真剣で狙撃手に恋しなさい!   作:神喰いの王

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第七射目

「あ~・・・クソッ」

 

クロム・R・バレッティアは困っていた。それこそ人生で1、2を争うほど困っていた。こんな事は初めて戦場に赴いた時にも感じなかったのだが・・・・。

 

「参ったぜ」

 

彼が今いる所は学園の屋上に設置されている給水塔の上に立っている。その眼下には周りをキョロキョロとしながら誰かを探している『武神』川神百代。

 

「ったく、いい加減諦めて欲しいもんだぜ」

 

あの決闘から数日、クロムは百代から何度も勝負を挑まれていた。それこそストーカーか?というぐらいに休み時間昼休み放課後問わず、飽きもせず何度もつけ回してくる。だが、そこは狙撃手(スナイパー)、身を潜めるのは得意中の得意であるので今まで一度も捕まっていない。

 

「ホント参るぜ。おちおちナンパも出来やしねぇ」

 

折角この学園はレベルの高い娘が多いのにっと内心で舌打ちしながら百代を監視している。

 

「また川神百代から逃げていたのですか?」

 

背後から聞き慣れた声が響きクロムは振り返らずに返事を返した。

 

「まぁな。っつか、よくここが分かったな?」

 

「これでも訓練校時代からの付き合いです。貴方の行動パターンは大体予測が立てられます」

 

声の主、マルギッテの答えにクロムはそうかいと言って苦笑するがその眼は未だに百代に見据えていた。

 

「さて、そろそろ戻るか」

 

予鈴が鳴るのを確認し、それと同時に百代が自身の教室に戻るのを確認するとクロムは給水塔の上から飛び降り、マルギッテの横に並ぶ。

 

「そういや、お嬢の方の件はどうなったんだ?」

 

「万事問題ありません。きちんと話しを通しましたので・・・って、どうせ見えていたのでしょう?」

 

「さあ、どうかな?」

 

咎めるようなマルギッテの視線にクロムは惚けた様に返す。

 

「それより、どうしたんだ?わざわざ会いに来るなんて?」

 

俺のことが淋しくなった?っと聞いてくるクロムを無視しマルギッテは冷めた視線で、

 

「いえ、中将殿が近々日本に来日なさるのでその時、護衛をバレッティアに一任するという指令を受けました」

 

「あん?お前じゃなくて俺に?」

 

「ええ」

 

「単独でか?」

 

「そうです」

 

マルギッテの言葉にクロムは眉を寄せる。

こういう護衛任務の場合、白兵戦と防御力に優れたマルギッテとハウンドチームを主にして自分とホークチームはサポートに徹するのだが・・・。

 

「中将はなんて?」

 

「特に何も・・・」

 

応えるマルギッテも表情の上では何もない様に装っているが、瞳の奥では疑念の色が見える。

 

「ま、中将の考えることだ、何かあんだろ?お前はお嬢の護衛をしっかりやれよ?」

 

「分かっています。この私が守りにつくのです、護衛は完璧だと思いなさい」

 

「頼もしいこって」

 

そう言いながらクツクツと笑うクロムの後にマルギッテはバカにされたと思い顔をしかめるがすぐに諦めてため息を吐いた。

そして、二人は教室に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、クロム。待たせてすまないね」

 

夜、クロムは何時もの様に軍服を着て待ち合わせの場所で待機していると、車からフランクがやって来た。

 

「いやいや、中将。別にそこまで待ってないっすよ」

 

そうかね?と尋ねてくるフランクにクロムはそうですと答えた。

 

「それより、どうしたんですかい今日は?護衛をマルギッテじゃなくて俺にするなんて・・・。アイツが不安がってましたよ?」

 

「何、何時も苦労をかけている君に私からの個人的な労いだよ。ついでに近況報告を直接聞きたかったのでね」

 

「なるほど、そいつは嬉しいっすね」

 

「ああ。特に君はここ最近、何かと心労がたまっているのだろう?」

 

「・・・・そうっすね。ここ最近毎日の様に追っかけまわされていますよ」

 

そう言って疲れた様に肩をすくめるクロムにフランクはハッハッハッと豪快に笑いながら肩をたたく。

 

「流石の鷹の目といえど武神には手を焼くか!」

 

「そう思うんなら今日は付き合ってくださいよ。可愛い娘がいるいい店知ってんすから」

 

「ウチの家庭が崩壊する様な所に連れて行く気か!?」

 

珍しいフランクのツッコミにクロムは冗談っすよと笑いながら言った。

 

「っんじゃあ、いい雰囲気のバーがあるんでそこ行きますか」

 

「うむ。明日の任務に支障をきたさない程度なら大丈夫だろう」

 

「さっすが中将、話が分かるっすね!これがマルギッテならこうは行かないっすよ・・・」

 

「ハッハッハ!彼女はもう少し緩急をつければいいのだがな・・・」

 

そう言って笑いあうクロム達は夜の繁華街へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではまず、クリスの身の回りの男達に付いて報告してもらおう」

 

二人はバーに着くとカウンターではなくテーブルに座り、酒を注文するとフランクは厳しい眼差しで訪ねてきた。

 

「あいあい」

 

やる気のない返事をしながらクロムは懐から数枚の写真と手帳を取り出した。

 

「えー、まず島津岳人と師岡卓也の二人から・・・」

 

そういってフランクの前に差し出したのが何時の間に取ったのか私服姿のガクトとモロの姿が写っていた。

 

「この二人は問題なしですね。島津はお嬢が異性として見てないし、島津は確かに下心があるようですが、軍を相手にするような度胸は無し。師岡に至っても同様でお嬢は異性として見ておらず、完全に友達感覚ですね」

 

そう言いながらクロムは新たに二枚の写真を取り出す。

 

「次に風間翔一と源忠勝の二人ですが・・・」

 

「うむ。この二人は学園でも女子生徒にかなり人気というではないか・・・。我が愛しのクリスが何時恋してしまうか・・・」

 

「あー残念ながらその心配は無用っすよ」

 

「・・・・何故かね?」

 

下手なことを言ったら分かっているだろうな?とフランクの目が語っている。

 

 

「まず、源の方ですが確かに料理の腕は見事ですし、かーちゃん属性ですがお嬢とは学園では接点はあまりなく、寮では源はよく夜にバイトがあるのでほとんど寮にいないことが多いです。そんで、風間に付いてですが、お嬢はリーダーとしては認めているみたいですね。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「風間自身がガキ過ぎるし、何より自由人過ぎてよく学校をサバるんで真面目なお嬢としてはそういう部分は相いれないでしょう」

 

「むう・・・・だがしかし、万が一ということが・・・」

 

「経験上、まずあり得ないっすね」

 

未だに唸っているフランクにクロムはバッサリと切り捨てた。

そう言ってクロムが最後に取りだしたのは大和の写真だ。

 

「んで、最後に・・・・直江大和」

 

「ふむ。彼か・・・中々礼儀正しい男だったな」

 

「まあそうっすね。でも、直江の親はかなり凄いっすよ?」

 

「なに?どういうことかね?」

 

クロムの意味深な言葉にフランクは眉を顰める。

 

「いま欧州で頭角を現している実業家、その男の息子ですよ。彼は」

 

「なんと、あの男の息子だと言うのか・・・!?」

 

「まあ、当の本人は父親がそう言う事をしているってのは知らないみたいですが色々な所で人脈を築いているみたいっすね」

 

「フム・・・・」

 

フランクは顎に手を当てて思案顔になる。

 

「なら最も警戒すべきは・・・」

 

「直江大和。ですかね。お嬢の好みとは違いますけど、最初は反発し合っていましたけど段々と認めているみたいですし、先ほど上げた男連中の中では一番確率が高いです」

 

「なんという事だ・・・」

 

フランクはショックを隠せなかった。何せ一番信頼できそうな人物が実は一番の危険人物(娘限定)だったとは思いもよらなかっただろう。

 

「まあ、でも穏便な手段で何とかなるかもしれないっすよ?」

 

「っ!?なんだと、どういう事だね?」

 

クロムの鶴の一声にフランクは驚愕しながらクロムに尋ねる。

 

「まぁ、簡単に言えばお嬢が直江大和に恋する前に他の女とくっつければいいンすよ」

 

そう言いながらクロムは新たに四枚の写真を取り出す。

 

「なに?」

 

「例えば、この子。椎名京」

 

そう言いながら京の写真を前に出す。

 

「コイツは直江にベタ惚れ中でしてねくっつけるんだったら、最適じゃないですか?」

 

「むう。だがしかし、いくら可愛いクリスのためとはいえ他人の恋路を利用するのは、な」

 

「ま、そう言うのは冗談すよ。となると、後はなる様になるしかないっすね~」

 

そそくさと写真をしまい出されて酒に口につける。

 

「っというか、今日の来日はマジでこれだけなんすか?だったら、これでもう帰らせてもらいたいンすが・・・」

 

「ん?ああ、すまない。流石にこれだけの為に来るほど私は親バカではないさ」

 

「・・・そうっすね~」

 

若干胡散臭そうな目で睨むクロムにフランクは気にせず酒に口をつけ、

 

「あの事件からもう直ぐ十五年だね」

 

ピクッ・・・・

 

あの事件という単語を聞いた瞬間、クロムの方がわずかに跳ねた。そして、その場の雰囲気が一気に重くなった。

 

「・・・そうっすね・・・」

 

先ほどまでとは打って変ってクロムはチビチビと酒に口をつける。

 

「あの事件は私の人生の中で唯一の罪だ」

 

「・・・・」

 

「あの時、私が――――」

 

「それ以上は無しっすよ。中将」

 

一人独白を続けようとするフランクをクロムは何の感情の伴わない声で遮った。

 

「ッ済まない。無神経すぎた」

 

「いえ、良いンすよ」

 

そう言いながらクロムはグラスに入った酒を一気にあおり、席を立った。

 

「済みませんが、今日の所はこれで帰らせてもらいますね?後の事はウチの部下に任せるんで・・・・」

 

そう言うとクロムは携帯を操作しながら会計を済ませる。

 

「まだ、探しているのかね?」

 

出口に向かおうとする足がフランクの一言でピタッと止まった。

 

「何も止めろと言う訳でない。ただ、若い君がそれに囚われてばかりでは――――」

 

「生憎と、俺はこれ以外の目的は無いンすよ」

 

そう言うと、今度こそクロムは店を後にした。

 

「・・・・フゥ」

 

クロムが去っていった後、フランクは肩の力を抜く様に息を吐いた。

 

「少し焦りすぎたか・・・」

 

グラスを傾けながらフランクは一人独白していく。

 

「やはり私ではなく、彼女なら彼を止めてくれるといいのだが・・・」

 

その呟きに応える者は今ここにいない・・・。

 

 

 

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