「まったく・・・飽きもせずよくもまぁやるもんだぜ・・・」
とある紛争地域の廃ビルの一室、そこに一人の男が寝そべりながら狙撃銃を構えていた。
迷彩服に鉄が錆びた様な赤い髪を一本に纏めた男はスコープに映るテロリスト達を見ながらそう愚痴った。
『文句を言うんじゃない。与えられた任務を完璧にこなすのが我々ドイツ軍です』
男の右耳のインカム越しに若い女性の声が響いた。
「へいへい。分かってるってマルギッテ」
『隊長と呼びなさいバレッティア。そちらの配置はどうなのですか?』
「おう、バッチリだ。奴さんのボスの顔から、お前のcuteな横顔までバッチリ見えるぜ」
『なっ!?か、からかうのは止めなさい!!』
男の言葉にインカム越しで女性の照れを含んだ怒鳴り声が響く。
男はそれを口笛を吹きながら受け流し、スコープ越しのテロリスト達が動き始めたのを確認し途端に目を鋭くした。
「ホークリーダから各員へ。奴さん達が動き始めた、ドレスアップしてパーティー会場へ向かうみたいだぜ?」
男の報告にインカム越しの女性は真剣な声音で、
『了解、ではハウンド小隊は北と東、西ゲートから突入。ホークチームはブリーフィング通り南ゲートから逃亡してくる野ウサギ達を狩りなさい』
「了解。ホークチーム、準備はいいな?」
『ホーク2、了解』
『ホーク3、了解』
『ホーク4、了解』
自分の部下からの返事に男は満足げに口元を歪め、
「さあ、狩りの始まりだ!」
1時間後、この地に潜伏していたテロリストは壊滅した。
翌日・ドイツ軍基地
「ファ~ったくいきなりの招集とは一体何なのかね?」
「だらしないぞバレッティア。誇りあるドイツ軍人ならいつでも毅然とした態度でいなさい」
その廊下で二人の男女が歩いていた。
一人は長い赤髪に左目を眼帯で覆った美女『マルギッテ・エーベルバッハ』、階級は少尉。
もう一人は肩甲骨まである錆びた鉄の様な髪を首元でひとまとめにしている男『クロム・R・バレッティア』、同じく少尉。
この二人若くしてドイツ軍の双璧を担う軍人である。
「そうは言ってもな?昨日のテロ屋を壊滅させて間をおかず次の任務だろ?流石に疲れるぜ」
「情けない・・・それでもあなたはドイツ軍が誇る最高の狙撃手なのですか?」
「ベットの上なら幾らでもイケるぜ、俺は」
ドスッ!!
「グホッ!!?」
「そういう下品な発言もです。反省しなさい」
クロムの下発言にマルギッテは容赦なく彼の脇腹に肘を叩きこむ。
「お、お前な~・・・これが長年背中を守って来た相棒に対する仕打ちか?」
「ええ、そうです。相棒なのですから、あなたを教育する義務がありますから」
脇腹を押えながら涙目で言うクロムにマルギッテはシレッと返す。
「ほら、中将殿の部屋に付きました。シャキッとしなさい」
「お前がやっといてよくもまぁ・・・」
コンコン・・・
「マルギッテ・エーベルバッハ少尉、並びにクロム・R・バレッティア少尉ただ今到着しました!」
「入りたまえ」
「はっ!」
そう言いマルギッテとクロムは部屋の中に入り、部屋の主であるフランク・フリードリヒ中将に敬礼した。
「うむ、休んでよろしい」
フランクも敬礼を返すと二人に椅子に座るように施す。
「ハッ!」
「っで?急な要請は一体なんなんすか、中将?」
椅子に座るや否やクロムはダルそうにフランクに尋ねた。
「バレッティア!中将殿に向かって・・・」
「ハッハッハッいいのだよ少尉。寧ろこれこそ彼の彼らしい所だ」
マルギッテがそんなクロムの態度を注意しようとしたがフランクは笑って許した。
「それよりまずは先のテロリスト討伐の礼を言わせてくれ。君達二人のおかげでこちらの損害はゼロでテロリスト共を壊滅させることができた。流石は我がドイツ軍が誇る『赤の双璧』だ」
「恐れ入ります」
「そう改めて言われると照れますね」
「うむ。で、早速本題に入ろう」
そう言うと、フランクの顔が真剣身を帯び、それに呼応して二人は背筋を伸ばす。
「先日、娘のクリスから連絡がきてね・・・」
「・・・・」
その言葉にクロムのやる気は一気に下がった。
「何やら明日からここ数日でできた友達と共に旅行に行くのだとか・・・」
「あ、あ~そいつは良かったっすね。異国の地でお嬢もきちんと友達ができたんだ」
クロムは苦笑しながら言うがフランクはだが!と机をバンッ!と叩き立ち上った。
「そこに男の名前があるではないか!!しかも泊りがけの!!もし私の可愛いクリスに何かあったら・・・・!!」
血管がこれでもかと浮き上がり今にもキレそうである。
「故に、今から部隊を編成しクリス達の旅行先である箱根の旅館付近の丹波山中に潜伏し密かに監視する!」
「ハッ!了解しました!!」
「・・・・」
勢いよく立ち上がり敬礼するマルギッテとは対照的にクロムは頭を抱えた。
(また始まった・・・・)
この二人のクリスへの溺愛っぷりをクロムはよく知っている。
故にこうなる事は簡単に予想でき、これからの対処も心得ている。
「うむ、それでは部隊の編成に付いてなのだが―――」
「ああ。ちょっと待ってくれませんか、中将」
早速作戦を説明しようとするフランクにクロムは待ったをかける。
「何かね?バレッティア少尉?」
よもや反対するのかね?と視線で語りながらクロムを睨む。
クロムの隣にいるマルギッテも訝しみながらクロムの方を見る。
「その任務はウチのホークチームに任せてくれませんか?」
「ほう」
クロムの進言にフランクは感心したように声をあげた。
しかし、それに異を唱えたのは隣にいるマルギッテだ。
「何故です、バレッティア!この任務は私の部隊でも――――」
「お前の部隊は確かに万能だし俺達の部隊の中でも精鋭だ。そんな事、お前の相棒である俺がよく知ってる」
「ではなぜ!?」
「・・・今回の任務にはあの武神が居るんでしょ?中将」
「うむ。あの川神鉄心の孫娘である川神百代もその旅行メンバーに乗っている」
「だったら尚のこと隠密と偵察を得意とするウチのチームがその任務に付くいた方がいい。その方があの武神に察知されること無く陰ながらお嬢を見守る事も出来るだろう」
クロムの説明にマルギッテは落ち着きを取り戻し席に座り直す。
「うむ。もちろんそのつもりだ。更にはマルギッテ少尉の小隊は私の護衛とクロム少尉のチームのバックアップをしてほしい。そして偵察の場所だが・・・・それはクロム少尉に一任しよう」
「ハッ!了解しました!」
「了解です」
「うむ!では早速準備を始めてくれたまえ」
そう言って二人に退室を施し、二人は部屋から退室していった。
「それにしても川神百代でしたか・・・武神と言われるほどの強さ是非とも手合わせしてみたいです」
道中、自分達の部隊のいる場所へ向かう中マルギッテはそう呟いた。
「お前はホントそういうの好きだな?」
「当り前です。一武人として強者との戦いを望むのは至極当然です」
「ハァ~・・・言っとくがな?今回の任務はお嬢の周りにいる奴等の監視だからな?この前みたいに強そうな奴がいたから勝手に行って勝負するってのは無しだぞ?」
「わ、分かっています・・・。あの時の事は反省しているので何度も責めるのは止めなさい」
クロムの呆れるような物言いにマルギッテは頬を赤く染めながらそっぽを向いた。
「本当に分かってんのか~?」
「当り前です・・・・ッ肩を組むんじゃありません!!」
ドゴスッ!!
「グホッ!?・・・ま、また脇腹かよ・・・」
肩を組んできたクロムを振りほどきマルギッテは彼の脇腹に拳を打ち込みクロムはあまりの痛さに殴られた箇所を押さえながら悶えた。
「フンッ!」
「お、おい!マルギッテ、待てよ~。つーか、今の本気で殴っただろ!?」
「自業自得と知りなさい!!」
カツカツと足早に歩いて行くマルギッテにクロムは文句を言いながらついて行く。
何だかんだで何時ものドイツ軍の日常であった。
このお話ではマルさんが壁を越えた者です。