孤独かもしれないシスター   作:うにうにうにう。

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トリニティ総合学園内第3教会で七輪焼き肉

 

そして翌日。

さぁ、やってきたぞ第3教会。

食材の準備はバッチリ。クーラーボックスなんて久しぶりに使ったな。嵩張るし少し重いが、これは幸せの重さだ。

昨日鍵を開けておいた窓から侵入し、内側から鍵を開ける。制服にニオイが移らないよう体操着に着替えて、倉庫から持ち出した七輪を裏口の近くに設置。

持ってきた折り畳みの椅子に座り、七輪で炭火を起こす。

あとは炭が赤くなるのを待つだけだ…あぁ、炭が焼けるにおいだけで、もう…

 

「腹が、減ってきた…」

 

………

……

 

今のうちに食材を出しておこう。

 

まずはおにぎり。焼きおにぎり用だが、そのままご飯として食べてもいい。

肉類はソーセージと、カルビ、ロース、ハラミが入った焼き肉セット一人前、そしてねぎま串。

野菜は玉ねぎとナス。

飲み物はウーロン茶。

一人焼き肉としては無難な布陣だ。一応サバのみりん干しも持ってきたが、これは明日に回そう。ウキウキし過ぎて色々買い過ぎてしまったな。

 

頃合いを見て、七輪に網を置き食材を乗せていく。まずは醤油を垂らしたおにぎりを網の上へ、次いで玉ねぎとナス。そしてソーセージを。

 

「…………いただきます」

 

焼かずにそのまま一本食べる。加熱調理済みだからそのままでも問題ない、私の空腹のほうが問題だ。そして白おにぎりも頬張る。イイ、イイよ、この雑さ…キャンプ飯、いや、七輪飯はこれでいい。

残りのソーセージはちゃんと網の上へ。

……やっぱもう一本食べちゃお。

 

何か腹に入れて少し冷静さを取り戻した私は、再び網の上に食材を並べる。肉はハラミと…ロースも一緒に行っちゃおう。いや、ねぎま串も欲張っちゃう。

うん…イイ眺めだ、ターンエンド。焼けるのを待とう。

ペットボトルのウーロン茶を一口。一息ついて、目を瞑る。

木々の揺らす穏やかな風の音、炭に落ちた油が激しく燃える音、土の匂いはとうに肉の匂いにかき消されてしまった。

あぁ、全てが懐かしい…………?いや、何か、何か足りない…物足りない待ち時間…前は何をしていた?焼肉屋では何をしている?

 

「あーっ!!あ〜っ……はぁ…」

 

キムチ……焼き肉なら、キムチかナムルが必須だろう…なんで忘れたんだ……はぁ、仕方ない。

これは焼き肉じゃない、七輪焼きだ。自分にそう言い聞かせながら、乗せた食材をひっくり返していく。

うん、焼け具合はいい感じだ。キムチは忘れども、焼き勘は鈍らじ。積み上げた経験は裏切らない。七輪マスターイノ*1の名は伊達じゃないんだ。

 

そして、そんな私の勘と、シスターという人から見られる仕事を続けて来た経験が、私と食べ物の他に第三者の存在を感じ取った。

 

「……そちらにいるのは誰ですか。姿を現しなさい」

 

そばに置いていた武器に手を伸ばす。もし勘違いなら、私がイタイ奴になるだけだからいい。だが誰かがいるのだとしたら、私の食事を邪魔する不埒な輩がいるのなら迅速に()()()()を済ませて七輪奉行に戻らなければならない。焼き過ぎは厳禁だ。

 

「あっ、そ、その…申し訳ありません!盗み見しようとしたわけではないんです…!」

 

「……マリーさん?」

 

教会の裏口の影から現れたのは、マリーさんだった。お互いの間に沈黙が流れる。それを破ったのはパチッ、とソーセージの皮が爆ぜる音。

あ、食べ頃だ。

ソーセージへ箸を伸ばし、アツアツのそれを食む。普段ならソーセージはボイル派だが、こういうロケーションでは皮が破けるまで焼くほうがなんか美味しく感じる。

流れ作業のようにおにぎりを口に運ぶ。冷めたご飯と、アツアツのソーセージの相性って、なんでこんなにいいんだろう。普通の肉ならご飯は炊き立て一択なんだけどな。

 

「あっ、その、イノさんがこちらの教会へ向かっているのを見たと、人伝に聞いて…点検は中止とおっしゃっていたのに、何かあったのかと…」

 

「マリー、こちらへ来なさい」

 

口の中のものを飲み込んで、ウーロン茶で喉を潤してからマリーさんを呼ぶ。

ごめんよマリーさん、ソーセージが食べてくれって言うもんだからさ。

さて、現実逃避も程々に。見られてしまったからには仕方ない。口封じをするしかない。

 

「あ、あの…」

 

「聞こえませんでしたか?こちらへ」

 

有無を言わせないよう語気を強めて言う。マリーさんは普段とは様子の違う私に驚いたのか、一瞬体を震わせると、恐る恐るといった様子でこちらへ歩いてくる。

 

「苦手な物やアレルギーは」

 

「え?い、いえ、特には…」

 

紙皿と割り箸を新しく取り出し、ちょうどよく焼けた玉ねぎとロースをよそい、椅子から立ち上がってマリーさんへ差し出す。

ロースは脂はのってるけど脂っこ過ぎない、一番ちょうどいい部位だ。

 

「さぁ座って、遠慮せず召し上がってください」

 

「えっ?あ、い、いただきます…?」

 

マリーさんは何が何だかわからない、といったような顔を浮かべつつも、小さな口でロースを頬張る。

その様子を見ながら、私は私でいい感じの焦げ目がついた玉ねぎを齧る。焼けた玉ねぎではなく、少し焦げた玉ねぎ。不思議とコレが美味いんだよなぁ…玉ねぎに限らず、網焼きは大抵コゲが美味い。コゲうまだ。

続いて私もロースを食べる。うーん、THE肉!って感じの脂と食感がたまらん。米が欲しくなる。3つ持ってきたおにぎりの2つは焼きおにぎりにしようと思ったが、我慢ならん。二つ目の白飯だ。

 

「ごちそうさまでした…?あの、これは一体…」

 

「どうでしたか?」

 

「美味しかったです、けど…よければ説明を」

 

「それはよかった。おかわりはいかがですか?サバのみりん干しなんかもありますよ」

 

「その…それより先に、何故ここで、バーベキュー…?をしているのか、教えていただけると…」

 

私は七輪に視線を落とすように軽く俯いて、ねぎま串を裏返しながらチラリとマリーさんの方を見る。ナスはもうそろそろいい感じだ。

 

「……私が1年生の頃、初めて配属された教会がここだという話はしましたね?」

 

「は、はい、先日お聞きしました。まさか、それと何か関係が…」

 

「えぇ。久々にこの教会を訪れて、昔はこうして、よくここでご飯を食べていたのを思い出しまして。ここは立地的に人もあまり来ませんし、食べに行くにも少し遠いので」

 

一度区切り、ポン酢をかけたナスにかぶりつく。

トロトロホクホクのナスに染みたポン酢が、噛むたびにジュワッと口の中に広がる。肉を差し置いて、もはや主役級に美味しい…ナス、ナスナスナス…ナス!

もう口の中からナスがナスなってしまった。二つ目に口をつける前に、言葉を続ける。

 

「もう、この七輪を使うこともないかと思うと…最後にもう一度くらい、やっておきたかったんです。ふふっ、気にするなといっておきながら、マリーにはまた心配をかけてしまいましたね」

 

そう言って再びナスに箸を伸ばそうとすると、マリーさんが紙皿をこちらに手渡してきた。ナス、美味しいからな。じゃんじゃん食べなすって。

 

「イノさん……申し訳ありません、私はこれで失礼します。とっても、美味しかったです」

 

何か決心したような顔でそう言うと、マリーさんは走り去ってしまった。何気にマリーさんが走ってるの見るの初めてかもしれない。

 

「えっ、あっ……ナス、食べないのですか?」

 

ナスくらい食べていけばいいのに。ナス、美味しいのに……まぁ、いいか。さぁ、飯だ飯。

ちょっと焼き過ぎてしまった気がしなくもないハラミを口へ運ぶ。うん、脂っこくなくて肉肉しい感じだ。カルビなんかの脂が多い肉とはまた違った肉の魅力がある。

そろそろカルビも焼いちゃおう。淡白なものの後には脂っこいものが欲しくなる。

さて、焼きおにぎりは……ちょっと焦げ過ぎたか?まぁ、これもきっとコゲうまだ。うん、うん…焦がし醤油に混じってほんのり炭の香りがする。これぞ七輪……これをやらなきゃ終わるに終われない。

ねぎま串は、もちろんタレ派。ネギのシャキトロ感が鶏肉をさらに引き立ててくれる。この、肉ネギ肉ネギ肉の3:2の比率を発見した人、ミレニアムプライス受賞決定。あまりに完璧。

そして最後の肉。焼き肉の王様、カルビ…!

焼き肉のタレをつけて、焼きおにぎりの上でバウンド、からの口へゴールイン。美味い…あまりに美味い。タレと肉の油でコーティングされた米がまた美味い。カルビ一枚でご飯一杯は食べれるが、あいにく手持ちの米はこの焼きおにぎりでラスト。

さぁ、ラストおにぎり、からのラストカルビでフィニッシュ…

 

「ふぅ……ごちそ──」

 

頬に米粒が付いていた。指で取って口へ運び、ウーロン茶を飲んで茶を濁す。

 

「ごちそうさまでした…」

 

満足満足……久々に炭の匂いを全身で感じた。お店でやるのとは違った良さと美味しさだった。

椅子の背にもたれかかり、空を眺めながら残りのウーロン茶をちびちびと飲み進める。

七輪、楽しいし美味しいんだけど、後片付けが面倒だよな。

トングで炭を火消し壺に入れながら、そうぼやく。

正直今日みたいな焼き肉オンリーなら、店に行った方が良い気がしなくもない。

 

「……キャンプ用のガスコンロでも買おうかな」

 

ここが無くなってしまったら、どこで使うんだって話なんだけどね。

*1
ショート動画上げてたチャンネル名






「イノさん、マリーに第3教会の修繕予算をどうにか工面できないかと頭を下げられてしまったのですが…何か、知っていますか?」

「マリーが?…………いえ何も」

「なんですか、その間」

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