キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
アイドル達が街に出現したダークランダーを相手に対応する中、サウンドプロダクションの方での発表に向けて練習する影人達。白石に挑戦状を叩きつけた影人は本気モードで練習に打ち込んでいた。
「させるかよっ!」
「なっ!?」
丁度今は魔王と勇者一行が戦うシーンであり、台詞に該当する場面としては影人演じるタンク役が魔王が放った必殺級の一撃をタンク役が辛うじて受け止める代わりに彼が吹っ飛ばされてしまう所だった。
「ぐうううっ……うわぁああ!?」
「よく止めた!後は任せろ!」
そんな中、勇者を演じる白石は本気で演じつつも内心ではほくそ笑んでいた。理由は影人の能力が思った以上に低かったからである。
「(ぷっ、何だよコイツ。さっきまであんなに勝てるって大見得切ったくせして何だその情けない演技は。この調子ならこんな雑魚は相手にするまでもねぇな)」
彼としてはあれだけ強気で喧嘩を売っておきながら、大した演技力を出せていない影人の能力の低さを内心嘲笑っていた。
「(今のお前の限界がそれなら今度こそ本当に立ち直れないレベルにまで俺が上だって事を教えてやるよ)」
そう考えつつ白石は自らのみが輝くように演技を進めていく。それに対抗するように魔王役の佐橋も存在感を主張。魔法使いやヒーラー役の立原や加藤もそれなりに頑張ってはいるが……やはりどうしてもこの場の主役は勇者役の白石。2人の演技はそれを引き立てるだけにしかならない。
「……なるほどね」
ただ、この状況を見た講師である中西は興味深そうに様子を伺っていた。彼女が注目しているのはこの場で一番目立った活躍を見せる白石……では無く。逆にこの場で一番影の薄い存在の影人の方だ。
「彼、中々面白い事をやろうとしてるって感じ」
中西はそう小さく呟くと影人の演技の方に注目する。そのまま話は進んで戦いもどんどん佳境へと向かっていく。ここまでは白石の独壇場と言うべき状態であり、その相手として輝きを放つ魔王役の佐橋はどうにか白石に対抗するために全力で挑んでいた。
「(ッ……やっぱりさっきの読み合わせの時から思ってたけど、この子口で言うだけあって上手いわ。今の私じゃ、どうにか正面から打ち合うので精一杯……)」
「援護します!ストーンキャノン!」
「効かないって言ってるでしょうが!!」
立原は魔法使い役として白石の勇者の動きをサポートしつつ彼の攻撃の隙間を埋める形で魔法を繰り出すものの、やはり魔王相手に効果は薄いのか。あまり効いてなさそうな様子だった。
「ま、まさかここまでの強さを誇るとは……」
「へっ、魔王様。そろそろ終わりにしてやるぜ」
勇者役の白石は自分こそがこの場の主役、主人公であるとばかりに自信満々に告げると魔王側も追い詰められているのか。佐橋も多少焦りのある演技を見せる。
「ふふっ、確かにお前達は強い。その事は認めてやろう。……だけどなぁ?それと俺に勝てるかどうかは別問題ってやつだろ」
すると魔王はここまでの戦いでは隠し続けていた切り札とばかりに強力なエネルギーボールを生成。その威力は魔王の部屋の中にいる全員を一撃で仕留めるには十分過ぎる程であった。
「な、何!?」
「私の相殺魔法も効かない……このままじゃ」
立原は焦ったような声色で演技をすると魔法使い役の子でも魔王の力を止めきれなかったのか。このままでは全滅してしまうとばかりの状況と化す。
「あはははははっ!これで終わりにしよう。勇者一行よ!」
魔王は自身の勝利を確信すると自らの誇る最強の攻撃で勇者一行を一網打尽にするつもりだった。そして、もう勇者達に攻撃そのものを止める手段は無い。
「しまっ……」
「オオッラァッ!」
佐橋が攻撃を放つ叫び声を言うと勇者達の中に絶望感が広がっていく。そんな時、今までずっと場の空気に溶け込みながら敵の攻撃を受け切ったり受け流す時だけ多少輝くのみという徹底した影を演じ続けてきた影人がそのベールを脱いだ。
「良いや、まだ終わってねーよ!!カバームーブ!!」
魔王からの一撃が放たれるとそれが勇者達に当たってしまう直前。スキルによって一瞬で移動したタンク役の男性が盾を使って魔王からの攻撃を防御。しかし、その攻撃のあまりの圧に押されてしまう。
「小賢しい奴だな!だけど、1人で受け切るなんて甘い考えで上手く行くものかよっ!」
魔王の攻撃はタンク役の男性の盾のみならず、彼が着込んでいた鎧に少しずつヒビを入れていくとその装甲は砕かれ始めていた。
「不味い、このままじゃ……」
「ぐ……あぁああぁああっ……!」
影人はその場面のタンク役の男性の心情である何としてでも仲間を守るという想い。そして、彼が実際に行っている行動としてト書きに書かれている魔王の攻撃を全力で受け止めているという行為を再現するために自身の演技力の全てをこのワンシーンに注ぎ込んでいた。
「(ッ!?テメェ、まさか……)」
同時に白石の脳裏に浮かんだのは影人が先程まで自分よりも下手な演技しか出せていなかったのはこの瞬間のための布石だったのだと察する。
その証拠に、影人の全力の演技に練習中だったもう一つのチームの5人や講師としてその場にいた中西。そしてチームメイトである他の4人。その視線の全てを自分へと引き込んでいたのだ。
「(演技の幅に高低差を付けて、気持ちを込めたい一瞬だけのために爆発させる。彼が大人しめな演技をしていたのはこの一瞬に全力をぶつけるためね。……そりゃあ、この場にいる他の誰も彼には勝てないわけよ)」
影人の全てを引き込む演技を見た白石の胸にはザワザワとした胸騒ぎが響き渡る。
「(馬鹿な……さっきまでずっと脇役っぽい演技しかしてなかっただろ?何でコイツが……)」
そして、彼もこの演技には他の人と同様に影人の方に思わず視線を向けてしまった。
「はぁあああっ!」
影人は他人を思わず惹きつける演技をしながら魔王の攻撃を完全に防御。そのまま、疲れたように荒い息を吐いた。
「はぁ……はぁ……」
その様子に少しの間、他の面々は気を取られていたが、加藤は次は自分の台詞だと思い出して慌てて次に繋げる事になる。
「ッ!!大丈夫ですか!?すぐに回復します!!」
「馬鹿な……この俺の攻撃を止めただと!?」
「………」
加藤に続いて佐橋も自分の台詞を言うと急にシーンが続いているのに話が止まった。その理由は簡単。佐橋の次の台詞を言うはずの白石が影人の変貌ぶりに呆気に取られて台詞を止めてしまったからだ。そして、そうなると当然視線は白石に集まる。
しかもタイミングが悪かったのは、影人がその場の全員の視線を自分に惹きつけたが故にまだその目線が戻っておらず。そのまま白石の方にまでその影響を受けてしまった事だ。
「……ッ!?い、今だっ!」
そして、白石の担当キャラである勇者の1番の魅せる場所は完全に奪われてしまい……そのまま挽回する間も無く一周分の台詞が終わってしまった。
「黒霧君凄いよ!アレ、どうやったの?」
「へ?」
「ほら、直前まで黒霧君がその場の空気に溶け込んでたって感じだったのにあの場面だけメチャクチャ目立ったから全員がそれに注目したってやつ!」
そして、何故か影人は通しの後に女性陣達から詰められている状態が完成。彼はその状況に困惑してしまう。
「別に……大した事してませんよ」
「いやいや、アレを練習でやるなんて勿体無いくらいだったよ!ぶつけ本番でやっても良かったんじゃない?」
「……でも、そんな事したら加藤さんが困るかなって」
「ッ……」
影人は今の演じ方に関して。中西に対する本番でいきなり投げる事も勿論可能ではあった。……しかし、今の練習の際の反応からして。もしそんな事をしていたら自分の次に台詞が来る加藤が反応できないと考えたのである。
何しろ、彼女はただでさえ今の状態でも主に白石からの言葉のせいで緊張しているのにいきなりアドリブに近い事をやってしまったら流れを止めてしまうと思ったのだ。実際、彼女はワンテンポ反応が遅れていた事からもこの話は証明できるだろう。
「すみません、気を遣ってもらって」
「それなら大丈夫。本番でも同じようにやるから心構えだけしておいてくれれば」
加藤は影人から振られるやり方について了承する形で頷くとこれで後は本番を迎えるだけ……と言いたかった所だが。
「それにしても……戻って来ないわね」
「うん、さっきトイレに行くって言ったきり……」
どうやら白石は影人の演技を見て思う所があったのか。通しが終わった瞬間にトイレに行くと言って戻って来なくなっていた。一応残りの時間的にもう一度くらいなら練習できるだろうが……主役である勇者役の彼がいないと上手く台詞を回せないためどうするか悩んでいた。
「ホント、あの子もダサいわよね。あれだけ見下してた相手にやられたら逃げ出すとか」
「練習、残り時間的にあと一回くらいしかできないけどどうしよっか……」
「……仕方ありません。俺が白石の分も読みますので佐橋さんや立原さん。加藤さんがやりたい場所をもう一回やりましょう」
影人はこれ以上白石を待っても時間の無駄だと考えて彼の部分を自分が読む形で対応する事を提案。
「確かにそうね……白石君が戻って来ない以上はどうしようもないし、練習はしたいのもそうだから」
「じゃあ、加藤ちゃんのやりたい所から順番にやろっか」
「えっ、良いんですか?」
「うん!加藤ちゃんはどのシーンからやりたい?」
「えっと、じゃあ……」
こうして、影人達は白石抜きで練習をやらざるを得ず。4人だけで少しでも練習を重ねる事になる。一方その頃、1人で逃げ出したその白石はと言うと……。
「クソッ!影人の野郎ふざけやがって……」
完全に見下していた影人に抜け駆けされたと思って勝手に怒ってしまっていた。しかも、今回の場合はただ抜け駆けされただけでは無い。
影人は加藤のために予め本気モードの演技を練習中に解禁したわけだが……影人にはこれをいきなり本番でやるという手段も存在したのだ。
要するに、白石は勝手に舐めプをされたと勘違いして激昂しているのである。
「俺なんかには舐めプで勝てると思ってんのか……ぐぬぬぬっ」
最早ここまで来ると八つ当たりも良い所だ。ただ、影人にプライドをズタボロにされた白石の怒りは最高潮にまで高まってしまっている。
「だが、俺に舐めプをして先に自分の切り札を俺に見せた事、後悔させてやる。俺の台詞の1番の盛り上がりは影人の後に来る俺の台詞だ。そこに合わせて俺が気持ちを込めれば絶対に……」
白石は影人の真似をするというプライドもへったくれもない作戦で本番では影人を叩きのめそうと考えてニヤニヤ笑みを浮かべていた。そんな時、白石へとある人物が話しかける。
「随分と情緒不安定な子ね?」
「ッ!?お前は……」
「私の名前はスラッシュー。あなたの闇の力を引き出す者よ」
白石に話しかけたある人物。……それは先程白石の持っていた闇に目を付けていたスラッシューであった。
「俺の闇を……引き出す?」
「ふふっ、そうよ。私が見るにあなたには他人よりも素晴らしい闇の力を感じるわ」
「闇の力……ねぇ。でも、それだと俺は主役にはなれないって事だろ?」
白石は光の力なら兎も角として闇の力では自分が主役として存在感を放つことができないと感じて反論。
それを聞いてスラッシューは闇の力の良さがわかっていないと考えたのか。クスリと微笑むと白石へと補足説明する。
「ふふっ、確かにそう思うかもしれないわ。……だけど、案外気持ち良いものよ?それに、闇の力であなたを主役にする事はできるわ。その方法を教えようかしら?」
「ッ!?マジか……それって一体何だ?」
白石は自分が主役になれるのなら何でも良いとばかりに聞いてはいけない悪魔の言葉に耳を傾けてしまう。
そして、そんな彼を待ち受けていたのは当然ながら自らの精神を闇の中に閉じ込められて怪物と化する物だった。
「あなたの闇……頂くわ」
スラッシューは白石の中に存在する闇を使用するために掛け声を言う。それと合わせて彼女は白石の持っている闇を示す黒いリボンの所に直接ワームホームを生成。そのままリボンを掴むと引き抜いてしまう。
「うわぁああっ!?」
白石の持っていた闇の黒いリボンがスラッシューの前に出てくるとそのままスラッシューは闇を解き放つ言葉を言い放つ。
「光を切り捨て、闇へと呑まれなさい」
そのまま黒いリボンが解かれてしまうと白石は闇の中に力が閉じ込められてしまう。同時にスラッシューはダークランダー召喚用の赤い水晶を持ち、彼女はダークランダーを呼び出す。
「現れるのです、ダークランダー!」
「ダークランダー!」
スラッシューによってダークランダーが召喚されてしまうと今回の個体は先程まで白石が勇者役を演じていた事もあってか、手に勇者の剣を武装しており。背中にはマントも装着していた。これにより、勇者風のダークランダーが出現。
そして、スラッシューはこのダークランダーを見ながら笑みを浮かべる事になる。
「ふふっ、あなたのお望み通り主役にしてあげるわ。……ただし、世界をクラクラの真っ暗闇にするための……だけどね」
こうして、キッスが危惧した通りに影人以外のアイドルプリキュアを別場所で引きつけた上で影人の近くでダークランダーを召喚してしまう事になる。
また次回もお楽しみに。