『ゼロの聖域』   作:てんま10

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「揺らぐ秩序」

1.神殿の光

 

 ウェディングは、静かに白亜の神殿の扉を押し開いた。

 

 ゼニスの戒律を司るこの場所は、完璧な秩序の象徴だった。

 

 天井は高く、光を放つクリスタルが壁に埋め込まれている。

 柱は均等に並び、一切の歪みがない。

 

 この世界のすべては、こうあるべきなのだ。

 

 ウェディングはそれを疑ったことがなかった。

 異端者を粛清することこそが、世界を守る方法であると。

 

 だが、男の最後の言葉が、微かに心の奥を揺らしていた。

 

 「どれだけ粛清すれば、世界は本当に平和になる?」

 

 彼女は一歩ずつ、神殿の奥へと歩を進める。

 

2.ゼロ計画の全貌

 

「ウェディング、待っていたぞ」

 

 大理石の床に立つと、前方から低く響く声がした。

 

 玉座のような座席に座るのは、ゼニスの執行官たち。

 

 彼らは世界の秩序を管理する者たちであり、ウェディングもまた、その命に従う存在である。

 

「本日、お前に知らせることがある」

 

 ウェディングは静かに頷いた。

 

「ゼロ計画……その全貌について、今こそ伝えよう」

 

 ゼロ計画。

 

 その名を聞くのは、初めてではなかった。

 だが、これほど厳粛な場で正式に伝えられるのは初めてだった。

 

「異端者の増加を、お前も感じているだろう」

 

「……はい」

 

「粛清は行われている。だが、それでは根本的な解決にはならない」

 

「では、どうするのですか?」

 

「世界を”ゼロ”に還すのだ。」

 

 執行官の言葉は、淡々としていた。

 

 しかし、その意味するところは計り知れなかった。

 

「争いは、感情から生まれる」

 

「ならば、感情を消し去れば、争いはなくなる」

 

「ゼロ計画とは、人の持つ”余計な感情”をすべて排除し、完全なる秩序を実現する計画だ」

 

3.ウェディングの疑念

 

 その言葉を聞いたとき、ウェディングは初めて、わずかに違和感を覚えた。

 

「……感情を排除する、というのは……?」

 

 彼女の声は冷静だったが、どこか確かめるような響きがあった。

 

「怒り、憎しみ、嫉妬、欲望……それらは争いの火種となる」

 

「それらを”ゼロ”に還すことで、争いそのものをなくすのだ」

 

 ウェディングは、ふと考えた。

 

 感情のない世界とは、どのようなものなのか?

 

 確かに、彼女自身は無駄な感情を抱かないようにしている。

 それが処刑人としての正しい在り方だからだ。

 

 だが、それでも。

 

 異端者の最後の言葉が、頭の片隅に残っていた。

 

「どれだけ粛清すれば、世界は本当に平和になる?」

 

 ゼロ計画は、ある意味でその問いへの”答え”なのかもしれない。

 

 すべてをゼロに還せば、争いは消える。

 

 ならば、それが正しいのではないか?

 

「……私に求められる役割は?」

 

 ウェディングは淡々と尋ねた。

 

「お前は、この計画の最前線に立つ者となる」

 

「すべての秩序を乱す者を排除し、計画の実行を促進するのだ」

 

 それはつまり、今までと変わらぬ”粛清”の延長なのか。

 

 だが、決定的に違うのは——

 

 ゼロ計画の粛清対象には、異端者だけでなく、秩序に疑念を抱く者すら含まれる。

 

4.ウェディングの決断

 

「……承知しました」

 

 彼女の答えは、変わらなかった。

 

 粛清の方法が変わるだけ。

 それが、今までと何が違うというのか。

 

 彼女の使命は、ただ世界のために剣を振るうこと。

 

 それがどんな形であれ、変わらない。

 

 そう——この時点では、彼女はまだ、本当の”ゼロ”の意味を知らなかった。

 

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