キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
数学の小テストが終わってから少しして。黒霧家では夢乃が影人へと後ろからハグをする形になるとある事を彼へと話していた。
「ねーえ、お兄ちゃん」
「……何だよ?」
「アイドルプリキュアのCDって無いの?」
「……急にどうした」
妹からの急な話に影人は目を細める。彼としても今まで言ってこなかった事を急に言われれば困惑するのだ。
「だってさ。ネットであんなに大バズりしてもう今や世間的な人気アイドルになったアイドルプリキュアが歌ってるあの曲、誰もフル音源持ってないってどうなの?って感じなんだけど」
「………」
影人はそんな言葉を聞いて何となくそれに共感はする。何しろ、あれだけ世間の話題を攫った上に名前を知らない人の方が少なくなりつつある人気グループのアイドルプリキュア。その魅力的な曲のフル音源が入ったCDやサブスクでの配信が全く無いというのは確かに世間からしたら違和感大アリだろう。
「夢乃はもしそれがあったら聴きたいのか?」
「当たり前じゃん!むしろ、ドリーム・アイの配信で歌いたい!それどころかコラボしたい!」
「……コラボは却下」
「ええー!?何でよ!お兄ちゃんだったら約束くらい取り付けられるでしょ!ねーえ!お願い!お願い!」
「アホか。相手はマネージャーとかもちゃんといて世間で大バズりして忙しいアイドルプリキュアだぞ?それにドリーム・アイはVtuber業界の中で見たらそれなりに登録者はいるけど、まだ50万にすら達してない全体順位300位前後のまだまだ有名どころの中では弱い方。そんな人じゃ相手にすらしてもらえない」
影人はそんな風に言うが、内心ではこれに付け加えで夢乃をこれ以上アイドルプリキュア関連の事に巻き込みたく無い気持ちが強い。この前自分が洗脳された時に一度夢乃はマックランダー化されてしまっている。そんな事態にしないためにも断固としてコラボしたく無い気持ちにかられているのだ。
「むーっ!だったら、登録者を今の五倍くらいに増やせたら良いって事だよね?」
「お前簡単に言うけどな……」
「……わかってるよ。今の私じゃ力不足だって……。でも、そのくらい憧れなの。アイドルプリキュアとコラボして配信するのが。お兄ちゃんは他人とのコラボなんていつも言う通り嫌がるかもだけどさ、それでも私はアイドルプリキュアさんは絶対に信頼できる気がするの」
夢乃は急に暗い声色になって俯くと悔しそうな顔つきになる。彼女も重々承知してるのだ。今の自分、ドリーム・アイではアイドルプリキュアとのコラボどころかその相手としてすら見てもらえないと。それだけの差があるとちゃんと自覚してるからこそのこの言葉だった。
「お兄ちゃん、私……諦めないから。アイドルプリキュアみたいになれるように、あの人達とコラボできるくらいに有名になってみせるから!」
「……わかった。じゃあ、俺の方もそれなりのアプローチはやってみる。でも、俺のアプローチが全部正しいというわけじゃない。あと何年かしたら夢乃も自分で考えられるようになるはずだから、その方法も試してみよう」
「ありがと、お兄ちゃん。……それとごめんね、私の事ばかりに引っ張らせちゃって」
「……別に。夢乃が頑張るって言ってちゃんと行動するなら俺はそれを手伝うだけ」
夢乃は微笑むと影人へと抱きつくように押し倒すと影人へとまだあどけなさの残る笑顔を向けるのだった。
「そうやって頑張ってくれるお兄ちゃんが私大好き!」
「……せめてその過度なスキンシップを抑えてもらえるともう少しこっちは楽なんだけどな?」
それから夢乃がいなくなると影人はスマホを出してとある人物に電話を繋ぐ。その人物は少しして電話に出てくれた。
「……お前に頼みがある」
『へぇ、そっちから積極的に連絡くれるのは珍しいじゃん。影人』
「色々忙しいのに悪いな、レイ」
どうやら影人が電話先に選んだのはレイのようだ。そして、レイはこのタイミングでの電話の用件を聞く。
『で、お前から電話したってことは何か重要な話か?』
「ああ。……お前に頼んだのもこのためだ」
それから影人がその用件を話すとレイは電話の向こう側でニッと笑みを浮かべる。
『なるほどね。影人、丁度タイミング良くそこに目をつけるのは流石って所だな』
「褒めは要らねぇよ。……で、現実的に行けそうなのか?アイドルプリキュアの曲のCDを出すのは」
影人はレイへと問いかける。影人がお願いしようとしたのはアイドルプリキュアのCDの件である。何だかんだ言いつつも夢乃の要望に応えようとする辺り、影人の優しさが出てくる話である。そして、レイは影人からの問いに答えた。
『……本当はサプライズで言うつもりだったけど、結論から言うと可能だ』
「マジか!?」
『実はこの少し前から田中さんの方に依頼が入っててな。レコード会社経由で正式な話も来ている。一応ピカリーネ様と契約してるうちの父さん……社長の方もゴーサイン出してるからあとはお前ら本人に伝えるだけって所だったんだよ』
レイの口ぶりを見るにもうそれなりに話は纏っていたのだ。影人としては丁度欲しかったタイミングで相談したらもうほぼその辺りの話は既についていたという事になる。
「レイ、色々ありがとうな」
『別に良いって事よ。……その感じだと夢乃ちゃん辺りにねだられた?』
「まぁな」
『お前も何だかんだでシスコン兄貴ってわけか』
「誰がシスコンだ」
そんな風に軽口を言い合ってから電話を切ると影人は安堵の顔つきを浮かべる。これなら夢乃を悲しませる事にはならずに済みそうだと。
「……ただ、正直コラボの方はなぁ……」
影人としてもやりたいか、やりたくないかを問われればやりたい気持ちもある。ただ、それをすれば確実に夢乃にアイドルプリキュアのやってる活動の本当の意味を知らせないといけない。それを今すぐに言うのは気が引けているのである。
「ひとまずそれの覚悟が決まるのはもう少しかかりそうだな」
影人はそう呟く事で意図的にその話題を頭の中から消す事になるのであった。
それから少しして、学校終わりの放課後の事。一旦家に戻ってから私服に着替えた影人達は田中が住んでいるキラキランドの出張所で集合していた。その場に揃ったのは影人、うた、なな、こころ、プリルンにいつものスーツ姿の田中である。尚、レイは例によって来れなかったらしい。
「わぁ……ここがアイドルプリキュアの事務所ですか!?」
「ううん。キラキランドの出張所だよ」
「そういや、こころがここに来るのは初めてだったか」
前に訪れた時はまだこころがキュンキュンとして覚醒する前だったため、彼女はここには来なかったのである。
「今日は大切なお話があってこちらに来ていただきました」
「「「……?」」」
田中の言葉を聞いてうた達三人は首を傾げる。ただ一人、影人はその話を事前に聞いて知ってるので割と平然としたままの顔つきであった。
「皆さんが歌っているあの……う・た・が!CDになる事が決まりました!」
「「「……ええっ!?」」」
「レコード会社からそれぞれの曲をレコーディング。一枚のCDにしたいという依頼があったんですよ」
「へぇ……そうだったんですね!」
「凄い!!」
「こうなると本当のアイドルみたい……」
三者三様の反応が見られる中で、影人も一人で先にその話を聞いて知ってはいたものの、改めて話を聞いてようやく実感が湧いてきた形である。
「プリ!レコーディングって何プリ?」
「私達の歌を録音するんだよ」
「プリ〜!」
「皆さんの歌がCDになるなんて……嬉しすぎます!」
するとこころは嬉しさのあまり、自身の周囲にキラキラとしたオーラのような物が出てきた。それだけ彼女自身も待ち望んだ事なのであろう。
「何言ってるんだ、こころ。あと一人忘れてるだろ?」
「え?」
「こころもレコーディングするんだよ!」
「あれ?」
「キュアキュンキュンの曲もレコーディングしなきゃだからね!」
その言葉を聞いてこころは“ハッ”とすると自分自身もその対象であるということを自覚する事になる。
「あ、そうか!はい!ですね!」
「皆さんならNoとは言わないと思いますし、既にレイさんの実家のサウンドプロダクションの監修の元ですがレコーディングスタジオを用意しました」
「……へ?」
影人がその言葉を聞いて一瞬硬直すると一同は田中に案内される形で奥の部屋へと移動。そこには立派なレコーディングスタジオが既に完備されていた。
「「「うわぁ……」」」
「キラッキランラン!」
「ここでレコーディングするんだ……」
「私、脚引っ張らないように頑張ります!」
そんな風に三人が反応を返す中、まさかの用意の良さに影人は驚きが隠せなかった。
「マジか……。用意良すぎ。……って事はもう昨日の時点で本当に事後報告だけって感じだったんだな」
「レコーディングの日付ですが、今週末にでも早速やろうと思います。時間帯も皆さんの予定が合うタイミングに合わせようかと」
「あ、そのタイミングにレイ君は合いそうなんですか?折角のレコーディングですし、レイ君にも」
「……それは皆さんの予定次第としか言えませんね。彼のタイミングが合わなければ来れませんし」
その言葉を聞いてななは僅かにシュンとした顔になる。やはり実家の件があるとはいえそれで来れない扱いなのは可哀想になってしまうのだろう。
それはさておき、ひとまずこの日は必要事項の伝達だけであったために今回の話はここで終わる事になるのであった。
「カゲ先輩」
「何だ?こころ」
「……その、私。頑張りますから!カゲ先輩が気に入ってもらえるようなそんな歌を録音してもらいます!」
こころは鼻息が鳴るほどに意気込んでおり、それだけ彼女は影人に自分の歌を聞いて欲しいという事なのだろう。
「こころ。意気込むのは良いけど、あまり意気込み過ぎて肩の力を入れ過ぎるなよ」
「はい!」
影人はそんな風に指摘するとこころは元気に返事を返す。そんな彼女の目は燃えており、その心境としては彼氏の影人の前で良い所を見せる事でもっと自分を魅力的に感じてほしいと言った所だろう。
「(うーん。こころ、ちゃんと返事はしてくれたけど……ちょっと不安だな。何事も無く録音できれば良いけど)」
影人はそんな不安を感じたものの、彼女ならそんなに気にしなくてもしっかりやり切れると考えると特にそれ以上は踏み込まないようにするのだった。
〜おまけ〜
影人がキュアソウルになれるようになってお泊まり会をした少し後。こころと二人きりの時にて。
「名乗りの時のポジション?」
「はい。次からカゲ君も一緒に全員で名乗るのでポーズを取る時のポジションを決めた方が良いかなと」
「いや、それって成り行きで良い物じゃないのか?」
「いえ!カゲ君の魅力をもっと伝えるために重要な事です!」
「………」
こころの熱意に押された影人はひとまずこころからの話を聞いてみる事にはした。
「それで、こころの考えは?」
「はい、私はカゲ君は私の左側に入ってもらいたいです!」
「……って事は並びは右からキュンキュン→ソウル→アイドル→ウインクって感じか?」
「その通りです。カゲ君……キュアソウルのキラキラを魅せるなら外側では無く内側が最適だと思ってます!」
その言葉を聞いて影人は僅かに悩む。自分はアイドルプリキュアの中では一番後に出てきているので、そんな自分がこころに薦められたからと言って勝手にそんな主張はできないと反論する、
「こころにだって魅力はあるだろ。俺が二人の許可も無しに勝手に内側にはいるのは気が引ける」
「問題ありません!お二人には許可を貰ってます!あとはカゲ先輩が承諾するのみです!」
「いや、やっぱ準備早過ぎだろ……」
影人はこんな時のこころの準備や用意の早さは凄まじいと考えていた。それと同時に恐らく自分には拒否権が無いのだと察する。
「……あのな?こころ。俺は無理に内側に入らなくても良いって思ってるんだぞ?こころが内側が良いなら別に……」
「嫌です。私はカゲ君に内側にいてほしいんです。これが私の本心なんですよ!」
こころの気持ちは固く、どうしても先程話した並び順が良いらしい。影人は自分が内側に入る事への遠慮こそあったものの、こころの気持ちを蔑ろにはできないとその言葉を受け入れる事にした。
「わかった。こころや皆が同意してるならそうするよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
こころは嬉しそうに喜ぶと影人の腕へと抱きついてくる。ここ最近、こころは前にも増して二人きりの時は体の密着を遠慮しなくなったと影人は考えていた。恐らく理由はお泊まり会の布団でのあの一件が関わっていると考察しつつも、この状況に居心地の良さも感じるのであった。
また次回もお楽しみに。