キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
影人とこころの二人が公園のベンチに隣り合わせで座ると影人は話し始めた。自分の過去について。
「これから俺の過去について話すけど、話す前に言っておく。……この話が終わった時、もう俺の事なんて慕いたく無くなるかもしれない。それでも良いか?」
「そんな事……絶対にしないって約束します」
「……そっか」
こころはそうやって断言し切ると影人は早速こころへと自分の過去を話し始めた。
「……あれは今から八年前……俺が年長だったくらいの頃、こころと出会う二年半くらい前だな」
この言葉から二人の初めての出会いは二人が小学一〜二年前後の話であるとわかる。
「俺は当時、日曜朝にやってるヒーローものにハマっていた。テレビ越しに見る空想のヒーロー達を見て。……憧れていた。小さい子によくあるだろ?」
「まぁ、そうですね。私は女の子向けのやつですがハマってた時期がありますし」
その時、影人はテレビの中にいるヒーローのカッコ良さや彼らの熱き気持ちを見て初めて感じ取ったのだ。心の底が熱く、メラメラと燃えるような感覚を。
〜回想〜
六年前、黒霧家。日曜の朝、幼い影人はテレビの前に行くと声を上げていた。
「お父さん、お母さん!早く早く!」
「はいはい。今かけてあげるね」
理沙によって付けられたテレビの中ではヒーローの番組がやっており、彼はそれに釘付けになっていた。
『そこまでだ!お前達の悪事を、これ以上見過ごすわけにはいかない!』
「心……メラメラする!」
そして、ヒーロー番組が終わった後。影人は一人、ある事が気になって両親へと問いかけた。
「ねぇ!お父さん、お母さん!あそこに行きたい!」
影人が行きたいと言い出して指差したのはテレビの中だ。すると父親である魁斗が影人へとしゃがんで答えを返す。
「ヒーローの所に行きたいのか?影人。悪い怪人がいて危ないぞー?」
「それでも行きたい!連れてってよ!お父さん!お母さん!」
「あはは、影人ってばあのテレビの中にいるヒーローの所に行きたいのね」
この頃からだ。影人はヒーローの所に定期的に行きたいと言い出したのは。
「ねーえ!お父さん、いつになったらヒーローの所に連れて行ってくれるの?」
「うーん。お父さんやお母さんには難しいかなぁ」
理沙がそう言っていると影人はどうしても諦めきれないのが、バタバタと駄々をこねるように声を上げた。
「行きたい行きたい!俺、どうしてでも行きたいの!」
「……影人はあそこに行って何がしたいの?」
すると魁斗が影人の前にしゃがむと影人の顔をジッと見る。影人はそんな父親からの目線に答えを返した。
「俺、あんな風になりたい!皆がカッコいいって思ってくれるようなすっごくキラキラした人みたいに!」
キッカケはどこにでもありふれるようなテレビの中にいるヒーローみたいになりたい。幼い子なら誰でも言いそうな事だった。
「……じゃあ、あそこにいるヒーローみたいな……キラキラと輝ける人を目指してみる?」
「うん!俺、頑張ってみる!」
それから影人はそのヒーローもののテレビの影響を受けて、ある夢が出来た。それは、テレビの中にいるヒーローみたいな眩い光を放つ事ができるような。そんな人間になる事を。
「お兄ちゃん、カッコいい人になるの?」
「うん!夢乃の事もお父さんやお母さんの事も。皆を照らせるキラキラした人になる!」
影人の妹である夢乃も兄がキラキラしてくれるのはとても嬉しかった。この頃から夢乃は兄の事が大好きなお兄ちゃんっ子だったので兄がキラキラと輝いてくれるのならこれ以上無い幸せなのだ。
「お兄ちゃん、頑張って!」
「任せて!」
それから両親の働きかけで影人は自分達が住む街から程近くにある子供が通うような子役の養成所へと通うようになった。
「黒霧影人です!よろしくお願いします!」
それから影人は必死に努力した。それこそ、頑張り過ぎるくらいに。その姿は周囲の大人から見たらとても熱心なくらいだった。演技の練習のために渡された寸劇の台本を見て役に打ち込む際はまるでその役に憑依するようにキャラその物の演技をする事を一生懸命に頑張ったのだ。
それから一年半経った頃。影人はダンスにも手を出すようになった。演技の方がそれなりに上達してダンスも出来た方が有利だから。そういう理由で始めたダンスだった。
「1・2・3・4・5・6・7・8!」
最初は簡単なリズム感覚を鍛えるような軽めな物だったが、影人はこれにも嫌な顔一つせずに打ち込んだ。
最初は影人はリズム感覚が掴めないのと、振り付けが上手く頭に入らずに苦労した。それでも影人は自分なりに努力し続け、それは講師からも認められたのかある日講師が両親へと自分を褒めてくれる話を聞いた。
「やっぱり、影人君は努力し続けたら絶対上手くやれますよ!」
「本当ですか!?」
「影人、良かったわね!」
講師の先生からも影人は将来を期待されるようなそんな存在だったらしい。これは影人も偶に褒めてもらった際に定期的に言われていたから知っていた。それでも彼は奢る事無く努力を重ね、実力を付けていく。
ある日、影人は夜中にトイレで目が覚めてしまって起きると家の中のトイレに行こうとした。すると居間で両親が話す声が聞こえてくる。
「そろそろ本格的にやれるようになってるのにどうして影人に出番が回ってこないんだろうな」
「……多分、あの子が強過ぎるのよ」
二人は深刻そうな顔をして話していた。影人は相当頑張っており、講師からも続ければ結果が出せると言われているのに、なかなか彼は表舞台に立つ事ができていなかったのだ。
影人は元々真面目で努力家で、そしてそれなりの才能も持っていた。だからこそ他の同年代よりも多少抜きん出た実力を得られたのだが。ただ、まだ彼は養成所から出てテレビに出られるようなそんな実績は得られなかった。その理由は単純である。
「光輝君凄い!」
「ねぇねぇ。それ、どうやってやるの?」
それは、不運と言うべきか。影人とほぼ同世代。しかも、同じ養成所に彼よりももっと才能に溢れ、凄まじい光を放つ子がいてしまったからだ。
「へへっ。これはね、こうするんだ!」
彼の名は白石光輝。影人達が通っている養成所のエース的存在であり、彼の演技には他人を眩く照らせるだけの何かがあった。加えて、影人が習い出したダンス面においても彼を凌駕する実力を持ち、自他共に認める才能の持ち主であったのだ。
「………」
影人はそんな彼の存在に悔しさを噛み締めていた。何しろ、自分がやりたいと思っていた他人をキラキラと照らすという事は全て彼がやってしまう。彼の前ではあくまで自分は星空で例えるなら一等星である彼の周りに存在する2等星以下の有象無象でしか無い。
影人はそれからも死ぬ気で努力し続けた。それでも、白石を超える輝きは出せなかった。更に時間は経って半年後。養成所に入ってから二年の時が経過した。影人はここまでの努力が認められるとようやく事務所に所属するレベルに到達。
この頃には養成所時代に周りにいた同年代の子達は殆どいなくなっていた。それだけ狭き門だという事なのだろうが、影人は一つの関門を乗り越えたのだ。
ただ、むしろそれからの方が影人にとっては悲惨な現実を見せられることになった。
「○○事務所所属、黒霧影人です。よろしくお願いします!」
それから影人はレッスンをこなしながら何度も何度も役を得るためのオーディションを受け続けた。だがそれらは全てことごとく落ちてしまう。仕事なんて早々取れる物では無い。
何しろ、事務所には自分よりも実力があって輝ける人間なんて相当数いる。養成所時代に自分よりも力があって輝いていた白石でさえも今は噂も聞かないくらいに何も仕事が回ってない状態らしい。
「……お兄ちゃん、無理してない?大丈夫?」
「平気だ……。あとちょっとで俺の夢が叶うんだ。俺の力で誰かを照らせるんだ。今更引き返せるかよ……」
影人の目は血走っており、自分の力で他人を照らす事にばかり拘り続けた。自分がここまで来れたのはその才能があると信じて疑っていなかったのだ。
そんなある日の事。影人はダンス関連のイベントに他の役者と共に出る事になった。それはあくまでバックダンサーとしてだが、出てほしいという依頼があったらしい。
「初めてのお仕事だね、影人。頑張って!」
「うん。頑張ってみる!」
その日は両親も夢乃も初めての晴れ舞台を観に来てくれた。そんな中だった。影人は一人の少女と出会う。
「お母さん……ううっ……」
そこにいたのは母親と逸れたのか、自分とほぼ同年代の子がうずくまって泣いていたのだ。
「……大丈夫?」
影人は出番までまだ少し時間があるために彼女の事を助けようと手を差し伸べた。
「お母さんと逸れたの?」
少女は影人の言葉に小さく頷く。彼女は相当心細かったのか、目には涙が溜まっている。
「……そんな風に泣いてたら、幸せが逃げちゃうよ。……あ、そうだ!」
影人は少女を元気づけるために自分ができる精一杯のダンスを少女へと見せた。少女はそんな影人を見て目を見開く。
「ねぇ、それ……どうやるの?」
「?これ?良いよ。じゃあ、一緒にやろっか」
影人は少女へと自分の動きのやり方を教えた。少女の中にあった心細い気持ち徐々に消えていくと彼女の顔には笑顔が浮かんだ。
「これ、楽しいね!」
「うん。やってみたら結構楽しいよ。あっ、名前を言い忘れてた。俺、黒霧影人。
「……影人……ねぇ、カゲ君って呼んでも良い?」
それから影人は少女からカゲ君という呼ばれ方をされるようになった。二人はダンスの練習をしていると少女の心は温かく満たされていく。
「心、メラメラする?」
「心……メラメラ?」
「うん。こうやって楽しいって思える事とか真剣に打ち込める何かがあるとさ。心がメラメラって燃えるんだ。……君もきっとそういう何かに気づけると思うよ」
それから程なくして。少女は自分を探しに来た母親と無事に合流する事ができた。母親が自分へと頭を下げる中、近くにあった時計を見るともうすぐ自分の出番である事に気がつく。
「あっ、もう俺……行かなくちゃ。最後に、君の名前聞かせて」
「私……ここ……」
彼女の声に被るように周りからの音が響いたせいで、影人は途中から上手く聞き取れなかった。そのせいで後に色々と勘違いしてしまう事になったが。
「ココか……。良い名前だね!今日はありがと。じゃあね!」
「カゲ君……助けてくれて、ありがと!心……キュンキュンしてます!」
それから二人は別れた。これが黒霧影人と紫雨こころの初めての出会いである。それはさておき。影人はバックダンサーながらも初めての仕事をしっかりとこなした。
更に時間は過ぎて小学三年生。相変わらずオーディションを受けては落ちを繰り返す日々。ただ、この頃から影人は酷く疲れたような顔をするようになった。事務所に所属するようになってから約一年。その間、ずっと成果らしい成果をあげられず。
初期契約では二年となっていたが、恐らくその間に成果を何も出せなかったら解雇されてしまうだろう。ここはそういう場所だ。通ううちにそんな話も聞いてしまった影人はとにかく焦っており、無茶するようになっていったのだ。
「本当に大丈夫?最近……」
「煩い……。俺は止まってられないんだよ。夢乃、悪い……。一人にさせてくれ」
影人は自分を慕ってくれている夢乃にも強く当たるようになっていた。両親も影人の精神状態を考慮して一度休みを貰うことも考えたが、影人は全力で反対。無理を押してでも練習に励み続けた。そんな時。
「影人、おめでとう!仕事が入ったぞ!」
「え……」
それは急遽決まった代打だったが、ダンスの仕事が影人へと回ってきたのだ。それから会場に行った影人は絶句していた。そこにあったのは大慌てで修正する現場の様子を見てである。仕事が前日に決まった事に違和感を感じた影人だったが、藁に縋る思いで受けてしまった事への後悔さえも湧いてきた。
元々は自分よりももっと有名な別の人がやる予定だったダンスのパフォーマンス。だが、その人は急遽こちらをキャンセルせざるを得ず。
また、他の登壇者のスケジュールの関係でイベントの日時変更はできない上に席は埋まってしまっている。そうなると今からの変更はできないという事で無理矢理影人が捩じ込まれたのだ。事務所側も殆んど成果が無い影人なら使い捨てても問題無いと感じたのだろう。結果、客にさえ代役になった事も知られないままにこの日を迎えてしまった。
「……大丈夫、俺が頑張って結果を出せば……」
影人は運営に良いように使われた形だ。影人は登壇して人々の前に出るものの、人々が見せる視線は冷ややかな物だった。“お前なんかを観にわざわざここに来たんじゃない”そう言いたげな目線を向けられ、それから影人は全力でやったものの、人々はそれを認めず。結果的に影人はその視線が決定打となると心がへし折れてしまった。
「……ざけんな……。何だよそれ……」
その後両親は事務所に抗議の声を上げたものの、事務所側は取り合ってもらえず。……そのまま流れるように事務所側から契約破棄されてしまった。元々影人が行った事務所は弱小な上に色々と黒い噂が立っていたのだ。むしろ、それを見抜けなかった自分達の責任だと両親は重く受け止めてしまった。
「お兄ちゃん……」
「来るなよ!夢乃だって見てただろ?俺なんて……俺なんて誰も欲してなんか無いんだよ!俺には……最初から無理だったんだ。皆、そうやって調子の良い事ばかり並べて」
影人の心は壊れ、胸の奥がギリギリと締め付けられていく思いを味わう事になる。幼い頃夢見ていた誰かを照らす光を出せる人間に……影人はなれなかった。その事実が重くのしかかるとずっと頑張ってきた分の反動が全て影人へと帰ってきてしまう。
「俺に、俺に出せる光なんて無かった……それだけの事……それだけの事……」
影人は無理矢理自分に言い聞かせるようにして目を逸らしたい現実を受け入れていた。そんな中、近くに寄り添ったのは妹である夢乃である。
「……ごめんね」
「何で夢乃が謝るんだよ。というか、何だよこれ」
傷心の影人へ手を伸ばし、夢乃は影人を優しく抱き締めると小さく影人へと呟くように話す。
「私が……側にいるから、私がお兄ちゃんを助けるから」
夢乃は自分に優しい兄を救いたかった。そうやって寄り添った結果。夢乃は兄にくっつく時間が必然的に伸びるとブラコン妹へとその心を変えていく。影人は夢乃の人生も狂わせてしまったと、この時から密かに自分を責めるようになった。
〜現在〜
「以上だ。……こころ。すまなかった。俺のせいで色々と迷惑をかけさせて」
影人はとても辛そうだった。二度と思い出したくない事を説明のためとはいえ、思い出したのだ。彼の顔は暗く、落ち込んでいる。
「夢乃がああなったのも俺のせいだ。俺は誰かを照らせる奴じゃ無い。むしろ、誰かを不幸にする貧乏神だから」
「そんな事ありません!」
その瞬間、こころは影人の声を遮ると影人へと後ろから抱きしめた。こころの目には涙も浮かんでいる。
「私は……少なくとも私は……カゲ君に照らされて救われた身なんです……。そんな風に、そんな風に言わないでください」
「こころ。こんな頼りない彼氏で……」
「今日は……もうこれ以上謝らないで。話してくれてありがとうございました。カゲ君がどれだけ辛い気持ちだったか。全部じゃ無いけどわかった気がします」
それから影人は気持ちが落ち着くまでこころに抱きしめてもらった。それからある程度経って気持ちが完全に戻るぐらいには日は殆んど沈んで暗くなってくる。
「こころ、話に付き合わせて悪かったな。……家までは送り届ける」
それから影人は自分が責任を持って紫雨家までこころを連れて行くと二人は紫雨家の前に着く。
「カゲ君、今日はありがと。……私、カゲ君の事。何もわかってなかった。彼女なのに……悔しいです」
「良いよ。俺だって伝える決心がつかなかっただけだし」
「……カゲ君。これからも彼氏でいてくれますか?」
「ああ」
「……でしたら」
その瞬間、こころは影人の方に近寄ると足りない身長分、少しだけ背伸びして影人の唇に自分の唇を重ねた。
「ッ……こころ?」
「い、言っておきますけど……口同士もカゲ君が初めてですから!……私は、カゲ君とこういう関係になれた事。良かったと思えてるんです。だから、もう自分をそれ以上責めなくでください。約束ですよ!」
それからこころは一人、家の中に入っていく。影人は放心状態だったが、こころにまた助けられたと感じて今度は自分が彼女の危機を救えるように頑張ろうと決意するのであった。
尚、紫雨家では帰ったタイミングで顔が真っ赤になっていたこころを見た母親の紫雨愛に色々と温かい目を向けられてこころは更に悶絶したのだとか。
また次回もお楽しみに。