『ゼロの聖域』   作:てんま10

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10話「ゼロ計画の発動」

 

1.神としての目覚め

 

 光が満ちていた。

 

 ウェディングは、神殿の奥深くにある神域の中心に立っていた。

 ゼニスの力を宿し、処刑人ではなく“神”へと至った彼女。

 

 (私は……変わったのか?)

 

 自分の中に宿る力は、かつての比ではなかった。

 圧倒的な力、研ぎ澄まされた意識、迷いのない思考——。

 

 もう人間ではない。

 

 だが、それでも胸の奥に違和感が残っている。

 

 それが何なのか、ウェディングはまだ分からなかった。

 

 そのとき、ゼニスの執行官たちが静かに告げる。

 

 「ゼロ計画の発動まで、あとわずか」

 

 「お前は、その執行者として世界を見届けよ」

 

 ウェディングは無言で頷いた。

 

 これが、彼女の選んだ道。

 

2.無情の頂シャングリラ

 

 神殿の奥深く、巨大な扉が開かれる。

 

 その先にあったのは、無情の頂シャングリラ。

 ゼロ計画の中枢にして、この世界の終焉を司る場所。

 

 ウェディングは、静かにその中心へと進む。

 

 シャングリラの核は、静かに脈動していた。

 白い光がゆっくりと渦を巻き、まるで生き物のように脈打っている。

 

 「ゼロ計画の準備は整った」

 

 執行官の声が響く。

 

 「これより、世界を“ゼロ”へと還元する」

 

 ウェディングは、ただ静かに頷いた。

 

 そして——

 

 シャングリラの核が目覚めた。

 

3.ゼロへの還元

 

 次の瞬間——

 

 光が爆ぜた。

 

 眩い閃光が天へと昇り、世界全体が震える。

 

 地面が軋み、空が歪み、都市が崩れ始める。

 

 ゼロ計画が発動したのだ。

 

 ウェディングは、ただそれを見つめていた。

 

 (これで……すべてが終わる)

 

 都市が崩壊し、大地が砕け、海が干上がる。

 人々の存在は光となり、ゆっくりと霧散していく。

 

 誰も叫ばない。

 

 何も感じることなく、ただ淡々と世界は終わっていく。

 

 それこそが、ゼロ計画の理想形だった。

 

 だが——

 

 なぜか、胸の奥に微かな違和感が広がっていく。

 

4.最後の異端者

 

 そのとき——

 

 「ウェディング!!!」

 

 轟音の中、叫び声が響いた。

 

 彼女は振り返る。

 

 そこに立っていたのは——あの異端者の男だった。

 

 ゼロ計画が発動するこの場に、彼はどうやって入り込んだのか?

 

 すでに世界の大半は消滅しているというのに、彼だけがまだ残っている。

 

 彼は血を流しながらも、必死の形相でウェディングを見つめていた。

 

 「お前はまだ……人間だろう!?」

 

 彼の声が、光の爆発の中に響く。

 

 ウェディングは、その言葉に微かに瞳を揺らした。

 

 「……私は、ゼニスだ」

 

 そう答える。

 

 しかし、男は首を振った。

 

 「違う! お前はまだ迷っている!」

 

 ウェディングの指がわずかに震えた。

 

 (私は……迷っている?)

 

 ゼニスとなった今、迷いなどあるはずがない。

 だが、本当にそうなのか?

 

 男の足元に、光が満ちていく。

 

 ゼロ計画は止まらない。

 このままでは、彼もまた消える。

 

5.消えゆく命

 

 男はそれを理解していた。

 

 それでも、彼は最後の力を振り絞って叫ぶ。

 

 「ウェディング……お前は、本当に、これが“正しい世界”だと信じられるのか!?」

 

 「争いも、苦しみもない……だが、そこには何もない!」

 

 「それが、お前の望んだ秩序なのか!?」

 

 ウェディングは答えなかった。

 

 それが、答えだった。

 

 男は苦しげに笑う。

 

 「……お前も分かってるんだろ?」

 

 次の瞬間、彼の身体が光に包まれた。

 

 彼は最後に何かを言おうとした。

 

 だが——

 

 その言葉が届く前に、彼の存在は消えた。

 

 ウェディングは、その光が散っていくのを、ただ見つめていた。

 

6.残された者

 

 世界が静まり返った。

 

 光が収束し、大地が消える。

 都市も、海も、空も、何もかもが消えていく。

 

 そして、その中心に——

 

 ウェディングだけが、残されていた。

 

(なぜ……私は……)

 

 ゼロ計画は完遂した。

 世界は完全なる静寂へと至った。

 

 だが、ゼニスとなった彼女は、この世界の理そのもの。

 

 そのため、彼女だけが“ゼロ”の影響を受けずに生き残ったのだ。

 

 風は吹かない。

 音もない。

 ただ、無限に広がる“無”だけがある。

 

(これが……ゼロの果て……)

 

 ウェディングは、静かに盾を地面に置いた。

 

 ——もはや、守るべきものはない。

 

 争いもなく、痛みもない。

 

 だが、それと同時に——

 

 何の意味もない世界が、そこにはあった。

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