「いやぁ!本日はありがとうございました、シスター!もうあなたの説教ときたら、荒野に清水が染み渡るかのようで…心が、洗われる…!機械に心あるかって話なんてますけどねッ、ハハッ!子供達も大変も大変喜んでおりましたとも!」
「ありがとうございます。ですがワタクシごとき、シスターフッドの末席を汚す身には過ぎたる言葉です。買い被りすぎですよ」
おかしなテンションで矢継ぎ早に囃し立てる機械人の教員に、こちらも謙遜の言葉を並べる。別に私シスターじゃないし、前にサクラコさんがミサで言ってた説教をそれとなくなぞっただけで、それが素晴らしいと感じたならサクラコさんの説教を聞いたら心が洗われすぎて消えてなくなってしまいそうだ。前にモモッター*1で見た、綿菓子を洗っちゃうアライグマのように。
あれ可愛かったな。ふふっ。
「謙虚〜ッ!あっ、子供達、この後おやつの時間なんですけど…近くに美味しい甘味処が、あ、り、ま、し、て…そこから取り寄せてるんですよ!どうですか、シスターもご一緒に」
「ええと…申し訳ありません。この後も予定がございますので、お気持ちだけいただきます」
「あぁ〜…けれど、あなた程のシスターならご多忙なのも仕方のないこと…是非、お一人でも行ってみてください、ねッ」
「ええ、ありがとうございます。それでは、ワタクシは失礼いたします」
荷物を持って、待機場所にあてがわれた部屋をさっさと後にする。
「オススメ、おしるこですからね!寒い時にもうピッッタリ!お元気で〜!」
一礼して礼拝堂から退出した私は、ようやく一息吐いた。あの独特なテンションについていくのは、少しキツイ。まぁ、私みたいに陰鬱な顔してるよりは100倍マシだろうけど。
今日はトリニティ総合学園の外へ出張だった。出張といっても自治区内だし、児童向けにわかりやすく教えを説くだけの仕事だ。
学園から出るのが面倒であまり人気のない仕事だが、私はこの仕事が好きだ。何故なら、飲食店を新規開拓できる。慣れない土地で、運命に導かれるままにお店に入り、直感に任せて注文して、食事を楽しむ。無論当たり外れもあるが、人生にはこういった不確定要素を楽しむ余裕が必要だ。毎日同じ食事では心は豊かにならない。
お気に入りの黒いインバネスコートに袖を通し、頭巾を外して外に出る。暖かくなってきたとはいえ、まだ肌寒い季節。伸びをしながら、冷たさの残る空気で肺を満たす。
子供達は今からおやつタイムか…機械人の教員のヨイショの勢いに気圧されて逃げてしまったが、私も貰えばよかったかな……おしるこか、いいな。お店は近くにあるんだっけ。
あぁ、そう思うと、急に──
「小腹が、減った…」
………
……
…
人前で話すには声を張らなきゃいけないし、周りの反応を見ながら話すスピードや抑揚を意識する必要があるから、結構疲れる。
でもお昼ご飯を食べた後に来たから、疲労困憊というわけではないし、ガッツリ食べたいわけじゃない。夕ご飯までの繋ぎだから軽くでいいんだ。ここはひとつ、ティータイムと洒落込もう。
スマホで地図アプリを開き、それらしき店に目星をつける。大体の方向を確認すると、スマホをしまって歩き出す。これから甘いものを食べると思うと、心なしか足取りも軽い。
甘味処、甘味処……ん?カフェじゃなく、甘味処?となると和菓子系か、トリニティには少ないから嬉しいな。
「…ここかな」
こじんまりとしたお店だ。言い方を考えずに言うと、ちょっとボロい。けど、かえってこういう店なのがいい。中心街の気取った店とは違う下町っぽさには、ある種の癒しさえある。
何を食べようかとワクワクを胸に、店の暖簾をくぐった。
店内もこじんまり。タイル張りの床にカウンター席と座敷席がある。
お昼時はすぎておやつ時、客の入りはぼちぼちで、客層は主におじさまおばさま達だ。
「いらっしゃい!おひとりですか?」
「あ、はい。一人です」
「では、カウンター席へどうぞ」
コートを脱いでから、言われるがままにカウンター席へ腰掛ける。
畳の上に座るのはえも言われぬ良さがあるが、一人で座敷に座るもんじゃない。
メニューとお冷を出してくれた女将さんに礼を言い、メニューを開く。
品数は割と多いな。王道のあんみつやわらび餅なんかはもちろん、パフェにうどんもある。甘いものが食べたいから食事メニューは除外するとして……おしるこは確定、オススメされたし。
他は…うーん、どれも美味しそう。本音を言えば全部食べてみたいが、物理的に不可能。だがいろんなものを少しずつ食べたい、そんな私のような人間のためにセットメニューが存在する。しかも内容を自分でカスタムできると来た、これにしない手はない。
頭を悩ませること数分、ようやく決まった。
「すいません」
「はーい、お決まりですか?」
「2種の甘味セットで、おしることクリームあんみつをお願いします」
「飲み物はお冷で大丈夫?」
「あっ、じゃあ…コーヒーをホットで」
「ハイ、ちょっとお待ちくださいね」
女将さんが厨房の親父さんに注文内容を大きな声で伝える。
さて、後は待つだけだ。メニューを畳んで、お冷を一口。待ち時間に手持ち無沙汰だとつい口をつけてしまう。
それにしても、和菓子なんていつぶりだろう。トリニティでは洋菓子が主流だからなぁ…
「ハイ、先にクリームあんみつね。おしることコーヒーもすぐ持ってきますから」
「ありがとうございます」
ザ・あんみつ、といった風体のクリームあんみつだ。みつまめの隙間から覗く半透明に輝く寒天が眩しい。
「いただきます」
寒天とみつまめをバランスよくスプーンで取り、口へ運ぶ。
うん!これはおいしい。大粒で柔らかな豆と弾力のある寒天、豆の甘さと旨みがタンパクな寒天によく合う。
次はあんことバニラアイスを一緒に…うんうん、こっちも美味しい。なんちゃって小豆アイス、バニラの甘さの後に小豆の自然な甘さがたまらん。
「ハイ、おしることコーヒーどうぞ。ごゆっくりね」
黙々とクリームあんみつに舌鼓を打つ私の元に、おしることコーヒーがやってきた。口に物を含んだままなので軽く頭を下げて、一度コーヒーで口の中を落ち着ける。アイスで冷たくなった方の中がじんわり暖かくなる感覚、なんだか好きだ。
「女将さーん!おしること団子三昧ね」
私がクリームあんみつをほとんど食べ終えた頃、座敷席の側からそんな注文が聞こえた。お団子も確かに気になったが、おしるこもあるしまた今度にしようと思っていたのだが、どうやら姿くらいは拝めそうだ。
「ハイハイ、団子は今から焼くからちょいとお時間待ってくださいね」
えっ、今から焼いてくれるの!?
それはいくらなんでも魅力的すぎるぞ…なんで焼きたてってちゃんと書いてくれないの。
厨房へ戻ろうとする女将さんをつい呼び止める。
「あっ、すいません。追加で私も団子三昧を」
「あら、ちょっと時間かかるけど大丈夫?」
「待ちます」
「ウフフ、じゃあ少しお待ち下さいね」
よし……いや、三昧にする必要あったか?
いやいや、なかったかもしれないが、頼んでしまったものは仕方ない。
おしるこでも飲んで落ち着こう。
あ〜…温かさが染みる。素朴ながら深い味わい、甘いのに甘過ぎない。わずかに感じる塩、そして浮かぶモチモチの白玉、オシールコ海の白玉列島だ。
二つ並んだそれを掬い上げ、一口で食べてしまう。
領海、消失…モチモチなのにトロトロで口の中でおしること混ざり合ってるような気さえする。
そんな調子で、おしるこまで食べ終えてしまった。
コーヒーで口の甘さをリセットして、お団子を待つ。正直そこそこお腹いっぱいだ。
お団子にはなるべく早く来てほしい。時間が経てば経つほどお腹が膨れてしまう。
「ハイ団子三昧お待ちどう!熱いから気をつけてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
テーブルに置かれたのは3種類のお団子、一串に4玉。きなこに、あんこに、みたらし団子。
これは…美味しそうだぞ。かなり美味しそうだ、もっとお腹に余裕がある時に食べたかった…!
さっきからあんこ続きなので、まずはきなこから。
うむ、美味しい。あっさりとした甘さに大豆の香り、ほんのり塩味を感じられるのがいい。
次は……みたらしだな。
う〜ん、醤油の香ばしさと甘しょっぱさ、そしてあえて作られたであろうお団子のおこげがなんとも粋じゃないか。焼きたてホヤホヤなのも相まってお菓子じゃないみたいだ。
「ふぅ…」
甘い物を食べに来たのだから、最後は甘い物で終わりたいと思うのが人情。さあ、あんこよ、お前で最後だ。
大きめに粒の残ったあんこは、粒を噛めばほんのり豆の味わいがする。丁寧に焼かれたお団子との相性は言わずもがな。
「……ふぅ…………ごちそうさまでした」
口を拭き、手を合わせて食事を終える。
軽く食べるだけのつもりが、かなりお腹いっぱいだ。午後の予定を確認がてら少し休憩しよう。
ポケットから手帳を取り出し、今月のページを開く。
午後の予定は…っと、第三教会の修繕箇所の確認か。となると備品や家具もチェックしなきゃだ。あそこ広めだし、今日中には終わらなそうだ。なら軽くザッと見て、指示出しに必要なことだけ把握して終わりにしよう。
「すいません、お会計をお願いします」
「ハーイ、いやぁお嬢ちゃんよく食べるのねぇ」
「あ、あはは…美味しかったもので、つい調子に乗って食べ過ぎてしまいました」
「あら、いいのよ!最近の子は全然食べないんだから、久々に若い子の食べっぷり見れて嬉しかったわ!」
「そう言ってくださると助かります。ごちそうさまでした」
お会計を済ませ、コートを羽織って外に出る。
女将さんも気さくで、いいお店だった。今度はちゃんと、お腹に余裕を持たせてから来よう。
それにしても、甘いものだけで満腹だなんて。ふふっ、私もなんやかんや女子高生だな。
……さ、腹ごなしに一駅分歩いてから帰ろうか。
・機械人の教員
小学校の教員。言動が独特なだけで普通にいい人。