孤独かもしれないシスター   作:うにうにうにう。

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「サクラコ様にイノ様、いったい何を話していらっしゃるのかしら…」
「きっと私たちには想像もつかない、高尚なお話なのでしょう」
「でも、お二人の関係ってイマイチ不明瞭ですよね。噂も多く真偽も不確かで…あっ、何か食べてる」
「きっと高級店のドーナツですよ、ほら最近新作が出た」
「もう手に入れてるなんて流石イノ様…」



トリニティ自治区の商店街のカツ丼

エデン条約。

連邦生徒会長が推し進めていた、トリニティとゲヘナの平和条約というか、不可侵条約というか……まぁ、両校の間でマジの戦争だけはしないようにするための条約。

彼女がやるんならとりあえず何も問題は無いと思っていたから、詳しく知らないしあまり興味もなかったのだが……なんなかんや会長失踪しちゃったし、そのまま無かったことになるのかなと思っていた。

が、無かったことになりかけてたこの条約を再び纏めようとする人物がいた。名を桐藤ナギサ、ナントカウス分派のリーダーで生徒会長の1人。

私は彼女の人となりを知らない。故に、なぜ桐藤ナギサがエデン条約を締結させようとするのかわからない。トリニティの生徒会長なんかやってんだから腹黒いに決まってるし、よくないことを企んでる可能性もある。

 

「ち、ちょっと…」

 

ゲヘナとドンパチしたり向こうとの衝突で仕事が増えるのが嫌すぎるから、エデン条約を結んで後顧の憂いを断つってんならわかる。でも、知っての通りトリニティとゲヘナは水と油、連邦生徒会という卵が無ければ混ざり合うこともないし、そもそもの話、不可侵条約が律儀に守られると思ってるのかって話で。

いっそ直接聞けたらいいんだが…交友は無いし、政治に不干渉を貫いてるシスターフッドってこともあって立場を考えればアポも取りにくい。

いくらウチの情報網が優秀でも個人の頭の中の考えまではわからない。同じ生徒会長の百合園セイアが襲撃され──

 

「しーっ!!」

 

「死ーって、そんなに強調しなくても…故人も浮かばれませんよ」

 

「静かにしてのしーっです!場所を考えてください!2人きりじゃないんですよ!?」

 

「私たちのまわりだけ不自然に人いませんし、聞こえやしませんって。それにサクラコさんのが声デカいですよ」

 

「そ、それは…そうかも、しれませんけど。誰に聞かれるかもわからないのですから、発言にはもう少し気をつけていただかないと」

 

「ははっ、サクラコジョーク?」

 

「は、はい?サクラコジョーク?」

 

「……あ、メンチカツ食べる?商店街で見かけて、美味しそうでつい買っちゃったんですよ」

 

「お気持ちはありがたいのですが、朝からメンチカツはちょっと…ではなくて!条約の動向に目を光らせるのはまだしも、ティーパーティにまで探りを入れるのは流石に」

 

「しーっ!」

 

「えっ?は、はい」

 

「自分で言ったんですから、サクラコさんも気をつけてもらわないと」

 

人に発言に気をつけろと言ったのに自分はすーぐ言っちゃいけないこと言おうとするんだから。ティーパーティー、それも現ホストのことを秘密裏に探ってるなんてバレたら夜道で暗部に()()()ッシュされてしまう。ティーパーティーに暗殺部隊なんているのか知らないけど。

 

「な、なにが…って、イノさん?ちょっと、イノさん?」

 

手を合わせてまんまるのメンチカツをパクリ。おぉ…流石はお肉屋さんのお惣菜。スーパーやコンビニのお惣菜も悪くないが、それとは一線を画す肉々とした仕上がりだ。その肉々とした口の中でさえ、なお轟く衣のサクサク音。口に入れた瞬間からサビが始まっている。

ハンバーグに衣をつけて揚げただけの料理に思われがちだが、ハンバーグとはまた違ったジャンルのうまさだ。

それにしても、一体全体どこからサクラコさんに漏れたんだ?まぁ私よりサクラコさんのが偉いし、別に隠そうとしてたわけじゃないし、さもありなん。

 

「聞いてます?イノさん」

 

店前で揚げたてを一つ食べたときはハフハフしてしまうほどアツアツだったが、ちょっと冷めてちょうど食べやすいし、肉の味付けがしっかりしててソースがかかってなくても充分うまい。いや、ソースがあったら白米を求めてゾンビのように彷徨っていたかもしれない。

バンドにベースがいないような物足りなさはあるが、間食に食べるならむしろ正解かも。

二つ目を食べようと口を開けたところで、サクラコさんがジトーっとこちらを見つめているのに気づく。

 

「…食べます?」

 

「真面目な話をしてるんですよ?」

 

「むっ……」

 

口に含んだ分を急いで咀嚼し、飲み込む。

 

「仕事の話でしたか。なら、そうおっしゃってくだされば良いものを。ワタクシ、友人からお誘いがあったとつい舞い上がってしまいました」

 

「また思ってもないことを、いけしゃあしゃあと…」

 

「まさか、サクラコ様に嘘をついたことなどありませんよ」

 

「……1年生の時の晄輪大祭」

 

「え"っ」

 

呟くようにそう言われたその言葉に、過去の記憶が蘇る。

まさか、屋台グルメに夢中で約束すっぽかしちゃったの、まだ根に持ってるのか…?めちゃくちゃ謝り倒して、屋台スイーツ奢って、出場する競技で一位取って、キャンプファイヤー一緒に見てフォークダンスまで付き合ったのに?しかし、その話を出されると私も弱い。言い訳の余地もなく100%私が悪いから何も言い返せないし、あの時の顔を思い出すと今でも罪悪感を一緒に思い出してしまう。

 

「いや、あの、あれは…ね?決して嘘をつきたかったわけではなくてですね、その…」

 

「ふふっ、サクラコジョーク…なんちゃって」

 

「……ははっ」

 

こっちは笑えないです。

 

 

 

 


 

 

 

 

今日は本当なら、ちょっと早く出て商店街をブラブラしてから登校しようとしていたのだがしかし、商店街に入ってすぐのお肉屋さんでメンチカツを立ち食いしていたところ、サクラコさんから呼び出しのモモトークが届いた。最近なんかやらかしたっけ?と不安を覚えながら早足で学校へ向かい、噴水前のベンチに座るサクラコさんと合流。

そして先程のやり取りの後に、今は桐藤ナギサもピリピリしてるからあんまり危ないことはしないでね(意訳)と注意されてしまった。

 

「やれやれ、まったくサクラコさんったら心配性なんだから。いつまで経っても冗談もヘタクソだし」

 

どうも彼女は、同い年なのに私のことをいつまでも小さい子供だと思っている節がある。

私がまだまだ頼りないと思われてるのか。それとも知らないうちに、私がサクラコさんの寛容さに甘えてしまってるんだろうかとウジウジ考えていたせいで、今日は仕事にもあまり身が入らなかった。

はぁ…サクラコさんにはあまり迷惑をかけたくないし、もう少ししっかりしなければ。緩んだ気持ちを締め直そう。

となれば、まずは…

 

「腹拵えだ」

 

腹が減ってはなんとやら。外勤の帰りに、今朝散策できなかった商店街を歩きながら考えを巡らせる。

気を引き締め直すのにもってこいの飯はなんだ?気合いを入れるんなら、肉だよな。肉といえば焼き肉だが、まだ昼だからナシ。流石に焼き肉臭いまま仕事はできない。

うーん…こんな時、真っ当な女子高生ならちょっと高いスイーツなんかで気分転換するのかもしれないが、私にはちょっと違う。

それにしても、商店街って居酒屋とか立ち飲みが多いな。おつまみって米に合うものが多いからちゃんと飯になるんだよな。……っといけない、昼に制服で入るのは流石にマズイ。バレたら良からぬ噂を生んでしまう。

そんな調子でキョロキョロしながら、看板を見ては通り過ぎ、店先を眺めては踵を返してを繰り返す。

中華…ラーメン…魚介…焼き鳥…トンカツ……トンカツ!

カツか…そうだ、カツがあった。験担ぎにはド定番じゃないか。今朝メンチカツ食べたせいか、すっかり頭の中から抜け落ちていた。

うん、いいな、すごくいいぞ、ピキーンと来た。今日はカツだ。カツで腹を満たして、気持ちに活を入れよう。

 

扉を開けて店内を覗く。

カウンター席が3つに、4人掛けのテーブル席が4つ。テーブル席は全部埋まっているのを見るに、なかなか繁盛していそうだ。

 

「いらっしゃいませ!空いてる席にどうぞ」

 

声をかけてくれた女将さんに会釈して店内に歩を進め、1番奥のカウンター席に腰掛ける。さてさて、メニューはと……定食はロースにヒレ、あるいはミックス…生姜焼きなんてのもあるのか。トンカツ屋の生姜焼き定食、気になる……いや待て待て、今日はカツを食べに来たんだ。

生姜焼きのことは一旦忘れて、と。カツ丼もいいな…定食か、カツ丼か、究極の2択。カツ単品か、カツ煮とかがあればよかったんだが、ランチメニューにそれらしいものは無い。

うーん…………よし、ノーマルな揚げ物は朝にメンチカツを食べたし、ここは一手間加えられたカツ丼にしよう。

 

「すいませー…」

 

注文をしようとしたところで、女将さんがお盆に乗せたカツ定食を運んでいくのが見えた。私の真後ろの席に置かれるそれを、つい目で追ってしまう。こんもりとしたキャベツ、それに寝そべる厚みのあるカツ。あれにソースをドバッとかけて、カツの油分をキャベツで中和して、サッパリした口をまたカツの油で潤す無限ループ。絶対に、美味い…!!

配膳を終えた女将さんがこちらに振り向いた。

 

「はい、お決まりですか?」

 

「カツ定しょ……〜〜っカツ丼、ください」

 

「プラス100円でご飯大盛りにできますけど、どうします?」

 

「あー……じゃあ、お願いします」

 

「以上でよろしいですか?」

 

「はい、以上で」

 

「はい。じゃあ少々お待ちください、今お冷持ってきますね」

 

そう言うと、女将さんは厨房へ注文を届け、すぐにお冷を持ってきてくれた。氷の浮かぶコップに口をつけ、一息つく。

 

「ふぅ……麦茶だコレ」

 

普通の水よりも、なんだか嬉しい。カツとキャベツの誘惑に耐えたご褒美にすら思える。だが普通のカツがアレだけ美味そうなんだ、カツ丼もきっと負けないくらい美味い。期待は右肩上がりだ。

あぁ、注文を終えて緊張が抜けたら、なんだかドンと腹が減った。

味噌汁とかお新香だけでも先に出してくれないかな、さっきからパチパチとカツを揚げる音が空腹を刺激して仕方ないし、煮られる醤油の香りはいっそ暴力的で腹を殴られてるような気分だ。

コップの氷を口の中で転がして気を紛らせること数分、ついに私の前にお盆が運ばれてきた。

 

「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ〜」

 

蓋をされた丼と味噌汁、ダイコンとキュウリのお新香。

大正解間違いなしの布陣。地元じゃ負け知らずどころか全国で負け知らずのチーム。さぁ、いざリーダーとご対面といこう。私の空腹値も100%、これ以上待っていたら1秒ごとにスリップダメージを受けかねん。

丼の蓋をさっと開ければ、そこにはキツネ色のカツとそれを包む玉子が──

 

「黒っ…?」

 

なんだこれ…く、黒い。焦げすぎ?オーダー間違えられちゃった?…ん?いや待てこの香り、これは…刻み海苔か!いや、それにしても掛けすぎでしょ。カツ見えなくてびっくりしちゃったもん。あ、でもすごくいい匂いだ。カツの香ばしさ、割下の醤油と出汁の香りに続いて、海苔の香りがすごく食欲を誘う。

出鼻を挫かれたが、もう辛抱ならん。

 

「いただきます」

 

割り箸を割り、海苔で真っ黒なカツ丼に箸を伸ばす。海苔を少しかき分け、カツを一切れ持ち上げれば確かな重さが感じられる。

一口齧れば、やはり期待通り…いや、期待以上の美味さだ。柔らかくジューシーな肉に、割下で味が濃くなった衣、そこに白米を放り込めばもう口の中は楽園だ。

玉子と一緒にもう一口食べればさらに米が進む。端っこは衣が多い分味が濃く主張が強いが、玉子と白米が手を取り合ってそれに着いてきてくれる。そして特筆すべきは海苔!ただでさえ完成されたカツ丼をさらに一つ上の段階へ押し上げてくれる。この量で正解!

端っこを食べ終えれば、次からは衣ではなく肉がメイン。肉の厚みは幸せの厚み、肉の重さは幸せの重さ。うまい、うまいぞ、幸せなあまり踊り出したくなるうまさだ。しかも刻み海苔がつゆを吸ってるのか、少しは感じそうな淡白さをまるで感じない。

そして味噌汁、当たり前に美味い。当たり前に美味い汁とは、それだけで人の第二の故郷足り得る。当たり前味、代え難し。

お新香も丼物には代え難い存在だ。このシャキシャキとした食感とあっさりした塩気が、カツ丼一辺倒だった口の中をサッパリさせてまたカツ丼を楽しませてくれる。カツにおけるキャベツに似た役割を果たしてくれる縁の下の力持ち。

カツ丼、味噌汁、お新香、やはり相性が良すぎる。ローテーションを崩さない限り無限に食べれてしまいそうだ。

だが悲しいかな、料理は有限。あれよあれよとカツが最後の一切れ。ついでに私の胃袋も実は有限だったようだ、ご飯大盛りがかなり効いてきたぞ。

カツの最後の一切れ、つまり端っこ。私、実は揚げ物の端っこ大好き。隠れ端っこスキー。揚げ物の一番濃厚なところだ。普通の揚げ物ならここのザクザク感が堪らないものだが、カツ丼ではまた違った堪らなさがある。この割下を吸ってふわふわになった衣の美味さは、カツ丼でしか味わえない。人によってはサクサクのカツをふやかしてしまうなんてありえない、と言う主張もあるが、私から言わせればそいつはモグリだ。カツ丼のなんたるかをまるでわかっていない。

端っこで始まり端っこで終わる、最初も最後も米をかき込む。美味かった…あまりに美味かった…。

 

「ごちそうさまでした…」

 

久しぶりにすごい満足だ。海苔だな、海苔が本当によかった。

カツを食べて気合いも入ったし、海苔のおかげでサクラコさんの微妙な冗談にもノってあげれそうだ。ふふっ、本人に言ったら絶対怒られるな。




色々他のことで忙しくしてました。
カツ丼とか親子丼とか豚丼とかにアホほど刻み海苔をほどかけるの好きです。
感想いただけると嬉しいです。
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