キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜   作:BURNING

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握手会の日の朝 チョッキリーヌ出陣

CDのリリース記念として開かれた握手会当日の朝。黒霧家では夢乃が上機嫌な状態であった。

 

「お兄ちゃん、本当に本当なんだよね?」

 

「だからそう言ってるだろ」

 

「……アイドルプリキュアと握手させて貰えるんだよね?」

 

「ああ」

 

影人からの返しに夢乃の心は踊りに踊っていた。待ち望んでいたアイドルプリキュアのCDを手に入れられただけで無く、直接会って握手ができるという状況がとても嬉しかったのだ。

 

「ふふっ、夢乃ってばとても嬉しそうね」

 

「でもまさか、最初の握手会をこの街でやってくれるなんてな」

 

そこに影人の両親である魁斗や理沙も出てくると二人共ウキウキしている夢乃を微笑ましい顔つきで見ていた。

 

「でも、本当に良かったの?」

 

「何がだよ」

 

「お兄ちゃん、アイドルプリキュアの研究会員なんでしょ?折角会って握手できる機会なのに行かないだなんて」

 

「ああ。俺としても凄い悔しいけど、レイから頼み事を受けたんだ。……友達からの頼まれごとだし、これは仕方ない」

 

この日、影人は夢乃達家族には握手会の事を問われた際に自分は“友達から手伝いを頼まれている”という建前を話していた。影人はキュアソウル本人なのでそれが家族にバレないようにするための工作である。

 

ただ、夢乃からしてみればアイドルプリキュアの研究会に自ら所属して彼女達のファンとなっている兄がこんな推しのアイドルと間近で会えるチャンスを逃すとはとても思えなかったのだ。

 

「本当に勿体無いよ。次はいつ開いてくれるかわからないのにさ」

 

「とは言っても俺も知ったのはレイからの依頼を受けてからだ。今更断るのも不味いだろ。今回は夢乃や父さん達三人で行ってきてくれ」

 

「むーっ」

 

黒霧家は丁度両親が揃ったタイミングに開いてくれたのでアイドルプリキュアの握手会に家族で行くことになったのだ。

 

「わかったよ。でも、後から後悔して色々言うのは無しだからね!」

 

「そのくらいわかってる。夢乃こそ、推しのキュアウインクとの時間を大切にな」

 

「うん!あ、あとそれと……お兄ちゃん、CD……ありがとね」

 

影人が喫茶グリッターで昨日持っていたCD、あれは夢乃へとプレゼントするための物だった。勿論自分用が欲しくなかったのかと言えば嘘になる。だが、影人は自分の分よりも夢乃の分を優先。お小遣いをそちらの方に回したのだ。

 

「夢乃が喜んだのなら何よりだ」

 

自分の分は後回しにしてまで、夢乃の事を考えてCDを買う辺り……彼の夢乃を想う気持ちの強さが垣間見えるだろう。

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

それから影人に見送られる形で夢乃は両親と共に握手会が予定される場所へと歩いていく。三人が去ったのを確認した影人はそっと家から出て一応鍵を閉めると夢乃達が向かう道とは別ルートを使って握手会の会場へと移動を開始する。途中で夢乃達家族と鉢合わせるわけにはいかないからだ。

 

「ほんと、この街に来た時に街の道を全部調べておいて良かった」

 

影人は家族達に見つからないかつ、その中での最短ルートを通ると会場へと移動していく。そして、もうすぐ到着すると言った所で一人歩いていたこころと彼女が抱えているプリルンと会う。

 

「こころ、おはよう」

 

「あっ、カゲ君。おはようございます」

 

今は周りに通行人がいるために厳密には二人きりでは無いが、特段近くに知り合いがいるというわけでは無いのでこころは影人へと恋人モードで話しかけていた。

 

「早く行こうぜ!」

 

「待ってよー!」

 

すると会場に近づいたからか、アイドルプリキュアとの握手会を楽しみにきつつ歩いている人々が増え始める。

 

「……あんなに練習したんだもん。良い握手会にしなきゃ……」

 

「こころ、気持ちを入れるのは良いけどまた気持ちを入れ過ぎるなよ。リラックス、リラックス」

 

「カゲ君はどうしてそんなに普通にしていられるんですか?普通は緊張とかすると想うんですけど」

 

こころは前のレコーディングの時といい、今回の時といい、何故か冷静な顔つきになっている影人を見て疑問を呈する。

 

「……昔の俺だったら、こころと初めて出会った頃の俺だったら緊張したと思う。でも、今は自分が一人じゃ無いってわかってるから。同じ不安を持ってる人が周りに沢山いる中で、自分は周りの人を少しでもフォローできるようにするために落ち着こうって考えたから……かな」

 

それは幼い頃からの影人の気持ちの変化が関係している。幼い頃は自分一人で何とか輝くために必死だったため、それに伴って自分はここで絶対にミスできないと感じて緊張していた。

 

だが、彼はその後一度自分は輝けないのだと知って絶望。そのため、自分が輝くためというより、自分以外の他人を際立たせるフォローをする事ばかり考えるようになった。

 

この考え方はアイドルプリキュアになった今も殆ど変わってない。そのため、平然とした気持ちを保ったままこういう事に臨めるようになったのである。

 

「……結局、俺はまだ前の自分の殻を破れてないって事だ。自分が一生懸命輝くよりも、他人のフォローを気にしてそれで冷静になってるんだからな」

 

そんな風に自嘲するように呟く影人。それでも、こころはそんな影人の手を取る。

 

「そんな事ありません。私から見たらカゲ君は……とっても眩しくて……」

 

その直後。先程二人の横を走って行った男の子と女の子……兄妹と思われる二人の幼い子供のうち、女の子の方が転んでしまう。

 

「わっ!?」

 

「「あっ……」」

 

女の子の痛みのあまり泣きそうになると声を上げ、影人とこころは声をかけた。

 

「うわぁああ……」

 

「大丈夫ですか?」

 

「痛いよぉ……」

 

「もう、みゆってば。勝手に行ったらダメだって、お母さんに言われただろ」

 

「どれ、どこが痛いか見せてごらん」

 

女の子が、影人からの言葉に痛い場所を指差して教えた。すると影人は彼女へと優しくおまじないをかける。

 

「お兄ちゃんに見せてみろ。……良し、このくらいなら……痛いの痛いの飛んでいけー!」

 

すると女の子はそれを聞いて気持ちが多少安心したのか、痛みが和らいだような感覚となる。

 

「……痛いのが……無くなった?」

 

「みゆ、もう大丈夫なのか?」

 

「うん!心配してくれてありがと、お兄ちゃん!」

 

みゆと呼ばれた女の子はおまじないをかけてくれたお礼を影人へと返すと彼女の兄である男の子の方も続くようにお礼を口にする。

 

「みゆを助けてくれて、ありがとうございました!」

 

「みゆ!こうた!」

 

そこに慌てた様子でやってきたのは二人の子の親であった。彼女は勝手に先に行ってしまった息子と娘を心配しており、二人に優しく接してくれた影人達へと頭を下げる。

 

「すみません、私の子供達が……。みゆ、いきなり走ったら危ないでしょ。……助けていただき、ありがとうございます」

 

「い、いえ……私は何も……」

 

「俺も、当たり前の事をしただけですよ」

 

すると影人は女の子、みゆがお団子ヘアにするために付けている二つの紫のリボンを見て声をかける。

 

「……そのリボン、可愛いね」

 

「うん!キュアキュンキュンが大好きで付けたんだ!」

 

「……え?」

 

「俺はキュアソウルが大好きだな!カッコ良いし!」

 

こころはそんな風にキュアソウルとキュアキュンキュンが好きな幼い子達を見て目を見開く。そんな中、二人の母親が優しく話す。

 

「こうたはキュアソウル、みゆはキュアキュンキュンが大好きなんです。勿論私は両方ともですけど……」

 

「ファンなの!」

 

「だから、今日の握手会が楽しみなんだ!」

 

何と三人は家族ぐるみでアイドルプリキュアが……特にキュアキュンキュン、キュアソウルが大好きらしい。みゆの方は紫のワンピース、こうたの方は黒が多めの服を来ているのは自分の推しを意識した服装らしいのだ。

 

「ファン……楽しみ」

 

「改めて、ありがとうございました!」

 

「「お姉ちゃん、お兄ちゃん、バイバーイ!」」

 

「ああ」

 

「バイバーイ……」

 

影人がしっかりと返事を返し、こころがみゆという幼い女の子にファンだと言われて嬉しさがいっぱいになってきていた。

 

「ファン……私の?」

 

「こころは自分の事をまだまだだって話してたけど、そんなこころが……キュアキュンキュンが大好きなファンがいるのもまた事実だ。ファンからの応援を受けたんだからアイドルプリキュアとして応えないといけないな」

 

「……はい!」

 

影人はこころへと話すとこころの方もファンに向き合う気持ちが改めて固められたからか、力強く彼へと頷いて返す。それから二人は時間に遅れるわけにはいかないと会場への道のりを歩く事になるのだった。

 

同時刻。チョッキリ団のアジトではザックリーがダーツを楽しんでおり、彼の投げたダーツは見事ど真ん中に突き刺さる。

 

「ザックリ!いやっふぅーっ!」

 

「……握手会だって?私達がいないからって調子に乗ってるんじゃないの?」

 

「ギクッ……チョッ、チョッキリーヌ様……」

 

ザックリーが喜んだ所にチョッキリーヌからの横槍が入ったため、彼は慌てた様子で彼女の名前を呼ぶ。

 

「そーなんすよ!CD出すだけでもマジか!?って感じなんすけど」

 

ザックリーはアイドルプリキュアが握手会をするという噂を風の便りで聞いてそうチョッキリーヌに報告する中、バーのカウンター席からは爪を切る音が響く。

 

「オマケに握手会とか!ザックリ言えば舐めんなって感じっす!……へ?」

 

ザックリーは流石に先程から鳴り続ける爪切りの音を聞いてカッティーの方を向くと彼は平然とした顔で整えた爪を見ながら声を上げる。

 

「……全くですぞ」

 

「カッティー……?お前、爪なんか切ってお前……ザックリ握手会行く気満々じゃね!?」

 

「これはただのエチケット。情報収集のためにCDを手に入れに行くのですぞ?握手会はただのオマケですぞ」

 

そんな事を言いつつも、爪はメチャクチャ綺麗に整えられている。最早情報収集よりも握手会を優先と言わんばかりの彼の態度にチョッキリーヌが苛立ったように口を開く。

 

「……良いからとっとと世界をクラクラの真っ暗闇にしてくるんだよ!……ただでさえスラッシューに先を越され続けているんだ。アンタ達も少しは成果を上げるんだよ!」

 

「……お任せください。ですぞ!」

 

それからカッティーが意気揚々と綺麗になった爪を見ながら出撃する事になる。彼がいなくなった後。チョッキリーヌは何か違和感を感じるとザックリーへと声をかける。

 

「……ザックリー、そう言えばそのスラッシューはどこに行ったんだい?少し前から姿を見ないけど」

 

「スラッシュー様っすか?……そういや、スラッシュー様は今朝大事な用事があるつって早くから出かけていたっすね。聞いてみたら握手会がどうとか……あ!」

 

ザックリーがそう口を滑らせた瞬間、チョッキリーヌの中で何かがブチンと切れる音がした。その直後、ザックリーは首をギギギという擬音が鳴るくらいに恐る恐る彼女の方を振り向く。

 

「ふぅーん。スラッシューがアイドルプリキュアの握手会にねぇ……。ザックリー」

 

「は、はい!」

 

ザックリーは改めてチョッキリーヌの顔を見るとギョッとする。彼女の目はあまりの怒りにザックリーがまともに凝視できないくらいには怒りを溜め込んでいた。

 

「……もう我慢ならないね。これ以上スラッシューに抜け駆けさせたら私の面子丸潰れ……。こうなったらカッティーだけに任せられない。……私も行くよ」

 

「ちょ、チョッキリーヌ様!?」

 

ザックリーが止めようとするがもう彼女は止まらない。あっという間にその場から出て行ってしまう。こうして握手会に向かうカッティーとチョッキリーヌ。更に既に向かったスラッシュー。波乱の予感が立ち始めた握手会の開始まであと少し。そして、一人留守番させられたザックリーは完全にお気の毒である。

 

「俺以外の三人が全員行くんだったら……ザックリ言って、俺にも出番をくれよ……」

 

そう言いつつも、今の自分にはどうすることもできないので彼はこの日、一人だけ出番無しという事を引き摺ってヤケ酒をする事になるのであった。




また次回もお楽しみに。
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