とある日の放課後、私―葛城リーリヤは、事務所でセンパイに相談事をしていた。
「なるほど、話は大体分かりました。
つまり、葛城さんは泳げるようになりたいと。」
「はい。スウェーデンに居た時に軽く溺れてしまって、それ以来苦手意識が抜けなくって…」
初星学園には水泳の授業がある。
授業で恥ずかしい想いをしないためにも、少しでも泳げるようになっておきたい。そう思いセンパイに相談することにしたのだ。
「そういう事であれば紫雲さんを頼る、というのは?」
「それが、今までに何度か教えてもらおうとしたんですけど、清夏ちゃんは感覚派なので…」
「あまり教えるのが得意ではないと。」
「そうなんです…」
「分かりました。そういうことなら俺が泳ぎ方を教えましょう。
と言っても俺自身人に教えられるほど泳げるわけではないのですが。」
「いえ、それでもありがたいです!」
「それなら良かった。
確か初星学園の水泳の授業は再来週から始まるんでしたね。なら、来週の日曜日に市民プールに行きましょう。スケジュールは調整しておきます。」
「はい、よろしくお願いします!」
~~~
「――っていう事になったんだ。」
「なるほどなるほど…リーリヤ、それってデートじゃない?」
「でっ―な、何言ってるの清夏ちゃん!」
「いやぁ、二人でプールなんてもうデートとしか思えなくない?
これはしっかり準備しないとね~。そうだ、それなら今週末に水着買いに行かない?
アタシが良い感じのやつ選んであげるからさ♪」
「も、もう…!」
~~~
「お!リーリヤ、これとかどう?」
「うん?―ってこれビキニだよ清夏ちゃん!」
「いいじゃんビキニ~。
絶対可愛いって!」
「は、恥ずかしいからビキニは禁止!」
「ちぇ~…」
「全く…あ。清夏ちゃん、これとかどうかな?」
「ん~?
おぉ!確かにリーリヤに似合いそう!」
「よし、水着はこれで決まり!」
「アタシ的にはもっと露出が多くても…」
「清夏ちゃん?何か言ったかな?」
「な、なんでもないです…はは…」
~~~
そんなこんなで時間は過ぎ、ついにセンパイとプールに行く日がやって来た。
「さて、プールにつきましたね。
それではまた中で合流しましょう。ロッカーに鍵を掛け忘れないように。」
「はい!」
つい上がってしまう口角をどうにか抑えつつ、センパイと一旦分かれる。
うぅっ、清夏ちゃんのせいでついデートという言葉を意識してしまう…
今日はあくまで泳ぎ方を教えてもらいに来たんだから…!
~~~
「センパイ、お待たせしました。」
「いえ、それほど待ってはいませんよ。
葛城さん、その水着、良く似合っていますよ。」
「そ、そうですか…?//
センパイも良く似合ってます…!」
「それは良かった。流石に高校時代の物を使うのはどうかと思って新しいものを買いましたが、そういって貰えたなら選んだ甲斐がありました。」
「ちょっと目のやり場に困るような気もしますけど…」
「…?
さて、それでは早速始めましょうか。」
「はい!よろしくお願いします!」
「まずは軽く泳いでみてください。それでどの部分に問題があるか確認します。
溺れそうになった時は俺がすぐに助けるので安心して泳いでください。」
「わ、分かりました…!」
~~~
「葛城さん、恐らく問題点は分かったので一度上がってください。」
「は、はい!」
「さて、息を整えながら聞いてください。
葛城さんの泳ぎ方はそれほど問題はありませんでした。
しかし、動きの部分がかなりぎこちない。恐らく足がついていないことへの恐怖から体に力が入りすぎてしまっているようです。」
「な、なるほど…」
「水に浮くには手足の先まで十分に脱力する必要があります。
葛城さんの場合はここを克服すれば泳げるようになると思いますよ。」
「なら水に浮かぶ練習をすればいいんですか?」
「はい。とはいってもまずは恐怖をどうにかしないといけませんから。
俺が手を握っておくので、その状態で浮けるように練習しましょうか。」
「よ、よろしくお願いします!」
~~~
「水への恐怖をどうにかするなら慣れることが一番です。
俺が手を持っている限り溺れることはないですから、できる限りリラックスして、手足から力を抜いてください。
あとは…顔を付けている間はあまり考え事をしないように。水と一体化している感覚を持ってください。」
「わ、分かりました…」チャプン
水を感じる…うぅっ、やっぱりちょっと怖い…
センパイと手を繋いでいるから大丈夫…
センパイと手を繋いでいるから…うん?
センパイと手を繋いでいるから…?
「~~~~~!?///」ブクブクブクブク…
「えっちょっなんで沈んでるんですか!?」
~~~
「まさか手を繋いでいても沈むとは…」
「あはは…で、でもプールの端を持っていれば沈みませんでしたから!」
数時間後、泳ぎの練習を終えた私たちは近くのレストランで昼食を取っていた。
「なんとか浮かぶことへの恐怖は克服できたようで何よりです。」
「センパイのお陰で無事に泳げるようになりました!
ありがとうございます!」
「大したことはしていませんよ。あのアドバイスも本の知識の受け売りですから。」
「本の…?
もしかして今日のために読んでくれてたんですか?」
「はい、何か間違ったことを教えるわけにはいきませんから。」
「そこまでしてくれるなんて…」
「担当アイドルの頼みですから。プロデューサーとして当然のことをしたまでです。」
「センパイ…本当にありがとうございました!」
「どういたしまして。水泳の授業、頑張ってくださいね。」
「はい!」
「…センパイ。もしよければ、またいつか一緒に海に行きませんか?」
「海ですか。」
「はい、折角泳げるようになったので…」
「そうですね、夏季休暇中に行きましょうか。」
「はいっ!」
「もちろんその時は紫雲さんも誘って。」
「…はい。」
「…葛城さん?
どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです…」
その後少しの間不機嫌になってしまう私なのでした…