんですからね……」
こころは大好きな父親が亡くなった時のあの悲しさを覚えていたからこそ、影人には同じようになってほしくない気持ちでいっぱいになる。
「今は休んでください……カゲ君が元気になったら、また一緒に頑張りましょう」
こころはそう呟いて影人の頬にそっとキスをして立ち上がる。流石に唇にキスをするとお互いに経口感染のリスクが高いので避けたのだが、心の中にある影人への気持ちはまた一段と強くなる事になるのだった。
その後こころは影人の無事を確認できた事から家に戻って選挙のための準備を進める事に。
「お義姉ちゃん……お兄ちゃんの事が心配だったんだね。……ありがと、お兄ちゃんのお見舞いに来てくれて」
そして、帰っていくこころを見送った夢乃はアイドルプリキュアとしてダークランダーと戦った事や選挙準備で疲れているのにわざわざ影人を心配して来てくれた事に感謝の気持ちを呟くのだった。
一方で、サウンドプロダクションの社長室。そこではダークランダーの中から助け出されて寝ていたハジメが目を覚ます。
「ッ……ここは」
「父さん、やっと起きてくれた」
「レイ、私は……」
ハジメはレイが近くにいる事に驚いたような様子を見せるが、少しして自分はダークランダーから助け出されたのだと自覚する。
「……そうか。アイドルプリキュアに救われたのか」
「ああ。……本当に心配したよ」
ハジメはレイが自分の事を心配してくれた事に驚いたような顔つきを見せたものの、すぐに普段通りの冷静な顔つきに戻った。
「……父さん、話があるんだ。良いかな?」
そんな時、レイは覚悟を決めるとハジメへと話しかける。それは、2人が仲直りするためのキッカケを作るための物だった。
また次回もお楽しみに。