アマプラに孤独のグルメの映画来ましたね。
改めてサーフボードで島渡ろうとするのは流石に無茶だろと思いました。
ミレニアム自治区に来て2日目が終わろうとしている。
こちらに駐在する期間は3日間、つまり明日が最終日。明日は昼から夕方までの営業ではなく、ミレニアムの昼休みが終わり次第撤収予定なので日が暮れる前にはトリニティに戻ることができるだろう。
この2日間はなかなか過酷な日々だった。
1日目の日中は言わずもがな。
その日の夜、帰り際に猛スピードで突っ込んできた謎のロボを反射的にブン殴ってバラバラにしてしまったところ、その元凶であるエンジニア部に怒られるかと思いきや何故か気に入られてしまい、お詫びを兼ねて食事に誘われたのでそれを承諾。
「ミレニアムっぽい食べ物」とリクエストしたら部室へ連れて行かれ、そこで出てきたのはなんと宇宙食とレーション。そこそこ美味しかった。
その後に、「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!!」と何かしらの装甲の耐久テストに付き合わされたのを除けばいい思い出になったと思う。
2日目の朝は宿のホテルでの朝食。
バイキング形式の食事にウキウキしながら向かったら、まぁ当然なのだが後輩も朝食を食べに来ているわけで。
無計画丸出しゴキゲン全部盛りは諦めて後輩たちの手本となるべくお上品な量の食事をお上品にいただいた。
ただ、みんなの食事量が少なかったのが少し気がかりだ。もし私が控えめな食事にしたせいでみんなも遠慮していたとしたら申し訳ない。
夜はそんな自省と慣れない環境で頑張ってくれたお礼に、夕飯はみんなで美味しい物でも食べて来なさいとポケットマネーから多めにお小遣いをあげようとしたのだが……
「あれっ、先輩お写真撮らないんですか?」
「写真?コレのですか?」
「せっかくだから撮りましょうよ〜!毎日が記念日ですよっ!」
「い、いえ、ワタクシは別に…」
「あっ!じゃあ代わりに私とツーショ撮りましょ!ほらイノ先輩も笑って笑って!はい、チーズ!」
「えっあっ、は、はい。チーズ…」
「キャー!先輩とツーショ…めちゃくちゃみんな入り込んで来てる!あ、後で送るのでモモトーク教えてくださいね!」
パンケーキを前に、後輩たちと共に卓を囲んでいた。
私がいない方が羽を伸ばせると思ったのだが「先輩も是非ご一緒に」と囲まれて逃げ道を塞がれ、小洒落たカフェに連行されてしまった。なんでも少し前にSNSでバズってた隠れた名店らしい。
バズったら隠れられてないんじゃないの
この店はパンケーキが売りらしく、みんなに倣って同じものを注文したが確かに美味い。
生地はフワフワで、口の中で育ちの良さそうな優しい甘さが蕩けだす。暴力的な甘さの生クリームも、酸味の効いたフルーツと一緒なら思いのほか食べやすい。
だが、量が…クリームの量が、すごい。
クリームもりもりメメントモリ。
いつか食べれなくなるからってクリームを盛り盛りにし過ぎてはいけない。
甘い物は好きだが流石に胃もたれしてしまい、その日の夕食はパンケーキだけになってしまった。
みんなは何故平気な顔で食べれていたのか。今頃私のように腹が減っているのではないか。それとも隠れて何か食べてるのか。なぜ食事の後ミレニアムタワーをバックに私を中心に据えて集合写真を撮ったのか。
ホテルの自室、1人がけのソファでくつろぎながら、疑問を口に出して問いかける。
「ってことがあったんだけど、どう思います?」
業務報告を理由に電話をかけて来た友人には、なにか文句を呟くと、今度は普通に文句をつけて来た。
『私とはあまり食事に行ってくれないのに……というか食事の話ばかりですね?シスターの活動の方は──」
「平常運転。以上」
『雑…』
ミレニアムに来ているとはいえやってることはトリニティとほぼ変わらないのだから、そうとしか言いようがない。私しか友達がいないから話し相手が欲しいのはわかるが、数日くらい我慢できないのか。
「あーはいはい、じゃあ何が聞きたいんですかね。え?胃もたれ落ち着いてお腹減って来たんですよこっちは」
『それは、その…面白かったことや、楽しかったこととか…?』
「えぇ…?うーん、面白いこと……あっ!セミナーに自立して動く人型のコーヒーメーカーロボットがいてさぁ、そいつが鼻から垂れ流すみたいにコーヒー淹れるの。マジヤバかった、あれ絶対調月さんのだよ」
『…イノさん、いくら私が流行に疎いとはいえ流石にそれは嘘だとわかりますよ?それもセミナーの会長が作っただなんて』
「ん?寝言の時間?じゃあおやすみ」
『あ、ちょっ──』
通話を切り、スマホを置いてベッドで横になる。そのまま目を瞑ったところでスマホがバイブを鳴らして振動し始める。無視しようかと思ったがなかなか鳴り止まず、止まったと思えばまた鳴り始める。
渋々スマホを手に取って画面を見れば、表示されているのは案の定『歌住サクラコ』の文字。この調子では通話に出るまで続きそうなので仕方なく再び通話を繋げた。
「…もしもし」
『いきなり切ることないじゃないですか!』
「夜中に大声出すのやめな?」
『あっ、それはすみません…でも、もう少しお話したくて…』
電話越しでも伝わってくる寂しそうな声に良心が揺らぐ。
「……はぁ…もうちょっとだけね、もうちょっとだけ。なんだっけ…あぁそうそう、思ったんだけどサクラコさんもSNSに食べ物の写真とか──」
我ながら甘いと思うが、サクラコさんが相手だとどうにも無下にできない。寝転がったままスマホを耳の横に置いて暫く会話をしていたら、翌朝私は寝坊した。
どうして起こしてくれなかったんですかと逆ギレのメッセージをサクラコに送ってから急いで身支度を済ませたが時間が足りず、なんと朝食をスルーせざるを得なかった。
ミレニアムの売店でちょっと買い食いしたが焼け石に水で腹は減る一方。腹を鳴らさないかヒヤヒヤしながらもなんとか昼休みは過ぎ、セミナーへの挨拶を終えてブースの撤収も完了した。
これにて私の業務も無事終了。たった2泊3日だが、自由な食事ができなかったせいでストレスが溜まってドッと疲れた。
あー、めちゃくちゃ──
腹が、減っている…!
───
──
─
はやく店を探そう。
例年はミレニアムの景色を惜しんで帰る前に学園内をブラブラしたりしてたが、今はそんなことしてる場合じゃない。
どうせエキスポの時にまた来るし、飯優先だ。
ミレニアムサイエンススクールの正門を抜け、まっすぐ駅の方面へ向かう。平日の昼過ぎということもあり大通りと言えど人通りはまばらで、どこか閑散としている。
今年は行きにアリスちゃんと一緒に学園まで歩いたからか、より一層駅までの道が静かなものに感じる。数日間後輩に囲まれていたのも関係しているかもしれない。
今回一緒だったのは新しく入った子の中でも特に元気でキャピキャピしてる子達だったからなぁ。押しが強いというか、テンション高いというか。
……キャピキャピってもう死語か?まぁいいや。
ひとまずの目的地は駅ビルのレストラン街かな、そこならいくらでも飯屋がある。
道中でいい感じの店が見つかるのが一番だが……と言ってるそばから、道路を挟んだ向こう側に飲食店らしき影。
あれは…そば屋!最近暑くなってきたし、冷たい蕎麦を楽しみながら一息つくのも乙というものだ。天ぷらそばにすればボリュームも申し分ない。
向こう側に渡る横断歩道を目指し、気持ち早足で歩いていく。
「あっ、なにこれ。美味しそう」
しかし横断歩道のすぐ手前、ふと目についたのはデカいパンにデカいフライドチキンが挟まれたバーガー…が前面に出された店頭メニューのポスター。鮮やかな緑色のレタスに白いソースで彩りも良い。クリスピーチキンバーガー…100点満点の見た目、これは一目惚れ不可避だろう。
急上昇していたそば欲は失せ、気づけば私は店の中へ入っていた。
店員に促されるまま席へ座り、食べたいものはもう決まっているのでメニューを持って来てくれたついでに注文してしまおう。
「すみません、クリスピーチキンバーガーを」
「あっ、すみません。当店モバイルオーダーとなってまして…」
「えっ、アッハイ……スミマセン」
メニューを置き、コップに水を注いでくれる店員を横目にスマホを取り出し、テーブルの上に置かれているQRコードを読み取って今度こそ注文を済ませる。
「はぁ…」
クソが……いや、店員さんは悪くない、話を聞く前に逸った私が悪い。だが前々から思っていたがやはり嫌いだ、モバイルオーダー。
なんだか恥ずかし過ぎて若干食欲が落ち着いて来た。飯が来るまでまだ時間はかかるだろうし結果オーライだ。
さっきまでの私はお腹が減り過ぎてどうかしていた。心の余裕が無くてはまともに飯も楽しめない。
ゆっくり深呼吸して肩の力を抜き、周囲に目をやる。
店の内装はどことなくウエスタンとかエスニックな雰囲気。
全体的に明るい木目調で落ち着いているが、幾何学模様が描かれたタペストリーが飾られていたり、ソファ席のクッションも同じく幾何学模様だったり植物を模った派手なものだったりと異国情緒なアクセントに溢れていて間延びしていない。
落ち着き過ぎず派手過ぎず、中々居心地は良さげだ。
ひとつ気になるとすれば私が座っているテーブル席の椅子がちと硬い。木製で見てくれはオシャレだが何かしらクッションが欲しくなる。
「……他のメニュー見てないな」
とりあえず頼みたい物だけ先に頼んでしまったから、他に何があるのかちゃんと見ていない。
メニューを手に取り、順に開いていく。
あっ、へー!タコスとかタコライスもあるのか。意識して探さないとあんまり見つからないよな。次来ることがあったら頼んでみてもいいかも。
他は…BLTサンド、プルドポークのチーズホットサンド…プルドポークってなんだ?よくわからんが、それも美味そう。
デザートメニューにパンケーキもあるぞ。昨日食べたのと違ってクリームは控えめ、代わりにアイスが乗っている。
いかんな、腹が減ってると全部美味そうに見えてどれもこれも食べたくなっちまう。主食系は食べ終わって足りなかったらまた考えよう。
バーガーにポテトついてそうだったしサイドメニューは一旦スルー。
ページをめくり、ドリンクの欄でオススメと書かれたメニューに目が止まる。
『爽やかでほろ苦いコーヒードリンク、暑い季節は特にオススメ!』
そう紹介されている飲み物の名前は『エスプレッソトニック』。
…えっ、トニックって、トニックウォーター…だよな。エスプレッソに、炭酸ってこと?
嘘だろ……そんなことが許されていいのか!?
流石はミレニアム……科学が最先端なら食も最先端ということか。トリニティでそんなことしたらイジメのターゲット真っしぐらだろう。
でもオススメってくらいだし美味しいのか?シュワシュワするコーヒーなんて、どんな味になるのか想像もつかない。
流石に不味いんじゃないの?
ここは無難にコーラとかレモネードにしといたほうが……いやでも、ゔ〜ん…トリニティじゃまず見かけないし、この機を逃したら二度と飲まない気がする……。
そんな風にうんうん唸りながら悩んでいると料理が運ばれて来た。
「お待たせしました!チキンバーガーはこちらの包み紙に入れてお召し上がりください。あと、ポテト用のケチャップです」
「あ、はい。どうも」
おぉ…メニューの写真と違わぬボリューム感。私はこれを食べるためにミレニアムに来たに違いない。
ポテトにオニオンリングまでついて来ちゃってまぁ豪華!というかオニオンリングがデカい。
飲み物は……もう注文しちゃえ!さっさと食べたいんだ、悩む時間はない。
「よし、いただきま…」
……せっかくだし、後輩たちを見習って私も写真撮っておこうかな。
机に置いたスマホを手に取りカメラを起動。皿の向きや画角を気にしながらパシャリ。
よし食べよう早く食べよう。
「いただきます」
包み紙にバーガーを移して、バンズからはみ出したフライドチキンにかぶりつく。
ん〜!うまい!
クリスピーの名に恥じぬザクザク食感、スパイシーで塩味が効いた衣が食欲を煽りに煽る。さらに溢れ出る肉汁がすきっ腹にダイレクトアタック。
ザクっときてジュワッ、ザクジュワだ。
もう一口かぶりつく。今度はバンズや野菜、チーズ味のソースが口の中で複雑に絡み合う。
主食、主菜、副菜が一口で口の中にやってくる。一口で一食が完成するこの味、とんでもなくジャンキーだ。
この多めに入ったレタスと紫キャベツもとてもグッド。
野菜たちのおかげで、何度でもザクジュワのインパクトを感じられる。食べ進めてもチキンの味がボヤけず飽きない。何度でも美味しい。何度でも食べ続けたい。
主役をひたすらに立て続ける、この野菜たちのような人間に私はなりたい。
ここで小休止にポテトをパクり。
細めのサクサクしたタイプのフライドポテトだ。
箸休めに食べてもよし、バーガーから溢れたソースをつけてもよし。君はバーガーの隣にいるだけでもう100点。
ポテトのないバーガーなんて銃を持ってないキヴォトスの生徒だ。
そして次にオニオンリング。
フォークで刺してそのまま一口。
……悪かないが、オニオンに対してちょいと衣が分厚すぎるな。どっちかと言うと衣食べてる気分。
となると…ここはケチャップだろう。
気持ち多めにケチャップをつけて──うん、イケるイケる。
バーガーにかぶりつき、ポテトをつまみ、オニオンリングを口に放る。
そのループを何度か繰り返していると、ついにヤツが来た。
「エスプレッソトニックです、お待たせしました〜」
優しくテーブルに置かれたそれは、至って普通の飲み物に見える。
だがその実態はコーヒーに炭酸を混ぜたビックリドッキリドリンク……。
背の高い円柱のグラスの中は褐色と透明の二層がグラデーションになって彩られており、上に添えられた輪切りのレモンがなんとも爽やかな雰囲気を演出している。
上のレモンを絞り、ストローで軽くかき混ぜてから未知の飲み物を口に含む。
「……?」
なん、だ?この味…。なんだコレ?
決して不味いわけじゃない。人を選ぶかもしれないが、多分普通に美味しいと思う。
だが……なんとも形容し難い味だ。今まで遭遇したことのない、まさしく初体験の味。
もう何度か味わうようにゆっくり飲んでいると、段々味がわかってくる。
フルーティーさもあり、ほろ苦くもあり、ほのかな甘さもある。微炭酸で喉越しが良いのも嬉しい。
何かに似ているようで、何とも似ていない。実に不思議な味だ。
……いや、美味しいな。これ好きかもしれない。ハマりそう。
できることならタンブラーに入れて、隠して持ち帰りたい。
あっという間に飲み干して空になったグラスを横にずらし、まだ残っているバーガーを再び食べ進める。
ポテトをつまみながら、時間を置いた事で衣が重くなったオニオンリングを片付け、バーガーの最後の一口を口に入れる。
包み紙の底に残ったソースでポテトの味変を楽しみながら、全てを食べ終えた。
「ふぅ…ごちそうさまでした」
満たされた。バーガーは美味しかったし、付け合わせも付いてきてボリュームも申し分ない。
ちょっと冒険してみた飲み物は大当たりだったし、精神的にすごく満ち足りている。
久しく忘れていたが、新しく好物が見つかるっていうのは他の何にも変え難い喜びがある。
「……このあとトリニティ帰るんだよなぁ」
腹が減りすぎてバタバタしながら校舎を後にしたからか、今になってその実感が湧いて来た。
自治区に帰るには電車に数時間揺られないといけないと思うと、少し気が滅入る。
「もう少しゆっくりしてから帰るか…」
そのくらいバチは当たらんだろう。
スマホを使い、できたばかりの好物を再び注文する。
ミレニアム。
そこはキヴォトスの最先端が生まれる地。
料理は科学という言葉がある以上、ミレニアムではそれもまた最先端を征くのだろう。
また来るのが楽しみだ。
「…ん、サクラコさん?」
飲み物が来るのを待ちながら、先ほど撮った写真を加工してSNSにあげる準備をしているとサクラコさんからモモトークが届いた。
『私も皆様を見習って、昼食の写真を撮ってみました』
『いかがでしょうか』
そうして送られてきた写真はやはりというか、加工なんかされていない全体的に暗くて影が落ちている料理の写真。
そしてなにより気になるのは、食器の縁にある見覚えのある校章だ。
「……なんで学食なんだよ…」
とりあえず『へたっぴ』と返信して、さっき加工を済ませたチキンバーガーの写真を送りつけた。
・サクラコ
後日、スマホ片手に難しい顔で料理と向き合っている姿が見られた。
トリニティ給食部、命の危機を感じる。
・イノ
後日、サクラコに写真の色調加工のやり方を教えるハメになる。