SQUAT★SQUAD   作:トンヌラMark2

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バーベルのフルスクワットが200kg挙がりました。


7レップ目:密着スクワット警察24時

『密着スクワット警察24時〜迷惑トレーニー出現!!セーフティクラッシャーvsバックサンダーマウンテン背山』

 

 何処かで見たことがあるようなタイトルのドキュメンタリーが始まった。どうでも良いが、タイトルのB級映画感はもっとなんとかならなかったのだろうか。

 

『SSジム72階トレーニングルーム。新型ロウイングマシンを設置したばかりであるこのフロアは、今日もたくさんのトレーニーで賑わいを見せていた。しかし、突如としてフロアに不快な騒音が響く。そう、セーフティクラッシャーだ!』

 

 賑わっているジムの様子が映し出される。画面奥の方から、男の唸り声と大きな金属音が聞こえてくる。

 

 暫くすると場面が切り替わり、スクワット警察隊員が記者から質問を受けている映像になった。テロップには「A級隊員背山雷太、独占インタビュー」の記載がある。

 

 若い男だ。年は20台後半だろうか、甘いマスクの好青年といった印象だろう。官帽を程よく浅くかぶり、ネクタイをキッチリと締め、警察官の制服を丁寧に着こなしている。

 

 背中には銃口が凹型の奇抜な銃器を背負っており、丁寧で穏やかな雰囲気とのミスマッチを生み出している。

 

 そしてやはりと言うべきか、この男もとてつもないマッチョだ。制服のズボンを剥いていても明らかに太い事が分かる脚、そして何よりも、広くて分厚い背中は逆三角形の山のようだ。

 

『そもそもセーフティクラッシャーって何ですか?』

 

『ハーフデッドリフトを行う際に、ラックのセーフティにバーベルを強く叩きつける人の事です。これをされてしまうとバーベルは歪んでしまいますし、最悪の場合セーフティが破損してしまいます。そして、セーフティはトレーニーの命を守る最後の砦です。これが破損したとなると、そのラックは使用禁止にせざるを得ません』

 

『それはひどいですね。そもそも彼らはなぜそのような事をするのでしょうか?』

 

『彼らの生態は未だ研究段階であるため、完全には解明されていません。一つ確実に言えることは、彼らは承認欲求の塊で、自分が力持ちである事を必要以上にアピールしたがる、イキリ野郎だと言うことです』

 

『ちなみにこのトレーニングには効果があるのですか?』

 

『背中を鍛える効果はあるでしょうが、他にもっと良いやり方があると思います。最も負荷の大きいボトムでの動作を、セーフティにバーベルを叩きつけて反動をつける事で誤魔化し、可動域はミジンコ。おまけに彼らは正しい腹圧の掛け方も知らないので、1レップ事にAV男優のような喘ぎ声まで出しています。これではトレーニングなのか、アダルトビデオの撮影なのか、分かった物ではありません』

 

『それではハーフデッドリフトは悪い種目ということでしょうか?』

 

『それは大きな誤解です。ハーフデッドリフトは正しく行えば、貴方の背中に変化をもたらすでしょう。バーベルを丁寧に降ろす事で、脊柱起立筋群への負荷の高める事が出来ますし、挙上時に肩甲骨を動かす事によって、僧帽筋や広背筋を活性化させる事が出来ます』

 

『ありがとうございます。全ては目的とやり方次第ということですね。次は…』

 

『待って下さい、まだ話は終わっていませんよ。ハーフデッドリフトはメリットとデメリットが表裏一体の難しい種目という側面もあります。それは、通常のデッドリフトよりも高重量が扱える点に起因します。高重量が扱えるということは、脊柱起立筋群へより強い負荷が乗るという事です。これは一見メリットに感じますが、裏を返せば腰の負担が増大し怪我のリスクが大きくなる事を意味します。そもそも、通常のデッドリフトでも脊柱起立筋群はかなり動員されますので、特別な目的の無い人やトレーニング初心者は通常のデッドリフトをやる事をオススメします。本来──』

 

『あっありがとうございます。時間も押していますので、セーフティクラッシャーの話はこの辺で…』

 

『まだ喋ってる途中でしょうがァァァ!!』

 

 終始穏やかな様子だった背山隊員が、突然般若のような形相に豹変し、背中に担いだ銃器を構えて、記者に向けてぶっ放した。

 

 青い稲妻を纏った金属弾が記者に殺到し、空気が爆ぜて大爆発を引き起こす。

 

『うぎゃぁぁぁ!!』

 

 記者の悲痛な悲鳴と共に、映像が乱れて砂嵐となる。赤文字のテロップにはこう記載されていた。「この後、彼は1時間以上喋り続けた」と。

 

 ここまでの映像を見て一つ確信した事がある。この背山という男、絶対に関わってはいけないタイプの人間だ。あのイカレポンチ筋条と同じ匂いがプンプンする。

 

 映像が切り替わり、先程のトレーニングルームが映し出され、ナレーションが流れ始める。

 

『穏やかなトレーニングルームに、突然騒音が響く。そう、セーフティクラッシャーだ』

 

『おっ!おっ!おっ!おう!お!お!おう!おっ!』

 

 銀髪の髪を逆立てたタンクトップの青年が、200キロのバーベルをセーフティに叩きつけながら上げ下げしている。金属の衝突音と彼の大袈裟な声が相まって、非常に喧しい。

 

『君、ちょっと器具の使い方が荒いよ!』

 

『うっせーなヒョロガリ。お前にこの重量が持てんのかよ!持てねーだろ雑魚が!』

 

 周囲の会員さんが注意を促すも、彼は聞く耳をもたない。この流れ、物凄く既視感を感じるのは気の所為だろうか。

 

『すみません、ちょっといいですか?』

 

 どこかから通報を受けたのであろう。背山隊員が現場に現れ、銀髪の青年に優しく話しかける。周囲の会員達は彼の姿を見て、安心したように胸を撫で下ろすと、各々のトレーニングに戻っていった。

 

 29階に筋条がやって来た時とは、周囲の会員さんの反応が大きく違う。もしかするとこれが本来のスクワット警察の姿で、筋条がイカレポンチなだけなのかもしれない。いや、絶対にそうだ。

 

『警察みたいな格好しやがって、なんだよテメー。俺になんか文句でもあんのか?』

 

 銀髪の青年が横柄な態度で返事をする。

 

『文句がある訳ではありませんよ。ただ、ハーフデッドリフトのやり方が少し間違っているように感じたので、僭越ながらお伝えしようかと思いまして』

 

 横柄な態度を崩さない男に対し、背山は丁寧な言葉で話し続ける。大人の余裕の感じる、紳士的な対応だ。

 

『あ?俺のやり方の何が間違ってんだよ。つーかお前にこの重量が持てんのかよ!持てねーだろ雑魚が!』

 

『申し訳無いですがハーフで200キロは軽いですね』

 

 背山はそう言うと、目の前の200キロのバーベル素手で掴み、丁寧な動作でハーフデッドリフトを始めた。

 

『重量を追いかける事も大切ですが、負荷が逃げてしまってはトレーニング効果が下がってしまいますよ』

 

 15レップ程挙上した所で、背山はバーベルを丁寧にラックに降ろした。その表情は余裕に満ちあふれ、疲れは一切見られない。

 

『すっ凄ぇ…。あんた凄ぇよ!俺なんかラックに叩きつけて8レップが限界だぜ!俺が間違ってた、あんた名前はなんて言うんだ?ぜひ俺に本当のハーフデッドを教えてくれ…下さい!」

 

『背山と申します。僭越ながらをトレーナーもやっておりますので、指導はお任せ下さい』

 

 背山の、いや、背山さんの強さと優しさに感化され、銀髪の青年が態度を改める。優しい世界がそこにはあった。

 

 俺はこのジムを、そして、スクワット警察の事を誤解していたのかもしれない。このジムには彼のようなトレーナーもいるのだ。全てを暴力で解決するイカレポンチなんて、極々一部なのかもしれない。

 

『正しいハーフデッドを習得するためには、通常のデッドリフトを習得する事が不可欠です。まずはそこからやって行きましょう。そっちのバーベルは片付けて、こっちのプラットフォームに行きましょうか』

 

『了解っす!背山さん!』  

 

『デッドリフトは単純に見えて奥深い種目です。一見するとバーベルを地面から持ち上げるだけの単純な種目なのですが、そこには複雑な動作がいくつも紛れています。ヒップヒンジ、レッグド』

 

『背山さん!片付け終わりました!』

 

『まだ喋ってる途中でしょうがァァァ!!』

 

 穏やかな様子だった背山さんが、突然般若のような形相に豹変し、背中に担いだ銃器を構えて、銀髪の青年にぶっ放した。

 

 後に知った事だが、兵器の名前は38式BTM電磁砲(レールガン)と言うらしい。電磁力の原理で金属弾を音速を超える速度で射出する、悪魔的兵器である。

 

 青い稲妻を纏った金属弾が青年に殺到し、空気が爆ぜて大爆発を引き起こす。セーフティもろとも、パワーラックの全てが高熱で融解し、青年の服とバーベルが衝撃で粉々に砕け散る。

 

『ぎゃぁぁぁぁ!!!』

 

 銀髪の青年の悲痛な悲鳴が映像から木霊する。赤文字のテロップにはこう記載されていた。「スクワット警察正義執行」と。

 

「結局爆発オチじゃねぇかぁぁ!!つーか、前半の器具を大切にしようみたいな話はどこにいったんだよ!最終的に器具諸共粉々だろーが!!」

 

 俺は叫ばずにはいられなかった。俺の誤解いは誤解だったのだ。ここはSSジム。筋条と愉快な仲間達がトレーナーを勤める、イカレポンチジムだ。

 

「相変わらずマッキーさんは元気ですわね。あとVTRはまだ終わっていませんわ。ここからが、背山さんがスクワット警察について解説してくれるシーンですわ」

 

 エミさんに促され視線をVTRに戻すと、場面が切り替わっていた。どうやら、先程のインタビュー映像の続きのようだ。

 

『さっ最後の質問です…。貴方にとってスクワット警察とは?』

 

 所々服が焦げ、髪がチリチリのパーマーになってしまった記者が、背山隊員に最後の質問を投げかける。

 

『情熱です。これ以上の言葉は必要ありません』

 

 彼のセリフが終わるとエンディングが流れ始め、ナレーションが聞こえてくる。

 

『スクワット警察は今日も戦い続ける。SSジムの平和と未来のために……』

 

「必要だよ!もっと言葉が必要だよ!!今までめちゃめちゃ喋ってたくせに、何で今に限って何も言わないんだよ!結局スクワット警察って何だよ!!」

 

 スクワット警察、その謎は深まるばかりであった。

 

 




情熱です。これ以上の言葉は必要ありません。(背山雷太)
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