キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
うたがカイトからライブのチケットのお裾分けをされ、夜の尋問回が終わった後の深夜帯。チョッキリ団のアジトではジョギが丁度考えを纏め終わっていた。
「……プランとしてはこれで良いかな。カイトの大切なライブ……ぶっ壊してスッキリさせてもらおう」
「どうやら明日はジョギが行くようね」
するとそんな彼の元に現れたのはスラッシューである。その顔つきは少し不安そうな物だった。
「どうしたんすか。そんなに不安そうな顔になって」
「ッ……。別に、あなたの事よ。アイドルプリキュアに勝てるだけの用意はしてると信頼してるわ。……ただ、あなたは昔の仲間に対して結構ドライなんだなと思っただけよ」
スラッシューはここまでアイドルプリキュアとぶつかる際に訴えているように、心の奥底ではかつての相棒であるUtakoの事を大切に想っている。
だからこそUtakoを殺した自責の念に駆られているし、Utakoの努力を馬鹿にしてると思った相手には容赦無く攻撃ができるわけで。
「ぷっ……あははっ!確かにあなたから見ればそう思うでしょうね?でも、俺はあなたみたいな部下や仲間に甘い上司とは違うんですよ」
「ッ……ジョギ」
するとスラッシューはいきなり上司の自分に対して反抗的な態度を見せたジョギに困惑したような顔を向ける。
「それと、スラッシューは僕の事を完全に部下として見てるけどさ。……アンタの部下でいるのもそろそろ飽きてきたんだよね」
「それは……私が度々心を乱してるからなの?」
「あー、流石にそこは察しが良い。……僕もね、あなたがそういう状態になる度にケアしてるのもうんざりなんですよ。その点で見ればチョッキリーヌ先輩の方がまだマシだったっすね」
どうやらジョギも今の現状に不満を抱いているようであり、特にここ最近ずっと精神的な不安定化が収まらないスラッシューの相手をするのも飽き飽きしていたらしい。
「私は上司としてもダメな奴だった……そういう事ね」
「そういう事。……それと何を勘違いしてるかは知らないけど、スラッシュー様が今の力を使えているのは僕が色々してるからなんですよ?ただの上司と部下だと思って接していたのだとしたら……傲慢極まりないね」
ジョギはスラッシューを追い詰めるかのようにそう告げるとスラッシューは悔しさに唇を噛み締める。
「さてと、種明かしも済んだ所で今回の戦いで僕が結果を残したらあなたとチョッキリ先輩を部下として使えるようにダークイーネ様にかけ合うのもありかな」
「なっ!?」
「だって今の現状を見たらそう思わないっすか?僕に面倒を見てもらわないとまともに戦えない人と、大事な部下を3人も失った無能な先輩。僕があなた達2人を使った方がどう考えても良いでしょ」
スラッシューはそんなジョギの数々の衝撃的な言葉に心が抉られているのか、動揺を露わにする。
「ッ、違う。……そんなはず、そんなはずは……」
「ふふっ、この程度の揺さぶりで動揺しているようじゃね。ま、ダークイーネ様にかけ合うのは実際にアイドルプリキュアを倒すまで待ってあげるよ。せいぜい、それまでの天下に浸れば良いさ」
そう言ってジョギはその場から去っていく。恐らく、夜が明けたら街中でダークランダーの素体を探すのだろう。スラッシューはジョギの裏切りに等しい行為に頭を抱えて崩れ落ちてしまっていた。
「どうして……私は、私は、何を間違えたの……?」
スラッシューは自分が上司として何が足りなかったのかを必死に考えるが、やはり動揺しているのもあって考えは上手く纏まらない。
それでもこのままジョギがアイドルプリキュアを倒してしまえばそのまま自分とチョッキリーヌは彼の支配下に入るようにダークイーネから言われるだろう。
こうして、スラッシューは部下から実質的に裏切られた事で大きな精神的なダメージを受けてしまう。そして、折角ある程度戻ってきたメンタルもまたボロボロになってしまうのだった。
それから半日程の時間が経い、響カイトの全国ライブツアーのファイナル公演の当日。今はお昼を過ぎて空がオレンジ色に染まり始める夕方であった。
会場の周辺にはレジェンドアイドルである響カイトの歌声を聴きに全国各地から集まった彼のファン……カイ友で溢れかえっている。彼等は熾烈を極めたチケット争奪戦の勝者達であり、会場に入れるその時を今か今かと待ち侘びていた。
「わぁ……凄い人」
「少なくともこの会場を埋め尽くせるだけの人数はいるからな。もう少しで入場できるようになるし、チケットもそれぞれで持っておこう」
「オッケー!じゃあチケットを配るね」
うたは影人に促される形でチケットを影人達に配ると全員がチケットを1枚ずつ持つ。そして、プリメロは勿論うたが襷掛けにしているポシェットに詰められていた。
「それにしても、このチケットって本来なら幾らくらいかかるんでしょうか」
「うーん。席にもよるけど、少なくとも1万は超えてるだろうな」
「……へ?」
「い、1万!?」
レイがしれっとライブチケットの値段が1万円を超えていると言い出したためにうた、なな、こころは思わず唖然としてしまう。つまり、このチケットを5枚買うだけで本来なら5〜6万……いや。響カイトというアイドルとしてのブランドを考えた場合、下手したらもっと上だろう。
そして、バイトができない中学生にとって1万円という金額は大金だ。何なら、普段の生活や友達付き合い。自分の欲しい物でちょくちょく消費するので中々溜めているという人はいないだろう。
「ま、まさか私ってカイトさんからとんでもない物を貰ってたんじゃ……」
「驚くにしては今更過ぎるだろ……」
影人は呆れたような顔つきでそう言うと溜め息を吐いてしまう。うたが貰ったチケットのお値段はさておき、影人達は本来なら来る事ができてないような場所に来ているという自覚をすると丁度そのタイミングで入場可能時間になった。
「あ、列が動き出した」
「どうやら入場時間になったみたいだな」
列が少しずつ動くのを影人達は見ながら5人はドームの中に入っていく。それから自分達の席に行くとそこに座りながら応援のための団扇を出したりしていた。
「わぁ……良い眺め」
「改めてだけど、特等席だな」
影人達のいる場所の正面にはステージが広がっており、丁度スタンド席の最前列のためにそこを上から覗き込めるような形になっていた。
そして、当然ながら最前列かつスタンド席という少し高い場所に座っているため、影人達の視界に他の誰かは存在しない。つまり、ステージの上にカイトが来た際によく見えるのだ。
「先輩方、こちらをどうぞ」
「わぁ!こころ、作ってきたんだ!」
「勿論ですよ。これからの将来、いつかカイトさんを応援する時が来ると思って先取りして作ってました!」
それは、こころが予め作っておいたカイトを応援するための団扇でありその用意の良さに影人達は驚かされる事になる。
「こころちゃん、用意良すぎ……」
「流石、こころはこういう時の準備が良いな」
それからうた、なな、こころの3人はカイトの名前が1文字ずつ入った団扇を持ち、手にはペンライトも持って準備を整える。
「メロ……!」
「こんなにいっぱいの人が集まるなんて凄いプリ!」
プリルンやメロロンが周囲にいる沢山の人を見て思わず圧倒される。その大勢の人々が会場の席に座る形で埋め尽くしているのだ。しかも彼等の熱量もあって11月末で尚且つ夕方である事による寒さを少し感じられるような時期なのにも関わらず、体感温度的には少し暑いと感じてしまえる程だった。
同時刻、場面が変わってこのドームの管内でメディアの人達が集う場所。そこには1人の女性記者がやる気満々な様子でいた。すると彼女は受付の人に早速自分の持っている名刺を手渡す。
「エンタメブンブンの貴島つむぐです!今日のライブ、目一杯取材させてもらいます!ブンブン、ブーン!」
彼女は前にズキューンキッスの正体を探り、影人達と行動を共にした貴島である。
更に場面が変わって会場の外。そこには既に観客に紛れた状態でジョギが到着しており、彼は完全にこの会場を狙っていた。
「あーあ、結局ここまでプリキュアをどうにかできそうな闇の持ち主はいなかったな」
ジョギはこんな時に限って有用そうな闇を発する者がいなかった事に多少焦っていた。とはいえ、本命はここからだ。このライブ会場には多数の人が集まるそこには自分の望む闇を持つ人間がいるはずだと読んでいたのだ。
「できればライブが始まる前にダークランダーに暴れさせたいけど……」
ジョギがどうにかしてダークランダーの素体となり得る者を見つけたかった。すると、そのライブ会場に着いて決行の時がいよいよに迫ったからか。彼の脳裏にキュアアイドルからの言葉が浮かび上がってくる。
“カイトさんはあなたとの絆をとても大事に思ってる!!”
「ッ!?なんでこんないきなり……」
ジョギは困惑したような顔を浮かべるとそれを振り切って闇を探すのを再開しようとする。しかし、その度に脳裏に浮かんでくるのはアイドルプリキュアからかけられる言葉の数々だった。
そのため、ジョギはダークランダー召喚のための闇探しに集中できなくなってしまう。
「くっ……俺の邪魔ばかりしてくれて……。俺は、俺はこんな言葉に惑わされるわけにはいかないんだ」
ただ、ジョギの集中力は目に見えて低下している。まだ周囲の人々に見える程にはなってないが、それでも集中力が削がれるというだけでも彼にとっては十分に厄介である。
そんな時、ジョギは自分の影から鋭い視線を向けられたような感覚がすると急いで人気の少ない場所に行く。
「……ダークイーネ様」
『ジョギ、あれだけスラッシュー相手に背信行為を行っておきながら何をしている?』
その瞬間、ジョギの影がダークイーネへと変化すると早速スラッシューへの勝手な背信行為を咎めた上でジョギの動きの鈍さを指摘する。
「ッ……何って。いつも通り、世界を真っ暗闇にしようとしてますよ」
『貴様の中に揺らぎが見えるな。スラッシューの事をあれだけ言っておきながら、アイドルプリキュアに絆されたのか?』
ダークイーネはまるでジョギの心の中の核心を突くように強い口調で彼の心の綻びを追求。ジョギはダークイーネには隠しても無駄だとばかりに軽く笑った。
「ははっ、何でもお見通しですね」
『妾は貴様の闇を見込んだ。その程度の説得、揺らぐような物でも無いだろう?』
「ええ、全くその通りっすよ。それはそうと。どうしてあんな腑抜けた女を側に置くのか。改めて聞いても良いっすか?」
『……貴様には関係の無い事だ。それと、チョッキリーヌは使っても構わないがスラッシューを貴様の下に入れてやるつもりは無い』
「あー、そのくらいスラッシューがあなたにとって必要な存在って事っすね」
『お喋りはここまでだ。妾の期待に応えよ、ジョギ』
ダークイーネは目を赤黒く光らせるとジョギは背筋が一瞬凍りつくような寒気を感じ取る。この様子だと彼にも後が無さそうな感じではあった。
「はい。あなたの望み通りにお見せしますよ。……強い光が闇に呑まれていく絶望を」
ジョギはそう言ってその場から移動。それから少しして、人々はどんどん少なくなっていく。どうやら、ライブのスタートの時間が迫っているらしい。
そんな時だった。ジョギはライブ会場に慌てた様子で1人の青年が走ってくるのを見つける。
「ん、アイツは……」
彼はカイ友の1人で今回のライブチケットを入手するのに成功した者だろう。そして、同時に会場からの歓声が響き渡ってきた。
「チッ、ライブが開演したか。……でも」
ジョギが舌打ちしてからそのカイ友の青年の方を向く。その青年は急いで入らないと不味いと考えると慌てて持ってきた鞄を下ろしてチケットを探そうとする。
「チケット、チケット……嘘!?チケットを忘れた……?」
しかし彼は焦っているせいなのか、どれだけ鞄の中を探してもチケットを見つける事ができず。このままでは会場に入る事すらできない。
「ああ……どうしよう!会場に入れなぁああい!」
電子チケットであればスマホを使って入る事ができるのだが、この様子だと彼は紙チケットにしているのだろう。なのでチケット本体が無いと会場入りする事は不可能だった。
「良い真っ暗闇……しかも、カイトのライブ会場に入れないおかげでその力は更に増してる」
苦労して争奪戦に勝利し、ようやく手にしたはずのチケットが紛失したことでそれにかけた手間とお金とここに来るまでの労力。更に推しのいる会場を目の前にして立ち止まらされるという四重構成の闇。
それが彼の闇を強大に膨らませるとジョギは当然のようにその闇を使う事にした。
「光の中にも闇がある。君の闇を……見せてごらん」
「うわぁあああっ!」
ジョギが指を鳴らすと同時に青年の胸から心の闇を現す漆黒のリボンが飛び出してしまう。
「綺麗だね……呑まれると良い」
すかさずジョギがそう告げると結ばれていたリボンは勝手に解かれてしまい、青年の体がリボンから発生した闇のエネルギーで包まれていく。それからジョギは赤い色の水晶を出すと二つを合わせて地面に叩きつける。
「さぁ、おいで!ダークランダー!」
「ダークランダー!」
これによりダークランダーが召喚。その姿は青年が身に付けていた応援法被をモチーフにしており、法被の首周りにはタオルをかけて手にはファンらしく巨大な団扇を持っている。
これにより、ライブ会場のすぐ近くにダークランダーが生まれると空が闇に包まれてしまうのだった。
また次回もお楽しみに。