キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
ダークランダーを浄化した後にこころが家に帰る前に立ち寄った黒霧家で影人の無事を確認すると安堵の声を上げていた頃。サウンドプロダクションの社長室でも動きがあり、そこでは気を失っていた社長のハジメが目を覚ました所だった。
そして、そこで自分がダークランダーにされていたのを自覚。そんな時、レイがハジメに話しかけると彼と向き合う意思を示す事になる。
「私に話というのは何かな?」
「……俺の母さんが死んだあの頃。父さんと母さんが頻繁に喧嘩していただろ?あの時の事を知りたいんだ」
ハジメはそれを聞いて少しだけ目を細める。それは彼の迷いを示しているのか、少しだけ無言の時間ができた。
「何故、今になってその中を聞こうとする。レイは私の事が嫌いなんだろう?」
「……嫌いだよ。だってあの時から俺は家族の時間を大事にしたかったから。それを壊してしまった父さんの事は嫌いだ」
「ッ……ならそれで良いんじゃないのかい?今まで通り、何も変わらない今の関係のままで……」
ハジメはレイが自分に敵対心を抱いている現状は結局変わっていないという点を指摘すると話を終わらせようとする。だが、レイはそんなハジメからの言葉を聞いても躊躇う事なく反論した。
「いや……だから俺は知りたい。父さんと母さんが喧嘩をするようになった原因を。父さんが仕事にばかり勤しむようになった本当の理由を」
「………」
ハジメはレイからの問いに対してどう話すべきか迷う。彼としてはあまり言いたい事では無いようで。可能な限り言いたく無さそうとも取れる様子だった。
「どうしてだ、今まで散々私が悪いと断じて忌み嫌っていたはずなのに。私は経営者としてはそれなりにできるのかもしれないが、親としては最低なんだぞ」
「だからだよ。俺はずっと何も知らなかった。聞いて理解しようとすらしなかったんだ。それじゃあもうダメなんだよ。俺は父さんの口から直接本当の話を聞かないといけないんだ」
レイの真っ直ぐな眼差しがハジメを見つめるとハジメはそんな息子の決意を聞いて溜め息を吐く。
「……わかった。思えば、ずっと隠してきた私にも問題はある。今日は仕事を早く終えるつもりだからその話は家でしよう」
「わかった」
流石に過去の事という大事な話をここでするわけにはいかない。そのため、ハジメは一旦ここでの会話を先送りにして家でじっくりと話す事にした。
それからまた時間が経ち、日も落ちてすっかり暗くなった後。音崎家でご飯を食べてゆっくりできる時間になったタイミングでハジメは改めて話を切り出す。
「それで、レイは私と母さん喧嘩していた本当の原因を知りたいと言ったね?」
「ああ。そして俺はそれが父さんが仕事の方にばかり気を取られる事になった最大の理由だと思ってる」
「ふむ……」
レイの予想としては2人が喧嘩を始めた一番最初の原因はレイにバスケを辞めさせる判断をするよりも前だと考えていた。そして、その予想が当たる事を示すようにハジメはレイの予想に肯定する事から話を始める。
「まず最初に、レイの予想は合っている。私が仕事にばかり目を向けるようになったという元凶はお前にバスケを辞めさせる事を決定する少し前だ」
「ッ、やっぱり何かあったんだな」
ハジメはレイからの問いに頷くと当時の事を思い出す。それはレイに隠れて両親2人が喧嘩をするようになる更に少し前の事だ。
〜回想 数年前〜
数年前、サウンドプロダクションは立ち上げから10年程が経過してそれなりに規模が大きくなっていた。ただ、この段階では所属していた声優等の芸能人の中で大成功を収めた者は初期にこの事務所からデビューした茅原愛衣程度でまだ世間的にはそこまで有名とは言えず。
経営状況もそこまで潤っているわけでは無かった。それでも当時のハジメは時間を重ねて成長していけばいつか大きな事務所になる事ができる。そう信じ、頑張っていたのだ。
「ふぅ……やはり資金面はやや赤字か。ここ最近は大当たりと呼べる子がいない。茅原君も事務所を移籍して大手に移ってしまったし、そろそろ2人目、3人目が欲しいところだ」
また、茅原愛衣も彼女が有名になり仕事の拡大に伴ってとうとう事務所を移籍。それでも元いた事務所に恩義を持ってるからか。移籍の際に移籍先の事務所と交渉して偶に講師として行っていいという条件も付けていた。
「……このままではレイや凛に迷惑をかけてしまう」
とはいえ、中々上手くいかない現状に焦っている所はあったのだろう。彼はその日の夕方、事務所を早めに出ると自分が昔通っていた道場に到着。
そこで道場に通う他の人と一緒に組み手をしていた。恐らく、ハジメがダークランダーになった際に格闘戦特化タイプになったのはこういう事情もあるからだろう。
その後、彼は帰宅するとレイが寝た後だったために妻である凛とここ最近の事で話をしていた。
「凛には色々迷惑をかけてすまないな」
「大丈夫よ。私もハジメが頑張ってるのはちゃんと見てるから。……もしさ、どうしても事務所が上手くいかなかったら諦めて他のことをやるのも一つの手だし」
「……そうだな」
ハジメは複雑そうな顔つきを見せつつ凛に答えを返す事になる。それから日が開けた翌日。ハジメが事務所に入ろうとすると彼に声をかける者がいた。
「ハジメさん」
「ッ、あなたは……」
「おいおい、まさかと思うけど忘れたなんて言わせねぇぞ?」
そこにいたのは強面の顔つきでスーツ姿。しかも後ろには4人程の部下を連れており、その高圧的な様子からハジメの弱味を握っている者だというのは想像に難くなかった。
「しっかり覚えてますよ。……郷田さん」
「ふっ、よく言えました」
そこにいたのは郷田と呼ばれた男であり、彼は資金に困ったものにお金を貸す組織のリーダーで所謂債権者である。
ハジメは当初、事務所を立ち上げる際のお金を借りた。その分は茅原が売れたことでしっかりと返済。それで帳消しになったわけなのだが、その茅原の離脱が原因で資金面に不安ができた影響でもう一度借りる事になってしまった。郷田が指摘しているのはその分のお金である。
「あなたが何故このタイミングで?支払いのタイミングは守って返しているじゃないですか」
「ああ、確かに分割払いとはいえ今日この日までアンタはしっかりと借りた分の金を返してるな。……けどよぉ。ある筋からの話によるとお前の所の事務所。少しずつ資金面で苦しくなってるんだってなぁ?」
どうやら、彼はどこかしらのルートでサウンドプロダクションの経営が悪化しつつあるという話を掴んだらしく。借りた分のお金を返せない可能性について考えて念押しをしに来たようだ。
「……あなたの手元にそのような物的証拠は無いはずですけど。それに、今の時点で契約時に取り決めた分のお金を返していないなら兎も角……毎月の分は支払いをしている。あまり口出ししないでもらいたいのだが」
「確かにその通りだ。だから今回はちょっと様子を見に来ただけ、まぁ。せいぜい返せなくなる事態にだけはならないでおくれよ?」
そう言って不気味な笑みを浮かべて郷田は去っていく。ハジメはその様子を見て僅かに違和感を感じた。
それから更に数日後。ハジメはパソコンのとある画面に釘付けになっていた。
「ッ……何だ。これは……」
そこにあったのはサウンドプロダクションを運営するために用意してあった資金が不自然な減り方をしている様子であり、彼は困惑したような顔になる。
「どういう事だ、私の予想よりも遥かに早い減り方。というより、どこからか金が漏れている?」
ハジメはその信じ難い光景に思わず唖然としていた。そもそも事務所の運営資金に手を出せる者など極々僅かであり、その管理も殆どハジメ自身が行っていた。
それなのにここまで減っているという事はとある可能性が頭の中に浮かんでくる。
「まさか、誰かが勝手に金を盗んでいるのか?」
ハジメは会社の中の誰かが不当に金を下ろして盗み出していると考えると急いでそれを調べ始めた。勿論、こんな事誰かに相談すれば盗みを働いている本人にも伝わる期間がある。
なのでハジメはたった1人でその犯人探しをせざるを得なかった。そして、経営資金の中には当然ながら郷田へと返すお金も含まれている。そのため、この現状が長引くと事務所その物が潰れる危険性も存在していた。
「最短かつ迅速に見つけて金の流れ先を見つけ出す」
この頃からハジメの瞳から光が消え始めると他人を信用しなくなってしまう。同時に家に帰っても冷たい対応を見せるようになっていた。
そして、勝手に金を下ろして盗み出した犯人は割とあっさり見つかる事に。……しかし、ハジメはその犯人を見て思わず疑いたくなってしまう。
「何故だ……何故お前が……」
その犯人というのはハジメが最も信頼し、側に置いていたはずの自身の秘書だった。その後、証拠を揃えた上で秘書を呼びつけて問い詰めると彼は更に信じられない事を言い出す。
「ッ……ぷっ、あははははっ!お前、おめでたいなぁ!俺が何の打算も無しにこんな事やるとか思ってんの?今頃俺が流した金はぜ〜んぶ郷田さんが受け取ってる!つ・ま・り、俺の後ろにはアンタに金を貸している郷田さんが絡んでいるわけ」
ハジメは秘書の男のあまりの狂いっぷりに困惑した顔を浮かべる。どうやら、彼は郷田の差金でサウンドプロダクションの経営資金を奪っていたという事だ。
「ッ……」
「あーあ、折角お金を借りたのにそれ以上に取られて可哀想だねぇ?」
勝ち誇り、煽るような口調で話す秘書に対してハジメは怒りを噛み殺しつつ彼を睨みつける形であくまで冷静に話す。
「……この事は警察に相談させてもらう。それから……」
「おっとぉ、そんな事やって良いのかなぁ?俺の後ろには郷田さんがいるのを忘れんなよ〜」
このようにハジメは冷静に男に対処しようとするが、秘書の男はハジメが郷田から金を借りている立場でいる以上自分に手を出せば郷田がハジメに何をするかわからないという言い回しをする事で圧をかけた。
要するに自分の行動を見逃せというわけである。当然ながら見逃せば更にお金は盗られるだろうし、彼も郷田からその一部を貰っているわけで。
そうなると当然見過ごすわけにはいかない。ハジメはそれから少しだけ考えると溜め息を吐いた。
「……はぁ。なるほど、君の考えはよくわかった」
「へぇ。俺を見逃す気になったって事かぁ。ま、当然の流れだろうなぁ?これで俺は大々的に利益を挙げられるってわけだ。この際、この事務所を丸ごと乗っ取ってやってやるのも……」
秘書の男がハジメの言った言葉を降伏宣言として勝手に受け取ると今後の事を語り始める。しかし、ハジメとしてはこの裏切り者の秘書も。そして彼を唆して卑劣な金儲けを企んだ金貸し、郷田の事も許すつもりはなく。明らかに殺気の困った瞳で全面戦争を告げる。
「君のような者を……いや。会社経営をする上で他人を信じた私が愚かだったよ。そして、このような卑劣な手を使い利益を出そうとする郷田。私は彼も許さない……改めて宣言する。必ずお前達の事は潰す」
「はいはいはい。つまりアンタは俺や郷田さんの敵って事かぁ。じゃあ、あなたはもう全部を失うのを確定っつー事で。今まで社長としてのお勤めご苦労様でしたぁ〜っ!」
ハジメの宣言に対して秘書の男は郷田を後ろ盾にして勝ったつもりになったのか。未だにハジメを煽るとそのまま部屋を出ていく。
しかしこの時、愚かな彼や郷田は気が付かなかった。彼の言動はハジメという化け物の逆鱗に触れてしまった事を。
「……もう誰も信じない。この会社の事も、家族の事も……全て私1人で守る。そのための障害物は全て壊そう……。邪魔をする者は、例え家族だったとしても容赦はしない」
同時にハジメの瞳は完全に闇色に染まってしまう。こうして、ハジメの逆襲は開始されるのだった。
それから暫くして手始めにハジメは経営資金を卑劣なやり方で奪い取ろうとした秘書と郷田の事を裁判の場に引き摺り込んだ。
「そのような事、身に覚えがありません!」
「私はハジメさんに金を貸してる立場ですよ?このような事、やる必要性が無いじゃないですか」
当然の如く2人はシラを切って乗り切ろうとした。……しかし、ハジメは裁判を始める時点で2人が犯した罪の数々とその証拠を揃えており。
更に郷田に関しては彼がやっていた余罪も全て晒しあげた。これにより、秘書も郷田も罪を問われると完全にハジメによって纏めて捩じ伏せられてしまう。
「く、クソォ……この俺は債権者だぞ。金を払ってないのはコイツの方で」
「私は契約書の通りに借りた金を返し続けている。それも受け取っておきながらそう言うのは感心しないね」
ハジメはこの期に及んで抵抗しようとする郷田を完膚なきまでに叩き潰し、彼の金の集め方が違法である事も追求して完封。
その後、判決が下ると郷田とハジメを裏切った秘書は仲良く刑務所行きに。しかし、この事件がキッカケでハジメは変わってしまった。
手始めにハジメは経営のために必要な権限を他者から全て取り上げワンマン体制にする事を宣言。
そこからは彼自身の能力の高さや卓越した会話術で相手の思考を誘導。自らの望むレールに相手を押し込む戦い方を確立。
しかし、彼の行ったワンマンかつ強引な経営は同時に様々な場所で軋轢を生んでしまう。こうして、自らの妻とも対立してその喧嘩の果てに彼女を失ったハジメ。
その一件から息子のレイからも完全に見放され、敵対されてしまう。そのような経緯の事件があってから数年の時が経ち、レイとハジメはこうしてようやく家族としての対話をすることになるのだった。
また次回もお楽しみに。