バレンタイン――それは、恋する乙女たちの戦いの日…
という言葉を聞いたのは何処でだっただろうか。確か学園もののアニメだったかな…なんて考えながら私――葛城リーリヤはキッチンに立っていた。
今日は2月11日。本来であれば平日だが建国記念日なので祝日である。そのためレッスンも午前だけで終わり、こうしてお菓子製作の時間が取れたのだ。バレンタインの数日前に祝日があるなんて…今日を建国記念日に定めた人達はきっと恋する乙女の味方だったに違いない。偉大なる先人達にに感謝しつつ器具を準備していく。
並べ終えた器具を改めて見てみるとだんだんとやる気がわいてきた。今日作るのは普段よりも難易度の高いお菓子。もちろん渡す相手はいつも沢山お世話になっているセンパイである。感謝の言葉と共に完成したお菓子を渡せばきっとセンパイは喜んでくれるだろう。今からとても楽しみである。
…のだが、私には一つだけ懸念があった。お菓子作りが趣味の私は、時折センパイに作ったお菓子をお裾分けしている。センパイにお裾分けするようになってからお菓子を作る頻度が高くなったような気がするが今は重要ではないだろう。問題なのはつい2週間前に渡してしまったチョコクッキーだ。そう、あろうことかバレンタインで渡さなければならないチョコ系統のお菓子をつい先日渡してしまったのである。
あぁ、なんと浅はかな行動だったのだろうか。あの時の私は完全にバレンタインの存在を忘れてしまっていたのだ。このままではセンパイに(またチョコか…)と思われてしまう。いや、優しいセンパイであればそんなことは考えないかも知れないがこのままでは私が納得いかないのだ。
だからこそ、今回作るものは普段よりも難しいお菓子にしなければならない。時間も費用も手間も今までよりもずっとかかる。
…よし、気合を入れて早速取り掛かろう。
今から作り始めておよそ数時間、恐らく夕食までには完成する筈だ。
「センパイ、喜んでくれるかなぁ…」
そんな事を考えながら、私はひたすら作業を進めるのであった。
〜〜〜
「リーリヤ〜。そろそろ夕食―ってなになに!?
すっごいいい匂いするんですけど!?」
「あ、清夏ちゃん。センパイに渡すためのチョコがちょうど完成したんだけど味見してくれないかな?」
「えっ、いいの!?じゃあ一つもーらいっ!」パクッ
「モグモグ…ん〜!美味しいよリーリヤ!」
「そ、そう?じゃあ私も…」パクッ
「…ホントだ、すごく美味しい!」
「いやぁ、いつもより気合入ってるね~。やっぱり本命チョコだったり?」
「そ、そういうわけじゃ…!?」
「ふ~ん?」
「あ、あくまで日頃の感謝を伝えるためのものだから!」
「そこまで言うならそういうことにしてあげる~♪」
「も、もう…!」
「…あ、感謝を伝えたいってことならこういうのもいいんじゃない?」ゴニョゴニョ
「ふむふむ…なるほどなるほど…」
「どう?」
「すっごくナイスアイデアだよ清夏ちゃん!」
「でしょでしょ?」
「じゃあ早速用意してくるね!」ピューン
「いってらっしゃ~い…うん?」
「リーリヤ!?今から夕食――行っちゃったぁ…」
~~~
「つ、遂にきちゃった…」
バレンタイン当日、私は事務所の教室でセンパイの帰りを待っていた。
「ふぅ…大丈夫、味も見た目もよく出来てるはずだから…」
清夏ちゃんのお墨付きもあるから心配する必要はないのだが…そうと分かっていても緊張する物はするのである。
箱を持つ手に力が入る…ってこんなに持ってたら溶けちゃう!とりあえずバッグの中に入れて――
「すみません、少々時間がかかってしまいました。」
「ひゃあ!?」
「ど、どうしましたか…?」
「せ、センパイ…ちょ、ちょっとびっくりしただけです…」
「そうですか…それで、用があるとのことでしたが。」
「あ、はい!」
「その…こ、これを受け取ってください!」バッ
「これは…もしかして、バレンタインチョコですか?」
「はい…もしかして、嫌だったでしょうか…?」
「いえ、そんなことはまったく…少し驚いただけです。てっきり先日頂いたクッキーがそうだと思っていましたので。」
「あー…紛らわしいことをしちゃいました…」
「ありがたく受け取らせていただきます。そしてこちらが俺から渡すものとなります。」
「え…もしかしてセンパイからのバレンタインチョコですか!?」
「はい、最近は男性からもバレンタインチョコを渡すこともあるそうなので。」
「そうなんですね…開けてみてもいいですか?」
「構いませんよ。」
「失礼します…」
センパイからのチョコ…持つ手が震えてきそう…
中身はちょっとお高そうなチョコ…?いや、それにしては少し形が不揃いなような…
「センパイ、これって…」
「はい、手作りです。」
「センパイからの手作りチョコ…!?
い、いいんですか!?こんなものを貰っても!?」
「もちろん、葛城さんのために作ったものですから。むしろ受け取って貰わないと困ります。」
「せ、センパイってお菓子も作れたんですね…」
「いえ、今まで作ったことはありませんでしたよ。なので今回のために練習しました。」
「そ、そこまでしてくれるなんて…」
「一つ食べてみてください。味見はしているので問題はないとは思いますが…」
「で、では…いただきます」パクッ
「どうですか?」
「す、凄く美味しいです…!」
「それは良かった、頑張った甲斐がありましたね。」
「では俺も失礼して…」
「あっ!そ、その…出来れば帰ってから開けてもらえたらなぁって…ちょっと恥ずかしいので…」
「なるほど、分かりました。」
「すみません…」
「いえ、帰ってからゆっくり楽しませてもらいますね。」
「は、はい!」
~~~
「さてと…やらなければならないことも終わったし、葛城さんからもらったチョコを食べるとするか。」
「ふむふむ…流石は葛城さんだ、見た目も完璧だし味もとても美味しい。あとで感想を送っておこう…うん?」
「これは…メッセージカードか。何々…?」
『これからも末永くよろしくお願いします!』
「…紫雲さんからの入れ知恵だろうか。これではまるで…まぁいい、返答も含めてメッセージを送ることにしよう。」
~~~
ピロン♪
「あ…せ、センパイからのメッセージだ!えぇっと…」
『チョコありがとうございました、とても美味しかったです。
メッセージカードの方も、こちらこそよろしくお願いします。』
「―――!/!/」バタバタ
「どしたのリーリヤ?って顔真っ赤じゃ~ん♪写真撮って送ろうか?」
「も、もう!からかわないで!」
「ごめんごめん♪でも良かったね、リーリヤ。」
「…うん。これからも、センパイと一緒…!」
「…こりゃまさしく、恋する乙女って感じの顔だねぇ…」