孤独かもしれないシスター   作:うにうにうにう。

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洋食を作るときブチ込むバターの量には目を瞑りなさい。それは美味しさの元だから。


トリニティ自治区の老舗オムライス

頭巾を外し、学園を出て正門からまっすぐ、ズンズン進む。

ここ学園都市キヴォトスはその名の通り学園を中心にすべてが回る。当然、その地区を治める学園の周辺が最も飲食店の数が多い激戦区。そのため店舗の入れ替わりも激しく、美味しいと思っても次来たら無くなってたなんてこともしばしば。流行りに乗っただけの薄っぺらい店舗など半年もせずに爆破されるか普通に経営難で新しい店に変わる。

その点長く続いている、所謂老舗と呼べる店舗は別の自治区の名店とは一線を画すクオリティが確約されている。

ただ、その分老舗は高い。味はもちろんサービスや店の雰囲気など一定以上の水準を常にキープする姿勢には頭が上がらないが、まぁ相応の値段がする。

 

「ん、ここは…」

 

シックでお洒落な外観の老舗の喫茶店。ずっと前から気になっていた店の前で、足を止めた。今日はその外観が、なんだか一層ノスタルジックに感じる。

店頭に近づき、ディスプレイされた食品サンプルのオムライスを見て、この前学食で後輩がオムライス食べてたのを思い出した。思い出したら、途端に私の腹はオムライス腹だ。……ここにするか?

鮮やかな黄色、いや黄金色に輝くトロトロのオムレツに濃ゆそうな赤いケチャップのコントラストが食欲を誘う。

誘蛾灯に引き寄せられるように、フラフラと進んでしまう。そして、サンプルのすぐ下にある値札をみて、理性が私の動きを止めた。

オムライスとその付け合わせだけで、3〜4食は食べれそうな値段だ。そうなるともう少し安い店でオムライスの他にも好きなものをたくさん頼んだ方が満足できるんじゃないかと、いかにも庶民的な発想が浮かんでしまう。勇気を出して入るか、別の店を探すか……?

 

くっ…決めあぐねて動けない…踏んでしまった。オムライスの地雷、オムマインを…!

 

これはトラップだ…店に誘い込むための、トラップ!ここで引き返せば、致命傷は避けられる。

だが食べたい…だが給料日まで節約を視野にいれねばならなくなる値段。ここは庶民には厳しい、お嬢様向けのお店だったか……入店したが最後、満足するまで食べれば財布に致命傷。一品で我慢すれば心に致命傷。

 

「ぬぬぬ………………」

 

…………………………いや、入る!!

入るったら入る、食べるったら食べる!こちとら地雷の一つで致命傷になるほどヤワな体じゃないんだ。私を傷つけたかったら対物ライフルで凸スナするかミサイルでも持って来いってんだ。

さぁいざ行かん。見せてもらおうか、トリニティの老舗の実力とやらを。

 

意を決して扉を開けば、シャツにベストを合わせネクタイまで締めた店員が出迎えてくれる。

 

「いらっしゃいませ。おひとり様でしょうか?」

 

「はい、ひとりです」

 

「ではお席はご案内いたします。テーブル席とカウンター席、どちらも空いておりますが、いかがなさいますか?」

 

「えぇと……テーブル席でお願いします」

 

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 

案内されるがまま席へ着くと、丁寧にメニューを渡され即座にお冷が出てくる。

 

「お決まりになりましたら、お声がけください」

 

「はい、ありがとうございます」

 

店員が離れたのを見て、まずお冷を一口。

なんだか店の雰囲気に呑まれてしまっている。外見はいかにも落ち着いた少しレトロな雰囲気だが、内装は綺麗で比較的新しく感じる。加えて店員の丁寧なピシッとした対応が、なんだか喫茶店というよりちょっと良いとこのレストランに来たみたいで少し落ち着かない。

もっと、こう……昔ながらの名店、みたいな感じを想像してたんだが……いや、私はただ飯を食べに来ただけなんだ、いつも通り平常運転で行こう。どんな店だろうと私がやることは一つ、飯を食うことだ。

気を取り直して、メニューを開く。

どれどれ、オムライスのページはどこに……パスタか。喫茶店では定番だな。ミートソースにナポリタン、カルボナーラ……おっとっと、惹かれるが今はスルーだ。今の私はオムライス腹なんだ。ここで奇を衒って別のものを頼んでは絶対に後悔する。

次のページをめくれば、お目当てのオムライスの写真が載っていた。おおっ、普通のオムライスセットとは別におかずが付いて来るオムライスプレートがある。これにするしかないな。

おかずは…コロッケ、ハンバーグ、エビフライにクリームコロッケ…どれも捨てがたいが、ここはエビフライだ。コロッケもハンバーグも少し主張が強い。主役であるオムライスが、ただの主食になってしまいかねない。あくまでメインを飾るのはオムライスだ。

クリームコロッケも捨てがたいが、エビフライの気分。

よし、決まったぞ。

 

「すみません」

 

「はい、お決まりでしょうか」

 

「オムライスプレートで、セットはエビフライをお願いします」

 

「お飲み物はいかがなさいますか?」

 

「あー……いえ、結構です」

 

「かしこまりました。ご注文は以上でよろしいでしょうか」

 

「はい、大丈夫です」

 

「ありがとうございます。では、少々お待ちください」

 

店員の背中を見送り、ようやくひと段落。

せっかくだしコーヒーや紅茶なんかを頼んでも良いかと思ったが、この店で価格を確認せずに頼む勇気は私にはなかった。

やっぱり、あれからちょくちょく七輪焼きしてたのがよくなかったかな…明らかに食材買いすぎたもんな…

料理が運ばれてくるまでの時間を、スマホをポチポチしながら待っていると店員が別の客に料理を運んでるのが見えた。

 

あれは……カレーライス!そういうのもあるのか。いや、喫茶店じゃ定番か。となると……。

再びメニューを手に取り、オムライスのページを開く。ざっと目を通して次のページへ。

うん、やっぱりあったぞ、オムカレー。よし、確認できて満足。オムカレーも悪くはないが、カレーには白米が一番だと思う。

カレーは味が強いから、せっかくのチキンライスが喰われてしまう。カレーライスとオムライス、どちらも一皿で完成された一品なのだから組み合わせるのは少しナンセンスな気がしてならない。欲張りたくなっちゃう気持ちはすごくわかるけどね。

メニューを戻し、お冷を一口飲む。

この冷たさが逸る心を落ち着けてくれるんだ。

 

「お待たせしました。オムライスプレートのエビフライセットです」

 

運ばれてきたのは、チキンライスの上にトロトロのオムレツが乗った皿と、2本のエビフライ、コールスローにスープ。あとカレーが入ってそうな器の中に入ったケチャップ。

自然と笑みが溢れる組み合わせだ。

 

「こちら、ケチャップはお好みでかけてお召し上がりください。では、ごゆっくりどうぞ」

 

店員に軽く礼をして、さっそくケチャップをかける作業に取り掛かる。付いていたスプーンでケチャップを掬い、オムライスへと乗せる。

おぉ…いいじゃないか、いいじゃないか!これぞオムライスといった風貌だ。

 

「…いただきます」

 

この光景を前にして、ベジファーストだなんだの言うのは野暮ってもんだ。

手に取ったスプーンでオムレツ、チキンライス、ケチャップをバランスよく掬い、口へ運ぶ。

 

ケチャップの優しい酸味にトマトの旨み、それらをふわふわトロトロのオムレツが包み込み、最後に濃厚なチキンライスがやってくる。

想像通りの味だ。昔ながらと言うんだろうか…ここの店のは初めて食べるのに、懐かしさすら感じる。

 

「うまい…」

 

ナイフとフォークに持ち替え、エビフライを切る。ナイフに力を入れれば、ザクッという小気味がいい音を立てて容易く切れた。これはエビのプリプリ具合に期待が持てる。

 

「あつっ」

 

はふはふしながら、軽くソースのかかったそれを口に運べば、サクサクっと衣が崩れる音がする。エビは弾力がありながら歯切れがよく、淡白な味がソースのかかった衣とよく合う。エビフライを考えた人は本当に天才としか言いようがない。何を食べたらこんなものを思いつくんだ。

そして…控えめに主張する、このタルタル。これをつけて食べれば……あぁっ…揚げ物とタルタルの組み合わせ、まさに楽園級。

楽園から帰って来れなくなる前に、キャベツとニンジンだけのシンプルなコールスローで口の中の油っぽさをリセット。これもまたうまい。シャキシャキした食感と素材本来の優しい甘さがなんとも心地良い。これがあれば揚げ物も無限なんじゃないか?

そしてスープ、これは……なんのスープだ?具材はニンジンと、タマネギ。コンソメかな?詳しくわからんが、ザ・スープな感じだ。これもまた優しくうまい。

 

再びオムライスに戻り、スプーンを動かす。

タマネギと鶏肉、ハズレ無しの組み合わせの二つをケチャップ味のご飯と一緒に。これだけでも十分うまいのに、ここに卵が加わるとさらにうまい。さらにさらに、上からかけられたケチャップで味の濃さが変わり、飽きがこない。

この一皿でも満足できてしまうというのに、今の私にはエビフライが付いている。

鬼に金棒、オムライスにケチャップ、エビフライにタルタルだ。

ケチャチャチャチャ。タールタルタル。

 

オムライスを食べ切り、最後に少し残しておいたエビフライを尻尾ごと口の中へ。パリパリとした食感とエビの風味が美味しいんだよな。

 

「ふぅ……」

 

うまかった。もう少し何か食べたい気もするが、まぁ満足だ。帰ってからコーヒーでも淹れれば、少し遅めのご機嫌なランチの締めくくりにちょうどいいかな。

 

「ごちそうさまでした」

 

少し温くなったお冷を飲み干し、紙ナプキンで口を拭く。

もう少しゆっくりしていきたい気もするが、あんまり長居すると追加注文してしまいそうだ。

お会計を済ませ、軽くなった財布と共に店を後にする。

 

たまの贅沢と思えば、まぁ許容範囲。また来るかはわからないが、悪くない店だった。良くも悪くも昔ながらの味。だが、いつの時代になっても必要とされる味だ。人間、生きてりゃそう言うものが恋しくなる日は必ず来る。

私も、少しは大人に近づいてるってことかな。

 

「なんてね…」

 

今日の私は、なんだかノスタルジックだ。

頬を撫でる風にすら、歴史があるような気さえしてくる。




油を使えば使うほど卵はふわふわになります。たんぽぽオムライスやるコツはバター(油)をケチらないことだと思う。
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