(DEMO版)TS転生結月ゆかりはポケ愛が強い 作:グランド・オブ・ミル
皆さんからの温かい評価や感想をいただくと、ついつい嬉しくなって新しいお話を書いてしまいます。
相変わらず作者の趣味全開な作品ですが、これからもよろしくお願いします。
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「さっきは驚いたよ、まさか俺のイシツブテが何もできずに倒されるとはな。だが決め技が”メガドレイン”だと分かった以上そう簡単に喰らうとは思わないことだ」
…強い。さすがはジムリーダーだ。致命的な弱点であるはずのくさタイプの特殊技を、あんな形で防いでくるとは思わなかった。どうやら一筋縄では勝たせてくれないらしい。
さて、どうするか。数の上ではまだ2体を残している私の方が有利。だけど状況は主力技を封じられてしまった私の方が苦しい展開だ。裏に控えているイーブイはイワークを突破できるような技を持っていないから、このまま攻撃を喰らい続けてフシギソウを失うわけにはいかない。
…大丈夫、落ち着いて考えるのよ私。こういう状況でも活路を見い出すことができるのがシンジ型の強み。こんなのまだまだ全然ピンチじゃない。
思考を落ち着かせて、私は昨夜のユカリさんとの作戦会議を思い出した。
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「さて、優秀な貴女に送るもう一つのアドバイス、それは”プランを複数用意しておくこと”です」
「複数?」
「そうです。今リーフが立てた作戦はフシギソウの”メガドレイン”を主軸にして相手の苦手な特殊方面を攻めるというもの。とても効果的なので恐らくこれだけでも勝てるでしょう。ただちょっと心配が残ります」
「それは何?」
「相手がこの戦術を破ってきた場合です」
ユカリさんはホワイトボードにかきかきと書き込む。イシツブテとイワークの横に追加情報が加えられた。
「例えば、イワークはすばやさの能力を一気に2段階も上げる”ロックカット”を覚えます。これで高速に動けるようになったイワークから”いわなだれ”などの強力な技を撃たれるとちょっと厄介ですよね。後は第1のジムなのでないとは思いますが、イシツブテに”じばく”をされる可能性があります。あれは超火力の物理攻撃技なので、如何にフシギソウといえど不意に喰らえば一撃で落とされるかもしれません」
他にも急所に攻撃をもらってしまって大ダメージを喰らったり、相手の攻撃で怯んでしまって大事な場面で動けなくなる可能性も指摘された。ポケモンバトルは戦略や計算だけで成り立っているわけじゃない。時に想定外の事態が起きて組み立てた戦術をひっくり返されたりすることもあるのだとか。
そうか、フシギソウがタケシさんのポケモンにすごく効果的だったから素直にフシギソウ主軸の作戦を立てたけど、言い換えれば何かの間違いでフシギソウを失ってしまえば途端に苦しくなってしまうってことでもあるんだ。そう考えると確かに心配になってきた。
「だからこそ最初に通すつもりだったプランAがダメになってしまった時のために、プランBを用意しておきましょうってことです」
作戦を崩されてしまった時、すぐにその場で次のプランを考えることは初心者には至難の業で、ベテランであってもそう簡単にできるものじゃないみたい。だから戦術を練る時はメインとなるプランだけじゃなくて、サブとして予備のプランを1個か2個用意しておくと安心だとユカリさんは言った。
「…そっかぁ、ポケモンバトルって奥が深いんだねユカリさん」
「ふふふ、そうでしょう? ここがバトルの面白いところなんですよ。相手トレーナーとの見えない駆け引き、押すか引くかの心理戦…、ただ技をぶつけ合うだけじゃないバトルがそこにありましてそれがたまらないんです」
とても楽しそうに語るユカリさん。両手をぎゅっと握っていてウキウキしているのが伝わってくる。
今まで私が知っていたバトルは、強い技や派手な技をタイプ相性に応じて撃ち合って、最後に残った方が勝ちという単純なものだった。良く言えば分かりやすく、悪く言えば単調といった感じだ。ユカリさんが教えてくれるまったく新しいバトルを知れば知るほどそう思えてしまう。
ポケモンバトルはそれだけじゃないんだ。バトルコートで戦ってくれてるポケモンのために、トレーナーは良い司令塔にならなくちゃいけない。しっかり作戦を考えて状況に合わせて選んで、ポケモン達がどう動くべきかをきちんと導いてあげなきゃならないんだ。それができてようやくポケモンとトレーナーが一緒に戦ってるってことになるんだろう。
「…うん、分かった。ありがとうユカリさん。私頑張るね」
「うん、その意気ですよリーフ。じゃあ今日は明日に備えて早めに寝ましょうか」
私達はいつもより早めの時間に就寝準備を済ませてベッドに入った。ユカリさんがくーくーと寝息を立てている隣で、私はちょっとだけ夜更かしをした。明日”メガドレイン”作戦が破られた時のために予備の作戦を考えていたから。
「…うん、これで大丈夫かな」
枕元の小さなランプの明かりでノートに書きものをしていた私は、出来上がったもう一つの作戦を見て満足し、ランプを消して寝た。ユカリさんのためにも明日は勝つと誓って。
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…そうだ、私にはまだもう一つ作戦があった。大丈夫、まだ全然勝てる。
「……フシギソウ、いける?」
私が声をかけるとフシギソウはこっちを見て、こくっと頷いた。
プランB開始だ。
「フシギソウ、イワークに突撃!」
「ふしーっ!」
私の合図でフシギソウはイワークに向かってダッシュした。私達の行動をタケシさんは怪しく思ったみたいだが、さっきと同じ防御の構えを取った。
「何を考えているか知らないが防がせてもらおう。イワーク、”がんせきふうじ”!」
タケシさんの指示でイワークはまた大きな尻尾を振りかぶった。
「今よ! フシギソウ、”やどりぎのタネ”!」
「何っ!?」
「いわっ!?」
その瞬間、フシギソウは背中の蕾からぽんっと種を一つ発射した。葉っぱに自然エネルギーを溜めてから発射する”メガドレイン”と違って種を撃ち出すだけなので、イワークの”がんせきふうじ”よりも速く決まった。種はイワークの身体に着弾するとスルスルとつるを伸ばし、イワークの身体が緑のつるまみれになった。
それを確認した後、イワークから”がんせきふうじ”が放たれ、フシギソウにヒットする。ダメージを喰らってしまったが、フシギソウはしてやったりという顔でニヤリと笑った。
「くっ、やられた! イワーク、”あなをほる”!」
悔しそうな顔をしたタケシさんがイワークに指示を飛ばす。イワークはその巨体からは信じられない速さで地面に潜っていった。
”やどりぎのタネ”は種を植え付けた相手から少しずつ体力を吸い取り、吸収していく技。フシギソウのようなくさタイプの耐久型ポケモンにはもってこいな技だ。これで”メガドレイン”を命中させなくてもイワークはじわじわと体力が削られていくことになる。
「攻撃がくる。フシギソウ、身構えて」
「ふしっ」
フシギソウはぐっと身体を丸めて防御の姿勢をとった。その直後、イワークが地面から飛び出してきてまたフシギソウは吹き飛ばされる。度重なるダメージでさすがのフシギソウも苦しそうだ。
「フシギソウ、”どくのこな”!」
そこへ私が最後の指示を出した。空中でくるんっと回転したフシギソウは背中の蕾から紫色の粉を振り撒く。”あなをほる”攻撃で地中から飛び出してきたばかりで、まだ空中にいるイワークにその粉は見事命中した。これでイワークはどく状態だ。
「ぐ、ぐぉ…」
ドズゥンッ、と着地したイワーク。その表情はかなり苦しそうだ。”やどりぎのタネ”で少しずつ吸収されていく体力に加え、どく状態となってしまったことも原因だ。これでイワークはこちらから攻撃せずとも時間が経てば力尽きて倒れる。
「戻ってフシギソウ、お疲れさま」
ボロボロの状態のフシギソウをボールに戻した。本当によく頑張ってくれた。フシギソウのおかげでもう王手をかけている。
「いってきて、イーブイ」
「いぶぅ」
ここまで決まってしまえば後は簡単だ。体力満タンのイーブイでイワークが倒れるまで待てばいい。イーブイには”つぶらなひとみ”や”すなかけ”のように相手の攻撃を妨害する技がある。それらを上手く使ってたまに”にどげり”を挟みながら立ち回っておけば私の勝ちだ。
「…ははは、まいったな。短期間でここまで強くなってるとは思わなかったよ」
ここから少し経ち、体力が尽きたイワークはその重たい身体をフィールドに横たえた。
『イワーク戦闘不能。イーブイの勝ち。よって勝者、挑戦者リーフ選手!』
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私の可愛い生徒の成長がえぐい。
そうとしか感想が出てこない結果に、私の心の中は嬉しさと興奮と感動が入り混じったかなり複雑な感情でいっぱいになっていた。たった2,3日指導しただけで、負け続きでべそをかいていた女の子がここまで強くなるものだろうか。リーフの底知れない潜在能力に脱帽するばかりである。
”メガドレイン”を封じられたリーフがとった行動は”やどりぎのタネ”と”どくのこな”を併用した相手の自滅狙い、それもイーブイが覚えている補助技もフルに活用した非常に堅実なものだ。地味ではあるがまるで現実のゲームのプレイヤーが憑依して戦っていたのかなと錯覚してしまうくらい合理的な作戦だった。
何より評価したいのはあの場面でフシギソウを捨て駒にしたことだ。いわタイプのジムリーダーに挑んでいるのだから、タイプで相性有利が取れるくさタイプのフシギソウは大事にしたくなる場面だろう。だからさっさとイーブイに交代して補助技で相手を妨害しながら”にどげり”で少しでもダメージを稼ぎ、もう一度フシギソウを出して仕切り直すのだと予想していた。
だけどリーフの判断は違った。あえてそのままフシギソウを続投させてダメージ覚悟で”やどりぎのタネ”と”どくのこな”を撃ち、万全にイワークを弱らせた上でイーブイに繋げたのだ。きっとリーフは昨晩私がした話を覚えていたんだろう。もしイワークを弱らせることなくイーブイを出してしまったら、イーブイを起点に”ロックカット”や”のろい”のような積み技を使われて途端にピンチになるかもしれない。その可能性を回避するためにフシギソウをボロボロにしながらもイーブイで確実に詰められる戦法を選んだんだ。
きっとタケシもこの行動は予想外だったに違いない。一度”メガドレイン”を見ているから尚更フシギソウが突っ込んできた時は驚いたはずだ。ジムリーダーの意表を突くまでになるなんて…、先生は君の才能が末恐ろしい。
「完敗だ。本当に強くなったな、リーフちゃん。俺に勝った証、グレーバッジを受け取ってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
コートの真ん中でリーフがタケシと堅い握手を交わし、ジムバッジを受け取っている。リーフはそのバッジを大事そうにぎゅっと胸に抱くと、その場でぴょんぴょん跳ねたりくるくる回ったり大喜びだ。
「…リーフ、貴女は一体どこまで強くなるんでしょうね」
気分はサイヤ人襲来前に悟飯を育てていたピッコロさんだ。自分を超えてしまうかもしれないという期待感と、自分も負けていられないと奮起するような気持ち。これからの旅が改めて楽しみだ。
「ユカリさーんっ! 勝ったよーっ!」
リーフがこちらにぶんぶんと手を振って報告してくる。ひらひらと手を振って返してあげると彼女は嬉しそうに笑った。
「さて、今日はお祝いにご馳走でも食べますか」
「ぴちゅ~♪」
「ふり~♪」
確かホテルに美味しそうなビュッフェがあったはずだ。美味しいものをたくさん食べて可愛い生徒の第一歩を盛大に祝うとしよう。
私は席を立って一足先に選手控室の方へ向かった。多分あの娘、嬉しさのあまりまた抱きついてくるだろうからしっかり受け止めないとね。
「リーフちゃん、あの女の子が君に特訓を?」
「はい! ユカリさんはとっても頭が良くて、ポケモンのことを何でも知ってるすごい人なんです!」
「…紫色の髪の女の子…、名前が”ユカリ”…? いや、まさかな」
「? タケシさん?」
「いや、何でもないよ。きっと思い過ごしだ。仮に当たっていたとしてもこれは俺の口から話すことじゃないからな」
「…?」
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その日の夜。公式戦初勝利を飾ったリーフは、ユカリにお祝いとして連れて行ってもらったビュッフェで思う存分料理を堪能し、幸せな気持ちで眠っていた。
「えへへ……ユカリさん…勝ったよ…。すぴー…」
よほど嬉しかったのか寝ながら口角が上がったままである。にへら、とした笑顔のまま寝ているのでよだれが垂れてほっぺたを伝う。まるでお腹いっぱい食べたカビゴンのような至福の寝顔だ。
「リーフ、明日のことなんですけど……、って寝てるんですか」
そこへ風呂上がりのユカリが浴室から出てきた。髪をしっとりさせて薄紫色のパジャマを着たユカリは、リーフに近づいてよだれを拭いてあげる。
「ふふっ、まったくしょうがない娘ですね」
「…えへ……もう食べられない……」
まくれ上がったリーフの布団をかけ直してあげて、ユカリは部屋のベランダへ出た。山の麓にあるニビシティからは夜空が良く見えて、満天の星や澄んだ月が一望できた。
「綺麗なところですね、カントー地方……」
そんな夜空を見上げ、少しアンニュイな表情を浮かべるユカリ。胸元からペンダントを取り出し、ぱかっと開く。そこには高層ビルが立ち並ぶ都市を背景に、色違いのゴウカザルやサーナイトと笑顔で並んでいるユカリの写真が入っていた。
「……待っててくださいね、みんな」
その写真をじっと見つめて呟いたユカリ。やがてぱちんと閉じてペンダントをしまうと、何かを決意した目でもう一度夜空を見上げた。
「絶対に、変えてみせるから」
その声を聞いた者は誰もいない。夜の闇と月や星の光へ吸い込まれていく。しばらく無音の時間が続いた後、ユカリがフッと笑った。
「なんてね」
満足したのかユカリはベランダから部屋に戻る。照明を消してリーフの隣のベッドに入って寝る準備だ。寝る前にユカリはもう一度リーフの方を見た。その頭を優しく撫で、まるで妹を見る姉のような柔らかい眼差しを向ける。
「これからもよろしくお願いしますね、リーフ」
「んへへ……ふぁい……」
寝言で返事をしたリーフにくすくすと笑い、ユカリは眠りについた。
・ゆかりさん
TS転生主人公。何かちょっとした訳ありの過去があるみたい…? この辺のエピソードをお話として書くかどうかはまだ未定。そこそこ長くなっちゃいそうなのでね、作者はもう少しほのぼのとした旅を書きたいのです。
・リーフ
公式戦初勝利&初ジムバッジをめでたく手にした娘。おめでとう! ゆかりさんの想像を遥かに超える天才だったらしい。
ジム戦勝利で飛び跳ねるほど喜んでビュッフェでたくさんお祝いしてもらって、人生最良の日を味わった。
・タケシ
ジムリーダーとして全力で戦ったが、リーフの驚異的な成長に敗れてしまった。これまで戦ってきた挑戦者の中で一番手応えを感じる相手だったらしい。
ゆかりさんの過去について何か知っている様子。