キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
プリメロが勝手に黒霧家に来てお泊りをしてから約1週間。とうとう影人がサウンドプロダクションの新人養成イベントの日が来た。
「夢乃、そろそろ行ってくるよ」
「うん。気をつけてね」
「ああ」
夢乃に行く事を伝えた影人は早速黒霧家からサウンドプロダクションへの移動を開始。そんな中で気になる事が頭に浮かんでいた。
「……そういえば、レイの奴から今日の講師の事を聞くのを忘れたな。誰なんだろ。流石に元サウンドプロダクション出身とはいえもう違う事務所に移籍した茅原さんでは無いだろうしな」
以前影人がサウンドプロダクションの養成所体験を受けた際は茅原が講師として来てくれていたが……彼女は今の時点では別の事務所所属。そして、その時の講師役はかつて自分を育ててくれた恩義もあっての事。
本来であれば彼女が今所属している事務所目線でのメリットが薄い話なのだ。だから今回は茅原が行きたくても事務所側が止める可能性が高い。
「サウンドプロダクションに今所属してる人の中から講師役になりそうな人……いや。事務所には事務所でタレントとは別で講師の人がいるか」
養成所とは別になるが、声優の専門学校等ではプロの声優として志したものの……プロの現場で一線級と呼べる活躍ができなかった者の中にはプロで活動していた実績を活かして講師役としての仕事を貰うパターンもある。
「声優業界って需要の割に供給過多な所があるからな……っと。これ以上言ったら色々闇深案件になりそうだしこの辺にしておくか」
影人がそんな風に世間体を気にしつつもひとまずは何事もなく事務所にまで到着。入り口で出迎えたのはレイであった。
「よっ、影人」
「レイ……わざわざ入り口で出迎えてどうした?」
「別に深い理由は無いよ。折角来たんだから出迎えたって感じ」
レイはいつも通りの様子であり、影人はいつも通りの接し方をする。それから彼は早速影人を事務所の方に入れるとサウンドプロダクションの養成所としてのレッスンのできる部屋へと移動する事に。
「そういえば、今回の体験って何人くらいが参加はするんだ?」
「えっと、大体10人くらいかな。そんなに言うほど沢山では無いよ」
「なるほど」
影人とレイは軽めの雑談をしながらレッスン用の部屋に到着するとチェックリストを介するかたちで本人確認を済ませる。
その後、部屋の中に入るとそこには既に7人程が揃っており。影人は割と遅い方であった。また、そこに集まっていた7人は高校生〜20歳前後の男女であり。
それぞれ緊張感を持つ者、自信に満ち溢れた者、近寄り難い空気感を放つ者、コミュニケーション能力が高いのか……積極的に周りに声をかけようとしている者と様々だ。
「(ここにいる全員が声優の道に興味を持ってそこを目指そうとしている。まだ確定じゃないけど、俺が声優として活躍したいのなら戦わないといけなくなる相手か)」
何でもそうだが声優は特に競争が激しい。まず新人層の中でも頭角を表さないと一線級で戦う中堅声優達と戦う前にリングを下ろされてしまう。いや、下手したら自分よりも後に入ってくる新たな新人層に呆気なく押し出されて死ぬだろう。
「(……いや。まだそこまで気負わなくても良いか。確かに勝ち抜かないといけない相手だけど、今からそんな事ばかり考えても仕方のな……ッ!?)」
影人がひとまず今から気を張っても仕方がないとばかりにリラックスしようと考えた瞬間。突如として彼の体に寒気が走ると先程説明した中の1人。近寄り難い空気感を放つ者……影人とほぼ同年代の少年が影人を牽制するかのように冷たい視線を向けたのだ。
「………」
「(アイツ、急に俺の方を……それだけじゃない。周りの子に話しかけてるあの子の方も話しかけに行ってない所を見ると……全員に対して向けてるのか)」
どうやら、近寄り難い空気感を放つ少年はこの場にいる全員に対して同じような目線を送っているようであり……他の人もその少年だけは意図的に避けている様子だった。
「(それにしてもアイツ……どこかで見たことあるような……)」
影人はどうにかして記憶を遡ると少年に感じた既視感の正体を探る。それと同時並行して体を動かしても良いようにストレッチを始めた。
「(どうしような。多分一緒のグループになっても問題は無いだろうけど……)」
影人はレッスンの際に同じグループになったとしてもひとまず目だけは付けられないようにしたいと思いつつも開始の時間を待つ。そして、10分もしない内にここに来ていなかった2名も到着して合計10名となるとそこから5分程で講師となる先生が入ってきた。
「おはようございます」
『おはようございます』
そこにいたのは約30代後半程の女性であり、彼女は手に今回のレッスンで使う物が一式揃った鞄を持っていた。
「では、まずは挨拶からしましょうか。立ってください」
女性は丁寧な口調で優しくそう言うと影人を含めた今回の参加メンバー全員が立ち上がる。そして、10人が3人、4人、3人の形で列を作ると指定された場所に移動。そのまま挨拶をする事になる。
「よろしくお願いします」
『よろしくお願いします!』
「では、座ってください」
講師の女性は10人の前にある会議室によくあるような横長のテーブルの所にある椅子に腰掛け、影人達はあくまで生徒なので養成所の人達に掃除されたであろう綺麗な床の上に座る。
「まずは今日のイベントに参加してもらってありがとうございます。私は今回のレッスンにおける講師を務めます、中西紗織と言います。改めて、今日はよろしくお願いしますね」
先程もだったが、温厚かつ丁寧な話し方を見せる中西に影人達は肩の力を抜いて楽な様子を見せる。……ただ、1人だけ。先程から冷たい視線を送る少年だけは未だに固い顔をしていた。
「では、早速出欠を取ります。名前を呼んだら返事をください」
それから中西は1人ずつ名前を呼ぶと今回のイベントに来ている事を1人ずつ確認していく。その中で勿論影人も呼ばれた。
「黒霧影人君」
「はい」
「黒霧君も来てくれているね」
影人は返事をしつつついでに周囲を確認すると今回のレッスンでは男性が4人。女性が6人というやや女性の方が多めな構成であった。
一応声優という職種自体は全体的に見ると女性の方が多い印象を受ける。理由として挙げられるのは女性の方がその声域のカバー範囲が広いので男性の少年時代を女性が声当てするとかもあるわけで。簡単に言うと、幅広い役に対応できるという利点があるからだ。
他には深夜アニメとかになってくると男性キャラに対して女性キャラの方が多めになりがちというのも大きな要因だろう。ただ、だからと言って男性キャラがいないわけでは無く。スポーツもののアニメとかだと男性キャラばかりが出るという例もあるので一概に男性側も需要が無いわけではない。
勿論大人の男性の声を女性が当てるのは厳しい場合も多いので結局の所、声優が女性声優ばかりになるというのもアニメを制作する上では困る事の方が多くなるのだろう。
「(10人中俺含めて男が4人……思ったより男の人もいるんだな。偶々かもしれないけど)」
影人はそんな事を考えつつ他の人が呼ばれるのを待っていた。そんな時、影人の1人か2人後。中西が1人の体験者の名前を呼ぶ。
「白石光輝君」
「……えっ?」
影人は思わずその名前を聞いて小声だったが声を出してしまった。幸いにもその声は周りに聞こえてなかったものの……影人は困惑したような顔つきで名前を呼ばれた者の方を見る。
「……はい」
それは先程影人や他の体験者の人達へと威圧の視線を送っていた少年であり、影人はその顔を見て改めて記憶の中の想い出が浮かび上がってくる。
それは影人にとっては苦い記憶であり、その記憶の中で思い起こされる少年と完全に一致した。
「(まさか、白石光輝って……俺が芸能界入りを目指した時に会ったアイツか?)」
白石光輝……影人が幼い頃。彼と時を同じくして芸能界入りを志して同じ養成所に所属していた少年であり、当時は影人を圧倒できる程の存在感の持ち主だった。
そして、影人の所属していた養成所に彼が一緒にいたのが原因で影人はどれだけ努力を重ねても輝く事ができず。あくまで白石の二番煎じに留まる事になってしまっていたわけだ。
「………」
すると白石は座る際に影人の方を見ると睨むような目線を向ける。今回は影人以外にその目線を向けていないため、明らかに影人個人を意識しての事だろう。
「(あー、多分これ俺の事向こうにもバレてるわ……)」
影人としてはできる限り関わりたくなかった相手に目をつけられて良い気持ちにはなれなかった。
「以上、10人ですね。全員がここに来れた事を嬉しく思います」
そんなタイミングで中西からの出欠確認が終わり、とうとう本題のレッスンに入る事になる……が。その前に彼女から言葉が入った。
「それでは早速レッスンをやりますが、その前に。声優の業界は確かに厳しいです。皆さんも知っているかもしれませんが、今回のイベントはあくまで声優の楽しさを知ってもらうための物。その事は頭に入れておいてくださいね」
中西はあくまで今回のレッスンがプロの声優業界のような厳しい役の争奪戦等の事とは無縁の物である事を伝える。……恐らく、彼女がその説明を入れたのは先程からずっと周りに敵対心を見せ続けている白石が原因なのだろうと影人は考えるのだった。
同時刻、チョッキリ団のアジトではチョッキリーヌが溜め息を吐く。それは、つい最近言われたダークイーネの言葉だった。
「ダークイーネ様、とうとう私達が次に失敗したら切り捨てるとまで言い出してしまったね……」
「あら、ビビってるのかしら?チョッキリーヌ」
「ッ!?スラッシュー……アンタ、大丈夫なのかい?」
チョッキリーヌの元に現れたのはジョギからの洗脳が解除されたかと思ったら今度はダークイーネから直接洗脳をされたスラッシューである。そんな彼女をチョッキリーヌが心配するものの、スラッシューは平然とした様子であった。
「大丈夫?何を当たり前な事を聞いてるのかしら。むしろ、やっと苦しみから解放されてスッキリした気分よ」
スラッシューは伸びをすると今の自分に迷いが無い事を示す。そして、彼女はチョッキリーヌへとある事を言い出した。
「それはそうと、あなたの方こそ最後通告を受けて臆病風にでも吹かれたのかしら?」
「ッ、そういうわけでは無いよ!……ただ、良い加減確実性の高い戦い方をだな」
「ぷっ……確実性って。今更そんな物求めても無意味ってわかるでしょう?」
スラッシューはチョッキリーヌの意見に思わずクスッと笑ってしまう。彼女の言う事は間違っていない。アイドルプリキュアはこれまで自分達との戦いで何度も進化してきた。
そのパワーアップの事を考えるとアイドルプリキュアとの戦いに確実性を求めても何の意味も無いだろう。
「それとも、あなた。やはり負けてしまうのが怖いのかしら?」
「ッ……当たり前だろう!カッティーも、ザックリーも、バッサリーナもいなくなって。ジョギもここ数日戻ってこない。アイドルプリキュアに絆され、負けた者がどうなるか。……私はああなるわけにはいかない。絶対に次に負けるわけには行かないんだよ」
チョッキリーヌの目は勝利の二文字を求めている影響かどこか血走っており、それだけ彼女が生き残りを懸けて必死に足掻こうとしているのがわかる。
「なるほど、あなたの言う事は間違ってないわ。生き残るために確実性を求める。確かに良い手だと思う……だけど、それなら私は遠慮しないわ」
「えっ?」
チョッキリーヌは自分の慎重論にスラッシューが賛成してくれたと思っていた矢先に彼女がその意見を否定し始めたことに困惑。それからスラッシューはチョッキリーヌに背を向けつつ店の外へと歩き始める。
「あなたがモタモタしている間にアイドルプリキュアを殲滅してあげる。あなたは私に勝てない事、ここに示すわ」
「ッ、待て……スラッシュー!」
チョッキリーヌはスラッシューが言ってしまうのを止めようとするが、彼女はさっさと転移でいなくなってしまう。それを見届ける形となったチョッキリーヌは無事に彼女が戻ってくる事を考えるのだった。
そして、街へと転移したスラッシューは物陰に隠れた状態で天城切音としての姿に変化。そこにダークイーネが影から出てくる形で声をかける。
『スラッシューよ、妾は一刻も早い真っ暗闇な世界を望む……。そのためなら協力くらいはしてやろう』
「助かりますわ、ダークイーネ様。では、私の仕掛ける作戦をお聞きください」
それからスラッシューはダークイーネへと頼み事を終えるとダークイーネはその作戦に対しての可否を返す。
『良かろう。好きにするが良い』
「ありがとうございます」
そう言ってダークイーネは消え去るとスラッシューはダークイーネの許可と協力を得られるという事で笑みを浮かべる。
「ふふっ、仕込みは完璧ね。……アイドルプリキュア、今度こそあなた達を倒す」
スラッシューは天城切音としての状態で心を踊らせると邪悪な心が赴くままにアイドルプリキュアへと自分の作戦を仕掛けに行く。
“……ん、んんっ……”
そんな時、また心の奥深くに封印されたKotoneとしての優しい人格は眠っていた所。少しだけ眉が動いたのだが……それをスラッシューとしての天城切音が気がつくという事は無いのだった。
今回オリキャラが出ましたが、イメージのCVも決めていて。ただ、発表はこの後に出てくるオリキャラも含めてやらせてもらいます。
それではまた次回もお楽しみに。