キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人が参加しているサウンドプロダクションの新人養成イベント。その中で影人が所属するチームにて、影人の幼い頃の養成所仲間であった白石への対応で四苦八苦。
そんな最中で講師である中西から言い渡されたのはまさかの台本読みであった。ここに来てようやく声優の仕事に触れそうな所謂実践的なレッスンである。
「ここで台本読みか……って事は流石に白石の奴も……」
「(ッ、やっと実践的なやつが来たか。遅せぇんだよ)」
そして、ここで実践的なレッスンが入った事で今まで不機嫌でいた白石の瞳にようやくやる気のような物が宿っていた。
「(やれやれ、やっとアイツもやる気になったか)」
影人は正直、基礎を軽視して実践的な練習ばかりを求める白石の態度には呆れの感情さえあった。幾ら俳優として養成所で技術を磨いたとしても、俳優と声優では求められる能力が違う。
そのため、俳優の頃と同じ感覚となっていると痛い目を見る事になるのだが……今の白石にそんな余裕なんて物は無い。それはさておき、中西がその場にいる全員に台本を配ると影人達はそれを受け取った。
「じゃあ、まずは台本を開いてね」
中西の指示で台本を開くと最初のページには登場キャラクターがあり、そこには5人分のキャラの名前と概要がある。
そして、ページを捲ると全部で三つの枠に区切られた上で影人達が読むであろう台詞が書かれていた。
「この台本の味方だけど、まず一番上の枠にはキャラがどういう状況で喋っているのか。まぁ、簡単に言えば台詞を言ってる時に何をしてるのかって事ね。次に二段目ではどのキャラクターが喋っているか。最後の三段目……これが一番枠として大きいけどここに台詞があるの」
中西が台本の読み方について色々と指導をする中で影人は何となくこの台本がどういう物なのかが見えてきた。要するに、声を当てて作品を作り上げる上で必要な要項が書いているわけである。
例えばこのシーンはどういう場面で、キャラがどういう動きをしているのか。どのような気持ちで動いているのかもある。万人にわかりやすく説明するのならば、プラモデルを組み立てる上での作業工程が全部載っている取り扱い説明書みたいな物と言えるだろう。
「……なるほど、今回は勇者一行と魔王が直接対決するシーンか。で……キャラは魔王が男、勇者も当然のように男。パーティーメンバー3人が男1に女2……ん?」
影人はそこに書いてある性別に目を丸くする。まさかの全体人数の中で女性が多いという状況ながら、男3人に対して女2人という配役だったのだ。
「今から君達に2時間の時間をあげるわ。この台本の台詞の意図を理解して私の前で実演してもらいましょう」
どうやら今回はアニメのアフレコに近い形で演じて貰うと言うよりは、演劇の練習みたいな形で演じてもらいたいのだろう。
「何か質問はあるかしら?」
「えっと……良いですか?」
「どうぞ」
「この台本って覚えないとダメだったりします?」
「うーん、できれば覚えてほしいかな。あ、だけどまだ君達はほぼ全員演技に関しては初心者だし……無理に台本を取らなくても大丈夫よ。むしろ、台本を取って下手になるくらいなら持っててくれた方が良いわ」
流石に中西も今回のレッスンは初心者向けの物だということもあって、台本を無しにしろとは言わなかった。ただし、彼女の言及にあった通り……可能なら台本を取って演じてほしいという気持ちはあるだろう。
「他にはあるかな?」
それから中西は2つ程質問に答えると体験者側からの質問も終わったのか、とうとう練習の時間に突入する事になる。
「質問はもう無いね……うん。それならやろっか。よーい、始め!」
そのままの流れで練習時間に入った影人達、まずはそれぞれのチームで配役を決めないといけない。
「まずは配役を決めるけど……皆はどれがやりたいとかはある?」
「うーん、でも女の子って2人しかいないんだよね」
「誰か1人は女が男を演じないとダメって事になりそうですね」
影人は台本を軽く一通り見ながらどのキャラなら演じやすそうか探してみた。そんな時、白石が声を上げる。
「俺が勇者役をやらせてもらう。異論は認めない」
「「えっ?」」
「ッ……」
影人達は話し合いを無視して1人でさっさと勇者役を持って行った白石に困惑。そして、彼は自分の意見をまだ言ってなかった加藤の方を見ると笑みを浮かべた。
「ふっ、男役が3人で困ってるのならアイツに男役をやらせれば良いだろ。低い声を出すのが特技……なんだってな?」
「ひっ……」
加藤は白石から先程の自己紹介での話を突かれたせいで、元々彼を怖がっていたのもあって完全に萎縮。それを見て佐橋や立原が抗議の声を上げた。
「ちょっと、今の言い方は無いんじゃない?」
「そうよ。大体、あなたには話し合いって言葉は通じないの?」
「煩い!この場では俺が主役だ。お前ら脇役は俺にスポットライトを当てておけば良いんだよ!」
「「はぁ!?」」
白石は先程から自己中発言を連発。その瞳には焦りのような物があったが、影人はそんな白石を見てため息を吐く。
「はぁ……。わかった、勇者役はお前で良い」
「ちょっと、黒霧君!?」
「黒霧君はやりたい役をやれなくて良いの!?」
影人があっさりと勇者役を白石に譲った事に佐橋や立原は唖然とする。影人はそんな2人を落ち着かせるように話した。
「俺は大丈夫ですよ。こんな所で喧嘩して時間を食う方が勿体無いですから」
「でも……」
「心配をかけてすみません。でも、俺は最初から勇者役は白石に渡すつもりでした。だから大丈夫ですよ」
「そっか……黒霧君がそういうつもりなら……」
影人は佐橋や立原がこれ以上自分への心配をしないようにひとまずは2人を落ち着かせる。すると、白石はここぞとばかりに影人を煽り始めた。
「はっはーっ!黒霧、どうやらお前は俺の良さがわかるみたいだなぁ?まぁ、お前なんぞ俺の足元にも及ばなかった雑魚だったしな。当然の結果だろ」
「ッ……白石君、流石にその言い方は無いんじゃない?」
「そうだよ、黒霧君はあなたに役を譲ったのに」
「知るかよ、あんな雑魚なんて目立たない日陰がおあつらえ向きって事さ。だって昔からそうだっただろ。俺は1人で先に行き、お前は取り残された挙げ句芸能界に潰された程度の奴なんだ。お前程度なんて俺と比べるまでもねぇ」
白石はあくまで影人より自分の方が上だと主張する。影人はその言葉に否定するつもりは無いのか。白石を見据えつつ彼に話しかけた。
「……白石、お前のその言葉を否定するつもりは無い。幼い頃、俺はお前に負けていた。その事実はもう覆せない」
「物分かりが良くて助かるぜ。無駄な努力、お・つ・か・れ・さ〜ん!」
白石は影人が反撃できないのを良い事に先程以上に煽りまくる。ただ、影人はこれだけ煽られても至って冷静だった。
「……ほんと、そういう人間性を直さないとこの先生きていけないぞ?お前」
「は?」
「白石、お前に勇者役は譲る。その代わり、これ以上俺達の役決めに口を出すな」
影人は強い口調でそう言うと白石は勇者役ができるのなら問題無いとばかりに笑みを浮かべる事になる。
それから、影人は白石を会話の場から弾くとその白石はさっさと自分の台詞を覚えるために台本を読み始めていた。
「黒霧君……ごめんね、私がちゃんとするべき所だったのに」
「大丈夫ですよ。ひとまず、勇者役は白石に任せるとして。他の役はどうしますか?」
残っている役は魔王と勇者の仲間の3人。内訳は魔法使いとヒーラーの2人が女。タンク役が男という感じであった。
「うーん……この内訳で女の役3人分か」
魔法使いとヒーラーの2人は任せられるにしてもタンク役と魔王役のどちらかを女性が演じないといけない。しかも、台詞の言い回しを見るに、タンク役の方は明らかに男性の口調であった。
「この感じだとタンク役の方を俺が演じた方が良いのかな」
「魔王役って女性の人が演じてる場合も結構多いし、どうせ誰か1人が男性が当てるべき役をやるしか無いのなら……」
そんな風に影人達で話し合っていると先程白石相手に萎縮してしまっていた加藤は震えるような声で話しかける。
「え、えと……私が魔王役を演じた方が良いのでしょうか……」
「えっ?」
「私なら低い声が出せますしその方が皆さんにとって……」
しかし、加藤はそう提案しつつも両足がガクガクと震えていた。どうやら、魔王を演じるという提案自体……彼女にとってかなり無理した上での提案らしく。影人はそんな加藤へと問いかける。
「加藤さん、それは本当に加藤さんの意思ですか?」
「えっ……そ、それは……」
加藤はその問いに対してかなり言いづらそうな様子であり、思わず俯いてしまう。
「……それなら、無理に魔王なんてやらなくて良いよ。もし加藤さんが無理しているのならそれはやるべきじゃない」
「ッ……で、でも……」
「その感じだと魔王という役その物よりも、魔王の喋ってる台詞の方が辛そうな感じ?」
それを聞いて加藤は申し訳なさそうな様子で小さく頷く。立原はそれを聞いて改めて台詞を見返すと確かに魔王の台詞は割と高飛車な感じであり、魔王の性格が残虐かつ戦闘狂だからか……高めのテンションで言わないとその気持ちを再現できなさそうだった。
そして、加藤はこの魔王とは真逆の性格だ。勿論、役を演じる上で自分の性格とは真逆のキャラを演じないといけないというケースだってあり得る。しかし、大体の場合役を決める際はそのキャラの演技に一番近い役柄を演じた者に白羽の矢が立つので無理してまで不得意なキャラをやらなくて良いのだ。
加えて、まだ加藤は演技に関して言えば初心者である。そのため、状況に応じたキャラの演じ分けなんて不可能なのだ。そう考えると彼女が魔王をやる意味は薄いと言える。
「でも、私しかできないのならその……」
「……ううん。加藤ちゃんしかできないなんてそんな状況にはならないよ」
「えっ?」
「魔王役……私がやっても良い?」
佐橋はニッと笑うと自分から魔王役をやると言い出した。影人は役柄と佐橋の性格を照合するとその考えに自分の意見も加える。
「……俺も佐橋さんが魔王役をするのには賛成。というか、この残りメンバーなら佐橋さんが一番適してると思う」
「おぉ……経験者の黒霧君がそう言ってくれるのは嬉しいね!」
「別にそこまで経験者ってわけじゃないですよ。俺なんてアイツの言う通りただの負け犬ですから」
影人はそう言って謙遜しつつ佐橋が魔王役をやる事を後押しすると立原も賛成の意思を示した。
「ふふっ、それなら私も佐橋さんが魔王をやるのに賛成するね。後は二つだけど、加藤ちゃんはどっちがやりやすいとかある?」
「えっ!?で、でも私なんか……」
立原は年上として役の選択権を年下である加藤に委ねると彼女はそんな事をされるなんて申し訳ないとばかりに否定しようとする。
「加藤さん。これから業界でやるつもりなら謙遜するのも良いけど、周りの目を気にして引いてばかりじゃダメだ。そんな事をしていたら折角のチャンスを棒に振るよ」
「ッ……」
加藤はそれを聞いてもう一度立原や佐橋の顔色を伺う。すると、彼女達は加藤へと好きな役をやるように促していた。そのため彼女は少しだけ迷ったものの、結果的に自分からやりたい役を口にする。
「えと、ヒーラーの人をやりたいです……」
「オッケー。じゃあ私は魔法使いの子ね」
「はい!じゃあ全員の役が決まったし、ここから練習スタートだよ!」
ようやく全員分の配役が決定した事で佐橋が取り仕切る形で練習をスタートしていく事になる。……ただ、この時点で既に20分が経過してしまっていた。しかももう一つのチームは既に全体での読み合わせも終わってしまっている。
白石との揉め事があったせいで余計に時間がかかってしまったのだ。そしてその白石はとっくに自分の台詞を頭の中に入れつつ先に先に1人で進んでしまっていた。
「(残り時間はあと1時間30分くらい。遅れてはいるけどまだ致命的では無いはず……。どうにか立て直したい所だな)」
影人はそんな風に考えつつ、まずは全体での読み合わせをするという事でチームとしての練習を開始する事になる。
同時刻、はなみちタウンの噴水付近での事。そこでは1人の画家と思わしき男性が絵を描いていた。
「ここをこうして……」
彼が描いている絵は既に8割方完成しており、あと一息という所である。だが、その瞬間……突如としてその場に突風が吹いてしまうと絵を描いていたキャンバスが風に煽られて吹き飛ばされてしまう。
「へ?ああっ!?」
そのまま絵の描かれたキャンバスが噴水の中にダイブ……完全に水浸しとなってしまう。当然こうなると今までの努力は水の泡だ。
「そ、そんなぁ……あと少しで完成だったのに……」
そのため、画家の男性は項垂れるとその体から闇を発生させてしまう。すると、次の瞬間……男性の影からダークイーネが顔を覗かせると赤く鋭い瞳を発光させる。
『そなたの闇……解放してやろう』
「うわぁあああっ!」
これにより、ダークイーネの力で男性の胸から心の闇を現す漆黒のリボンが飛び出してしまう。そのままの勢いで結ばれていたリボンが勝手に解かれてしまい、男性の体がリボンから発生した闇のエネルギーで包まれていく。
『世界中をクラクラな真っ暗闇にせよ』
その後、ダークイーネがそう告げるとチョッキリ団が普段使っているような赤い水晶を解する事無く闇に包まれた男性は闇の炎が燃え上がるエフェクトと共にその姿がダークランダーになってしまう。
「ダークランダー!」
その姿は胴体がキャンバスで右腕には絵を描くための筆を武装し、左腕には籠手の位置に絵の具を出すパレットを武装していた。
こうして、影人がサウンドプロダクションでレッスンを受けて動けない瞬間を狙ったかのようなタイミングで出てしまったダークランダー。この出現により、街は危機を迎えてしまう事になる。
また次回もお楽しみに。