キミとアイドルプリキュア♪〜輝けない少年と心の鼓動〜 作:BURNING
黒霧家にマネージャーが来た翌日の放課後。喫茶グリッターの二階にあるスペースでは影人、うた、なな、こころ、プリルン、メロロンが顔を揃えていた。尚、レイはこの日は家の事があっていない。また、一階にはバイトとしては先輩である田中に仕事を教えてもらっている天城がいた。
「天城さん。このお皿はこちらに、このコップはこちらですよ」
「そうなんですね……ありがとうございます」
二人が仕事をする中で二階の場面へと移る。影人は昨日家に来た夢乃のマネージャーである姫野からの連絡を受けて少しずつ練習を開始するためにパート分けを決める事になっていた。
「……と、言うわけでこれから俺達が歌う曲のパートを決めて行こうと思います」
「アイドルプリキュアの歌が皆に聞いてもらえるなんて嬉しいプリ!」
「イェーイ!」
ノリノリなうたとプリルンを横にパート分けについて気になったこころが質問する。
「えっと、パート分けというのは何ですか?もしかして学校でやってる合唱みたいにソプラノとかアルトとかで分けるんですか?」
「大まかに言ったらその認識で大丈夫。ただ、アカペラで全部やろうとすると分け方はもっと複雑になるな」
それから影人はアカペラで歌をやる際に六つのパートが必要という事でそれぞれのパートを詳しく説明していく。ただ、全て影人の台詞にすると長くなるのでここでは箇条書きとして読者向けに簡単に解説しておこう。
・リード
主旋律であり、単純に歌唱力が高い必要がある。
・1stコーラス
コーラスの中でも高音域のパートを担当。合唱で言う所のソプラノに相当。高音域なのでコーラスの中でイメージに残りやすい。
・2ndコーラス
コーラスの中でも中音域のパートを担当。合唱で言う所のアルトに相当。ただし、曲によっては音域が他二つのコーラスに寄るので注意。
・3rdコーラス
コーラスの中でも低音域のパートを担当。合唱で言う所のテナーに相当。場面によって臨機応変な対応が求められる。
・ベース
全てのパートの中で一番低い音を出す。合唱で言う所のバスに相当。歌のリズムを作り出すため、ハーモニーの土台のポジションとなる。
・ボイスパーカッション
他のパートと違って歌わないが、声で打楽器のような音を出す必要がある。こちらもベースと同じくリズム担当のため、ここやベースが崩れると曲が崩壊してしまう。
「って感じだ」
「「「おぉー……」」」
「面白そうプリ!」
「メロ……ねえたま、多分これやるのかなり難しいメロ」
「ああ。メロロンの言う通り各自のパートの音が完璧になっても、それが完全に揃わないといけない。そうしないと歌として崩壊するからな」
つまり、バラバラにそれぞれのパートをやるだけではアカペラは完成しないのだ。歌う全員が息を完璧に合わせ、聴く人が気持ち良く聴けるように美しいハーモニーを作り出す。それがアカペラをやる上で重要な事と言えるだろう。
「どれか一つのパート、誰か一人でも欠けたら曲は完成しないって事だね」
「そういう事。で、それぞれのパートを決めようと思うが……」
「あれ?そういえば、私達プリキュアのメンバーに夢乃ちゃんを入れても……」
こころはここで気がつく。今のメンバーだけだと五つのパートしかやらないという事に。そこに影人が妖精の二人もやる事を補足した。
「人数が五人だと六人でやる歌はできない。だから今回はプリルンとメロロンにもお願いしようと思ってる」
「プリ!?プリルンもやって良いプリ?」
「メロ!?メロロンもメロ!?」
「姫野さんや向こうの社長さんからも許可は出ている。というより、向こうはそのつもりらしい」
「やったプリ!うた達とアイドルプリキュアとして歌えるプリ!」
「メロ……メロロンはそんな事やりたく無いのメロ……」
やはりプリルンは喜ぶ一方でメロロンはあまり好感触とは言えなかった。メロロンとしてはあまりこのような事をやりたくは無いらしい。
「勿論無理にとは言わない。メロロンが嫌なら断っても大丈……」
「何でメロロンはやりたく無いプリ?皆で歌うのは楽しいプリ!影人とも歌えるプリよ!」
メロロンはそれを聞いて先程まで反対意見ばかり述べていたその顔つきが少しだけ固まる。
「……ねえたまだけじゃなくて、影人もやるのメロ?」
「俺もアイドルプリキュアだからな。正直、やってみたい気持ちは俺にもあるし」
「ねえたまや影人もやる……仕方ないのメロ!メロロンもねえたまや影人のために頑張るのメロ」
「メロロン!ありがとうプリ!」
そう言ってメロロンに抱きつくプリルン。メロロンは大好きなねえたまことプリルンから抱きつかれて割と幸せそうな顔つきになった。普段はあまりプリルンからこんな風にはされないので余計にである。
「さて、メロロンも参加が決まった所でパート分けだけど……一応、俺達六人で一パートずつ担当して欲しいとお達しだ」
「え?夢乃ちゃんの事は考えなくても良いの?」
「一応今回やる曲の中で1stと3rdのパートは曲の中で一時的にリードもやる関係でリードやコーラス担当の四人は入れ替わるタイミングがあるんだが……その時に1stとリード担当、1stと2nd担当で分けた方が良いって姫野さんが言っていてな。初心者の集まりって事でわかりやすくするための措置だと」
1stコーラスはコーラス隊の中でもリード的役割を持っている。また、影人達はアカペラ未経験の初心者。そのため、1stの中でも高音域やリード担当人員と交代しても低音域に行くだけの人員の二人に分けた方が良いとの事だ。その方が役割がわかりやすく、習得も早いためである。
「で、そういうわけだが……一応全員の希望を聞いておこうか」
「はいはい!私リードやりたい!」
「プリルンもリードをやるプリ!」
「……だろうな。そうなると思った」
影人は予想通りこの二人はリードで挙手をした事に頭に手を当てた。普段の主張が強いこの二人。影人はこの二人だと確実に歌唱力が高いうたをリードにしたかったが、プリルンが変に駄々をこねて揉めるのは困ると思ってどうするべきかと悩む。
「咲良さんとプリルンの所は一旦置いておくとして……蒼風さんとこころは?」
「えっと、私は音域的に1stか2ndかな」
「なな先輩がそれなら私は2ndか3rdですね。多分、私は声質的になな先輩よりも上は出せませんし」
影人は二人の希望を聞き、最後にメロロンへと質問をする。パート分けをする中でメロロンの意見もちゃんと聞いた方が良いと考えたからだ。
「メロロンはどれが良い?自分の気持ちを素直に言ってみて」
「……メロロンは、ボイパが気になるのメロ」
それを聞いて影人は意外だと感じ取った。メロロンならプリルンの引き立て役としてコーラスパートを選択しそうだと思ったからである。
「良いのか?ボイパは一から始めるなら結構難しいぞ」
「良いのメロ。メロロンは直接歌うよりもこっちの方が性に合うのメロ」
どうやらメロロンは実際に歌声を響かせるより、自分の声色を出す量は最小限で済む上にプリルンの引き立て役として成立しそうなボイスパーカッションを選びたいらしい。
「わかった。じゃあ、メロロンはひとまずボイスパーカッションで決めるとして……」
「あれ?影人君は何をするの?」
「まぁ、必然的にベースだろうな。多分四人共ベースの音程を出すのは無理だろ」
ベースの音程はかなり低い。女性がベースの超低音を出すのは難しく、うた達四人はベースをやらせるよりもリードやコーラスで個々を主張させる方が活きると影人は判断していた。
ちなみに某アカペラをやっている女性声優グループはベースもしっかりと女性が担当している。ただ、彼女も最初は低い音を出すのに相当苦労していたそうだ。
「ベースとボイパが確定して、後は保留にしていたリードとコーラスだけど……。まずはそれぞれの希望を通す前に3rdの音を全員が出してみてほしい」
それを聞いて四人共首を傾げる。影人は超低音のベースは自分がやるにしても低音域パートまで自分はカバーできないので、それなりに適性がある人が3rdコーラスをやらないといけない。そんな趣旨の話をすると一応全員が納得した。
「じゃあ、2ndか3rd志望になる私からやってみますね」
「3rdの譜面はこれ。これに合わせた声を出してみて」
影人が予め姫野から貰っていた譜面を出すとまずはこころがそれを受け取り、声を出して歌ってみる。こころは3rdで歌えはするものの、やはり完全には3rdの音程を歌いこなせて無かった。
「うーん、所々上手く歌えませんでしたね」
「じゃあ次は私だね」
次はななという事で彼女も3rdを出そうとするが……一応ななも出す事自体は可能だが、それなりに彼女も無理をして出していた。ついでに言えばこころよりもその無理の度合いは大きそうである。
「うーん……蒼風さんもあまり良くないな」
こうなると3rdの適性がある人がいないという話になってしまう。影人はどうすべきか頭を悩ませる中、昨日姫野から言われたある言葉を思い出す。
「そういえば、咲良さんの適性が3rdって姫野さんは言ってたけど……。一応試してみるか。……咲良さん、3rdを歌ってみて」
「え?うたちゃんが……3rd?」
「うた先輩って3rdを歌えるんですか?」
「うーん。低い音はあまり出した事が無いけど……ひとまずやってみるね」
それからうたが3rdをやるといつも喋ってる声色よりもかなり低めだったが、問題無く歌いこなせていた。
「うたちゃん……凄い」
「先輩の声域ってもっと高いと思ったんですけど……もしかして、本当はうた先輩が気持ち良く歌えるのって……こっちなんじゃ」
「うーん?でも私はいつも通りの音程の方が好きなんだけどね」
この辺りは普段以上に低い音程を使っているからになるだろう。だが、これならうたを3rdにした方が良さそうな感じである。
「……プリルン、プリルンはリードの歌詞を歌ってみて」
「プリ!任せるプリ!」
それからプリルンが歌を歌ってみるとプリルンの性格的に子供っぽさのある歌い方だったが、割と歌自体は上手かった。後は性格から来ている子供っぽい歌い方を矯正できればどうにかはなりそうである。
「おお……プリルン上手いよ!」
「うん、思わず聴き入っちゃった」
「当然メロ。ねえたまが歌うだからこのくらい楽勝なのメロ!」
プリルンの歌の上手さにはメロロンもご満悦と言った所だろう。影人はこの辺の事情を総合して決断した。
「咲良さん、今回は3rdをやってもらっても良い?一応さっきも言った通り、3rdもリードを歌う部分があるから」
「うん。わかった。やってみるね!」
「じゃあ、最終的にはこんな感じだな」
リード(一部1st)……プリルン
1st(一部リード)……夢乃
1st(一部2nd)……なな
2nd(一部3rd)……こころ
3rd(一部リード)……うた
ベース……影人
ボイパ……メロロン
それから影人は自分と夢乃の分を抜いた五人分の譜面を出すとそれぞれ手渡す。
「最初の練習日は今週末。その日にキラキランドの出張所に集合な。田中さんや姫野さんには部屋を先行して準備してもらってるから」
「よーし、皆!頑張ろう!」
「「「おー!」」」
「プリ!」
「メロ……」
影人はそれから解散すると姫野の方に連絡を入れた。構成については指導側である彼女への報告義務があるからである。
「……既読付いたしそろそろ返事が来ると思うけど……」
すると彼女からのメッセージが来るとそれで大丈夫という主旨の内容であった。むしろ、彼女としては想像通りの振り分けらしい。それから姫野は夢乃にもこの結果を伝えてほしいと指示。影人は了承の返事を返した。
「……姫野さん、最初はお堅い人ってイメージだったけど……やっぱりチームのためを想って言ってる事なんだろうな」
影人はそんな彼女からの期待に応えるためにもアカペラの練習も頑張ろうと思い、考えるのであった。
「……正直、色々不安はあるが……な」
そして、影人の考える不安は練習予定の当日に思いっきり的中してしまう事になる。
また次回もお楽しみに。