キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
ハジメの過去、そしてハジメが他人の意見を聞く事無く自分1人で突っ走る経緯が彼の口から明かされた。そして、レイはそれを聞き終えると思わず絶句してしまう。
「……これがあの時私の周りで起きた事だ」
「ッ……そっか、父さんがワンマンをするようになったのって会社を……母さんや俺を守るために」
「……だが、今になって思えば……自分の家族まで信じなくなってしまったのは私の落ち度だった」
一連の話を終えたハジメは家の一角に飾られている亡き妻の凛や幼いレイとの写真を見ると彼女が生きていた頃を思い出す。
「父さんはどうして俺達にその話を言ってくれなかったんだ?」
「……言った所で母さんやレイにはどうする事もできないからだよ。当時の2人はサウンドプロダクションで働いているわけでも無ければ郷田からの借金の事も知らなかっただろう?」
ハジメは郷田の事に関して、レイや凛には全くもって明かしていなかった。もし仮に知っていたとしても2人にはどうする事もできなかった上に余計な心配をかけてしまうという判断を下していたのだろう。
「だが、結果的に父さんは判断を誤った。信じるべき相手である凛の事まで裏切ってしまったんだ」
「母さんは父さんの事を信じていたの?」
「……一応はな。でも、私が最初から最後まで一貫して話さなかったから不安は与えてしまっていただろう。その度に喧嘩に発展していたからな」
「そっか」
レイはやっと腑に落ちた気がした。ハジメがワンマンをやらざるを得なかった理由。そしてそれを他人に話さなかった理由。……やり方を間違ったとはいえ、今回の件は彼もまた家族を心配した上での行動だったのだ。
「……レイ、今回の事を話したとして。私が凛やレイの事を信じずに1人で突っ走ってしまったというのは変わらない事実だ。それに、レイには深い心を傷を与えてしまった。……済まない」
ハジメはレイの方をしっかりと見ながら頭を下げると彼に向かって謝罪した。勿論、今回の謝罪は変な計算など一切無しの誠心誠意の謝罪である。レイはそれを受けてすぐに怒る気にはなれなかった。
「父さん、顔を上げてくれ……。俺だって何も知らないのにあそこまで怒ってしまってごめんなさい」
レイには自分が何も知らずにハジメを一方的な悪に仕立ててずっと憎んできた所がある。だからハジメの事をこれ以上責めるに責められなかったのだ。
「……それに、母さんもこの事を知ったらきっと父さんに寄り添ってくれると思うよ」
「そうだな」
ハジメはそれを聞いて小さく頷く。彼もまた、凛の事はよくわかっているつもりだ。亡くなる少し前は喧嘩する事が多かったものの……それは自分の事を心配しての言葉が多かった事も。
「レイ、今更こんな事を聞くのも違う気がするが。……レイは、私の跡を継ぐつもりはあるか?」
「それって、どういう」
「今までずっとレイは私が無理にやらせた教育のせいでその時間の少なからずを奪ってきた。しかも、レイの意思に反してだ」
ハジメはちゃんと話し合えるようになった今だからこそ、レイの本当の気持ちを聞きたかった。もし自分の後を継ぐつもりが無いのに無理矢理付き合わせてしまっているのなら、それはレイのためにならない。この事をずっと言い出せなかったのは、母の死が原因でレイとの関係が壊れて後に引き返せなくなったからだろう。
もしそれでバスケを辞めさせる決定を覆せば……今度は自分の面子を潰してしまうと思ったからだ。
「もしレイが私の跡を継ぐ気が無いのなら今度こそそれを尊重したい。だから……」
「はぁ……。父さん、俺は今更バスケ選手を目指す気は無いよ。その事に関してはとっくに気持ちを切り替えたし」
レイはそんなハジメからの問いに対し、割と今更感があると思っていた。何しろ、バスケを辞めてから既に1年半。その気になればプロのバスケ選手を目指す事も可能だろう。
しかし、今のレイの目標はバスケ選手では無い。そして、それを示すように彼はハジメを見た。
「だが、レイなら他にも色々……」
「止めてくれ、父さん。俺はこうやって父さんの跡を継ぐための教育も楽しんでる節があるんだ。じゃなかったら今の時代、とっくに児童相談所にでも訴えを起こしてるって」
レイはハジメの心配を他所に事務所を継ぐつもりであり、その事に前向きな顔つきを見せる。勿論ハジメには無理矢理付き合わせた後ろめたさはあるし、レイが嫌がるのならこの教育も終わらせるつもりだった。
「父さんにはさ。父さんが作ったこのサウンドプロダクションが俺の手で大きくなるのを見ていてほしいんだ。だから俺は父さんの跡を継ぐためにこれからも頑張るよ」
「レイ、私に付き合わせる事になって本当に……」
「だから、俺の意思でやりたいんだって。だからもうそうやって謝るのもやめてくれ」
レイは尚も謝ろうとするハジメに対して改めて会社を継ぐという気持ちは自分の本心だと告げる。
「それに、俺がバスケを辞めさせられた当時と違って今はこうやって父さんの作った会社で色々学ぶのは楽しいんだ。学校の友達とも現状上手くやれてる。だからそんなに気に病まなくても大丈夫だ」
レイはあくまで今の現状で満足している事を話すとこれが自分のやりたい事としてこれからも進めるつもりだった。
ただ、ハジメの方はレイの母親が亡くなってしまう一因を作った事もあって彼がただ許しただけでは納得がいかない。
「だが、本当にそれで終わりで良いのか?せめて、何か……」
「だったらさ……今度2人で外で食事しに行こう。ほら、仕事で取引先の人とかに対して接待の食事とかはあったけどここ最近家族団欒の時間としての食事とかは行けてないし」
それを聞いてハジメはふと思い出す。自分が信頼していた秘書に裏切られて会社の経営体制をワンマンに移行してからずっと家族で食べに行く食事をした事が無いという事を。
そして、レイが取り戻したかった物というのはこのような普通の家族なら当たり前にやっている家族団欒の時間だった。そのため、ハジメは優しく微笑むとレイの頼みを受け入れる事になる。
「わかった。近いうち、いや。今年中に必ず一度は行こうか」
「ああ、楽しみにしてる」
ハジメは近いうちという曖昧な言い回しから今年中という明確な期限を設けた日付に言い直すと絶対に今年の内……1〜2ヶ月以内に食べに行くという事を宣言。
こうして、2人の間にできてしまっていた深い溝は数年の時を経て修復される事になった。勿論ここに母親の凛がいれば良かったのだが、もう過ぎてしまった事は仕方がない。ただ、レイとしては悲願だった父親との関係性を取り戻す事ができただけでも御の字と言った所だろう。
それから二日後。日付は月曜日となったために学校に通うレイ。その顔つきは普段以上に嬉しそうだった。
「あ、レイ君おはよう」
「おっはよー!」
「おはよう、なな。咲良さん」
レイは登校中にうたやななと合流すると2人と共に歩く。勿論プリルンとメロロンはポシェットの中に2人纏まって入っていた。
「おはようプリ!」
「おはようなのメロ」
「えっと、影人とこころは……いつものか」
今現在、ここには影人とこころの2人はいない。勿論彼等がやっているのはここ最近継続している選挙活動だ。影人も日曜日には高熱も下がって無事に復活したというのもあって今日からまた2人で選挙活動である。
何しろ、あと数日で選挙の当日。選挙活動もラストスパートに入ったという事だ。
「2人共頑張ってるよね。特に影人君は」
「そうだよな。絶対にこころを勝たせるって意思が明確にあるし、それにアイツ。つい昨日高熱が治ったばかりで体力とか十分じゃないはずなのに昨日も今日もこころを手伝って」
「でも、あんまり無理はし過ぎないでほしいのメロ」
影人は病み上がりなのにも関わらず、選挙のラストスパートだからと言って早速こころを手伝い始めている。勿論こころが様子を見て危険なら絶対に休む事を前提としてはいるが……その頑張りようは並大抵の事ではできない。
「だったら、私達も2人の事を手伝おうよ!」
「賛成プリ!2人が勝つ事は私達にとっても大事な事プリ!」
そして、そんな影人達に触発されたうたやプリルンは今からでも自分達も選挙活動を手伝うべきだと提案。当然なな達もこれには賛成だった。
「うん!私も同じ事思ってた!」
「メロロンもメロ!」
「レイ君は?」
「勿論手伝うさ」
「それじゃあ全員賛成って事で早く学校に入ろう!」
こうしてうた達は学校で選挙活動に勤しむ影人達を助けるため、まずは学校に到着するべく動き出す事になる。
同時刻、その影人とこころは選挙活動をしていた。勿論今回はこころが家で考えてきた公約に関しても色々と提示しつつ呼びかけている。
「生徒会長候補の1年A組、紫雨こころです!私は心キュンキュンする学校にするため、当選した場合次の公約を実行しようと思います!」
こころが自分の公約を熱弁していると影人はそんなこころをサポートするために公約を文章化して記載したチラシを配っていく。
「生徒会長候補の紫雨こころさんに、清き一票を!」
そんな風に影人とこころが2人で選挙活動を進めているとそこにこころの対抗馬である甲斐がやってきた。
「おはようございます、黒霧さん」
「甲斐さん、おはよう。選挙活動は良いのか?」
「心配しなくてもこれからする所ですわよ。……それにしても、公約も作ってきたんですわね」
どうやら甲斐は先程からこころの話している公約やらが気になっている様子だった。
「ああ。甲斐さんも“50のお約束”って形で選挙活動をしてるんだろ?対抗するにはこっちも考えないといけないからな。俺とこころで色々話してきたんだ」
「そうなんですね……。中身を見てもよろしいでしょうか?」
「勿論、公約だし対抗馬の人でも見るだけなら別に構わないよ」
「ッ……」
そんな中、甲斐は僅かに動揺したような顔を見せる。そこにあったのは活動の柱となる心キュンキュンな学校の概要説明と言える項目が3つとそれに伴う細かい公約は更にその下に10個程書かれていた。
「随分と少なめなんですわね」
甲斐は公約に表記されてる項目の少なさを指摘。だが、それこそが影人の狙いだった。
「確かに甲斐さんの50項目に比べると少ないかもしれない。だけど、項目を10個に絞りつつも甲斐さんのと比べて一つ一つを深掘りした内容にしてる」
「えっ?」
それから甲斐は慌てて見るとそこには甲斐もお約束として掲げていた物がそれよりも中身が具体的かつ現実的な物になっていた。
「こっちも50項目にしていたら甲斐さんと何にも変わらないし、それじゃあ今の時点で人気を得ている甲斐さんが有利なのは明らか。だから俺達は項目をわざと減らしてその分中身をもっと深くしてるんだ」
「なるほど、量よりも質。私とは真逆の方向性で来ましたか」
影人とこころや話し合いの中で生徒会長候補の甲斐を相手に勝利するためには彼女の出した公約との差別点を明確にしつつ、尚且つこの学校の進む先を示さないといけない。
だからこそ、影人達はこころの言う心キュンキュンを言語化して他の人に伝わりやすくするようにした上でそれに沿うような政策を打ち出したのである。
「(それにしても、紫雨さん。二日前の時点ではあれほど悩んでいたはず。何でこんな急に……あっ!)」
甲斐は先週にこころと一年生の教室で話した際、彼女は甲斐程には学校のためを思った行動ができないと呟いていた。しかし、この二日間で学校のためになるような公約を。
しかも実現するのが比較的やりやすい物を揃えてきた事が彼女としては不思議だった。
「もしかして、紫雨さんに色々とアドバイスしてるのって」
「ああ、これでもこころの応援者兼サポーターだからな」
「そういう事だったんですわね」
影人の説明を受けて甲斐は納得した顔になると改めてこころの方を一度向きつつ影人に問いかけた。
「……それにしても、それだけできるのならもういっそあなたが生徒会長に立候補するべきだったんじゃないんですか?」
「いや……。俺には正直、こころぐらいの熱量でやるのは無理だ。勿論甲斐さんと同じくらいも無理。そのくらい、こころはこの二日間で色々学校のための公約とか色々考えるために努力してたんだよ」
厳密には影人は土曜日寝込んでいたので日曜日しか参加できてないが、その時点でこころは公約の原案は考えており。そこから日曜日で修正と加筆を行ったのである。
「だから、研究会の事は一旦別として。出来ればこころの頑張りの事は認めてあげてほしいかな」
「ッ……」
甲斐は生徒会長になるための最初の動機はさておくとして。こころの頑張りと彼女が学校のために頑張る姿は素直に認めざるを得なかった。そして、こころが何故あそこまで活き活きと輝いているのか……その理由を影人を見て何となく理解する。
「……もしかして、これが……紫雨さんの言う」
「甲斐さん?」
「い、いえ……何でもありませんわ」
それから甲斐はこころの元に歩いていくとこころはそれに気がついて声をかける。
「ちよ先輩、どうしたんですか?」
「紫雨さん。あなたの学校を想う気持ち、私にも伝わりましたわ。……ですが、だからこそ尚更負けるわけにはいきません。改めてですが、この勝負。絶対に勝たせていただきますわ」
「ッ!……では私も改めて。その勝負、受けて立ちます!」
こうして、改めてお互いがライバルとしてぶつかり合う事を確認した両者。選挙活動も終盤に入り、生徒会長の椅子を賭けた戦いは白熱する事になる。
また次回もお楽しみに。