孤独かもしれないシスター   作:うにうにうにう。

13 / 15
ジークアクスのドゥーちゃんに狂ってました。ガンダムのせいで正気に戻らされたので続きです。
一気に暑くなりやがったので皆さん体調に気をつけてしっかりご飯を食べましょう。


ミレニアム自治区 アジのなめろうのひつまぶし

私たちシスターフッドの一日は、まず祈りから始まる。

聖堂に集い、昨日を無事に終えられたことに感謝し、朝を迎えさせてくださったことに感謝し、今日一日私たちを照らし、導いてくださるように祈る。それが普通だ。

まぁ、私は普通よりちょっと偉いシスターなので違うのだが。

組織で偉くなったら重役出勤が許される、なんてのはフィクションの世界だけのようで、当たり前のように時間は守らなければならない。むしろ人より上の立場になったのなら率先して他人の手本となるべき、ってサクラコさんに言われたので、律儀にそれを守っている私である。

よって私のシスターとしての一日の始まりは執務室でパソコンを起動することから始まる。メールを開き、なにか依頼が来ていないかをチェック。依頼があった場合は都合を合わせて今後のスケジュールを調整。なかった場合は今日一日のスケジュールを確認して、朝の祈りの時間まで二度寝したり、スマホをいじったり。

今日は新着のメールが一件あった。送信元はミレニアムだ。

 

「ん、もうそんな時期か」

 

この時期にミレニアムからのメール、というだけでピンと来た。そろそろミレニアムプライスがある時期だ。

しかしメールを送ってきたのが午前1時というあたり、向こうさんも苦労しているのが窺えるな。美味しいご飯を食べてぐっすり寝て欲しい。

さて、なぜミレニアムプライスとトリニティのシスターフッドが関係あるのかというと、私たちシスターフッドが提供している『銀の弾丸』が絡んでくる。読んで字の如く、銀でできた弾丸だ。私達がお祈りを済ませてあるので、そこはかとないありがたさもある。銀というものは昔から魔除けなんかに使われていたし、魔除けを直接ブチ込んだら強いんじゃね?という脳筋な使用法で吸血鬼や狼男を一撃で転がせるシロモノとして有名だ。

そこから転じて『あらゆる難題を一撃で解決できるとっておきの策』の比喩で使われることもある。

それが理由かは知らないが、何故かここ数年ミレニアムで願掛けとしてちょっと流行っている。まぁ元々お守りとして持つ人もいるのでおかしなことでもない。

私に話が回って来たのは、縁あって去年一昨年と私がミレニアムへ赴いて販売員をしていたからだろう。となると準備しなきゃな、去年があれくらい売れたから…うーん、あっちに行く予定の日までに少し在庫増やしとくか。

 

 

 


 

 

 

ミレニアム自治区。科学技術に力を入れる新興の学園、ミレニアム学園…じゃなかった、ミレニアムサイエンススクールが治める自治区。

科学に力を入れていると言うだけあって、キヴォトスで最先端、最新鋭と呼称されるものの多くはここで開発されており、ゲヘナやトリニティに比べると歴史は浅いものの大きな影響力を持つ学園だ。

中心部は都市化がかなり進んでおり、どこもかしこも高層ビルだらけ。来るたびになんだか十年くらい先の、未来の都市に来たような気分になる。ワクワクするというか、浮き足立つというか。都会に出て田舎っぺがバレないかとドキドキするお上りさんも、きっとこんな気持ちなんだろう。

私も一応シスターフッドの代表として訪れているのでシャキッとしなければ。

さ、背筋を伸ばして胸を張って行こう。

だがその前に。

 

「腹が減った…」

 

………

……

 

よし、店を探そう。

どうせならこっちでご飯食べたいと思って、朝礼の後すぐに出て来たから朝ごはん食べてないんだよな。ちょっと失敗、既に小腹どころではないほどお腹がペコちゃん。

少し遅めの朝ごはん、あるいはかなり早めの昼食。ガッツリ食べたら昼を満足に食べれないし、少なすぎても打ち合わせ中に腹の虫を鳴らしてしまうかもしれない。この店選びは重要だ。

 

探し始めて一番最初に見つけたのはインドカレー屋。気づいたらどこにでもあるよな、インドカレー。安くてうまい、わんぱく過ぎる大きさのナンはおかわりも自由。割と惹かれるが、ガッツリの気分じゃないし、スカートが白いから万が一にでもカレーを溢したら終わりだ。店員がチラチラ見てるし、声かけられる前に行こう。

足早にインドカレー屋を去って歩くこと数分、コンクリートジャングルにも慣れて来た頃に気づいたことがある。なんというか、ファストフード店が多い。トリニティにカフェや喫茶店が多いように、これもミレニアム自治区の特色なんだろうか。

やっぱり、作業の片手間に素早く食べれて効率良くカロリーを摂取できる食べ物が人気なのかな。せっかくの食事を作業にしてしまうのは勿体無いとしか言いようがないが、三度の飯より、というやつなのだろう。

たまにはファストフードも悪くないのだが…ハンバーガー、チキン、ピザ、牛丼…うーん、ピンとこない。適当に済ませてしまってもいいけど、せっかくトリニティの外で食べるんだから、どこでも食べられるものでは味気ない。

 

ファストフード店のロゴを見飽きた頃、目に入ったのは色鮮やかな海鮮丼が写された立て看板。

ふむ…和食か。悪くない。ジャンキーなものばかり目に映っていたせいか、不思議と惹かれる。それにトリニティで学園付近となると洋食が多いからあんまり食べる機会ないんだよな。

やや早足になりつつ立て看板へ近づく。近くで見ると、どうやら海鮮丼ではなくひつまぶし、海鮮茶漬けの店だったようだ。

うーむ、お茶漬けか…私の中ではお粥やおじやと同じ分類だ。どうしても腹持ちが悪く味気ないイメージが拭えない。いや、今は腹一杯に食べたいわけじゃないし、むしろアリか?

魚介類が乗ってるならある程度食べ応えはありそうだし、ここにしてみるか。

 

入り口のドアを開けるとチリンチリンと鈴の音が鳴り、奥からエプロンをつけた店員さんが顔を覗かせる。

 

「いらっしゃいませ〜、今お客さんいないので好きな席にどうぞ〜」

 

朝とも昼とも言えない中途半端な時間だからか私の他に客はおらず、店内はかなり静かだった。

とりあえず適当な席に座り、テーブルに置かれたメニューを見る。

漬けマグロと中トロ、サーモンとネギトロとマグロの3種、ネギトロの代わりにシラスが乗ってるのもある。他にはマグロの山かけだったり、サーモンとイクラの海鮮親子丼…うわっ、スゴイな、アボカド乗ってるのもあるよ。他にもタイやブリ、ウナギだったり、変わりどころでは豚丼まである。

うーん…ピンと来ないな。ここは当たり外れの少ないサーモン系から選ぶか?だとしたら…ん、下にもう一枚メニューがあるな。

これは季節限定メニューか、今はアジのなめろうなのか。そういえば、アジは今ぐらいの時期が旬か。よし、これにしよう。私は期間限定って言葉に弱いんだ。

 

「すみませーん、注文いいですか」

 

「は〜い、今伺いますね〜」

 

厨房からゆっくりとやって来た店員さんに、メニューを指差しながら注文をする。

 

「アジのなめろうごはん、をください」

 

「アジのなめろうごはんですね〜、ごゆっくりお待ちくださ〜い。あ、お水セルフになってますので〜、よろしくお願いします〜」

 

店内を軽く見渡せば、カウンター席の横手に氷水の入ったピッチャーが置いてある。席を立ち、ピッチャーの横にあるコップに水を注いで再び席に戻る。カウンター席にしとけば楽だったかな、なんて思いながらコップを傾ける。

店内では、空調の音と包丁がまな板を叩く音だけが聞こえる。

この何とも言えない、時間がゆっくり流れるような感覚は久しぶりだ。店内は私ひとりで、ここはトリニティの外。見慣れた制服も見かけなければ、紅茶の香りもしない。誰かからの視線を気にする必要もなく、羽を伸ばせる。

先の予定を考えることもなく、スマホも手に取らず、ただ店の内装をぼーっと眺めるだけの、ただ何もせずに待つだけの時間。ある意味孤独とも取れるこの時間にこそ、私は自由を感じる。

これからやってくるご飯に思いを馳せながら待つことしばらく。厨房からの足音にふと目を向けると、注文した料理が運ばれて来た。

 

「お待たせしました。アジのなめろうごはんです」

 

おっと、思ってたより大きい。普通の丼くらいか?

完全なペースト状ではなく程よく身の形が残ったなめろう。薄く半月に切られたキュウリ、黄色い粒状のあられが丼に彩を加えて華やかに見える。さらに白ゴマとカツオ節が散らされていて、丼の中央を陣取るのは卵黄。大将首はここだと言わんばかりの存在感だ。

 

「まずは醤油をかけてそのまま召し上がっていただいて、お椀に取り分けてからお出汁をかけていただくのがオススメです。あと、ワサビは結構辛いので様子を見ながら入れてくださいね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

まずは言われた通りに醤油をかけて、と。こんなもんかな。

木製のレンゲを手に取り、手を合わせる。

 

「いただきます」

 

米となめろうを一緒に掬い、まずは一口。

ほほぉ…なかなかどうして悪くない。脂の乗ったアジと味噌が良く合う、それにこの香りは…ゴマ油も入ってるのか?油を足したら脂っぽくなりすぎてしまいそうなものだが、生姜の辛みと大葉の爽やかな香りのおかげでしつこさがない。

皿まで舐めたくなるほどだから「なめろう」だっけ。これは確かに皿まで舐めたい…いや、皿ごと食っちまいたくなる美味さだ。下に米が敷かれてるから、私は皿を食わずに済んでいる。

ただでさえこんな美味いのに、卵黄を割ったらどうなってしまうのか。期待を胸にレンゲの先端でツヤツヤとした卵黄を突けば、トロリと黄金の液体が流れ出る。軽く混ぜ合わせ、黄身に包まれた米となめろうを口に運ぶ。

うっ…美味い!なめろうとご飯だけで完璧な組み合わせだったのに、卵黄の旨みとコクが二つを包み込んでさらに一体感が増した。

こりゃあ匙が止まらんぞ!たまに混じるキュウリのシャキッとした食感がいいアクセントになって飽きが来ない。食べれば食べるほど次が欲しくなる。もはやこの丼だけで完成されている。完成されているというのに…ここから、さらに先があるというのか。

一旦丼を置き、出汁の入った急須を睨みつける。

正直なところ、このまま食べ切ってしまいたい。出汁を入れてお茶漬けにしたところでコレより美味くなるイメージが湧かないのだ。

だが、こんな美味いモノを出す店が不味くなるようなことを推奨するはずがないのも確か。

なるほど、お茶漬け用のお椀はこのためか。両方食べて美味い方で食べればいい。

レンゲでお椀に2、3度ごはんをよそい、そこに急須から出汁を注ぐ。表面に軽く火が通り白くなっていくアジにどことなく心が躍る。出汁は…カツオ節かな?繊細なところはよくわからんが良い香りだ。

軽く混ぜて、まずは出汁を一口いただく。

これは……美味しい。なめろうの味噌が溶けてほんのり味噌汁っぽくてイイ。というか普通に出汁が美味い、水筒に入れていつでも飲めるようにしたい。

なめろう丼の部分も全体的に味がまろやかになってる。旨みがスルスルと体の中に入って行くようだ。温かい出汁で少し食感の変わったアジもコレまた美味い。これはイイ、イイぞ。百鬼夜行の方では朝にお茶漬けを食べる人も多いなんて聞くが、それも納得の良さがある。

様子見で少ししかお茶漬けにしなかったからもうなくなってしまった。出汁はまだ残ってるし、後は全部お茶漬けにしてしまおう。

丼に残っていたご飯を全部お椀に移し、ひたひたになりすぎない量の出汁をかける。

そういえば、ワサビがあったな。おろしワサビではなく、きざみワサビだ。ネギも入ってる。

そのまま適当に入れてしまおうとしたところで、ワサビは結構辛い言われたのを思い出し、まずはレンゲの先ですくって少量食べてみる。

 

「からっ…!水、水…」

 

うぉ〜っ…辛っ、かなりツーンと来た!はぁーっ、先に味見してよかった。全部入れてたら大惨事ワサビ大戦が勃発していた。普段ならその辛さもまた良しと半分くらいなら入れたかもしれないが、朝からこのワサビはちょいキツイぜ…。今回はご縁がなかったということで、採用は次回来たときに見送らせていただこう。

気を取り直して再びお茶漬けへ。

少量しかなかったさっきとは変わり、大きな口を開けて口の中を満たす。

正直言ってお茶漬けをナメていた、正確には出汁茶漬けか。所詮は米にお湯やら茶をかけただけのお粥もどきだろうと思っていたが、とんでもない。スープのように食べやすくもあり、ちゃんとご飯ものとしての食いでもある。なめろうが元々味がしっかりしてたのもあってお茶漬けにした後も味がボヤけることなく、出汁と調和してさらに別の美味しさをもたらしてくれる。

一粒で二度美味しいならぬ、一杯で二度美味い。

トリニティにもこんな店が欲しい。夜の見回りの後にコレ食べれたら最高だ。

ごはんを食べ終わり、お椀の残った出汁を飲み干す。

 

「ふぅ…ごちそうさまでした」

 

満腹なのに苦しくない。温かい汁(スープ)は、正しく人を満足な腹にしてくれる。

満杯の腹ではなく、満足な腹。

私は今、満たされている。今ならトリニティで美食研が横を通り過ぎても見て見ぬふりできそうなくらいだ。いや、それは言い過ぎか。

 

さて、と。腹も満たされたことだし、ぼちぼち仕事しに行きますか。

会計を済ませて店を出る。顔を上げて少し探せば、一際高い建物が見える。

ミレニアムタワーは、あっちだな。地図アプリを見る限りほぼ道なり、徒歩30分くらい。予定の時間までまだ1時間以上あるし、観光がてらどっかに寄り道してくのもアリだな。

 

「シスターです!シスターがいます!」

 

地図アプリを閉じてポケットにスマホをしまい、目的地のミレニアムタワーへと歩き出したところで、そんな声が聞こえた。

 

「おや…?」

 

クソデカい謎の機械を背負った声の主は、身の丈を超える長すぎる髪を靡かせながらトコトコと私目掛けて駆け寄って来る。

……私か。そりゃそうだ。今1人だし、ミレニアムに野生のシスターがいるなんて話は聞いたことがない。

 

「はじめまして、アリスはアリスです!勇者をしています!」

 

「えぇ、はじめまして。ワタクシはイノと申します。見ての通り、シスターをしています」

 

「ではシスター、さっそくアリスにおつげをください!」

 

「は、はい?」

 

「あとどれくらい経験値を稼げばレベルアップできるのか知りたいんです!」

 

「えー…っとぉ…………」

 

勇者、経験値、レベルアップ…あっ、ゲームの話か!なるほど読めた、勇者ごっこだな?しかし困った、ドラテス*1は触ったことないし、そもそもどのくらいでレベルアップするかなんてわからん。

現実のシスターとゲームのシスターは違うと言い切ってもいいが、今の私は満たされて優しい気持ちだ。ごっこ遊びに付き合うのもやぶさかではないし、そうでなくてもキラキラした笑顔を向けてくれる少女の期待を裏切り突き放すなんて、私にはとてもできない。

 

「そうですね…ワタクシはシスターとしてまだ未熟なので仔細は分かりませんが……誰か困っている人を、あと1人ほど助けてあげればレベルが上がるのではないかと、思います」

 

「なるほど、クエストをあと一つこなせばいいんですね!ありがとうございます、シスター!」

 

そう言うとアリスは屈託無い笑顔を浮かべてペコリと私に頭を下げて、またトコトコと小走りで駆けて行った。

ほっ、よかった、あれで合ってたみたいだ、乗り越えたぞ。なんだか私の方がレベルアップした気分だ。

よし、一つ善行を積んだことだし私もそろそろ行こう。時間に余裕はあるとはいえ、のんびりし過ぎても良くない。他校の生徒会に会うのに遅刻とかマジでシャレにならんからな。

タワーに向かって歩き出した私の前方では、先ほど別れたばかりのアリスがキョロキョロと周囲を見まわしている。困っている人がいないか探しているのだろう。ふふっ、微笑ましい。

そんな様子を眺めていると、ふとアリスと目が合った。ちょっと見すぎだったかな、と思いつつもニコリと微笑みを浮かべて軽く手を振る。

するとどうだろう、何か思いついたように目を開いたアリスがこちらへ駆け寄って来るではないか。

 

「シスター!なにか困り事はありませんか?」

 

おぉっとぉ、私か、再び私なのか。そうだね、後ろから着いて来たみたいに見えたよね。

 

「……流石は勇者様、お見通しでしたか。何分ミレニアムは慣れないものでして。…よろしければ、ミレニアムタワーまで案内……と、護衛をお願いしてもよろしいでしょうか」

 

「パンパカパーン!アリスはクエストを受注しました!任せてください、たとえモンスターや山賊が襲って来てもアリスが守って見せます!」

 

アリスはパァっと笑顔を浮かべると、私の手を取って歩き出す。

手を繋いで歩くのは少々気恥ずかしいが、わざわざ指摘するのも野暮だろう。約束の時間にはまだ余裕があるし、たまには誰かに合わせてゆっくり歩くのも悪くない。

……えっ、ミレニアムってモンスターと山賊、出るの?

*1
ドラゴンテスト、キヴォトスのドラクエ的サムシング




銀の弾丸
・イノが1年生のとき、エキスポの隅で廊下を這う限界エンジニアを助けたときにお守りとして渡した。その生徒曰く「カッコいいから自慢したら流行ってしまった」とのこと。
・疑似科学部から目の敵にされている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。