ウルトラマンアール   作:リョウギ

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Call01:「誰よりも、早く!」

2024年5月

その日、火元(ひもと)市は未曾有の災害に襲われた

 

地震、津波、台風、火災……

そんな災害が足元にも及ばないほどの災害

 

ーギシャオォォォォォォゥゥ!!!

ーギュイィィィィィィィィィァァァァッ!!!

 

三日月のような大ツノをもつ巨獣が暴れ、空を覆い尽くさんほどの大きさの翼を持つ怪鳥が炎を吐く

 

映画を見ているような光景だが、これは現実だった

 

ー怪獣

 

空想の産物だと思われていたそれは、なんの前触れもなく現れて現実の街をおもちゃのように蹂躙していく

 

ーあまりの光景に足が竦む。でも、私たちはめげてなんかいられない

 

 

「とにかく生きている人を探して救助する!こんな事態は想定外だが、我々がやるべきことは一つだ!!」

『了解ッ!!!』

 

 

オレンジの制服を纏う隊員たちが散開していく

 

ー災害が起きたなら、私たちはどこにでも駆けつける。それがレスキューチームとしての使命だから

 

この日も私ー穂村(ほむら) (かがり)は走っていた

 

「大丈夫ですか⁉︎今、助けます!!」

 

瓦礫の山を掻き分け、出てきた手を掴む

煤けて傷だらけになった手は冷たくなっていた

ギリ、と唇を噛む

 

「生きている方は声を上げてください!」

 

か細い声が聞こえた気がした

燃え盛る廃墟を抜けて、そこに辿り着く

今し方声を上げていた誰かから、手遅れと思うしかない量の赤い液体が染み出しているのを見て呼吸が荒くなる

 

 

「助けて!!どうか、どうかこの子だけでも!!!」

 

 

響く声に顔を上げる

 

篝の目に潰れた家の下敷きになった親子の姿が映る

子供を抱え、声を張り上げる母親

 

踏み出しかけた足が一瞬竦む

 

 

ーギュイィィィァァァァッ!!!

 

 

その向こう側に、黒い巨体が迫っていた

巨大な翼を広げた鳥のようなー怪獣

 

篝の顔が一瞬恐怖に歪むが、意を決して踏み出す

 

「今、助けます!!!」

 

親子の元に駆けつけ、手を伸ばす

 

が、親子はその目前で炎に包まれた

 

「ーっあ!?」

 

爆炎に思わず顔を庇う

 

篝の小柄な体が宙を舞う

 

吹き飛ばされた先で篝は見た

 

炎に包まれていく街

その中で響く断末魔の悲鳴

 

怪獣に潰されていく多くの命を前に、篝はへたり込む

それしかできなかった

 

ただただ呆然と、この世界を壊していく巨影を見上げる

 

 

その瞳にはただ、黒い影と炎のみが写っていた

 

 

◆◆◆◆◆

 

簡素なベッドから体を起こす

荒い呼吸、跳ねる心臓、脂汗が滲んで張り付いたTシャツが鬱陶しい

 

「ーっぷ」

 

跳ねるようにベッドから立つと、そのまま洗面台まで走って胃の中の物を吐き出す

 

一通り吐き出した後、口元を拭いながら薄暗い洗面台の明りが照らす自分の顔を見て、穂村(ほむら) (かがり)は吐き捨てる

 

 

「………酷い顔」

 

 

配達のバイクに跨ったまま、顔を上げる

街頭テレビにはニュースが映し出されていた

 

巨大な怪獣が炎を吐き、そこに飛来する黒い戦闘機が斉射を繰り返し、地上からも砲撃の雨が突き刺さる

 

『昨日、火元(ひもと)市北部の多々良(たたら)山近辺に怪獣が出現。MBFにより迎撃作戦が行われました。出現した怪獣は以前出現した怪獣デマーガと同種個体と見られます』

 

アナウンサーの読み上げの裏で、翼に赤いラインが3つ入った特殊な形状の戦闘機が目にも止まらぬ軌道で懐へと潜り込み、怪獣の頭へミサイルを浴びせかけてトドメを刺す

 

倒れ込む怪獣を最後に映像が切り替わり、MBFのロゴが刻まれた黒い制服を纏う隊員たちを囲む記者たちの映像になる

 

 

MBF

怪獣殲滅部隊

 

 

1年前の5月某日、突如として現れた怪獣

人々が空想の産物としていたそれらは、容易く現実を割砕き、世界中で多数の死者を出した

 

最悪の1日ー厄災の日

 

その日以降も怪獣の出現は止まらず、自然災害ならぬ『怪獣災害』という新たな脅威が国連によって定められた

 

それと共に国連手動で各国に配備されたのがMBF

最新の技術を使って怪獣を迎撃・殲滅する特殊部隊

 

 

隊員たちを掻き分け、黒髪の女性隊員が姿を現す

胸元に他の隊員には無い三本の赤いラインの入った制服を纏うことから、階級の違いが垣間見える

 

 

『怪獣たちは残らず我々が殲滅します。あれらは、我々人類の文明社会を脅かす害獣でしかありません』

 

 

堂々とインタビューに答える女性隊員

相変わらずの勝気な赤い目に見据えられたかのように思った篝が思わず目を逸らし、青に変わった信号を確認してバイクを走らせる

 

 

『ーそう。逃げるのね篝』

『あなたは、あのクソどもを許せなくないの…⁉︎』

 

 

脳裏によぎる記憶を振り払って、バイクを飛ばす

篝にはもう、関係のなくなってしまったことだったからだ

 

◆◆◆◆◆

 

「……ここ、だよね?」

 

篝が呆然と目の前の建物を見上げる

ボロボロのビル。看板はほぼ空でテナント募集の張り紙すら無い

というか、配達先らしい3階の表示も何も無い

 

「いたずらかなぁ……一応、確認した方がいいかも」

 

妙に軽い配達予定の段ボールを小脇に抱えてスマホを取り出そうとしていると、突如横から声がかかる

 

「あ、やっと来てくれたんだね〜待ちくたびれたよぉ」

 

声の方を向くと、そこには長身の女性が立っていた

ほわほわとした表情と声色ながら、体つきや歩き方がしっかりしているのが職業柄ー否、元職業柄よくわかった

 

「もしかして、受取人の方ですか?」

「そそ。私が震代(しんだい) 美浪(みなみ)だよ」

 

女性ー震代 美浪が程よい大きさの胸を叩く

 

「ささ、上がってって。配達して喉も乾いてるだろうからお茶だけでも」

 

美浪に言われるがまま促されて篝が階段を上がっていく

 

 

案内された3階の部屋は奇妙極まっていた

 

掃除はされているが電気はついておらず、ソファと長机だけがポツンと並べられていた。ミニマリスト……だとしてもいくらなんでも家具が無さすぎる。仕事場どころか生活感すら無い部屋だった

 

「こんなのでごめんね。今これしか持ち合わせてなくて…」

 

促されて座った篝の前に美浪が250mlペットボトルのオレンジジュースを置く。自分もどっこいせと篝の前に腰掛けると黒いラベルの濃い緑茶のペットボトルを開けて飲み始める

 

「あの、こちらを。あとここにサインもお願いします」

「ああ、そうだったそうだった」

 

出されたジュースは一旦無視して業務をこなす

受け取った荷物を美浪が開いて確認する。中からは数個のお菓子の袋が出てきた。この時代よくあることだが、だいぶ過剰包装されていたらしい。

 

「やっと届いた〜この味とかこの辺では買えないんだよねぇ…」

 

呑気にスナック菓子の袋を開けて中身を早速食べ始める美浪を見て、篝は席を立つ

 

「荷物の受け取りも済んだので、私はこれで」

 

去ろうとする篝を見て美浪が「あ、ちょっと待って」と声をあげる

 

「……なんですか?」

「いやぁ、仕事の邪魔するようで悪いんだけど、私の本当の要件はこっちじゃないんだよね」

 

 

「元レスキュー隊員の穂村 篝さん」

 

 

「!?」

 

美浪の言葉に篝の足が止まる

こめかみから冷や汗が落ちる

 

「な、なんのこと、ですか…?」

「とぼけても無駄だよ。キミのことは申し訳ないけど、色々調べさせてもらってるから」

 

美浪がスナック菓子のカスの付いた手をウェットティッシュで拭くと、脇に置いていた鞄の中から書類の束を取り出す

 

「穂村 篝。年齢27歳で、24歳の若さで優れた成績と共にレスキューの道に進んだ凄腕ルーキー」

 

「でも、1年前の6月にレスキュー隊を辞めてからは活動の記録が無い」

 

美浪の読み上げに篝が息を呑む

内容は全て真実。ということは、これがはったりでは無いということ。ただの人間が、血縁すらない人物の個人情報をここまで知るはずがない

 

美浪が糸のように細い目から金色の瞳を覗かせる

 

「1年前に……なんかあったでしょ?」

 

美浪の言葉に、篝が唇を噛む

 

脳裏に、炎に包まれた記憶が。過去から響く慟哭がこだまする

フラつく足に力を込め、こめかみを押さえながら顔を上げる

 

「……だったら、なんだって言うんですか…?」

「そうだねぇ、なんだって言われたらー」

 

 

「私には、もう何も関係のない話ですッ!!!!」

 

 

篝が声を荒げ、美浪の言葉を遮り走り去る

しばし面食らっていた美浪だが、ポケットにしまっていたデバイスの着信に応答する

 

『隊長、首尾の方はどうだ?』

「うーん…断られちゃった」

『何…?』

「ストレートに誘おうとしたんだけどさぁ…何でだろ…」

 

呑気にスナック菓子を食べながら美浪が答える

『バカ正直に言ってどうする!?あの報告からも彼女が過去にトラウマを抱えていることは明らかだろうが!?』

「いや、まぁうん、そう…なんだけどさぁ……」

 

ペロリと指先を舐めながら美浪が細い目を少し見開く

 

「……あの感じ見たら、余計に放っておけないわね」

 

◆◆◆◆◆

 

いつもより少しスピードを上げながら篝がバイクを走らせる

 

『一年前に、何かあったでしょ?』

 

「ーッ」

 

先程の美浪の言葉に顔を顰める

 

忘れたい、が忘れがたい記憶が脳裏に蘇ってくる

 

 

一年前のあの日…厄災の日

篝は怪獣に襲われた市街地のレスキュー活動を行っていた

 

酷いものだった

今まで数多の現場を経験していた篝でも、見たことないくらいに破壊が進んでいた

 

同時に、多くの人々が助けを求めて声を上げ、生きようとしていた

いや、生きることを諦めようとしている者もいたのかもしれない

 

それでも篝と彼女の率いる隊は一人でも多く、速く助けようと奔走した

 

 

だが現実は、甘くなかった

 

 

現れた怪獣の一体ー識別名・熔鉄怪獣デマーガが放つ業火に焼かれ、隊は散り散りに。救助しようとした人が目の前で焼け焦げ、踏み潰され、共に苦楽を共にした隊の仲間からの通信が一人、また一人と途切れていく

 

 

『ーたすけて!いやだ!死にたくなー』

 

 

焦げていく人の悲鳴が、それから文字通り焼き付いて離れなくなった

 

死傷者、重軽傷者はレスキュー隊員を含めて数百人。行方不明者数百人。無事に生還したのは、篝を含めてたった4人

 

篝の隊は15人から3人になっていた

 

 

焼けつく記憶からフラッシュバックした焦げた匂いがよぎり、込み上げてきた吐き気をかろうじて飲み込む

 

道の脇にバイクを一旦停めて見た自分の手は、震えていた

 

 

あの日以来、篝は現場に立てなくなっていた

 

誰よりも速く助けを求める声に駆けつける

例え全てを救えなくとも、より多くを助けてみせる

 

そんな自分の手は、思っていた以上にちっぽけだったのだ

 

 

隊の仲間を、平穏を奪った怪獣が憎い

でも同時に、怖くて仕方がない

 

 

迫る死が、何よりも目の前で一手届かずに消えていく命が

また、助けられない無力な自分が、怖くて憎くて仕方ない

 

 

「………だから、仕方がないことなんだ」

 

自分に言い聞かせるように、篝は呟いて再びバイクを走らせた

 

◆◆◆◆◆

 

走り去るバイクや車の群れを、ビルの上から見下ろす影が一人

 

小柄な女性だった。短いボブカットに揃えた灰色の髪にはインナーカラーとメッシュに血のような赤色が混じる

灰色のタートルネックと黒いパンツルックの上から黒いコートを羽織るそれは、蛇のような赤い瞳で街並みを見下ろしていた

 

『……ァア』

 

女が口角を上げ、感嘆の吐息を漏らす

口の端から一筋の涎が溢れる

 

 

『ー美味そうダ…』

 

 

女は、人間にしては有り得ない長い舌で口周りを拭うと立ち上がり、空を見上げる

 

『…しっかり熟成させテくレよ』

 

空に向かって、こまねくように手を動かす

 

 

それに呼応するかのように、空の彼方に赤い星の光が煌めいた

 

 

◆◆◆◆◆

 

宇宙空間

 

 

ーギャオォォォォォォッ!!!

 

 

地球に向けて接近してくる赤く赤熱化した隕石のようなものが一つ

 

何かに誘い込まれるかのように、速度を増したそれの背後から、煌めく橙色の流星が飛び出す

 

 

ーリャアァァァァッ!!!

 

 

橙の流星が赤い隕石に衝突

纏うエネルギーが剥がれ、銀とオレンジの体に青いラインの入るマッシブな体型の巨人の姿が顕になる

 

『お前だな!?リブット師匠が言っていた、地球に迫る脅威ってのは!』

 

しがみついた巨人が隕石に何度もパンチを叩き込み、火花が散る

 

ーギャオォォォォォォンッ!!!

 

隕石の様だったそれの後部が開き、赤熱化した岩石が吐き出される

張り付いていた巨人は回避もままならず、直撃を受けて吹き飛ばされる

 

ーリャァァァァァァッ!?

 

ーギャオォォォォォォッ!!!

 

巨人を吹き飛ばした隕石は、進路上にあった人工衛星を砕き、そのまま地球の大気圏へと突入して速度を上げていく

 

『やべぇッ!?待ちやがれッ!!!』

 

ーリャアァァァァァァァァッ!!!

 

巨人もかぶりを振ると、地球へ向けてスピードを上げていった

 

隕石が目指す地点ー日本へと

 

◆◆◆◆◆

 

篝がバイクを走らせていると、何故か人々が皆上を見上げている様子が目に映り、路肩に寄せてエンジンを止める

 

「…?何を見てー」

 

同じくバイザーを上げて空を見上げた篝が目を見開く

 

空に輝いていた赤い光

真昼間なのに目立つそれが、確かに地上へと迫ってきていた

 

ヘルメットを外して篝が周りを見渡す

不思議そうに見回す人や、呑気にスマホを掲げる人々を見て声を張り上げる

 

 

「ーみんな、頭を伏せて!!!!」

 

 

篝の声に反応して数人が頭を押さえてしゃがみ込む

それに続いて大きな衝撃が大地を揺らし、暴風が吹き荒ぶ

 

 

ーきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

ーうわぁあぁぁぁあぁあ!!!!

 

 

響く悲鳴が鼓膜を揺らし、痛む頭を押さえて立ち上がる

 

目の前の街並みをグシャグシャにし、そこには赤い大きな岩石状のものが突き刺さっていた

 

「…隕石…にしては、被害が小さすぎる……」

 

少なく見積もっても40mはある隕石

それがこの距離でただ落ちてきて自分たちが助かるわけがない

 

例えば、それが自分で制動でもかけなければ

 

赤熱化した表面がバキン、と割れて腕と脚が飛び出す

そこから更に頭が伸び、ギロリと目が開く

 

 

ーギャォオォォォォォォォン!!!!

 

 

姿を現したそれは、一声咆哮をあげると目前の自動車を踏み潰しながら進撃を開始した

 

「怪、獣……!?」

 

隕石から姿を変じた怪獣ー怪獣隕石グラダイトは腕を振り回しながらそこいらを見渡し、邪魔そうにビルを殴りつけて破壊する

 

グラダイトの足元から逃げだしてきた人々の悲鳴が響く中、愕然とその巨体を見上げるしかなかった

 

足が動かない、体が言うことを聞かない

心臓が早鐘を鳴らす様に脈打ちうるさい

 

冷や汗が頬を伝い、うまく息が吸えずに視界が黒くなっていく

 

パンッ、とその肩が叩かれる

 

「大丈夫?まだ立てる?」

 

肩を掴んでいたのは、先程荷物を届けた相手の震代 美浪だった

 

「……美浪、さん…!?」

「落ち着いて深呼吸して」

 

美浪の言う通り、何度か深呼吸をして呼吸を落ち着かせる

 

「よし、じゃあ早く穂村さんは避難を。あーもし可能なら、避難誘導できるとこはしてくれたら嬉しいかなぁ?」

「美浪さんも、早く逃げないと!」

「私は今から一仕事あるから、さ」

 

美浪はスーツの上着とネクタイを脱ぎ捨て、オレンジと黒に青いラインの入った派手なジャケットを羽織る

 

左肩と背中にはMDSRのロゴが入っていた

 

「弾、どう?」

『悪いが、お上の石頭はまだまだ硬いらしい。マシンの出撃は許可が降りなかった』

「まぁしょーがないか…私の方でできるだけ動くわ。そっちはよろしく」

『ラジャー』

 

通信機越しの会話を終えた美浪は篝を助け起こして怪獣の足元に向けて走っていく

 

「え、ちょっ!?」

 

美浪の思わぬ行動に驚く篝

今一度怪獣の方を睨むと、美浪は逃げゆく人々に声をかけ、避難誘導の声かけを行っていった

 

 

ーギャォオォォォォォォンッ!!!

 

町を進軍していくグラダイト

口から炎を吹き出しながら赤熱化させた岩石を弾丸のように吐き出して、街並みを破壊していく

 

町が潰され、燃えおち、悲鳴がこだまする

 

そんな中を美浪は一人走り回っていた

 

「大丈夫ですか!?」

 

倒れた人に声をかけ、開けた場所に助け起こしていく

中には瓦礫に潰されていた人もいたが、腰に装備したガジェットをハンマー型に組み上げ、瓦礫を粉砕して助け出す

 

そんな中、崩れ落ちてくる瓦礫に人々が思わず頭を覆う

 

美浪はすかさず取り出した小型銃のシリンダーを回転、銀色のカートリッジに入れ替えてバレルをリロードして頭上に放つ

 

エネルギーシールドが展開され、瓦礫が空中で静止する

 

「今のうちに、早くッ!」

 

美浪は笑顔を見せ、人々の避難を誘導していく

 

ーギャォオォォォン!!!

 

進撃するグラダイトにミサイルが数発突き刺さる

 

鬱陶しげに見上げるグラダイトを3機の戦闘機が通り過ぎていく

MBFの特殊攻撃機ーMBレイヴンだ

 

『タイプR怪獣確認。迅速な殲滅を開始する。フォーメーションα4!』

『『了解ッ!!!』』

 

散開し、様々な方向からミサイルやバルカンによる攻撃をしかけていく

 

グラダイトは鬱陶しげに手を払い、ミサイルを撃墜しながら火球を放つがMBレイヴンには当たらず、ガラ空きになった腹部や頭部にミサイルが炸裂していく

 

ーギャォオォォォォォォンッ!?

 

グラダイトがよろめき、体を丸める

 

『攻撃は有効と判断!続行!!』

 

そこに更に追い討ちとばかりに雨霰と攻撃が降り注ぐ

グラダイトの背中の甲羅はそれを弾いてあたりに降らし、より破壊が進んでいく

 

◆◆◆◆◆

 

避難誘導を終え、離れようとした篝が空を駆けるMBレイヴンを見上げる

 

「MBFが来たなら…」

 

自分も避難しようと踵を返す

 

 

 

ーうぁあぁああぁ!おかーさぁーん!!

 

 

 

その耳に消え入りそうな声が響いた

 

「ーッ!?」

 

篝の足が止まる

早鐘を鳴らし続ける胸をギュッと握り、唇を噛み締める

 

ー篝の足は、声のした方にー怪獣の足元に向いていた

 

 

「聞こえる!?返事をして!!!お願い!!!」

 

篝が瓦礫をどかし、声を張り上げる

間違いなく、声はこの辺りから聞こえていた

 

「おかーさん!おかーさん!!!」

 

聞こえてきた懸命な叫びに顔を上げる

 

目線の先に瓦礫の下敷きになっている母親を引っ張る少女が写る

 

「待ってて!!今助けにー」

 

 

ーギャォオォォォォォォンッ!!!

 

 

少女たちの背後にグラダイトの巨体が聳え立つ

 

「ーッ!!」

 

反射的に生唾を飲み込む

あの日の景色が、叫びがフラッシュバックする

 

「ーは、はっ、はっ、はぁっ、はっ…」

 

息が上手く吸えない。足も震える

どうしようもない激情が渦を巻くのに、体は強張って動いてくれない

 

ーギャォオォォォォォォォォォン!!!

 

グラダイトの咆哮、MBFの攻撃音、爆発、崩落

 

その中でもまだ聞こえてくる少女の悲痛な叫び

 

「ーッ、ぁアッ!!!」

 

ーガスッ!!!

 

篝は、己の頬を思いっきり殴り倒した

口の端から血が垂れる

 

「……もう誰も、あんな泣いて死を待つことにさせない…もう、誰も!誰の声も見逃さない!!!」

 

胸を握りしめて体を倒し、足を踏ん張る

 

 

「ーそう決めたから、私はレスキューになったんだろうが!!!」

 

 

篝が駆け出す

泣いていた少女が縋る母親を潰す瓦礫に手をかけ、体ごとぶつけてなんとかどかそうとする

 

「大丈夫!!お母さんは、今助けるからッ!!!」

 

ビクともしない瓦礫を見て辺りから鉄パイプを探し、体と瓦礫の隙間に突っ込んでテコの要領で瓦礫を浮かせる

だが、まだ引っ張り出すには弱い…

 

ーギャォオォォォォォォォォォン!!!

 

グラダイトが叩き落としたミサイルがこちらに迫る

 

「ー畜生…ッ、また、間に合わないの…!?」

 

迫るミサイルから少女を咄嗟に庇って体を丸める

落ちてきたミサイルはーエネルギーのシールドに阻まれて爆風すら届かなかった

 

「……え?」

 

「ー無茶をするね、キミ」

 

そこに駆けつけた美浪が怪獣に銃を向けながら篝と少女を庇うように立つ

篝の方を見て、美浪はにへらとゆるく笑う

 

「私、そういう子大好きなんだワ」

 

美浪は腰から取り出したハンマーガジェットで瓦礫を砕く

それを見た篝がすかさず母親を引き出す

 

「脈拍、呼吸、共にアリ、でも出血が……」

「任せて」

 

瓦礫が刺さって大きく出血していた腹部に美浪がテープを手際よく巻いていく

 

「これでよし。うちの医療班には優秀な子がいるから助かるわ」

「おかーさん……死なない?」

 

泣き腫らした顔で少女が尋ねる

美浪がゆるい笑顔でぽんぽんと頭を撫でる

 

「だーいじょうぶ。お姉ちゃんが助けに来てくれた時からもう安心だよ」

 

安堵で脱力しかけた小さな体を篝が受け止める

 

ーギャォオォォォォォォンッ!!!

 

MBFの攻撃に耐えかねたグラダイトが体を丸め、攻撃が雨霰と続く

 

「っと、奴さんらは怪獣殲滅優先だから早いとこ安全圏に退避しないと」

 

美浪が母親を抱える

 

「その子はお願いできる?穂村さん」

「……はい!」

 

篝は少女を抱き上げ、現場から離れようとした

 

その時だった

 

 

ーギャォオォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

グラダイトの咆哮

同時にグラダイトの甲羅が展開し、赤熱した岩石が辺り一帯に撒き散らされる

 

「うわっ!?」

 

咄嗟に身を伏せる美浪と篝

 

「しまっー」

 

二組の間にも岩石が落下し、分断されてしまう

 

 

飛び出した岩石を避けることができず、一機のMBレイヴンがエンジン部に直撃を受ける

 

『機関破損!!脱出!!!』

 

パイロットは脱出したが、残された機体は篝たちめがけて落下してくる

 

「ーッ!?」

 

少女を抱きしめ、体を丸める篝

 

だが、MBレイヴンはすんでのところで橙の光が受け止めた

 

「ーえ…?」

 

篝が空を見上げる

 

そこには、自分たちに大きな黒い影を落とす巨人の姿があった

 

◆◆◆◆◆

 

ーリャアァァッ…

 

『間一髪だったな…あいつが壊した人工衛星の破片で引き離されちまったが、ようやく追いついたぜ!!!』

 

巨人ーウルトラマンアールはMBレイヴンを近くの瓦礫に立てかけ、立ち上がり、グラダイトを睨む

 

 

 

『ギャラクシーレスキューフォース、ウルトラマンアール!これ以上はやらせねぇ…誰よりも早く、お前を倒すッ!!!』

 

ーリャアァァッ!!!

 

 

 

ーギャォオォォォォォォォォォンッ!!!

 

立ち上がるグラダイトに肉薄、アールのショルダータックルがグラダイトの巨体を揺るがす

 

そこに力強いパンチが何発も打ち込まれ、グラダイトはよろめく

 

ーリャアァァァァァァッ!!!

 

そこをすかさずエルボーを打ち込み、長い首を抱え込んで押し込んでいく

 

 

「あれは……宇宙人…!?」

 

少女を抱えながら篝がアールの姿を見上げる

 

「……私たちを…助けてくれた…?」

 

ーリャアァァッ!?

 

グラダイトの腕の一撃をもらってアールがよろめく

先程までとは違い、何故かアールの動きが鈍ってるように篝の目には映っていた

 

 

『ーッ!?』

 

グラダイトに攻撃を仕掛けようとするアールが動きを止める

 

その耳に、助けを求めるか細い声が届いていたのだ

 

『逃げ遅れた人がまだいる…!?これじゃあ、このまま戦うと周りの人らが危ねぇ……ッ!』

 

ーギャォオォォォォォォォォォッ!!!

 

アールの動きが鈍ったのを見てグラダイトがタックルをかます

 

ーリャオァァァァッ!?

 

よろめきながら、グラダイトの巨体にしがみつき、押さえ込む

口元を赤熱化させ、熱岩を放とうとするのを首を動かして地上からずらすが、大きな腕の打撃にアールが吹き飛ばされる

 

ーリャオァァァァッ!?!?

 

吹き飛ばされたアールがビルを倒壊させながら倒れ込む

 

ールァァァァッ……

 

巨人の胸元の四角い翠緑色のクリスタルが赤く点滅し始める

 

『体が重たい……地球じゃ、2分ちょいしか戦えないのか…!?』

 

グラダイトが再び熱岩を放とうとするのを見たアールはよろめきながらも立ち上がり、両腕を広げて地上の人々を庇う

 

 

「……あの宇宙人…私たちのことを守ってるの…!?」

 

アールの背中を見上げる篝が目を見開く

 

「庇ってばかりじゃ、やられるのはあんたなのよ!?」

 

ギリ、と篝が唇を噛む

 

「お姉ちゃん……」

 

少女が心配そうに篝とー巨人の背を見上げる

 

「……あの人、痛そう…辛そう……」

 

少女の声を聞いた篝

自分の手のひらを見る

 

震えていた

 

堪えていたが、足も震えている

まだ、怪獣への恐怖とあの日の絶望は消えていない

いつまた、くじけて立ち止まるかわからない

 

「……ごめんね、少しだけ…お姉ちゃんに手を貸して」

 

少女の小さな手を、震える手で握りしめる

 

暖かい。生きている

 

今は、今立ち上がるには、それだけで十分だった

 

 

「ーちょっとだけ、待ってて。私、あの人を助けてくる!」

 

 

篝の力のこもった、真摯な言葉に少女は口元を結んで頷いた

 

 

グラダイトの攻撃から庇うのも限界が近づき、アールが片膝を付く

 

 

「ーそこの宇宙人!!!!!」

 

 

どこからか響いた声の主を探し、アールが首を巡らせる

 

『地球人の…女の人!?』

 

半ば崩れたビルの屋上から身を乗り出し、篝が息を切らせながら叫ぶ

 

 

「ーあっちの方角は!!!建物も人もいない空き地よ!!!!」

 

 

篝の言葉を聞いたアールはその意図を理解して大きく頷いた

 

 

ーリャアァァァァァァッ!!!

 

 

力を込めて立ち上がるアールのカラータイマーが眩いオレンジに輝く

グラダイトの熱岩を叩き落としながら近づき、その長く伸びた首を掴んで持ち上げ、力の限り振り回す

 

ーリャァァ…オリャアァァァァァッ!!!!

 

ジャイアントスイングの要領で巨体が投げ飛ばされ、狙った空き地に落ちる

 

よろめきながら立ち上がるグラダイトの前に、アールが身を翻しながら跳躍し立ち塞がる

 

アールは大きく腕を振り回しながらオレンジのエネルギーを集め、その腕を横一文字に開く

 

グラダイトも口の中に灼熱を充填し、いつも以上の熱岩弾を放つ

 

アールの輝く両腕が十字に組まれる

 

 

 

『ーアールディウム、光線ッッ!!』

 

ーリャオァァァァァッ!!!

 

 

 

アールの腕から、輝くオレンジの光線が放たれる

それは真正面からグラダイトの熱岩弾を砕き、直撃

その巨体にエネルギーをスパークさせる

 

ーギュオァァァァァァァァ……

 

グラダイトはゆっくりと仰向けに倒れ、粉々に爆散した

 

ーリュワッ!!!

 

それを見届けたアールは空に向けて両腕を伸ばし、飛翔する

空の彼方にrのような軌跡を残し、巨人は姿を消した

 

◆◆◆◆◆

 

「……やった…」

 

安堵の息を漏らし、思わず篝がへたり込む

 

 

「さっきはありがとう!助かりました!」

 

 

その背後から溌剌とした声がかけられる

篝が振り向いた先には、ブラウンの癖っ毛を短く揃えた青年が立っていた

 

「……あなたは…?」

「ああ、この姿じゃわかんないよな…」

 

青年は鼻の頭をかきながらコホンと咳払いをする

 

 

「オレはウルトラマンアール。ギャラクシーレスキューフォースの隊員。さっき、そこで戦ってた巨人だ」

 

 

ニッ、と快活に笑う青年の顔にあの巨人ーウルトラマンの顔が一瞬重なる

 

「ーえ゛っ…!?」

 

思わず固まる篝

そこにもう一人人影が近づく

 

「大丈夫?穂村さん」

「あ、美浪……さん……」

 

煤けた顔を払いながら美浪が篝に近づく

 

「さっきはごめんねぇ、トラウマになるような入り方しちゃって」

 

にはは、と緩い笑顔で美浪が笑う

 

「改めて、私はね。こういうとこの隊長をしてるの」

 

ジャケットの左肩を引っ張ってエンブレムを見せながら美浪が笑う

 

「対怪獣災害対応スペシャルレスキュー、縮めてMDSR」

 

美浪が篝に手を差し出す

 

 

「ーあなたに力を貸してほしいの、穂村 篝さん」

「要はそう……スカウトってヤツ?」

 

 

◆◆◆◆◆

 

グラダイトが暴れ、ぼろぼろになった街を見据えて灰色の女は笑う

 

『ーまだまだ前菜。焦ル必要はナい』

 

ククク、と愉快そうに笑い、口の端から垂れた涎を拭う

 

 

『サぁ、この星はどンな味になッテくれるかナ?』

 

 

 




対怪獣災害対応スペシャルレスキュー
新設部隊の隊員として勧誘された篝
だが、その心はまだ不確かに揺れていた

時を待たずして地底から怪獣フカノゴンが出現
陥没した街から人々を救うため篝か、そしてアールが走る!

出動せよ!MDSR!!

次回ウルトラマンアール
『MDSR、出動!!!』
誰よりも早く!見てくれよな!!
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