1.静寂の都市
白い石畳を踏みしめる音だけが響いている。
ウェディングは、都市の広場に立っていた。
視界に映るのは、規則正しく並んだ建物群。
白い壁、均等に配置された窓、歪みのない石畳。
どこを見ても、違和感はない。
なのに——
何かが、おかしい。
風が吹く。
しかし、都市は静寂に包まれていた。
人々がいるはずなのに、そこには”音”がなかった。
2.視察の命令
ウェディングは、この都市に来た理由を思い出していた。
「ウェディング、お前には”ゼロ区域”の視察を命ずる」
神殿の執行官は、そう告げた。
ゼロ区域——それは、ゼロ計画が試験的に適用された都市のこと。
「そこでは、すでに感情制御が進んでいる。
お前の目で、その成果を確かめてこい」
「承知しました」
ウェディングは淡々と答えた。
処刑人として秩序を守ることに変わりはない。
だが、この都市は——“成果”と呼ぶには、あまりにも静かすぎる。
3.声のない都市
市場には果物が並べられている。
道を行き交う人々の姿もある。
だが、誰一人として言葉を発していない。
果物を指し、買い手は黙って金を置く。
売り手は無言でそれを受け取り、ただ頷くだけ。
取引は、成立している。
だが、それは”やりとり”とは呼べない。
ウェディングは、しばらくその光景を見ていた。
秩序とはこういうものだったか?
それとも——これは”異常”なのか?
4.広場の中心
視界の隅で、何かが動いた。
広場の中央、白い石畳の上。
数人の人間が跪いていた。
彼らは、この都市の住人とは明らかに異なっていた。
衣服が乱れ、表情には動揺が浮かんでいる。
身体がわずかに震え、息が乱れていた。
何が違うのか——それをウェディングは理解した。
彼らには、感情があった。
5.処刑の宣告
「秩序に背く者は、処刑される」
静寂を切り裂くように、冷えた声が響いた。
執行官の一人が前に進み出る。
跪く者たちは、その言葉に怯えたように身をすくめた。
「待ってくれ……」
一人の男が声をあげる。
ウェディングのすぐ近くから、その言葉が聞こえた。
「俺たちは、ただ——」
男はそこで言葉を詰まらせた。
声が震えている。
怯えていた。
都市の住人たちは、そのやりとりを見ていない。
彼らはただ、いつもと同じように歩き、買い物をし、暮らしている。
まるで、ここで行われることに何の関心もないかのように——。
6.処刑の光
「処刑は、お前が執行しろ」
執行官の声が響いた。
ウェディングは、ゆっくりと歩を進めた。
男の手は震えている。
視線が、彷徨っている。
「頼む……俺はただ……」
ウェディングは、両手の盾を構えた。
処刑の瞬間——盾が輝き、光がすべてを覆う。
——なのに。
男の目が、あの異端者の最期の言葉と重なった。
「どれだけ粛清すれば、世界は本当に平和になる?」
ウェディングは、一瞬だけ動きを止めた。
7.揺らぐ秩序
だが、その迷いは一瞬だった。
光が収束し、男の身体は粒子となって消えていく。
都市の静寂は、何も変わらないままだった。
「処刑、完了しました」
ウェディングは、淡々と告げた。
「よくやった」
執行官は満足げに頷いた。
「この街は、もう完全な秩序の中にある。
お前も、その重要性がわかっただろう」
ウェディングは、答えなかった。
彼女はただ、都市の”静寂”を感じていた。
秩序とは、こういうものなのか?
それとも——
何かが違うのか?