(DEMO版)TS転生結月ゆかりはポケ愛が強い 作:グランド・オブ・ミル
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急遽バトルをすることになったリーフとユカリ。二人は河原の開けた場所で、お互いに距離をとって向かい合っていた。ユカリは至って自然体で立っているのだが、リーフの方は姿勢や表情が固い。緊張しているようだ。
「リーフさん、そう緊張なさらずに。これは公式戦じゃないんですからもっとリラックスしていきましょう」
「う、うん! 頑張るッ!」
「…ダメだこりゃ」
「ぴちゅ~」
ユカリが声をかけてもリーフの緊張が解ける様子はない。むしろより強まったように見える。あまりのガチガチっぷりにユカリとピチューは少し呆れ顔だ。
今回のバトルのルールは1対1のシングルバトル。どちらかのポケモンが戦闘不能になった時点でバトル終了だ。今回はリーフのバトルの腕を見定めるのが目的なので、シンプルかつ簡易的なこのルールを採用した。
「ぶいっ! ぶいぶいっ!」
「! イーブイ…」
定位置に着いても中々バトルの準備が整わないリーフの足を、イーブイがぺしっと叩いた。足元に立っている相棒はすでに覚悟を決めた顔をしており、それを見たリーフも緊張から来る震えをぐっと呑みこむ。
「(ユカリさん…。初めて私のことを褒めてくれた女の子……)」
歳はリーフと同年代くらい。ジムリーダーや四天王のように名の知れたトレーナーというわけでもないから、恐らくトレーナー歴もリーフと同じくらいか少し先輩といったところだろう。しかし、行動や仕草の端々からは自信を感じられ、彼女の言葉には包み込むような説得力がある。リーフの準備が整うのを待っているユカリの目は今もなおリーフを真っ直ぐ見つめており、リーフに対する期待感が込められていた。
「(私にトレーナーとして重要な素質が眠っている……。正直まだ信じられない話だけど…、でもユカリさんがそう言ってくれるなら試してみたい!)」
きっとここがリーフにとっての分水嶺だ。このバトルでユカリにどう評価されるか、それによってリーフの今後が大きく変わってくるに違いない。それを何となく察していたからこそただのバトルに必要以上に緊張していた。
けれど、今更緊張しても仕方ない。今まで一度も勝てたことがないのに、この勝負だけ都合よく勝てるなんて期待もしない。ただ純粋に、ユカリが見たいと言ってくれている自分のバトルを見せることだけに集中しよう。
リーフはそう決心して、ユカリのことを見つめ返した。やっと緊張がほぐれたようだ。その顔を見てユカリもフッ、と笑った。
「…どうやら準備ができたようですね」
「……うん。ありがとう、待っててくれて。いこう、イーブイ!」
「いぶっ!」
リーフの声に応え、イーブイが前に出る。
「ではこちらもいきましょうか。のぞみ、バトルスタンバイ」
「ぴちゅ~!」
対してユカリが選択したポケモンはピチュー。ユカリの肩から勢いよくジャンプしたピチューが、空中でくるんっと回転して着地した。
「のぞみ……?」
「ふふん、この子の名前です。可愛いでしょう?」
「ぴちゅちゅ~♪」
バトル開始だ。
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始まったユカリとリーフのバトル。ユカリは先攻をリーフに譲るつもりのようで、動く気配がない。一方リーフは相対するピチューについて思考を必死に回転させていた。
「(…ピチュー、こねずみポケモン。確かでんきタイプでピカチュウの進化前…。すばやさが高めのポケモンだった気がするから、スピードに注意しなきゃいけないかも…。それにあの小さい身体には攻撃もすごく当たりづらそう…)」
ピチューはあまりカントー地方では見かけないポケモンだ。そんなポケモンの知識が図鑑を使わずともすでに頭に入っているのは、さすがたくさん勉強してきただけのことはある。
しかし、リーフが頭を回している間にもバトルは続いているため、その思考は隙を生むことに繋がる。
「…おや、来ないんですか? ならこちらから仕掛けましょうか、のぞみ」
「ぴちゅっ!」
ユカリがピチューに声をかけ、ピチューがイーブイ目掛けてダッシュしてきた。その様子を見てリーフはハッと思考から戻ってくる。
「(っ! まずい! 攻撃がきちゃった! 何が来るんだろう…、”でんじは”? ”ほっぺすりすり”? 分からないけどひとまずっ……!)」
「__イーブイっ! ”すなかけ”!」
「いぶっ!」
「ぴちゅっ!?」
咄嗟にリーフは突進してくるピチューに”すなかけ”を指示した。指示を聞いたイーブイが前足で地面を掘り起こし、砂埃をピチューに振りかける。至近距離で喰らったピチューは思わず驚いた様子を見せた。
「……へぇ」
それを見たユカリが面白そうに笑みを零した。予想が当たって嬉しいと言わんばかりの笑みだ。
「やった! うまくいった! イーブイ、”でんこうせっか”!」
「ぶーいっ!」
もわもわとした砂煙に包まれるピチュー。それを好機と見たリーフはイーブイに追撃を指示した。目にも止まらぬ速さで突進し、砂煙の中に突っ込んでいく。
「ふふふ、そう上手くはいきませんよ。のぞみ、真上に思いっきりジャンプ」
ピチューはその場で跳躍してイーブイの”でんこうせっか”を躱した。それどころか砂煙の中からも脱出して遥か上空に飛ぶ。
「えっ!? すごいジャンプ力…!」
「ぶいっ!?」
「そのまま”でんきショック”です」
ピチューは空中でほっぺたに電気を溜め始める。”すなかけ”によって命中率が下がった状態だが、”でんきショック”の元々の命中率は100。砂煙から脱出して遮る物のない空中からの攻撃なら十分に命中させられる。
_バリバリッ!_
「いっ…ぶっ…!」
「イーブイ!」
電撃は見事イーブイに命中し、イーブイは吹き飛ばされた。ピチューは身体に電気を迸らせながら華麗に着地を決める。
「どれ、もう一発いってみますか。のぞみ、”ほっぺすりすり”」
「ぴちゅ~!」
ほっぺたをバチバチと帯電させたピチューがイーブイに迫る。”ほっぺすりすり”はピカチュウをはじめとした限られた電気ポケモンが習得できる技で、その可愛らしい名前とは裏腹に喰らった相手を100%の確率でまひ状態にしてしまうという恐ろしい技だ。
体勢を崩してしまっている今のイーブイでは躱しきれない。
「(だったらせめてダメージを減らさなきゃ…!) イーブイ、”つぶらなひとみ”!」
イーブイがうるうるとした大きい瞳をピチューに見せる。ピチューはそれを見て一瞬躊躇したような様子を見せた。こうげきが一段階ダウンしたようだ。
威力は軽減したものの、”ほっぺすりすり”はイーブイにヒットし、まひ状態となる。
「そこっ! ”でんこうせっか”!」
「ぶいっ!」
「ぴっ!?」
しかし、攻撃後の隙を狙ってピチューに”でんこうせっか”を叩きこんだ。ピチューのお腹にイーブイの頭がぶつかり、今度はピチューが吹き飛ばされる。威力の低い先制技とはいえタイプ一致の攻撃、ピチューもかなりのダメージを負ったようだ。
「ふふ、そう来ますか。面白いですね」
バトルを眺めてユカリはくつくつと笑っている。その表情は余裕たっぷりで、彼女とピチューがまだまだ余力を残していることが窺える。
「ぶいっ…ぶいっ……」
「イーブイ……」
一方でリーフとイーブイは満身創痍だ。負ったダメージとまひによって息を荒くするイーブイ。どちらが優勢なのかは火を見るより明らかだろう。
「ではそろそろ終わらせましょうか。のぞみ、もう一度”でんきショック”」
「ぴ~…ちゅっ!!」
_バリッ!!_
ユカリとピチューは止めの一撃を放った。電撃が傷ついたイーブイへ襲い掛かる。
「っ…! 頑張ってイーブイ! ”スピードスター”ッ!」
「ぶ…ぶいっ!」
_ズババッ!!_
何とか身体を奮い立たせたイーブイが空中でくるんっと回転し、大量の星型弾を発射した。電撃と星型弾がぶつかり、拮抗する。
「…ここまでとは、想像以上ですよリーフさん」
ピチューとイーブイはお互い一歩も譲らず、”でんきショック”と”スピードスター”は2匹の丁度真ん中辺りの位置で拮抗した状態を保ち続ける。こうなると我慢勝負であり、先に力尽きてしまった方が技を喰らって負けてしまう。
それはまひで身体が痺れているイーブイにとって不利な条件だった。
「いっ…!?」
「イーブイ!」
まひ状態による身体の痺れが発生し、一瞬動けなくなってしまうイーブイ。それによって星型弾の発射も止まってしまった。ユカリとピチューはその隙を逃さない。
「…チェックメイトです」
_バリバリッ!!_
電撃がイーブイにクリーンヒット。それは残り少ないイーブイの体力を削り切り、一気に勝負の決着を付けた。
「……ぶ、ぶい…………」
イーブイ、戦闘不能。ユカリの勝利である。
▼
…………負けた。
ユカリさんとのバトル、最初から勝てるとは思ってなかったけど、いざその瞬間が訪れると心にズシンと重くのしかかる。
「…お疲れ様、イーブイ。ありがとう」
「………ぶい」
力尽きて倒れていたイーブイを抱き上げる。イーブイは申し訳なさそうな、落ち込んだ表情で私を見上げた。
…違う、イーブイは悪くない。今まで負けてきたバトルでもポケモンが悪かったことなんてきっと一度もなかった。
悪いのはいつだって私だ。私の指示がいつも遅いから、その分ポケモン達の行動も遅くなって無駄に攻撃を喰らってしまう。分かってるんだ、それがいけないってことは。レッドやグリーンみたいにすぐに指示を出してバトルをテンポ良く進めていかないとダメ。スクールの先生に散々教えられたこと…。
でも私にはそれができない…。相手はどんな攻撃をしてくるんだろう、もしかしたらこんな攻撃が来るかもしれない、色んなことをあれこれ考えちゃって、何も行動できなくて、気がついたらいつもバトルが終わっちゃう…。
周りの子達からよくどんくさいって言われたけど、こうして見ると確かにその通り…。何も言い返せないなってつくづく思う…。
「お疲れ様です、リーフ。これ、げんきのかたまりです。使ってあげてください」
「…ありがとう、ユカリさん」
ユカリさんが近寄ってきてイーブイを回復させてくれた。すっかり元気になったイーブイは自分の力で立ち上がる。
「……それで、どうだったかな…。私のバトル…」
「ん?」
「…やっぱり、ダメだよね…。私に才能なんてなかった…、ごめんね、せっかく褒めてくれたのに…」
ユカリさんの失望した顔を見たくなくて目を合わせられない。つい俯いて聞いてしまった。負けてしまったし、今のバトルで私にいいところがあったとも思えない。きっとがっかりさせてしまったと思うと悲しくなってきた…。
「いやいや、何言ってるんですか。想像以上の逸材で驚いているんですよ、私は」
「…………へ?」
しかし、ユカリさんの口から飛び出たのはまったく逆の評価で、私は思わず顔を上げてしまった。ポカンとする私の手を取ってぶんぶんと上下に振り回すユカリさん。その表情はとてもキラキラしていてとても嬉しそう。
「センスあるなと思っていましたがここまでとは思いませんでしたよ! すごいトレーナーなんですね、リーフって!」
「ちょ、ちょっと待ってユカリさん。私、負けたんだよ?」
「勝敗は関係ないんです! 貴女のバトルのやり方が、ものすごい原石だって言ってるんですよ! 磨いたらカントー最強はもちろん、ヘタしたら世界最強だって狙えるかもしれません!」
ユカリさんは興奮気味に話すけど、言ってることが理解できない。今のバトルのいったいどこにそんなに褒められる部分があったんだろう。
「例えば最初の一手。リーフはイーブイに”すなかけ”を指示してましたよね。あれってすごく良い手だったんです」
「あれが…?」
「はい。ピチューは進化していないポケモンなので、侮ってくるような不届き者ばっかりなんですよ。大抵は”たいあたり”とか”でんこうせっか”とか指示して考え無しに突っ込んできます。そんなことをしてくる輩は”てんしのキッス”からの電撃連発でさっさとバトルを終わらせてきました。そこを貴女はちゃんとピチューの特徴を理解した上でまずは動きを潰すという手を打った。これを素質と言わずに何と言います!」
ユカリさんは私のバトル中の一場面をすごく褒めてくれる。嬉しいけれど、あれはどんな指示をイーブイにしようか迷ってる内にピチューが突っ込んできて、焦って技を選んだ結果だ。あの後結局攻撃を喰らってしまったし、あれが実は最善手だったと言われてもイマイチピンと来ない。
「ふふふ、ごめんなさい。ついつい興奮してしまいました。いきなりこんなこと言われても信じられませんよね」
「…うん、ごめん。私に才能があるなんて、信じられないよ…」
「じゃあ貴女が考えていることを当ててあげましょうか。”バトル中にごちゃごちゃ色んなことを考えているから私は勝てないんだ”、そう思ってますね?」
「え…!」
話の角度を変えて、私が悩んでいることをピタリと当てたユカリさんにびっくりした。ユカリさんはそんな私を見て、いたずらが成功した子供のようにニコリと笑う。
「確かにスクールが教えているような基本的なバトルのやり方では、その癖は致命的な悪癖となるでしょう。しかしそれはバトルのやり方を一つしか知らないからそう錯覚してしまっているだけ。本気でトレーナーの高みを目指すなら、それは願っても得難い天与の才能になる」
ユカリさんは自信満々の顔で拳を握り、私の胸にコツンと当てた。その場所を中心にポカポカと温かい気持ちが広がっていく。もう一度ユカリさんを見ると、優しい笑顔を私に向けている。
「教えてあげますよ。貴女がいかなる天才なのかを」
久しぶりに私は胸の奥底からワクワクする感情が湧き上がってくるのを感じていた。
・ゆかりさん
TS転生主人公。今回のバトルはリーフの腕を見るのが目的のため大分手加減していた。
リーフの才能が予想以上に高くて大興奮。
・ピチュー♀(NN:のぞみ)
ゆかりさんの相棒。本来は”かみなり”とか覚えているが、今回のバトルでは大分手加減した。ちなみにギザみみピチュー個体。
・リーフ
ゆかりさんとのバトルに敗北。現在の手持ちはイーブイとフシギソウのみ。フシギソウは怪我をしているため今回のバトルはお休み。
ゆかりさんからとてつもない天才だと称されるが、まだ半信半疑。