キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
〜回想〜
アイドルプリキュアの三人とスラッシュー達が戦う前日……時間はキュアキュンキュン誕生の少し前。マックランダーの登場を知った影人は現場に走っていた。
「こんな時にまで出てきやがって……」
影人が急ぐ中、そんな彼の前へといきなり何かが降り立つとその影は影人へと声をかける。
「ふふっ、初めましてね。黒霧影人君。私の名前はチョッキリ団所属の孤高の歌姫……スラッシューよ」
「ッ!?スラッシュー……だと?ってか何で俺の名前を知ってるんだよ!」
影人は目の前に現れた影、スラッシューに困惑した言葉を返す。影人からして見れば彼女は初体験。そのために彼女も自分を知ってるはずが無いのだ。
「あなたもチョッキリ団の中ではちょっと有名になってるんですよ。特に真っ暗闇な世界を作る上でのお邪魔小僧としてね?」
「何だよそれ……。俺達に迷惑行為を散々やっておいて逆恨みかよ」
影人が呆れたような声色をする中、スラッシューはクスリと笑うと影人の前にスッと出てきて彼を顎クイする。
「ふーん。やっぱりあなたには素質がありますね。チョッキリ団幹部として私の隣に立つには十分な闇よ」
「……は?ふざけんな、俺はそんな事やるつもりは無い!」
影人はスラッシューの手を払うと彼女は余裕そうな顔つきで彼へとある問いかけをする。
「そう?……あなた、“想い人に嫌われたこんな世界なんて真っ暗闇にしたい”そう思ってるでしょう?」
「ッ!?それはお前の勝手な思い過ごしだ。……どこまで俺の事を知ってるかは知らないけど、俺はそんなつまらない理由で世界を真っ暗闇にするなんて望まない」
「ふーん?思っていたよりは真面目ちゃんね。……まぁ、でもその想い人を戦いに巻き込んで彼女に嫌われた。そんな絶望をあなたから感じられますわよ。……そんな精神状態で戦いに行くって、自殺でもするつもり?」
「煩せぇ……。お前なんかにわかってたまるかよ。俺は、俺はこころの事を守れなかった……。アイドルプリキュアの本当の正体なんて知られたく無かったんだ!こころの夢を、グチャグチャになんてしたく無かったのに」
影人は自らへの苛立ちを強くすると己の後悔を吐露する。そんな彼を見たスラッシューは更に笑みを浮かべた。
「更なる闇の感情の上昇……。適正値はとっくに超えてるみたいね。早く融合させろって騒いでるし」
スラッシューは自らが所持しているブローチが早く影人と一つになりたいと騒いでいるのを感じる。そして、そんなスラッシューは影人へと問いかけた。
「ねぇ、あなた。私達と来ない?あなたの力は私も買ってるの。あなたとなら全ての光を奪い、クラックラな真っ暗闇の世界を作れるわ」
「お断りだな。俺は、これからも協力者としてアイドルプリキュアをサポートする」
「あらそう?……でもね、あなたに拒否権なんて無いのですわよ!」
その瞬間、スラッシューはローブを脱ぎ捨てると歌姫としての衣装を露わにする。影人もスラッシューが完全に自分に敵対したと判断して構えを取った。
「生身相手に最初から手をあげるのは私も気が引けるけど……。でも勝負は勝負よ?」
スラッシューが手を振ると熱線が斬撃波として飛び出す。影人が慌ててバックステップで後ろに飛び退くと影人が今いた場所が焼き切られるように燃えてしまう。
「熱線による斬撃……。それがお前にとっての何かを切るという行為か」
影人はスラッシューの得意技が熱による切断だと瞬時に理解すると周囲を見やる。この辺には熱線で切れなさそうな硬い障害物は無さそうだった。
「遮蔽物無しかよ、鬼畜条件じゃねーか!」
スラッシューはすると容赦無く生身の影人へと突撃してくると影人へと拳を突き出す。
「くっ!?」
影人はしゃがんで何とか回避するも、今度はそこを狙ったようなローキック。影人は咄嗟に防御するものの抑えられる訳がなく吹き飛ばされて壁に激突すると激痛を感じると同時にむせてしまう。
「ゲホッ、ゴホッ……」
「安心してください。ちゃんと手加減はしてますわよ」
「ッ……」
スラッシューがゆっくりと歩く中、影人は何とかめり込んだ壁から抜け出すともうその時点でスラッシューは目の前にいた。
「影人君、もうわかっているんでしょう?」
「煩い……」
「今のあなたじゃ……」
「煩い!」
「大切な想い人の夢さえ守れないって」
スラッシューの言葉は影人の心をどんどん追い詰めていった。そして、それと同時に影人の心にある感情も芽生えてしまっていたのだ。
「あなたの中に眠っている力、それは世界を真っ暗闇に染めるための力よ。あなたに光の力なんて扱えないわ」
「そんな訳あるかよ……。俺は、俺は」
「私にはハッキリわかるわ。それに、アイドルプリキュアになるためのブローチだって拒絶しちゃったんでしょ?他の誰でも無い自分の意思で」
そう、こころが窮地に陥ったあの時。確かに自分はアイドルプリキュアになるための資格を得た。だが、自分を認めてくれたアイドルハートブローチを跳ね除けてしまったのは……他の誰でも無い自分なのだ。
「認めるべきよ。あなたにアイドルプリキュアの資格なんて無いわ」
その言葉に影人は苛立ったように歯軋りする。影人はスラッシューへと苛立ちのままに拳を突き出すとその腕には黒い闇が纏われていた。
「ッ!?」
「良いパンチですね。……あなたに似合うのはやっぱりこっちよ」
スラッシューはどれだけ影人が否定しても彼を勧誘するのを止めようとしない。それどころか影人の闇の力をどんどん引き出してはうっとりと見入っている。
するとそんな時、少し離れた場所から紫の光が遠くに輝くのが見えた。影人はそれを見て何かを察してしまう。
「あ……あぁ……」
「覚醒したみたいね。アイドルプリキュアの三人目が」
影人はその紫の光を見てこころの事を連想した。いや、してしまう。あの光の元にプリキュアに目覚めたこころがいる。そんな風に思えてならなかったのだ。
「もうあなたは想いを寄せるあの子と同じステージにいない。むしろ、今度はあなたが守られる事になる。……情けない話ですわね」
影人の胸はドクンドクンと高鳴ると己の中に眠っていたバイオレットのエネルギーは、光に寄っていた力はどんどん黒く……闇に染まっていくのを感じた。
「黙れ……」
「あの時アイドルプリキュアの力を受け入れればあなたが守れたはずの想い人。それなのに……立場逆転ね」
「黙れよこの野郎!!」
影人は散々煽られたスラッシューに対してブチンとキレるとスラッシューに受け止められた拳を引っ込めてからすぐにまた逆の手による拳を繰り出す。
「はい、さようなら」
その瞬間、影人の真下に浮かび上がった魔法陣のような物から影人の体への凄まじい痛みと共にエネルギーが襲いかかる。
「がああああああああ!?」
そのまま彼の体はボロボロになると崩れ落ちて倒れ伏す。そして、少しの間スラッシューの声が聞こえたかと思うと激痛と共に意識は暗転した。
それから影人は何もできない自分を呪い続ける事になる。ブレイクとして洗脳されている間もブレイクの視界や動きは共有していた。ただ、自分に自由は無いというのと、外の声は内部にまで入っては来ず。自分の無力さを呪うことしかできなかった。
「(俺は、自分の弱さに負けてこうなった……。多分俺の体を乗っ取っているコイツはこころを、皆を襲う。そうなったらきっと、俺はもうあそこには戻れない)」
影人の心は完全に絶望の気持ちばかりであった。……それでも、自分の姿をしたブレイクがアイドルプリキュアを襲うそんな中でも。うた達は自分を信じてくれていたのだ。そしてこころは……。
〜現在〜
「違います!私、カゲ君の事が私の眼中に無いなんて事……久しぶりに会えたあの日から一度もありません!」
「(え……)」
ブレイクと戦いながら、キュンキュンが必死に呼びかける度に彼女の言葉は心の中に封印されていた影人へと届いていた。そして、それを聞いた彼は耳を疑う。
「(こころ、何言ってるんだよ……。俺の事なんて眼中に無いんじゃ無いのかよ……)」
「私にとっての一番の憧れは初めて会えたあの日からずっとカゲ君です。アイドルプリキュアになりたかったのも、カゲ君の隣にいたかっただけなんです!でも、ずっとカゲ君は私の先を走ってて。あの時心が折れてしまったのは……それが理由なんです!」
こころの本音を聞いた影人は頭にまた冷水をかけられたように困惑すると同時にある感情が湧いてくる。
「(俺、何考えてたんだよ。こころにとって俺が眼中に無いだなんて……。そりゃあ、傷つくよ……。俺がこころの気持ちをもっと早くちゃんと理解してたら。こんな事になんてさせなかった)」
それからキュンキュンとしての変身を維持できないぐらいに痛めつけられて体に無数の傷を負ったこころは痛みに我慢しながら影人へと優しく語りかける。
「カゲ君、私……大好きなんですよ?こんな風になっても、私はカゲ君を嫌いになんかなったりしませんよ?」
「(ダメだ……。そんな事言われたら、俺も黙ってるわけには……いかないじゃん)」
それから影人は必死に抗った。そして、こころにトドメを刺そうとしたブレイクの右腕を何とか動かせるようになった左腕で止めたのだ。
「止めろ……俺がしたいのは……俺がしたいのはこんな事じゃない!」
ブレイクが……いや、影人がそう言うとバイオレットカラーになっていた彼の左の瞳が影人の色である暗めの青になっていた。
「カゲ……君?」
「こころ、ごめん。俺のせいでこんな辛い気持ちにさせて……。俺、ずっとこころの気持ちを理解できてなかった。こころが俺のために頑張ってくれたのは……嬉しかった」
「カゲ君……。それって本当ですか?」
「嘘なんかじゃねえよ。俺も、こころの事が大切で、大事で……。その、大好きだ」
「ッ!?」
その瞬間、こころの胸が温かくなると同時に頬がほんのりと赤く染まる。すると影人の人格がブレイクに押され始めたのか彼を抑え込もうとブレイクが抵抗した。
「ふざけるな、そんな甘い感情なんて……俺には要らない!消えろ!」
ブレイクがどうにか影人を潰そうとする中、影人も影人でこころへと話しかける。
「こころ、俺がコイツを抑えておく……。とびきりのお前の歌を、アイドルプリキュアとしての……心のキュンキュンを聴かせてくれ!」
影人の言葉を聞いたこころの胸にはポカポカと温かさと先程ブレイクに奪われてしまったキラキラの力が自分にとめどなく湧き上がってくるのを感じた。
「……はい、カゲ君。少し我慢していてください。私が、カゲ君のキュンキュン……いいえ、心のメラメラを取り戻します!」
その瞬間、こころは溢れ出す光に包まれると再びアイドルプリキュアへ、キュアキュンキュンへと変身する。
「キミと踊る、ハートのリズム!心キュンキュン、キュアキュンキュン!」
キュンキュンが名乗るとブレイクはどうにか立て直すために離脱しようとするが、それを影人は許さない。
「行け、キュンキュン!」
するとキュンキュンは浄化技のための領域を展開。それと同時にアイドルハートインカムを装着する。
「クライマックスは私!準備はオッケー?」
『ハイ!ハイ!』
それと同時にブレイクはライブ空間のお決まりで強制着席させられた。何とか彼は拘束から抜けようとするものの、影人の抵抗のせいで上手く抜け出せない。その間にライブの曲が始まった。
♪決め歌 ココロレボリューション♪
「ねえ、キミも!かわいーな♪(キュンキュン!) かっこいーな ♪キュンキュン!)完全同意にアガるテンションコーレスプリーズ ♪(イェイ!)とびきりキュンキュン響かせて〜踊ろっ♪(Let's dance!)もう1回♪(キュンキュン!)アンコール♪(キュンキュン!)完全ダイスキハイなステップがナンバーワン!もっと夢中になれるね〜♪こころビート〜yes!キュンキュン♪……プリキュア!キュンキュンビート!」
そのままブレイクへと命中した紫の光が彼を浄化するとその姿が元の影人へと変わっていく。
それと同時に影人に入れられた四芒星のブローチ型アイテムが出てくるとそれが光を纏って闇の黒からバイオレットカラーへと変化。そして、装填されていたリボンは一度消滅するとリボンが解かれて飛び出した結ばれる前のリボンとして影人の中に取り込まれるのであった。
「はぁ……はぁ……カゲ……君?」
キュンキュンは影人を助けるための技に全ての力を注いだのか、疲れ切って息切れする。それでも彼女は横たわる影人の元に駆け寄ると彼の顔を覗く。
「ん……」
すると影人は割とすぐに目を覚ました。そして、その瞳はちゃんと赤と青のオッドアイ。つまり、完全に人格が戻ったのである。
「カゲ君!」
「そんな風に心配しなくても、俺はちゃんと無事だ。……助けてくれてありがと、こころ」
影人がキュンキュンの頭に優しく手を置いて撫でるとキュンキュンは嬉しさと恥ずかしさでまた顔が赤くなった。
「い、いえ……私は当然の事を」
「それでもありがとう。それと、ごめん。俺はキュンキュンの事を過保護にし過ぎてた。キュンキュンの気持ちもちゃんと理解できてなくて」
「……そんな事無いですよ。カゲ君はこうしてちゃんと私に向き合ってくれてるじゃないですか」
それから二人が短いものの、数日ぶりのまともな会話を交わすと轟音が聞こえてくる。アイドルやウインク達の戦っている方だ。
「……ここからは俺に任せろ。キュンキュンはさっきまでので体力の消耗が激しいだろ」
「ッ!?でも、カゲ君はプリキュアじゃ無いのに……」
「いや、……今なら俺も戦える。そう思えるくらいに力が湧いてしょうがないんだ」
「えっ……」
「これはキュンキュンが俺に光を与えてくれたからだと思う。……だから俺も行ってくるよ」
その瞬間、影人の胸から今度は眩い色合いのリボンが出てくるとそれが結ばれてプリキュアリボンへと変化。キュンキュンはそれが意味する事を理解して驚く。
「カゲ君、それって……」
「ああ。……眩い光を受けて、俺の影という個性はもっと深い力を得る。だから、俺の影の力をもう闇に染めたりなんてしない。この力で、俺は世界をキラキラにしてみせる!」
影人は決意を胸に先程ブレイクの時に使っていたブローチが変化した物。アイドルキラキラブローチを構えると一度深呼吸。そして、彼は自らを変えるための光を浴びる事になるのだった。
また次回もお楽しみに。