(DEMO版)TS転生結月ゆかりはポケ愛が強い 作:グランド・オブ・ミル
ゆかりさん、リーフと出会う
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ここはカントー地方の2番道路。トキワシティとニビシティの間に位置する道であり、トキワの森やディグダの穴など自然豊かな名所が存在することでも有名である。
その道を、一人の女の子が歩いていた。
薄紫色のノースリーブの肩出しワンピースと黒いパーカーを着用し、足には同じく薄紫色のニーハイソックスを履いた女の子だ。服と同じ淡い紫色の髪をおさげにして前に垂らし、彼女が歩く度にゆらゆらと揺れている。
肩にはピチューが乗っていて、女の子の揺れる髪をぺしぺし叩いて遊んでいるようだ。
彼女の名前は”ユカリ”。現在カントー地方を旅するしがないポケモントレーナーだ。
「……よし、この辺にしましょうか」
「ぴちゅぴちゅ~」
しばらく歩いたユカリとピチューは2番道路を流れる川に辿り着いた。いい感じに砂利が敷き詰められて青い清流とせせらぎの音が響く、かなり良い景観の河原だ。少々水深のある川では生き物の活動も活発なようで、遠くのところではニョロモやコダックといった水ポケモン達が気持ちよさそうに泳いでいる。
そんな川にやって来たユカリは背負っていたリュックを下ろすと、ゴソゴソと何かの準備を始めた。折り畳み式の椅子とこれまた折り畳み式の釣竿を取り出し、傍らにはガスコンロとフライパンを用意。食料調達の構えだ。
「さて、何が釣れるか楽しみですね」
「ぴちゅ~」
川の中に釣糸を垂らしたユカリ。そのままピチューと一緒にのんびり待つ。
彼女がこんな場所で釣りをし始めたのは何も食糧に困っているわけではなく、完全な気まぐれだ。自然豊かなこの地の綺麗な川に住む魚をふと食べたくなった、理由はそれだけである。
釣竿を固定して椅子に腰かけたユカリは身体を大きく伸ばしてリラックス。ピチューもユカリの肩から降りてリュックを漁り、塩や醤油などの調味料を吟味している。川の流れる音や風で揺れる木の葉の音、空を飛ぶ鳥ポケモンや虫ポケモンを眺めながら穏やかな時間が流れる……。
_……くいっ
「! ぴちゅっ!」
「おっ、早速かかりましたか」
そうして10分程時間が流れた頃、固定していた釣竿の先がしなった。グリップを握ると、ずしっ、と手に重さを感じる。1匹目から大物の予感にユカリはニヤリと口角を上げた。
「へへっ、私から逃げようったってそうはいきませんよ」
「ぴちゅっ♪ ぴちゅっ♪」
グリグリとリールを巻いて獲物を岸に引き寄せていく。足元でピチューも飛び跳ねて応援している。やがてタイミングを見計らってユカリは一気に竿を持ち上げた。
_ざぱぁっ…
「………あら?」
「…ぴちゅ~?」
しかし、水から上げられた糸の先には魚ではなく、ずぶ濡れの女の子が引っかかっていた。
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_リーフちゃんってホントどんくさいよね~_
……うるさい。
_もうちょっと思い切ってきびきび動きなよ_
……黙って。
_勉強も運動もできないし、その上バトルもダメって…。きゃはは、何にもできないじゃん!_
……そんなこと、私が一番分かってる…!
_リーフ、貴女ももう10歳になったんだから、そろそろ自分の将来のことを考えないと……_
…分かってる! 分かってるのよそんなことは! だけどっ、自分に何ができるかなんて分からないっ!
…私は、どうしたらいいの? 誰か…教えて……ッ! 誰か…助けてっ!!
「っ!!」
あまりにもひどい夢を見た気がして、私は勢い良く身を起こした。それは決して気のせいではなく実際うなされていたようで、全身にじっとりと嫌な汗をかいていた。
「ぶいっ! ぶいっ!」
「…イーブイ」
目を覚ました私のもとに、相棒のイーブイが駆け寄ってきた。お腹にすりすりと擦りつけられるイーブイの頭をゆっくり撫でる。
…ここは一体どこだろう。今まで私は見知らぬ紫色のテントの中で眠っていたらしい。質の良い布団まで敷いてもらっているけど、全くもって見覚えがない。確か最後の記憶は……。
「おや、目が覚めたようですね。何よりです」
バサッ、とテントの入り口が開かれ、女の子が顔を覗かせた。淡い紫色の髪の毛が印象的な、ジトッとした大きい目をした女の子だ。肩にピチューを乗せた彼女は私に、湯気が立っているマグカップを差し出した。それを受け取って一口飲む。温かいココアが流れ込んできて、冷えた身体をじんわり温めてくれた。
「びっくりこきましたよ。釣りを楽しんでいたら貴女が糸の先に引っかかってるんですから。人一人釣りあげてもびくともしない”すごいつりざお”ってやっぱり丈夫なんですね」
…そうだ、彼女の説明で少しずつ思い出してきた。ジム戦で行き詰った私は3番道路の川の上流に住んでいると言われているギャラドスを捕まえようとバトルを挑んだんだっけ…。だけど相手は想像以上に強くて激しい攻撃を受けて、足を滑らせた結果川に落ちて……
「っ! そうだ、フシギソウは!?」
そこで私はもう一匹の仲間のことを思い出した。マサラタウンを出る時に博士にもらったポケモン。みずタイプのギャラドスと有利に戦うために一番近くに出していたから、ギャラドスの攻撃をまともに喰らっていたはず。”ぼうふう”の直撃を受けてひんしになる程の重傷を負っていたのが最後の記憶だ。
「安心してください。げんきのかたまりを使って治療しましたから。でも川に落ちた時に後ろ足を捻ってしまったようなので、安静にしてポケモンセンターに行きましょう」
女の子がくいっと親指でテントの外を指差した。そこには左の後ろ足に包帯を巻いたフシギソウがいて、焚火にあたりながら背中から伸ばしたつるのムチで器用に焼き魚を食べていた。怪我はしているものの、元気そうな姿にほっとした。
「…その、助けてくれてありがとう…。なんてお礼を言ったらいいか…」
「お気になさらず、見捨てるわけにはいきませんでしたから。ほら、良かったら貴女もどうです? まずはしっかり食べて体力を付けませんと」
「ぴちゅぴちゅ」
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「へぇ、リーフさんは将来の目標を見つけるために旅をしていると。立派ですね」
あの後私は女の子に焼き魚をごちそうになりながらお互いのことを話した。女の子の名前は”ユカリ”といって、私と同じようにカントー地方の各地を巡りながらジムバッジを集める旅をしているらしい。
「いや…、そんなすごいことじゃないよ。私には何もできないから…、だから旅っていう分かりやすい道に逃げただけなんだ…」
「…おや、お悩みですか?」
「…うん、私昔からそうなんだ…」
話している内に、私はだんだんとユカリさんに自分の悩みを打ち明けるようになっていた。
「私、勉強も運動もろくにできなくて…自分に自信もないから、ダメダメリーフなんて呼ばれて、いつもバカにされてた…」
私が住んでいたマサラタウンには、レッドとグリーンという大人も顔負けしちゃうくらい優秀な男の子達がいたから、余計に私のダメさが目立っていたように思う。あの二人は本当に同じ町出身なのか疑いたくなるくらい何でもできたけど、反対に私は何もできなくて、才能とか長所とか、そんなのは私とは無縁の言葉で、そんな自分がすごく嫌いだった。
唯一ポケモンのことはすごく好きで、たくさん本を読んで勉強したり、一緒に住んでいたイーブイと触れ合ったりして過ごして、その時間だけが私を癒してくれた。だから、もしかしたらポケモントレーナーとしてなら私もやっていけるんじゃないかなって期待してた。
だけど私にはバトルの才能もなかったみたい…。スクールで練習してた時も一度も勝てなくて、またバカにされて、あんなにポケモンのこと勉強したのに何もできなかったのが悔しかった…。
そんな時、レッドとグリーンが博士からポケモンをもらってカントーリーグに挑戦する旅に出るって聞いて、私も行きたいって思ったの。正直旅に対するワクワク感とか、楽しさとかは全然なかった…。でもどうしてもこのままで終わりたくない、諦めきれないって気持ちだけで旅に出たの。ママにはすごく反対されたけどそれも押し切って…、でも今思えば勢いと空元気だけだったな…。
でもやっぱり私には才能がないみたいで、1つ目のジムさえ勝てなかった…。レッドとグリーンは2つ目3つ目って順調に勝ち進んでるって聞いたから気持ちばっかり焦って、それでもっと強いポケモンって思ってギャラドスに挑んだけど、見事に負けちゃった……。
「…………」
「ユカリさん…、才能って何だろうね…」
「…………」
「同じ町で育って、歳だって変わらないのに、何でこんなに違うんだろう…」
「…………」
「他の人ができることが自分にはできない…、自分がしたいと思ってることが思うようにできない……。それって…すごく辛いよ……」
話している内にだんだん惨めな気持ちになってきた。自分のひざをぎゅっと抱いて顔をうずめる。じわりと目尻に涙が浮かんできて、そんな顔を誰にも見せたくなかった。けど音だけはどうしても漏れ出てしまって、ひくっ、ひくっ、と自分の泣き声が響いているのが分かる。足元に座っているイーブイが心配そうに見上げているけど、今は応えてあげられそうにない。
すると今まで黙って私の話を聞いてくれていたユカリさんが口を開いた。
「…まずお聞きしたいんですけど、リーフにバトルの才能がないっていうのは誰の評価ですか?」
「…………え」
だけど、その口から出た言葉に私は思わず呆けてしまった。涙でぐしゃぐしゃの顔を上げてぽかんと口を開ける。
「私は実際にリーフのバトルを見たわけではないので何とも言えませんが、少なくとも才能がないってことはないと思うんですよね」
ユカリさんは立ち上がってフシギソウを抱っこした。背中の蕾や葉っぱ、目や足の爪まで全身くまなく観察してふむふむと頷く。フシギソウはちょっと居心地が悪そうだ。
「ちゃんとフシギダネをフシギソウに進化させてますし、育て方も結構いい感じなんですよね。筋肉や脂肪の付き方とか…」
フシギソウを地面に降ろしたユカリさんはイーブイの方にも目を向ける。
「イーブイもとても健全な発育をしていることが分かります。重心や体幹のズレもほとんど見られませんし…、とても初心者トレーナーとは思えないほど良い育成ができていますよ」
こんなに良い腕を持っている貴女にトレーナーの才能がないなんてちゃんちゃら可笑しい話だと思いませんか? と彼女は私に尋ねてくる。こんなに人に褒められたのは初めてで、胸がぽかぽかして嬉しい気持ちでいっぱいになる。えへへ、と笑って少し照れてしまった。
ユカリさんはそんな私の近くまで歩いて来た。そこでしゃがみ込むと私にモンスターボールを突き出す。
「そういうわけなのでリーフさん、私とバトルしましょう。貴女の腕を見せてください」
「えっ…、で、でも私すごく弱いから…、きっとユカリさんがっかりするよ…?」
「大丈夫です、私の見立てでは貴女は決して弱くなんてない。むしろトレーナーとして非常に稀有かつ最重要な素質を秘めている可能性すらある」
今日出会ったばかりの同じくらいの歳の女の子。私のことを真っ直ぐ見てくれるその目には凛とした自信が宿っていて、この子の言葉なら信じてもいいかもと思えた。
・ゆかりさん
なんやかんやあって結月ゆかりの姿にTS転生した主人公。生前はかなりのポケモン好きで、対戦や図鑑埋めなどとにかくやり込んでいた。
現在カントー地方を旅している途中。なんとなく釣りがしたくて川に来たらリーフが連れてびっくり。女主人公とも言えるリーフとの出会いに内心驚いている。しかも何か卑屈っぽくて困惑。
・リーフ
言わずと知れたFRLGの女主人公。本作ではマサラタウンで育ったレッドとグリーンの幼馴染という設定。ちょっと根暗気味。二人と違って平凡で秀でた才能のない自分に嫌気がさしている。
ゆかりさんの見立てでは隠された才能があるようだが…?
※ちなみに世界観として魚などのポケモンじゃない普通の生き物もいる設定にしています。そうしないと後々料理とか食べ物の描写をする時困るかなと思いまして。