SQUAT★SQUAD   作:トンヌラMark2

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買いだめしてたプロテインの賞味期限がきれてた。


6レップ目:ダンベルを踏む男

『貴様は既に包囲されている。ダンベルから足を退けて投降せよ。繰り返す、ダンベルから足を退けて投稿せよ』

 

 ヘリコプターの拡声器から投降の呼びかけが響く。男は今、絶望的な状況にいた。

 

 360度見渡す限りの戦車群に囲まれ、ビルの外には彼を逃すまいとする2機の武装ヘリがホバリング状態で待機している。

 

「ハッハー!!楽しくなって来やがったぜ!こいつは丁度良い追い込みになりそうだ」

 

 男は凶暴な笑み浮かべながら叫んだ。ベンチ台にゆったりと座り込み、踏み付けたダンベルから足を離す素振りは全く見られない。

 

「来てみろよガラクタ共、本物の胸トレを見せてやるよ」

 

『投稿する気は無いようだな。戦車隊、砲撃準備。目標、ビジター027。撃て!!』

 

 砲撃音と共に無数の戦車から砲弾が発射される。150mmリアデルタ徹甲弾。

 

 リアハードキャップ、デルタソフトキャップ、特殊タングステン合金弾芯の3層構造で作られた、SSジム独自開発の最新の徹甲弾だ。

 

 鍛え抜かれた三角筋後部の様に鋭いハードキャップは、あらゆる空気抵抗を無効化し弾速を最速に保つと共に、着弾時には即座に砕け散り、ソフトキャップ着弾を一切疎外しない。

 

 鍛え抜かれた三角筋後部の様に靭やかなソフトキャップは、あらゆる衝撃を吸収し、最高効率で弾芯を装甲に衝突させる。

 

 そして、鍛え抜かれた三角筋後部の様に強靭な弾芯は、あらゆる装甲を貫通し、猛烈な炸裂と共に敵を内部から粉々に破壊する。

 

 暴虐の化身と化した24発の弾丸が、音速を超える速度で男に殺到し、大爆発を引き起こす。

 

『全弾命中を確認。対象は月まで吹っ飛びました。どーぞ』

 

『我々第5戦車隊に包囲されるとは、コイツもとことんツキの無い奴よ。月だけにな、ガハハ!』

 

ヘリコプターの操縦士達の軽快なやり取りが響く。

 

「全くだ。お前らとことんツキがねェな」

 

 粉塵と硝煙が舞う中、男は優雅に立っていた。その体には傷一つ見られない。男の両手にはいつの間にか25キロのダンベルが握られている。

 

『馬鹿な!戦車も一発でオシャカにしちまうスーパー徹甲弾だぞ!』

 

 操縦士の驚愕の声が拡声器から響く。 

 

「ハッハー!!馬鹿かテメェら?弾丸ごときが筋肉を貫けるわけがねェだろ。本物の大砲っていうのは、こういう物を言うんだぜ」

 

 男は両腕を水平に大きく開いた。その瞬間、タンクトップからはみ出した巨大な大胸筋に極太の血管が浮かび上がり、稲妻のようなストリエーションが疾走る。

 

『まずい、退避!総員退避ィィィ!!』

 

「ダンベル・フライアウェイ」

 

 男が右腕を薙ぎ払うと、空気が爆ぜたかのような爆音と共に手からダンベルが消失する。次の瞬間、3台の戦車が爆散しスクラップと化した。

 

「あ、え……」

 

 装甲を破壊され、コックピットの外に投げ出された戦車の操縦士が、状況を飲み込む事が出来ずに間抜けな声を上げる。

 

『ダンベルだ!奴はダンベルを投擲したんだ!』

 

『糞ったれが!対象の推定危険度をAに再設定。我々では勝目がない、総員退避ィィィ!!』

 

 ヘリコプターの拡声器から悲痛な命令が飛び、戦車達が男の周りから一斉に退避を始める。

 

「ハッハー!!逃げられる訳ねェだろ。10レップで片をつけてやる」

 

 男はダンベルラックに手を掛け、凶悪な笑みを浮かべる。その日、スクワット警察第5戦車隊は壊滅した。

 

 ***

 

 「ヤッホー牧野君、面接以来だね〜。30階の応接室でエミちゃんが待ってるから、そこまで案内するね〜」

 

 コンシェルジュの坂口さんが間延びした声で、俺に話しかけてくる。初対面の時とは随分と印象の違う人だ。普段のキリッとした姿が仕事モードで、これが素なのかもしれない。

 

「了解です。ありがとうございます」

 

 俺は今、SSジムに来ていた。いや、来ざるを得なかったと言うべきだろうか。とにかく今日がアルバイトの初日だ。俺は無事に生きて帰れるのだろうか。

 

 坂口さんの後について行き、エレベーターに乗り込む。エレベーター内には地下10階から地上200階までの押しボタンがずらりと並んており、このジムの凄まじい高さが伺える。

 

 30階に着くと、目の前に巨大な廊下が飛び込んでくる。前回来た時も思ったが、この建物、敷地面積も半端ではない。

 

「着いたよ〜。それじゃ初仕事、頑張ってね〜」

 

 暫く廊下を歩くと応接室に辿り着いた。坂口さんにお礼を言って中に入室すると、中には天使がいた。

 

「よく来てくださいましたね、マッキーさん。さあ、こちらに座って下さいまし」

 

「はっはい!」

 

 この糞ったれジムに残された最後の希望であるエミリーさんが、笑顔で俺を出迎えてくれる。今日1日だけならアルバイトも頑張れるかもしれない。

 

「正直、もう来てくれないかもしれないと思って不安でしたの。また会えて嬉しいですわ」

 

「いえ、そんな事は!今日から精一杯頑張ります!」

 

 もし来なかったら、あのバイオレスハゲがどんな行動に出るか分からないから来た、何て事は言えるはずもなく、俺は当たり障りのない返事をする。

 

「ふふっ期待していますわ。まずはこちらの書籍をどうぞ」

 

 エミさんがやけに分厚い本を渡してくる。タイトルは「S★S★GYMマッスル大百科1」。

 

「やけに分厚い本ですね。なんですか、コレ?」

 

「マッスル大百科ですわ」

 

 俺が本の詳細について聞くと、エミさんが自信げな顔で答えた。

 

「いや、マッスル大百科ってなんですか…」

 

「マッスル大百科はマッスル大百科ですわ」

 

「さっき聞いたよ!いやだから何の本だよ!」

 

「え?まさかマッスル大百科をご存知無いんですの?ドラゴン〇ール、ワン〇ースと並ぶ、日本三大書籍の一つですわよ」

 

 エミさんが、心底驚いた表情でこちらを見つめてくる。

 

「そんな訳無いだろ!つーか後半2つ少年漫画じゃねぇか!」

 

「ふふっ、冗談ですわ。このマッチョ大百科は、SSジムオリジナルの書籍です。1巻にはSSジムの成り立ちや、組織構成、筋条厚の独占インタビューなどが載っていますわ」

 

「あっそういう感じなんですね」

 

 一番最後の内容はともかく、マッスル大百科とはSSジム専用の百科事典らしい。無駄に豪華な表紙が付いており、制作者の情熱が伺える。

 

「それではオリエンテーションを始めますわ。分からい事や質問があればその都度聞いて下さいまし。まずは115ページを開いて、最初の3行を音読してみて下さい」

 

「えーっと、115ページですね。その時、俺は確かに聞いたんだ、大胸筋の声を。燃え上がるようなパンプの中奴は言った。これ以上のストレッチは不可能だと。だから俺はダンベルを更に深く降ろしてやった。真のトレーニングは、筋肉が『無理』と言った所から始まるのさ」

 

「マッキーさん、頭大丈夫ですか?」

 

 エミさんが心底心配そうな顔でこちらを覗き込んでくる。

 

「あんたが読めって言ったんだろーが!つーかこの本の内容、ほとんどあのゴリラのインタビュー記事じゃねぇか!」

 

「あっごめんなさい、開いて貰うページを伝え間違えましたわ。5ページ目を開いて下さいまし」

 

「どんな間違いだよ!わざとだよね!絶対わざとだよね!」

 

 どうやらエミさんは、筋条と同じで隙あらばボケを入れてくるタイプの人らしい。エミさんのボケにツッコミを入れつつ、言われた通りに5ページ目を開く。

 

「ジムの成り立ちを説明をすると長くなりすぎてしまいますし、まずはこの建物について説明しますわ。そこに書いてある通り、当ジムは敷地面積50ヘクタール、高さ1000m、地上200階、地下50階建ての日本最大のタワージムですわ」 

 

「50ヘクタールって東京ドーム換算で何個くらいですか?」

 

 エミさんの説明でこのジムがとてつもなく大きい事は分かったが、大き過ぎて具体的なイメージが湧かないので、東京ドームに換算してもらうことにした。

 

「うーん、10個分くらいですわね」

 

「デカ過ぎんだろ…」

 

 俺はその途方もないスケールに唖然とした。東京ドーム10個分の敷地が高さ1000メートルまで積み上がった建造物。今の人類にそんな物を建築する技術が本当にあるのだろうか。

 

「ちなみに、この塔はバーベル物理学賞を受賞した、バルク・スゴイジャン博士監修の元、形状記憶素材による自動設備修復、自動鶏むね肉皮除去装置、自動サラダチキン製造マシーン等々、最先端技術を結集して作られた日本最大の建造物ですわ」

 

「誰だよ、そのテキトーな名前の博士!つーか後半ほとんど鶏むね肉の調理の事しか考えてないだろ!」

 

「ふふっ、話を続けますわね。次は設備についてですわ。当ジムは250階層のフロアの内、200フロアがトレーニングエリア、残りの50フロアがスクワット警察の駐屯地などの非トレーニングエリアとなっています。最新のトレーニングマシンはもちろん、スタジオ、プール、サウナ、カフェ、レストラン、宿泊施設等々、トレーニー御用達の様々な施設が完備されていますの」

 

「規模が大きすぎて想像は付きませんが、すごい設備だって事は分かりました」

 

 SSジムとは想像以上に大規模な施設のようだった。これだけの規模なら相当有名な場所のはずだが、なぜか俺は一度もこの施設を名前を聞いた事が無い。俺の地元は余程の田舎だったのだろうか。

 

 答えの出ない事を考えても仕方がない。俺は別の疑問を解消するため、エミさんに質問を投げかける。

 

「そもそもスクワット警察って何ですか?」

 

「よく聞いてくれましたわ!後で説明しようと思っていましたが、せっかくなので今説明してしまいましょう」

 

 エミさんは嬉しそうな様子で告げる。その手にはいつの間にか、テレビのリモコンのような物が握らている。

 

「まずはこちらのVTRを見て下さいまし」 

 

「え、VTRあるんですか?」

 

 VTRと聞き、前回の碌でもないビデオが頭に浮かぶ。今回もふざけたビデオを見せられるのだろうか。

 

「それでは、VTRチェケラ!」

 

 エミさんもチェケラって言うんだ…。そんな事を考えたのも束の間、モニターに映像が流れ始めた。




その時、俺は確かに聞いたんだ、大胸筋の声を。(筋条厚)
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