孤独かもしれないシスター   作:うにうにうにう。

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トリニティ総合学園内第3教会にて

トリニティ総合学園内第3教会。

学園内に幾つもある教会のひとつで、歴史も古い。とは言っても、歴史があるとは即ち古いということで、まぁところどころボロい。

この教会は私がシスターフッドに加入した当初に配属されていた教会でもあるので、そこそこ思い入れはある。

懐かしいな…人が全然来ないのをいいことに、七輪を持ち込んで色々焼いたものだ。アジの干物、サンマ、焼肉、おもち、焼きおにぎり…トマトやナスなんかも焼いたし、ホイル焼きも作った。バナナにチョコを突き立てて焼いたりもしたし、焼きマシュマロもした。

それらをキャンプ飯と銘打ってSNSにショート動画を上げてたらプチバズりして、それが原因で当時の3年生にバレて殺されかけたっけな。

 

その後すぐ大聖堂に栄転*1させられたから、七輪とはそれ以来だ。他所で使えそうもないからと置いていった記憶があるから、まだこの教会のどこかにあるんじゃないだろうか。

あぁ、思い出したら、まだ仕事中なのに、腹が──

 

「──さん、イノさん…シスターイノ!」

 

「減っ…ん、あぁ、失礼。どうかしましたか?」

 

「先ほどから心ここに在らずといった様子でしたので、何かあったのかと思ってしまって…大丈夫、でしょうか」

 

話しかけて来たのは、同じシスターフッドの伊落マリーさん。

1年生ながら既に人望が厚く、私なんかよりよっぽどシスターらしい、とっても良い子だ。飯のこと考えてただけなのに本気で心配そうな顔をしてくれる。

 

「…ここは、ワタクシが初めて配属された教会なんです。ですから、郷愁と言いますか……つい当時を思い出し、懐かしんでしまいました。心配をかけましたね。ありがとう、マリー」

 

軽く微笑みを携えて、マリーさんの頭をポンポンと撫でる。おっと、最近じゃセクハラになるんだったか?

 

「い、いえ、何事もないのなら、それでよかったです」

 

再び仕事モードに頭を切り替え、教会の点検を手伝ってくれたみなさんからの報告書に目を通す。報告書といっても、簡略化した教会の図面を部屋ごとにプリントして、傷があったり危険がありそうなところに丸をつけてもらっただけのものだ。丁寧な子は備考欄に詳しく状況を書いてくれてたりする。

 

「…それにしても、これだけ修繕箇所が多いと予算が……いっそ改築を提言すべき…?」

 

うーん、本来なら建築部にすべてお任せしたいところだが…あの方たちは要望をちゃんと伝えないと独創性を暴走させかねない。トリニティよりミレニアムの方がよっぽど適正がありそうなお方ばかりの、愉快な部活だ。

 

「えっ…思い出の場所なのでは……」

 

「ん、おっと、口に出ていましたか。まぁ、そうですね…『何事にも時があり、天の下の出来事にはすべて定められた時がある』…気にすることはありません」

 

「それは、確か…」

 

「ええ、伝道の書です。vanitas vanitatum,(全ては虚しい、) et omnia vanitas.(どこまで行こうとも全ては虚しいものだ。) なんて言葉から始まりますが…これはこの世の虚しさを嘆いているわけではないと、ワタクシは思っています。ただ、死を見つめ、時間の儚さを想い、命の短さを嘆いているのです」

 

雑談や掃除の音で少し騒ついていた教会内が、水を打ったようにシンとなる。ワタクシの声だけが空間に響く。

 

「人の一生は短く、あっという間に過ぎ去ってしまいます。楽しいことも、嬉しいことも、苦しいことも、悲しいことも、一様に瞬く間に過ぎ去って行く。だからこそ、その儚さを想い、見つめた先の短さに嘆く」

 

一呼吸おき、再び口を開く。

 

「でも、向き合わないことには、それを嘆くこともできませんから。まずは自分の全てを見つめ、それをどう想うかを見つめ、それを踏まえたうえで、ワタクシ達はこの儚い時にどのように向き合い、どのように生きるのかを問われているのです」

 

そう締めくくると、まばらに拍手が起きる。

数秒ほど拍手を浴びた後、軽く手を上げ、指揮者が音を止める時のように手を回す。私が軽く手を握ると同時にピタリ、と拍手が止んだ。

 

「さぁ、そろそろ撤収しましょう。戸締りはワタクシがやっておきますので、みなさんは先にお戻りください」

 

では、お疲れ様でした。と別れの挨拶を言えば、みな口々に別れを告げて解散していく。

そんな中、こちらに礼をして教会を後にしようとするマリーさんを呼び止めた。

 

「マリー」

 

「あ、はい!なんでしょうか」

 

「さっきは色々と口走ってしまいましたが、気にしないでいいと伝えたかっただけですので、あまり考えすぎないように」

 

「…す、すみません、顔に出てしまっていましたか?」

 

「はい、それはもう。本当に気にする必要はありませんよ。むしろ、あなたが笑顔でいてくれない方が、ワタクシは気掛かりになってしまいます。マリーには笑顔が似合いますから」

 

「そ、そうでしょうか?…いえ、イノさんが言うならきっと、その通りなのでしょうね。ふふっ…ありがとうございます。逆に、私の方が元気をもらってしまいました」

 

「えぇ、その方がよろしい。ではお気をつけて、マリー」

 

「はい、イノさんも」

 

笑顔でこちらに小さく手を振るマリーさんを見送って、ようやく一人になった。

つっっっかれた……なんだよ、恥ずかしすぎるだろ、誰だよアレ。仕事モードに入りすぎてちょっと調子に乗りすぎてしまった。恥ずかしさが顔から噴火しそうだ。最後のマリーさんとの会話なんてナンパしてるみたいだった。あんな素直で純粋な子にそんなことしていいわけない。

 

「はぁ…」

 

大きなため息が出てくる。

まぁ、過ぎたことは仕方ない。バニタスバニタス。

さ、気を取り直して、と……探すか、七輪。

ここが修繕されるにしろ改築するにしろ、七輪を使えるタイミングはそうそうない。第3教会担当のシスターも明日明後日は私たちがやる点検の影響でここに来ない。つまり期限は明後日まで、まだ余裕がある。

何を焼こうかな。まずは肉は欠かせない。しかし魚介類も捨てがたい、肉か魚か、どちらにせよ野菜は必要だ。野菜っていうのは焼いただけでなぜ、ああも美味しくなるのだろう。

そんなことを考えながら倉庫にて七輪を探していると、一枚のメモが貼り付けられた、ガムテープで封じられている箱を見つけた。

メモには『禁忌、決して開けるべからず』と書かれている。しかも私が1年の頃のシスターフッドの長のサイン付き。

メモはそのままに、事務室から持ってきたカッターでガムテープの封を切り、箱を開ける。

 

「おぉ…あった。懐かしいなぁ、えぇ?」

 

つい笑みが溢れ、色々と焼いた思い出が蘇る。……先輩と本気で殴り合ったのも思い出してしまった。後一歩といったところで負けて、没収されたんだ。あの人のボディブローは重かったなぁ……

おっ、ご丁寧に炭まで入ってるぞ。ありがとう先輩、あんたが几帳面な性格で助かった。

よし、着火剤と食材さえあれば七輪焼きができそうだ。

今日のうちに食材を買って、明日やろう。あとで明日の点検は中止にする連絡もしておかなければ。

何買おうかなぁ…カルビ、ロース、アジの干物、サバのみりん干し、玉ねぎ、ナス、ピーマン…ん〜っ、悩む!全部いっちゃうか?

こんなに明日が楽しみになるなんて、いつぶりだろう。

*1
本人的には左遷




Q,なぜ内心マリーさん呼びなのに、呼び捨てしてるの?
A,先輩としての威厳のため。

Q,飯は?
A,毎食ちゃんとした外食ってキツくね?

イノは苗字じゃなくて名前です。
あと作者はキリスト教徒じゃないです。石は投げないでください。でもお気に入り評価感想は投げてください。
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