2回転生した。
1回目は只人として現代で生きた。
2回目の生は、ナーロッパ的な世界で子守り術師として生きた。
魔族を育て、代わりに力を借りる術師である。
漫画であったコーセルテルの竜術師にだいぶ近い。
その名門中の名門に友達でありライバルである少年がいた。
その少年は魔王様の家庭教師に選ばれて、恐れ多くも魔王様と私の教え子で競ったりして。
宝物のような思い出だ。
戦争で全て踏み潰されたが。
せめて、最後の作戦がうまく行っていればいいのだが。
そして、3回目の転生。
私は、男爵家の次男坊として生まれた。
王都の貴族学校に通っているのだが、この学校は本当にクズだ。
学生に攻撃魔法しか教えない。
それが、私たちの国を侵略したクソ人間至上主義国家を思い出させてイライラした。
ここが……この魔物すらいない世界が、私たちの世界の末だったなら、どうしよう。
そんなあり得るはずのないことばかり考えてしまう。
その敵意が漏れていたのだろう。ある日、私は同じ男爵家のアクオスに諌められた。
「お前、もっと真面目にやれよ! いっつも皆を見下しやがって! 何が不満なんだよ、何が人間は愚かだよ! 先生困ってんだろ!」
「全てだね!! 子供達に戦う術しか教えない事も! 明らかに治療が必要な生徒に手を差し伸べない所も! 争う準備ばかりでうんざりだ! 奪い合うばかりでは何も得られない! それは、軍事力だって必要だ、そこは否定しないさ。でも、僕達子供達には、生活を便利に、豊かにする魔法、心を豊かにする魔法、手を取り合う魔法こそが必要なんだ。こんな……だから人間は愚かなんだ!」
「豊かにする魔法って具体的になんだよ!」
「豊穣魔法とかに決まってるだろう!」
「なんだよそれ!」
「原っぱを見渡す限りの花畑にする魔法だ!」
「はああ!? そんなのありませーん!」
「ある! 大人が隠してるだけだ!」
「ない! あるって言うならしょーこ見せろよ!」
「いいだろう!」
私は、杖をグラウンドに向けた。いつも所持している花の種をグラウンドにばら撒く。戦争末期を思い出してつい集めてしまう、食べられる花の種だ。
【風よ、水よ、光よ、土よ、草木よ。豊穣魔法】
風が吹いて種を運ぶ。
さあああっと雨が降る。
柔らかな光が降り注ぐ。
グラウンドが、花畑と化す。
生徒達が、窓に鈴なりになってそれを見た。
「すげ……」
「ふん。食料を作るのではなく、奪い合う事しかできない人間はやはり愚か。私だったら砂漠にオアシスを増やし、鉱毒を浄化し、作物を増やし……やめておこう。君達にこの魔法の価値がわかるわけがないか」
「お前、神様なの? こんないけすかないのに?」
「はぁ? 私は只の家庭教師だよ。多くの魔族が私に教えを請うたんだ。聞いて驚くなよ。私が前世で教えた生徒は……千を越える」
ふふん、勝ったな。
あっ
「冗談だよ。今日はちょっと具合が悪いから帰るね」
夕食の時間。
寮の部屋が控えめにノックされた。
ちょこんと、先ほどから言い争っていたアクオスが顔を覗かせる。
「なあ、さっきはごめんな」
「いや、私もムキになってしまった。すまなかった」
「お前、魔族の先生だったの」
「……そうだよ」
「だから短気なの」
「っ うるさいな。魔族は寿命短いからのんびりさんが多いよ」
「のんびりで、豊穣魔法や心を豊かにする魔法や手を取り合う魔法かぁ……イメージちげぇ。魔族って、どんな奴? お前が前世でいた場所ってどんなとこ?」
「どの子もいい子達だったよ。楽園だった。人間に滅ぼされるまでは」
「そっか……。お前、人間が憎くて、俺らが憎かったんだな」
「……そうだよ」
「でも、俺ら、魔族のこと滅ぼしてねーし」
それはそう。そんなことはわかっていた。
「わかってるよ。八つ当たりだって」
「お前、要は大人なんだろ。教師なんだろ。俺ら子供だぜ?」
「……申し訳なかった」
「グラウンド、俺達が全部除草したんだぜ。食用部分、収穫してから」
「……本当に申し訳ない」
確かに、子供達に酷い行いをした。教師の風上にも置けない。
しかも後始末まで押し付けてしまうとは……。本当に幼児の癇癪だ。
「なあ、食堂でみんな待ってるぜ。食べながら、お前の生徒の話聞かせてよ」
その言葉に、私はこくりと頷いた。
食堂に行く。食堂は花・花・花に溢れていた。
収穫したのは本当らしい。
「セレス先生が生徒の事を教えてくれるってさ」
「ゴブリン! ゴブリンとかいたの!?」
「どんな生徒がいた!?」
「私が教えていたのは、そうだね。竜とか」
「おー!」
「すげー!」
「どんな竜!?」
私は、光の魔法で生徒達を形作る。
子供達はキャアキャアと喜んだ。
……なんだ。
攻撃する事しか知らない、バーサーカーなんて。凄い言いがかりじゃないか。
花畑をただ除草せずに収穫して食べる。
光の魔法にはしゃぐ。
この子達も、ちゃんと良い子じゃないか。
自分はどれだけ心を閉じていたのかと反省した。
子供達が、あまりに私の教え子達のことを褒めるので、私は少し得意になって魔族達がどんなに良い子だったか話してしまった。
「なんか術、教えてくれよ! 豊穣魔法使いたい!」
「あれはかなり難しいんだよ。そうだね、君の属性なら……ちょっと良いかい?」
アクオスの後ろから、抱き抱えるように両手を掴む。
「楽にして。私を感じて」
「お、おお」
アクオスから力を引き出すのはとても簡単だった。
【アクア】
チョロロロロ
コップに水が溜まっていく。
「これを覚えれば、旅の時も安心だよ」
「教えて!」
「覚えたい!」
ただ水を出すだけの魔法なのに、子供達は熱心に習っていた。
二日後、私は教師に呼ばれた。
「セレスくん、魔族の先生をしていたんですってね」
「信じるんですか? この世界には魔物もいないのに」
「信じるわよ。豊穣魔法だってこの世界にはないんだもの。水を出す魔法もね。普通、水で魔法を出しても、消えてしまうものなのよ」
それはそうだ。逆に不思議だったのだ。なんでこう攻撃にしか使えない仕様なんだろうって。わざとではなかったのだろうか?
「魔族の楽園の話、先生、聞いたわ。平和な楽園だって。軍事力で手抜かりして侵略されちゃったのはいただけないけれど」
「……だから、軍事力は否定してません」
「先生ね、セレスくんのいた豊かな国が羨ましい。砂漠の国クリスティアが水不足で、鉱山の国ガンドワが鉱毒で苦しんでいるのは知っているわね。この国も、食料事情は決して良くはないわ」
「仮にも教師をしてたんですよ? 勉強は真面目にしてます」
それらの国の問題は把握している。
「奪わずに済むなら、私達だって奪わずにいたいのよ。誰だってそう。ねぇ、セレスくん。あなたのいた楽園を、この世界に再現するつもりはない?」
「再現……」
「先生になって、仲良くなる方法を教えてよ。人間と、魔族と、世界と。学校長は、あなたに魔族学科を任せる決断をしたわ。あなたが良いならね」
そうして、私は決意した。
楽園を、再現するのだと。
そして、かつての魔国の伝統としきたりを、記憶を、語り継いでいくのだと。