キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
ダークランダーの襲撃こそあったものの、響カイトのライブが無事に終了。人々を笑顔にする事はできた。今はその翌日の日曜日の昼頃。
この日、喫茶グリッターでは一階の方では手伝いのうたやはもり。バイトの田中が働いている中、二階では珍しくななとレイの2人だけだった。
「なな、急にここに呼び出してどうしたんだ?今日はそれぞれ忙しいから遊ぶのは無理という話だっただろ」
「ふふっ、それはそうなんだけどね……。実は、レイ君に会わせたい人がいて」
ななは少し頬を赤くすると恥ずかしそうな様子を見せる。そして、彼女が手に持っているのが何故かタブレット端末であった事からレイは何となく誰なのかを察してしまった。
「あー、なるほど。そういう事か」
「うん、そういう事……」
ななも察してくれたのなら話は早くて良いとばかりに早速タブレット端末を起動。時間に合わせてビデオ通話をするとそこにはフランスにいるはずのななの母親……蒼風睦美がいた。
「もしもし」
『もしもし、ちゃんと繋がったわね。なな』
「うん、こっちもちゃんと見えてるよ」
早速ビデオ通話の回線の方を確認したななと睦美。するとレイが睦美へと挨拶をした。
「初めまして、蒼風睦美さん。俺は娘さんの彼氏の音崎レイです」
『私はななの母、蒼風睦美です。あなたがレイ君なのね。ななから連絡がある時はいつも聞いてるわ。まずはななと仲良くしてくれてありがとう』
睦美はレイの姿を見ると嬉しそうな顔を浮かべ、レイはそんな彼女に挨拶をする。
「いえいえ、こちらこそ忙しくて中々ご挨拶ができずすみません……」
『良いのよ、私がそういう話で何かを言える立場では無いわ。……それと、この間は私の都合で振り回してしまってごめんなさい』
「えっ?」
レイはいきなり睦美の方からの謝罪があった事に困惑したような顔を浮かべる。彼としてはお付き合いしてから既にそれなりに時間が経つのに挨拶が遅くなってしまった事が申し訳なかった。そのため、まさか睦美の方から謝ってくるとは思わなかったのである。
『レイ君も話は聞いたと思うけど、ななにフランスにいる事を薦めたのは私で。レイ君には色々と辛い思いをさせてしまった事で……』
「ッ、あの事ならもう大丈夫ですよ。ななが日本に残るのを決めてくれたので……」
ただ、そもそも睦美の方はレイという彼氏がななにいて。尚且つ2人の仲が良好なのを知りつつも自分の都合で2人を引き裂いてしまうような事を言ってしまった件に対する負い目があった。
『いいえ、それでも私はななと会えない寂しさもあってななとお付き合いしてくれているあなたやななの事を苦しめてしまった。本当にごめんなさい』
「そんな、顔を上げてください」
レイはどうすれば良いかわからずに困ってしまう。するとななが流石に耐え切れなくなったのか介入してきた。
「ママ、その辺にして。もう過ぎちゃった事だし、レイ君も許してはくれてるんだから。ね?」
「ああ。それに、睦美さんの提案が無くてもあの時の俺は俺自身の父親との件があってななと別れる事も視野に入れていました。それを救ってくれたのは日本に残留するのを決めてくれたななですから」
「……あれ?レイ君、別れるかもって話は初耳なんだけど……」
「え?あっ……」
レイは睦美のフォローをするためにななへと明かしてなかったハジメとの関係性の影響でのななとの別れの件についてをよりにもよって本人の前で話してしまった。
「レイ君、どういう事?ハジメさんとの件がどうにもならなかったら私と別れるつもりだったの?」
「ち、違……。今はもう解決してるから関係無い話で……」
「むぅ……。折角私が日本に残るのを決めるのに悩んだのに、レイ君はその時私との別れを視野に入れていたなんて。これは後でお仕置きだからね?」
ななは頬を膨らませると“プンプン”という効果音が鳴りそうなくらいには不服な様子である。勿論ガチで怒っているわけでは無いのだが、ななとしてはレイとの別れを踏みとどまる事に相当迷っていたのにレイがあっさりと自分との別れを視野に入れていた事が納得がいかず。
レイに対してそっぽを向いてしまう。睦美はそんな娘の様子を見て微笑ましいのか、フランス残留を提案した身としての気不味い所もあって苦笑いしていた。
『ふふっ。2人の仲の良さを見ていたら、なながあんなにもぞっこんになる理由がわかる気がするわ』
「ッ、ちょっとママ!」
「あの。改めてですけど、娘さんとの交際は……」
『ええ、なながこんなにも好きって思える相手とのお付き合いよ。私としても認めないわけにはいかないわ』
睦美がそう言うのを聞いてレイは安堵の顔を見せる。今までは睦美との直接的な会話が無かったためにどこか心配な所があった。しかし、今回のビデオ通話で改めて許可を貰うことができたためにレイも安心できたのである。
「ママ、レイ君とのお付き合い。認めてくれてありがとう」
『ええ。でもできれば今度は直接会いたいわね……日本で仕事があれば一番なんだけど……』
「でも、どうしてもフランスとかの方が優先になっちゃうよね」
睦美としては今回のようにビデオ通話では無く、レイと直接会って話がしたい気持ちが強い。ただ、過去は多忙の身。フランスでは個人的なレッスンだけでは無く、出ないといけないコンサートが多々あるので中々日本に帰る事はできなかった。
勿論今言及されたように日本での仕事があれば一番手っ取り早いのだが……そう毎回都合良く日本での仕事が来るなんて事はない。そのため、次に日本での仕事がある時は絶対に直接会っての話をしようという決意は固めていた。
「それなら、その間もその先も俺がずっとななの心を掴んでます。睦美さんは安心して日本に来れる時を待っていてください」
「ふええっ!?れ、レイ君!?は、恥ずかしいよ!」
『頼もしいわ。それなら私が来るまでの間も、来てから先もずっと。ななの事をお願いね』
「はい!」
ななはレイにそんな事を言われて相当恥ずかしい気持ちだったが、その程度では最早レイの言葉を止めることなどできず。結局レイと睦美がななの頭を飛び越える形で今度睦美が日本に来たら絶対に話をする約束をする事になる。
その後、睦美の予定の関係で通話可能な時間がそろそろ終わるという事になると最後の挨拶を済ませると通話を終える事になった。
「なな、ありがとうな。睦美さんと会わせてくれて」
「うん。ママもレイ君とは前々から会いたいって何度も言ってくれてたし。今まではタイミングが合わなくてダメだったけど、今回はその機会に恵まれたから」
ななはレイと睦美が仲良くしてくれた事に少し安堵の気持ちがあるのかホッとしたような様子である。理由としては、睦美がああ言ったものの、前にその睦美の方からフランス残留の話が持ちかけられたためにレイとの恋愛に心のどこかでは反対の気持ちがあるのかもしれないという疑惑があったからだ。
「あ、でもさっき言ってた私と別れる事を視野に入れてたって話……私はまだ納得してないんだけど?」
「えっ……えっと」
「レイ君、どういう事か……ちゃんとお話ししよ?」
「待ってななさん。目が怖……」
「お話ししよ?」
ななはレイへと圧をかけると有無を言わせるつもりは無いとばかりに詰め寄る。そのため、レイは観念せざるを得ず。
「わ、わかりました……」
結局、それからレイはななと別れる事も考えていたという話についてを詳細に話す事になるのだった。ただ、結果的に言えばその話を当時のななの前に持ち込まなくて正解だったという結論には至ったのでそれ以上のお咎めは免れる事になる。
同時刻。はなみちタウンの外にある街の喫茶店にて。そこには黒霧兄妹が2人で揃って席に座っていた。
「うぅ……大丈夫かな」
「夢乃らしくないぞ。リラックスだリラックス」
「そんなのわかってるよ……」
そう話す2人は6人のテーブル席の片側に寄っており、明らかに不自然な座り方だった。
……その理由は単純で、この後待ち合わせしている他の人が来るからである。
「お待たせ!」
「あらまぁ、この子がまりあの言ってた子?」
「確かにこの子ならまり姉が惹かれたのもわかるわ」
そこにやってきたのは以前手鞠沢高校で夢乃をスカウトした早乙女まりあ。そして黒髪のショートで前髪を切り揃えつつ赤い眼鏡をかけた女性……まりあの妹の早乙女かぐや。
更にもう1人、2人のマネージャーと言わんばかりの空気を出した中年くらいの男性であった。しかもその男性は何故かおねぇ口調である。
「ッ、まりあさん。こんにちは!」
「初めまして」
まりあ達の到着に座っていた影人や夢乃は立ち上がると早速挨拶をした。そんな彼等を見てまりあがその場を仕切る。
「そんなに堅苦しくしなくて大丈夫よ。リラックスリラックス」
「ッ……すみません」
ただ、まりあにそう言われても夢乃の体の硬さは相変わらずだった。今回の目的としては前にまりあがスカウトした際に夢乃からの確かな返事がもらえなかった事。
そして、その場にいなかったまりあの妹である早乙女かぐやや2人のマネージャーとの顔合わせを済ませるためである。
「それじゃあ自己紹介するけど……」
「は、はい!サウンドプロダクション所属の黒霧夢乃です。よろしくお願いします」
まりあがそう言うと夢乃は自分から挨拶しないといけないと気を張っていたのか。すぐに彼女からの自己紹介が入る。
「初めましてね。そこにいるまりあの妹でファッションモデル兼デザイナーの早乙女かぐやよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
まりあの妹であるかぐやの挨拶が済んだ所で次は2人の間にいるマネージャーの男性からの挨拶だ。
「私は2人のマネージャーの加古よ。2人からはカッコーって呼ばれてるわ。よろしくね」
「は、はい……」
男性はそう言って夢乃と握手をするが、夢乃はオネェ口調の男性と話すのが初めてだからか……かなりやりにくそうな顔つきで握手を受けていた。
「えっと、そっちが夢乃ちゃんの……お兄ちゃんかな?」
「はい、両親も夢乃のマネージャーさんもどうしても予定が付かなくて今日は代理として来ました。夢乃の兄の黒霧影人です。よろしくお願いします」
本来であれば影人では無く夢乃の保護者である両親か、マネージャーである姫野が来るべき所であったのだが……両親は相変わらず忙しくて来ることができず。更に姫野もサウンドプロダクションでやるべき事があったので急遽夢乃のマネージャー経験があった影人が代理で来ていた。
勿論姫野の方から相談すべき事のリストは預かっていて、サウンドプロダクションの社長であるハジメからの認可及びまりあ達からも了承をもらった上での話である。
「じゃあ、単刀直入にだけど。夢乃ちゃんはファッションモデルのお仕事も受けてくれるという話で良いのかな?」
「はい。私、ファッションモデルとしても頑張りたい……私の事を見て他の人が笑顔になってくれるのならやってみたいです」
「気持ちは十分だね。ハジメさんの方もうちの事務所を通じて了承を受けてるし、夢乃ちゃんは業務受託って感じだけどファッションモデルとしての仕事もやって良い事も決まった」
「親の方も大丈夫って言ってもらって……」
「と言う事はもう決まりね」
「ッ、良いんですか……?えっと……」
夢乃は既に自分の事を誘ったまりあはさておくにしてもかぐややマネージャーの加古の2人に関してはまだ夢乃とは今回が初対面。所属のためのオーディションもやってないのである。
それなのに勝手に仕事を任せるなんて言って良いのかが不安なのだ。するとかぐやが話を引き継ぐ。
「そうね。確かに事務所の方で仕事を任せられるかどうかのオーディションの必要はあるし、仕事を任せる事が決定したとしてもモデルのためのレッスンもしないといけないわ。……でも、少なくとも私やカッコーは夢乃ちゃんの事は認めたつもりだよ」
「えっ……」
夢乃は唖然としたような様子であった。少なくとも、前にコスプレファッションコンテストをやった際には自分は天城切音に続く二番手だったのに加えてその当時自分を見たまりあなら兎も角として。今目の前にいるかぐやや加古は自分のモデルとしての能力を全く見ていない。
それなのに認めるなんて言われても彼女としては疑問を抱くのも仕方ない事だ。
「あの、本当に良いんですか?私の事をちょっと見ただけなのに」
「そうね。だけど、私もかぐやも。そしてまりあの事も。あなたは一目で私達3人を魅了してくれた。それだけであなたには他人を惹きつけるだけの才能があるわ」
「ッ、才能……」
まりあもかぐやも。そして加古も。夢乃をスカウトする決め手として選んだのは出会った瞬間に他人を惹きつける事ができるその瞳だ。その瞳は常人では持ち得る事ができない彼女だけの才能である。
「勿論才能が全てだなんて事は言わないわ。普通は足りない部分を努力で補う事でファッションモデルはステージ上での輝きを得られるものよ。……だけど、他の人が持っていない才能を最初から持っているというのは大きなアドバンテージ。あなたはそれを持っていたのよ」
「そう……なんですね」
夢乃はまりあ1人だけに認められただけでは正直不安な所が大きかった。1人だけであればそれは個人の好みで終わりかねないからである。しかし、そこに他の業界での実力者からの目線で才能として認めて貰えるのならそれは紛れもない自分の個性として見る事ができる。
「……まりあさん、かぐやさん、加古さん……。こんな私ですけど、精一杯頑張ります……改めてですがよろしくお願いします!」
夢乃はようやく自分の持っている確かな才能に自信を持つと深々と頭を下げた。夢乃が改めて挨拶をした事により後日オーディションを受ける必要こそあるものの、彼女は改めてファッションモデルとしての第一歩を踏み出した事になる。
また次回もお楽しみに。