ハリーポッターと3人目の男の子   作:抹茶プリン

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動き出し方

 「なんだ、なんだ?何事だ?」

 

 大勢の生徒が立ち止まり、ざわめき合っていることを不審に思ったのだろう。フィルチが生徒たちをかき分けてやってきた。

 

「またお前か、ポッター。今度は一体何をやったっ」

 

 フィルチはハリーから目を外し壁を見た瞬間、全身の動きを止めた。壁に愛猫であるミセス・ノリスがぶら下がっていたからだ。フィルチにはミセス・ノリスは死んでいるように見えただろう。それはフィルチには残酷すぎる出来事だった。

 

「わたしの猫だ!ミセス・ノリスに何があった!」

 

 フィルチは金切り声で叫んだ。

 魔法界から、そして家族からも見放されたフィルチにとって、唯一と言える家族(・・)を殺されるのは耐えられるものではない。フィルチの目は血走っており、パニックを起こしているのは誰にでも分かることだった。

 

「おまえだな!」

 

 フィルチは自分の怒りの矛先をハリーに定めた。その理由は、状況的に考えてハリー達三人は怪しかったし、ハリーとフィルチの関係が悪かったからだと思うが、俺には誰かを責めなければ自分を保てなかったからだとも思えた。

 

「おまえだな!あの子を殺したのはおまえだ!俺がおまえを殺してやる!」

 

 ミセス・ノリスが死んでいないことを知っている俺は、フィルチが今後正常(・・)でいられることを知っている。けれど、ミセス・ノリスが生きていることを知らない生徒には、フィルチが狂って本気でハリーを殺そうとしているように見えた。空気が冷たくなっていくのを感じた。

 事実、分からない未来ではあるが、ミセス・ノリスが本当に死んでいたとしたらフィルチは狂っていたかもしれない。俺は未来を変えることで苦しむ人間がいる可能性があることを再び確認した。そのことを後悔しなければならない、反省しなければならない、ためらう必要がある、そういうことを思っているのではない。ただ、そのことを知っていなければならない気がした。

 

「アーガス!」

 

 数人の先生を引き連れてやって来たダンブルダアが、殺す、と言いながらハリーに近づくフィルチに鋭い一声を浴びせた。その効果は抜群で、フィルチを少し落ち着せるだけでなく、生徒達の間に流れていた空気を正常なものに戻した。ダンブルドアの存在は凄まじかった。

 

「アーガス、一緒に来なさい。ポッター君、ウィーズリー君、グレンジャーさん。君たちも来なさい」

 

 ミセス・ノリスを松明の腕木から外し、両腕に抱えたダンブルドアが四人に呼びかけた。

 

「それなら私の部屋を使うといいでしょう。ーーほら、すぐ上ですから」

 

 今の状況に相応しくない、嬉しそうで興奮した顔のロックハートが、ダンブルドアに進言した。

 

「ありがとう、ギルデロイ」

 

 ダンブルドアはロックハートの提案を受け、ロックハートの部屋に向かって歩き出した。人垣が無言のままパッと左右に開き、彼等はそこを通過して行く。誰もが口を開かず、一行の後ろ姿が見えなくなるまで見続けた。

 

「皆さん、寮に戻りなさい!ほら、就寝時間はすぐですよ!」

 

 突如、中央からキーキー声が上がった。見ると、そこにはフッリットウィック先生がいて必死に生徒を誘導しようとしていた。

 

「監督性、誘導しなさい!」

 

 その言葉を聞いて監督性が慌てて動き出した。監督性の中には必死に自寮の生徒を集めようとしている者がいたが、生徒が密集している状況では無理な話であり、ゾロゾロと寮に向かって全寮の生徒が歩くことになった。

 

「なぁ、セルス……。ーーもしかして危ないんじゃないか?」

 

隣にいたドラコが恐る恐る言葉を吐き出した。ドラコから見れば、壁に書かれていた”継承者の敵”には俺も含まれているのだ。ドラコが心配してくれることはとても嬉しかった。

 

「ーーそうかもな。まだ状況が分からないけど、やっぱりドラコ以外にあの話をしない方がいいみたいだな」

「うん、それは勿論だけど、やっぱり考え方を変えた方がいいんじゃない?ほら、危険だから」

 

 ドラコがキラキラした目で俺を見つめてくる。俺はそっと目を逸らしながら答えた。

 

「ごめん。それは無理だ」

 

 ドラコのことを考えると純血主義を認める訳にはいかなかった。

 

「……そっか」

 

 それっきりドラコは口を開かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハロウィーンの日から数日、学校中でミセス・ノリスが襲われた日のことが話されていた。しかし、数日経ってもダンブルドアが事件について詳しく生徒に説明しなかったので、話し合うことの内容は確信も無いただの噂話がほとんどだった。例えば、ミセス・ノリスを石に変えたのはハリーであるーーとかだ。そんな噂話では満足出来ない、探究心溢れる生徒は図書館へと急いだ。秘密の部屋とは何のなのか知るために。

 そんな理由もあって、図書館にはいつもよりも多くの人がいた。俺は、騒いでいる生徒を追い出そうとしているマダム・ポンフリーを尻目に、数冊の本を抱えながらいつもの席を目指した。

 いつもは生徒がほとんどいない場所であったが、今日は数人の生徒がいた。ハーマイオニーが来ることに期待しているので、その生徒達は邪魔な存在であったが、彼等はスリザリン生ではなかったので特に気にすることなく席に座る。持って来た本はミセス・ノリスの一件とは関係ないものだ。運んで来た数冊の本は全て動物もどき(アニメーガス)に関する本である。まだ自分には早すぎる魔法であることは分かっていたが、動物もどきについて知っておくことは重要なことだと思ったのだ。

 動物もどきになった人物の体験談が書かれている本を捲っている時、肩を叩かれた。ハーマイオニーがやって来たか、そう思って後ろを振り向いた俺は呆気にとられた。目の前にはハーマイオニーだけではなく、ハリーとロンがいたからだ。

 

「セルス、ごめんなさい。あなたとの関係を言うつもりは無かったのだけど、クディッチでのことを二人に問いつめられて話してしまったの」

 

 ハーマイオニーは申し訳無さそうに言った。

 

「いや、別にいいんだけど……」

 

 俺はハリーとロンの顔を見ながら返答した。しかめっ面のロンが俺との会話を望んでいるように思えないし、この状況は訳が分からなかった。

 

「やぁ、マルフォイ。まとも(・・・)に話すのは初めてだよね? 」

 

 ハリーが尋ねてくる。ハーマイオニーとロンがこの対話を望んでいないのだとすると、ハリーが望んだことになる。何らかの打算があって近づいたのだろうか?

 

「そうだと思うぞ。何しろ俺たちは対面する度に罵り合いをしているからな」

 

 肩を竦めて返事をすると、ロンが突っ掛かって来た。

 

「それはお前達のせいだろ!いつもおま「ロン!喧嘩はしない約束でしょ!?」……わかってるよ」

 

 しかし、それはハーマイオニーによって止められた。ハリーとロンと話すのは早すぎると思っていたところだが、この状況を見ると、もしかしたら今がチャンスなのかもしれない。

 

「別に喧嘩をするために来たんじゃないんだ。ーー聞きたいことが合って」

 

 ハリーが一度言葉を切った。それからまた口を開いた。

 

「ーーミセス・ノリスの件について何か知っているの?」

 

 ハリーはハッキリした声で尋ねてきた。その質問を聞いて俺は、この機会がチャンスであることを確信した。

 

「いや、何も知らない。でも、ポッターとマルフォイ家が関わっていないことは知っている」

「マルフォイ家が関わっていないだって?どうしてそんなことが言えるのさ?」

 

 ロンが嘲笑うように話す。今度はロンを止める者はいなかった。ハリーもハーマイオニーも俺の答えを聞こうとしていたからだ。返答の内容には慎重にならなければならなかった。

 

「俺が純潔主義じゃないからだ。そのことは家族に言っている」

 

 ハリーとロンは目を大きくしながら、まじまじと俺の顔を見つめた。

 

「何となく察していたんじゃないか? 二人とは仲が悪いから喧嘩をすることはあったが、ハーマイオニーの生まれについて馬鹿にしたことは無かったんだから」

 

 俺の言葉を聞いてハリーとロンは顔を見合わせた。

 

「ほら、言った通りでしょ? セルスとマルフォイは違うのよ」

 

 ハーマイオニーは得意げに驚く二人に言った。

 

「でも、あの(・・)マルフォイ家の二男だよ? まさかと思うよ」

 

 ハリーが不満げに言い返す。

 

「本人の前で言うことではないと思うぞ? 」

 

 まるで良い人が困っているような雰囲気を”作り”ながら、彼等に告げる。

 

「じゃあ、そろそろいいかな?」

「うん、ありがとう。君のことを少し勘違いしていたかもしれない」

 

 ハリーは和やかに言った。

 

 ーーちょろいな。

 

 心底思った。内側に入れた人間に対して甘くなるのはハリーの長所であるが、それは欠点でもあった。裏切った者に対しては厳しいという特徴でカバー出来てはいるものの、それは大きな欠点だ。

 

「マルフォイはどうなんだ? お前の兄だよ。あいつは純血主義だろ」

 

 ロンはマルフォイ家に厳しい態度をとる。幼い頃からスリザリンとマルフォイ家の悪い点を聞かされて来た人間がマルフォイ家に対して良い思いをしないのは当然であったが、彼は”かわいそう”に思えた。ロンの兄弟が自分の考えで物事を捉えられているのを踏まえると、尚更そう感じた。

 

「ドラコは純潔主義だ。残念ながら」

 

 本を腕に抱え、席を立つ。

 

「でも、いつか変えたいと思っている。」

 

 俺を半ば睨みつけるロンを見つめ返しながら、俺は言葉を紡いだ。

 

「その時には君が変わっていることを願うよ」

 

 キョトンとするロンから目を離す。

 

「また何かあれば”図書館”で話しかけてくれ。それじゃあ、”また”」

 

 ロンのことを気にしていたハリーが慌てて俺に意識を戻す。それからハリーは確かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと待って、セルス!」

 

 先程の場所からちっとも離れていない場所でハーマイオニーに呼び止められた。少し気に障るものがあったが、彼女の年齢を考えると当然なのかもしれない。ーーあれ? そういえば俺の年齢っていくつだったのだろうか?

 

「あなたにお礼を言うのを忘れていたわ。ほら、クィディッチの時の」

 

 年齢なんてどうでもいいか。前世のことは考える必要は無いだろう・

 

「あの時はロンに魔法を使ってしまったし、お礼はいらないよ」

 

 ハーマイオニーは静かに首を横に振った。

 

「ロンが呪いをかけようとしていたみたいだし、それは防衛として正しかったと思うわ。とにかく、わたしはお礼を言いたかったの。ありがとう」

 

 ハーマイオニーは少し恥ずかしそうにお礼を言った。

 

「どういたしまして」

 

 俺の言葉を聞いてハーマイオニーが笑みを零した。しかし、それは一瞬のことで、すぐに厳しい表情になった。

 

「そうだ、忘れてた!純血主義じゃないなんて簡単に言わない方がいいわ。今の状況を考えると特にね」

 

 ハーマイオニーが厳しい声で忠告して来た。行動と発言が一致していないように思えるのだが……。

 

「ポッター達と家族にしか言ってないよ。ーーというか、俺よりもハーマイオニーの方が危険だろ」

「確かにそうね……」

 

 ハーマイオニーが下を向いて黙り込む。先程の場所よりも人通りの多い場所なので早く解放して欲しい、そう思い始めたとき、ハーマイオニーが顔を上げた。

 

「ねぇ、”秘密の部屋”について一緒に調べない?」

 

 その言葉を聞いた俺には、ハーマイオニーが女神であるかのように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




前話のジニーがジニーらしくない気がして来た。もっと強気だよな…。


少しずつですが、1話からおかしな点を改訂して行こうと思っています。

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