キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
放課後、学校からの帰り道。そこには影人、うた、なな、こころの四人がいた。尚、レイはいつもの如く早めに帰らないといけない事になったので一人だけ別で帰っている。
「うむむ〜うむ♪うむ、夢、夢〜♪うむ、うむ……夢、夢♪」
「……初めて聴きました。こんなに悩ましい歌」
「うん……」
「いや、普通は悩みとかを歌にする人はいないからな?」
うたがいつも楽しそうに歌っている歌が夢への悩みが原因で、夢がわからなくて悩み中という彼女の心境がよく現れた物へと変化している。こころはこれに驚いていたが、普通はこんな事を歌にはしないという影人からのツッコミが入る。
「というか、歌を歌うのは夢だったりしないんですか?」
「歌手というのは全然夢としてはアリだと思うし、それだったら咲良さんにも十分可能性がある話だと思うけどな」
「……うーん。歌は好きだけど夢なのかな?」
「ふむ、なるほど……」
うたにとっての歌は案外、好きの範疇に留まる程度の感覚なのかもしれない。そのため、夢と言い切るのは難しい所だろう。そんな中でななが提案する。
「そうだ!うたちゃん、お家の喫茶店は?」
「あっ……。それだーっ!!」
うたは探していた答えが見つかったかのように声を上げると嬉しそうにななへと返す。
「そうだよ、そうだよ!私の夢……見つかった!ありがとう、ななちゃん!」
「うん。うたちゃんの夢、ちゃんと見つかって良かった」
それからうたは有頂天になると先に家に帰るとウキウキでスキップをしながら家へと戻っていく。そんな彼女を見送って、影人は呟く。
「……本当にそれで良いのかな?」
「「……え?」」
「咲良さんにとって実家で働く事は自分で決めて、心の底からやりたい事、叶えたい事に当てはまるのかなって」
「どういう事でしょうか?」
影人の言葉にこころが首を傾げる中、影人はそんなこころへと説明をする事に。
「……確かに咲良さんにとって、喫茶グリッターのスタッフとして頑張るというのは良い方向に捉えられる物だよ。……でもそれは、あくまで他人である蒼風さんから勧められてその気になっただけ。夢っていうのは……自分の気持ちがメラメラするような。つまり、心の底が叫ぶがままにその場所に行きたい。その場所を掴み取りたいって思える事をするのが良い気がするんだ」
加えて、今のうたがやってるのはあくまで喫茶グリッターのお手伝い。本格的にお店の経営や運営に参加しているわけじゃない。今はお手伝いという形でも上手く行くだろうが、夢として将来続けていくのなら今のままっていうのは絶対にあり得ないのだ。
「……明日辺り、また悩んだ状態に逆戻りしてないと良いけど」
影人の危惧を他所に喫茶グリッターでは。遊びに来ていた夢乃がはもりと共にきゅーたろうといた。今は夢乃がきゅーたろうに咲良家での躾をやっている所である。
「きゅーちゃん、お手」
「ワン!」
「きゅーちゃん、おかわり」
「ワン!」
「きゅーちゃん……」
「たっだいまーっ!」
「うわあっ!?」
その瞬間、うたがグリッターのお店の戸を開けると飛び込んでくる。うたの声をいきなり聞いた夢乃はビックリしてしまうときゅーたろうには飛び込んで来いというサインに見えてしまったのか、夢乃へと飛びつくとペロペロと頬を舐められ始める。
「あははっ!?きゅーちゃん、くすぐったいって!」
「ワン!ワン!へっへっへっ……」
きゅーたろうの尻尾は夢乃に対して好印象なのか、ブンブンと振られている状態であり夢乃と遊べてご機嫌と言った所である。
「お姉ちゃん……」
「うた先輩、こんにちは!」
「夢乃ちゃん!って、きゅーちゃんに抱きつかれちゃってるね」
この前の影人への抱きつきと言い、今回の夢乃への抱きつきと言い。毎日を過ごしている咲良家以外の人であるこの二人への絶対的な信頼度がきゅーたろうの中に根付いている証拠だろう。
「すみません、こんな状態で」
「あはは……あ、そうそう。早速準備しなくっちゃ!」
「……?」
それからうたは一度居住スペースへと戻ってから制服から着替えをして出てくるとお手伝いをするためのエプロン姿となっている。
「うた先輩、お手伝いするためのエプロン姿だ……」
「お姉ちゃん、今日はお手伝いお休みじゃなかったの?」
「ふっふーん。気持ちが変わったんだよ〜!」
そんな風に上機嫌なうた。夢乃とはもりが顔を見合わせて首を傾げる中、うたは既にお店に来ていた客達への対応を開始する。
「いつもの、お待たせしました!ふんふふっふふーん!」
そんな中でうたが上機嫌に手にした丸いトレーをパフォーマンスとかでよくやるような感じにクルクルと回しながらポーズを決める。
「……どうしたの?お姉ちゃん。今日いつもよりお姉ちゃんって感じ」
「ワン!」
「うた先輩って上機嫌だとあんな事できるんですね……」
夢乃とはもりがキョトンとしたような顔つきになる中、うたは上機嫌を維持したまま話し始めた。
「私ね、将来の夢が見つかったんだ〜!」
そのまま今度は自分が回転するうた。夢乃はそんなうたを見て苦笑いする中ではもりが問いかける。
「夢?」
「そ、お父さんとお母さんと!はもりときゅーちゃんと!一緒にグリッターやる事!」
「そうなんですね!私は……っと、これは言ったらいけないんだった……」
夢乃の方は思わずドリーム・アイ関連の事を言おうとしてその一歩手前で踏み留まるとそれ以上言わないようにした。アイドルプリキュアの件に関わってるうたは兎も角、それ以外の人々も普通にいるので言ってしまえば色々と大騒ぎになるリスクもあったからである。尚、これは運良くはもりに聞かれていなかったために何事もなく話は進む。
「ウチの子、ホント可愛い」
「小さい頃にもそう言ってたもんな」
「へぇ……。うた先輩って小さい頃からずっと言ってたんですね」
「ええ」
「やっぱり〜!これで校内放送のメールを送れる!」
そんな風にうたが言うと彼女はその自信からか、キラキラとしたオーラを放出する。ただ、夢乃はその言葉を聞いて何か引っ掛かるのか首を傾げていた。
その日の夜。黒霧家では夢乃がそんなうたの様子が気になったために、同じクラスメイトとしている兄の影人と話をしていた。
「って感じで」
「……まぁ、そうなるだろうなぁ」
影人はそれからうたが何故そんな風になったのかを説明。夢乃も納得の顔つきとなる。
「なるほどなぁ。うた先輩、なかなか見つからない夢探しの旅って感じかな」
「正直、夢ってそんな風に他人に言われて“ハイ、これにします!”って感じで決める物じゃないって思うんだよな」
「さっすが〜。経験者は違うね」
「……夢乃。何度も言うけど」
「わかってるよ。……ごめんね」
夢乃はついついその場のノリで言ってしまったが、それが影人にとって逆鱗を踏む行為だとわかってすぐに謝った。
「でも真面目な話さ。……お兄ちゃんも新しい夢や目標。探したら?……案外上手く行くかもよ?」
「俺が夢?目標?……馬鹿な事言うな。俺がそれを見つけたってどうせ無理なんだ。それに、アレの代わりなんてそうそう見つからない」
「そっか……。そうだよね。あの時以上にお兄ちゃんが情熱を持って打ち込んだ物……無いしね」
それだけ影人はその事に情熱を持って真剣に……本気で打ち込んだのだ。そして、彼はその夢を叶えるのが絶望的になったと感じて……心が“ボキッ”と音を立てて折れてしまった。
「あの時のお兄ちゃん……見てられなかったよ」
「ああ。あの時は本当に迷惑をかけた……」
影人は夢乃相手に申し訳なさそうにそう言う。影人は当時、全てを賭けて頑張っていた夢が叶わないと……。夢はどれだけ頑張ってもただの夢で終わってしまう物だと感じ取ってしまうと……そのまま燃え尽きて堕ちてしまった。
それ以降、影人の心は荒みっぱなしだった。特に、当初は学校でも荒れるとクラスメイト達に素っ気ない態度を取り続けるようになってしまう。その結果、元々少なかった交友関係は皆無になった。加えて、クラスメイト達から向けられるのは冷ややかな視線ばかりになってしまう。
彼の荒れ具合からいつ不登校になってもおかしくなかった。だが、そこは家族の支えもあって耐え切るとどうにか普通に過ごせるようになった。ただ、その際に夢乃や両親には沢山の迷惑と苦労をかけてしまったが。
「……あの時みたいになるのは二度と御免だ。……だから、俺はもう夢を見るつもりはない」
影人がそう言い切るとそのタイミングでスマホが震えるとレイからの通話だった。
「悪い夢乃、レイからだ」
「ん。わかった。……お兄ちゃん、私のために頑張ってくれるのは嬉しいけど、無理だけはしないでね……」
影人は夢乃の言葉に小さく頷くと彼女は部屋を出ていく。残った影人は電話に出る。
「もしもし。レイか?」
『ああ。……っと、言いたいけど。……すぐに代わらないといけなさそうなんだ』
「は?何でだよ」
『……ウチの社長がお前と直接話したいって言ってる』
その瞬間、影人の顔が凍りつく。それはつまり、サウンドプロダクションの社長にしてレイの父親からの連絡という事だ。
「待て待て。そういう大事な連絡って俺よりも両親を通すものじゃないのか?」
影人はレイの言ってることの意味を飲み込むと困惑したような顔つきとなる。夢乃の事で話すのなら普通は自分よりも両親を通すべきなのだ。何しろ自分は夢乃の保護者にはなり得ないからだ。
『俺もそう思う。でも社長はお前と話したいと』
「……わかった。話してみる」
『影人、もし無理そうだと思ったら上手く言いくるめて話を終わらせろ。正直、ここから先。俺はお前への援護はできないからな』
「わかってる……」
それからレイは部屋を移動したのか、扉をノックしたような音が聞こえると電話越しに音が鳴るとスマホが別の人に手渡される音がする。
『もしもし。君が影人君だね?』
その声色は穏やかだったが、どこか威圧感のあるような物だった。それだけで影人の気持ちは警戒モードに入る。
「はい。……改めまして、黒霧影人と申します」
『堅苦しい言葉は無しだ。……私は音崎ハジメ。レイの父親でサウンドプロダクションの社長をしている』
「お話しとは何でしょうか」
『……単刀直入に言おう。君は、うちの事務所でマネージャーをやるつもりは無いか?』
その言葉を聞いて影人は困惑すると同時にどうにか思考を纏めるために脳を回転する。
「え、えっと……それはどういう事で……」
『言葉の通りだよ?……君はプロのマネージャーでは無いに関わらず、妹である黒霧夢乃さんを、ドリーム・アイをたった一人で立派な配信者にした。加えて。彼女の知名度をそれなりのものに押し上げた手腕もある。マネージャーとしてこれほど優秀な人間は早々いないからね』
よくよく考えてみれば、ドリーム・アイこと夢乃は元々はただの普通の小学生だ。今のように賢く無かったし、何なら話し方だって幼いものしかできていなかった。それを影人はたった一人で、しかも元々そういう知識0だったにも関わらず彼女をあそこまでの配信者として育て上げたのだ。
それだけの実力を秘めたマネージャー候補をサウンドプロダクションの社長として見逃したくは無いのだろう。
『近々、夢乃さんの面接や試験も行う。君にやる気があるなら一緒に受けてもらいたい。もし、兄妹共々受かる事ができたらこれまで通りのドリーム・アイのマネージャーとして雇う事にしよう。彼女をあれだけやる気にできる人間は他にはいないからね』
それは社長自らの勧誘であった。影人はその話を聞いて少し考えるとまたハジメが話し始める。
『君の返事を聞かせて貰いたい』
「……すみません。ありがたい話ですがその話は受けられません」
影人は少しだけ考えるとハジメからの直々の勧誘を断った。電話の向こうにあるハジメがほんの僅かに動揺したのを影人は感じつつ、話し始める。
「……これは夢乃のためなんです。夢乃はこれまで、ずっと俺の側にいつづけました。その結果、彼女は俺の隣から離れる事ができなくなってるかもしれません。それに、俺は夢乃に甘すぎます。プロの仕事をやるようになって夢乃に厳しくしないといけない時に、俺はきっと夢乃を甘やかします。それは彼女のためになりません」
それは自分自身への戒めでもあった。ここまで、影人は夢乃のために彼女が配信者としていられるよう頑張ってきた。ただ、影人としてはいつかは夢乃の隣から去らないといけない。そうしなければ、永遠に夢乃は自分に甘えてくる。それではダメなのだ。
『……なるほど。わかった。それならこれ以上無理に言うつもりは無い。……ただし、私は君個人の能力の高さを買っている。ドリーム・アイのマネージャーが無理だとしても。うちの事務所に来るつもりは無いか?』
「……すみません。そちらの方も一旦保留にして良いですか?今すぐ気持ちの整理が付かなくて。それが、自分にとって本当にやりたい事って言える仕事なのか。……見極める時間をください」
『わかった。……また気が変わったらレイを通じて教えてくれたまえ。こんな時間なのに済まないね。では失礼するよ』
「……失礼します」
影人が通話を切ると溜め息を吐いて頭に手を置く。サウンドプロダクションの社長からの直々の勧誘。普通ならこんなチャンスを逃す手は無い。だが、影人にはどうにもその仕事をやる気になれなかった。
マネージャーという仕事を本業とするには彼の気持ちが動かないのだ。そんな状態で大事な事を受けられないため、一旦保留にしてもらったのである。
「……俺のやりたい事ってなんだろう」
影人はそう言いつつ深く悩む事になる。それから夜も更けていき、影人はやる事を済ませてから寝る事になるのだった。
今回、新キャラとしてレイの父親こと音崎ハジメが出てきましたが彼のCVとして考えているのは以下の方です。
音崎ハジメ……CV:速水奨さん
この想定で行こうと思います。それではまた次回も楽しみにしてください。