キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
レコーディングから数日が経過した放課後の時間。こころがアイドル研究会での活動をするために廊下を歩いていると一人考えていた。
「CD楽しみ……だけど、私……もっと頑張らないとなぁ」
それから研究会のある部屋の扉に張られたポスターを見てこころは違和感を感じる。
「……あれ?」
「こころ、どうしたんだ?」
そこに来たのは同じく研究会の活動のためにやってきた影人である。最初こそあんなに活動への参加を遠慮していた影人だが、こころがアイドルプリキュアになって覚悟を持って活動しているために彼も踏ん切りがついて積極参加するようになったのだ。
「カゲ先輩……その、私が知らない間にポスターにキュアキュンキュンとキュアソウルがペンで付け足してあって」
そこには“キュアアイドル&キュアウインク研究会”という文字と二人の顔が印刷されたポスターの所にしれっと黒ペンで&キュアキュンキュン&キュアソウルという文字が書き足されていたのだ。
「ああ、これなら確か俺のクラスの……」
「そう!付け足したのは私だよ!」
その瞬間、こころの背後に眼鏡の眼光が見えるとこころは恐怖の余り寒気がすると驚いて慌てて振り向く。
「うえっ!?みこと先輩!?びっくりしたぁ……」
「東中さん、キュアキュンキュンやキュアソウルに興奮するのはわかるがその声の掛け方だと会長もびっくりするだろ」
「そっか、驚かせたのはごめんね」
「それはそうとこの字みこと先輩が?」
「うん!キュアキュンキュンもキュアソウルも見てて凄くキラキラしてて、二人共推せるなーって!」
そんな風にキュンキュンとソウルの事をニコニコで話す東中、そんな中キュンキュンの正体ことこころは東中に対して厳しめな目を向けた。
「……キュアソウルの方は研究対象としても良いですが、キュアキュンキュンはまだまだです!研究対象外ですよ!」
こころはそう言って自分への戒めの気持ちも込めた上で東中の提案を切って捨ててしまう。
「(こころ、相変わらず自分に厳しいなぁ……。これ、下手したらキュアキュンキュンにとっての一番のアンチは自分自身になるかも。てか、俺はオッケーなのか?)」
影人がそんな風に考える中、東中はキュンキュンの方を否定されたため、こころへと聞き返す。
「えー?研究したいなぁ。キュアキュンキュン可愛いし!それに折角キュアソウルを推すならキュンキュンも一緒に推したいの!」
「……それはどういう理由でですか?」
「他の部員の皆も話しているんだけど、キュンキュンとソウルってイメージカラーがライトパープルとバイオレットで同じ紫系統でしょ?二人はベストコンビって感じがして良いと言うか……。二人が並んで歌を歌ってる所とか想像したら興奮が収まらなくて」
その言葉を聞いてこころは気恥ずかしさを感じるのか僅かに顔が赤くなると影人をチラリと見る。影人もそんなこころへとボソッと返した。
「俺も言われてて恥ずかしいのは一緒だが、今は抑えろ。ここでバレるのはヤバいからな」
「は、はい……」
二人が東中に気づかれないように話していると彼女はある事を口にし、こころはそれに目を見開く。
「折角だから二人にも直接会ってみたいなぁ〜」
「え?」
「こころちゃん……会長にはまだ話して無かったけど、私……前にキュアアイドルと会った事があるんだ」
「うええっ!?」
前の影人の初めての研究会でもあった内容のため詳しくは割愛するが、東中はキュアアイドルとなら直接会った事がある。その時の心境をこころへと熱く語った。
「いきなり名前呼ばれちゃって、凄っごくビックリしたんだけど……凄っごく嬉しかったんだ!」
「……そうだったんですね」
「うん!だからキュアキュンキュンやキュアソウルとも会ってみたいの。できればキュアアイドルと……キュアウインクとも会いたいな〜!今度CDが出るってネットに出てたでしょ?ライブとかイベントとかあるかもしれないね!」
東中がアイドルプリキュアへの熱意を語っているとその言葉にこころは驚きを隠せなかった。自分の知らない間にキュアアイドルと会っていた事実にでは無い。東中は……アイドルプリキュアを知る自分の周りの人間はこんなにも自分達の事を推してくれているのだと。
「さ、研究会をやって今日も推し活頑張ろ!」
「そうだな、会長。皆を待たせる事になっちゃうぞ」
そう言って東中が部屋に入るのを見た後、影人へとこころは問いかける事になる。
「カゲ先輩……その、アイドルプリキュアって皆さんから凄い注目されてるんですね」
「……ああ。ほら、“推しは推せる時に推せ”って言葉もあるだろ?そのくらい今のアイドルプリキュアは皆から現在進行形で推されてるって事。まぁ、アイドルプリキュアには色々秘密もあるし……全部を公表はできないけどさ。こういう推してくれる人への何かお返しができれば良いんだけどな」
影人がそう言って部屋に入るとこころは少しだけその場で考え込み、それから中に入る部員達を待たせられないと今日もアイドル研究会を始める事になるのだった。
その日から更に日付が経って、ある日の夕方。とうとうその日はやってきた。
「「「うわああ……」」」
「凄ーい!本当にCDだ!」
「これが私達のCD……」
「心キュンキュンしてます……」
喫茶グリッターでは完成したアイドルプリキュアのデビューCDをお店のテーブル席を囲む形で座っているうた、なな、こころが手にして興奮しており、そんな三人から少し離れたカウンター席に影人とレイもそれぞれCDを手にした状態でいた。また、田中もカウンターの奥でお店の手伝いをしている状態である。
「あ!グループ名……アイドルプリキュアってオッケーしてくれたんですね!?」
「……ま、まぁ。正体がバレるわけでは無いので」
「こんな風に言ってるけど、田中さん。最初は下手にアイドルプリキュアの名前を使って皆に悪影響が出ないかかなり心配してたんだけどな」
「れ、レイさん……」
田中はレイに痛い所を突かれたのか普段のクールな声とは裏腹の僅かに上擦った慌てたような声を返す。一応手続きとして、レイの父親である社長や女王様ことピカリーネにも許可は貰っている。
「そういえば、世間にこれ以上広げたって事でモッサモサの刑は大丈夫なんですか?大体的に出したって事はその辺の不安があると思いますけど」
「それなら問題ありません。女王様公認の上ですし、プリルンの時は勝手な無断アップロードによる世間への流出でしたのでモッサモサの刑は適用されました。ただ、もう既に広まった以上はいずれは放っておいても全ての人が認知する事になりますし」
要するに世間への最初の不要因な流出がNG判定と見做されるらしい。それ以降は仮に何もしなかったとしてもネットの拡散力でいずれは広がるという事でそれを早めても特にお咎めは無いという事だ。
また、今回の件で“アイドルプリキュア”という名前を正式に起用した事でこれ以降はバラバラだった四人のユニット名としても定着する事になるだろう。
「田中さんも色々と大変だって事がよくわかる話だな」
「マネージャーも楽じゃ無いって事だね」
「アイドルプリキュア……この名前、本当に……キラッキランラン!」
影人とレイがマネージャーとして色々酷使されている田中を見てその苦労に同情すると同時に彼のマネージャーとしての能力の高さを改めて知る事になるのであった。
「あの!」
するとそんな中、こころが何かを思いついたのか一人立ち上がると影人達へとある提案をする事になる。
「握手会……やりませんか?」
「「握手会?」」
「プリ?」
握手会とは、アイドルがファンと握手をするイベントの事である。普段のライブ等のイベントではアイドルとファンはステージと観客席という大きな隔たりのある位置関係にいる事が多い。ライブの中では花道をアイドルが移動する事で瞬間的にファンの近くに行く事こそあるが、基本的には直接ライブ等のイベントで会う際もどうしても離れた場所にいる事が多いのだ。
ただし、握手会をやっている際は例外として普段は物理的に距離が空いてしまうアイドルとファンがテーブルを挟んで目と鼻の先。つまり、すぐ近くで触れ合う事ができる。その時間はほんの僅かと限られているものの、ファン達とっても滅多に無い推しのアイドルを間近で見て触れられる貴重な機会となるのだ。
「にぎにぎプリ?」
そんな解説を聞いてプリルンはななの手を握っているとこころは更に熱弁する。
「アイドルとファンが直接会える滅多に無いイベントなんです!実は、みこと先輩がそういう機会があったら良いなって言ってて……研究会の皆に聞いたら会いたいと言われまして」
「あの時はこころの座ってる机の方にまで全力でその場にいた全員が寄ったからなぁ……」
尚、影人もその場にいたのであの時の部員達のマジの目を見てアイドルプリキュアに対する気持ちの強さを感じ取っていた。
「そうなんだね!」
「CDリリースの記念に、丁度良いと思うんです!」
「……そういう事でしたら、やるとなれば必要な物は準備しておきましょう」
「田中さん、俺も微力ながら手伝いますよ」
レイと田中の方は握手会に先立って必要な準備を二人でするという話があっという間に纏まり、現実味の方も十分に帯びてきた。
「良いね!来てくれた人達を、キラッキランランにしちゃおう!」
「少し緊張しちゃうけど……喜んでもらえるなら!」
「俺達を推してくれてる人達のためにできる事が早速見つかった事だし、俺もちゃんと応えないとな」
影人、うた、ななからも同意を得られたこころは握手会が完全にできる方向に傾いたために頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございます!……それでプリルン、お願いがあるんだけど」
「プリ?」
「……こころ、何やろうとしてるんだ?」
「ふっふっふ……それはカゲ先輩達には秘密です!」
こころには何か考えがあると言わんばかりの目つきをしているために影人は多少の不安は抱きつつも、ここは彼女を信じる事にした。
それから少し時間が経って握手会前日の夜の事。今現在、紫雨家にあるこころの部屋には部屋の主のこころとうたから借りてきたプリルンがいた。
「こころ、本当にやるプリ?」
「やるよ……握手会の特訓!レコーディングも最初上手くできなかったし!今度は頑張って最初から成功させてみせる!」
「じゃあ始めるプリ!」
「お願いします!」
それからこころとプリルンによる握手会の特訓が始まった。一応プリルンがファンの人役をやり、こころがそれに対して握手をする……というのだが。
「プリ!来るプリ!」
「はい!」
「プリ!」
「はい!」
「プリ!」
本来なら握手会の特訓であるならファンとの多少の会話があるためにそちらをやるべきなのだろう。
しかしこころは素早くちゃんと握手するという思考になっているせいか絵面で見るとこころとプリルンの二人がただひたすらに握手しては離す、握手しては離すをテンポ良く繰り返すのみというシュールな絵になってしまっていた。
「キュアアイドルはもっと輝いてる!」
「プリ!」
「キュアウインクはもっとエレガント!」
「プリ!」
こころのブレーキは最早止まらなかった。特訓に夢中なのは良い事なのだろうが、行く方向を完全に間違えた暴走車モードに入ってしまったのだ。
この場に影人がいたら全力で止めた上で色々とアドバイスをあげただろうが、生憎今ここに彼はいない。
そのためこころとプリルンによる握手会の特訓(謎)はそれから暫く続けられる事になるのであった。
お気に入り、感想、評価を貰えるとこれからの執筆の励みになります。それではまた次回も楽しみにしてください。