『ゼロの聖域』   作:てんま10

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異端の足音

都市の景色は変わらない。

 

 並びの揃った白い建物。

 感情のないまま淡々と歩く人々。

 

 広場での処刑を終えた後も、街は変わらなかった。

 

 それでも、ウェディングの中にはかすかな違和感が残っていた。

 

「今日の視察はここまでだ」

 

 隣を歩いていた執行官が足を止める。

 

 「お前の役目は終わった。神殿へ戻れ」

 

 「……承知しました」

 

 視察は終わり、帰還命令が出された。

 

 だが、ウェディングはその場を動かなかった。

 

 執行官は彼女を一瞥し、何も言わずに歩き去る。

 

 淡々とした足取り。

 彼にとって、この都市の姿は何も問題のないものなのだろう。

 

 都市は静かだった。

 

 それは、この世界にとって正しいことなのだろう。

 

 争いがない。

 誰も感情を乱さず、ただ”生きている”。

 

 ウェディングはもう一度、都市の様子を見た。

 

 人々は変わらない。

 

 何も変わらない。

 

 しかし、本当にこれは正しいのか?

 

 そう考えてしまうこと自体が、間違いなのだろうか。

 

 足音を響かせながら、ウェディングは歩き続けた。

 

 神殿に戻るべきだと理解している。

 

 それでも、なぜか足は前へ進んでいた。

 

 住人たちの間をすり抜ける。

 

 市場では、変わらず言葉のない取引が続いている。

 

 まるで、先ほどの処刑など存在しなかったかのように。

 

 果物を受け取り、金を置く。

 売り手は無言で頷き、再び次の客を迎える。

 

 同じ動作が繰り返される。

 

 淡々と、正確に。

 

 誰一人として、それに疑問を抱く様子はなかった。

 

 ふと、視線を感じた。

 

 背筋にかすかな違和感が走る。

 

 何かが、自分を見ている。

 

 足を止め、周囲を見渡した。

 

 通りの先、建物の影。

 

 そこに、一人の男が立っていた。

 

 黒い外套を羽織った小柄な人物。

 

 この都市の住人たちとは異なる雰囲気を持っている。

 

 何より――

 

 その瞳に、確かに感情があった。

 

 他の者たちと違う。

 

 果物を手に取る住人。

 金を置き、何も言わずに歩き去る者たち。

 

 誰も彼に目を向けていない。

 

 しかし、彼は確かにウェディングを見ていた。

 

 ゆっくりと、男が歩み寄る。

 

 足音は軽い。

 しかし、その歩みには迷いがなかった。

 

 ウェディングは無意識に盾を構えた。

 

 何者なのか――?

 

 その問いを発する前に、男が口を開いた。

 

 「お前……本当に、それでいいのか?」

 

 都市は相変わらず静かだった。

 

 人々は淡々と日常を繰り返す。

 

 だが、ウェディングの中で何かが揺れた。

 

 何の話だ?

 

 言葉にする前に、男が続けた。

 

 「お前は処刑人だろう?」

 

 「ならば、わかるはずだ」

 

 「この世界の”静寂”の異様さが」

 

 風が吹いた。

 

 広場の噴水の水面が、わずかに揺れる。

 

 だが、それ以外のものは何も変わらない。

 

 人々は歩き、物を売り買いし、言葉を交わさず、何事もなかったかのように動いている。

 

 男はウェディングの目をじっと見つめていた。

 

 まるで、彼女の中の”迷い”を見透かしているかのように。

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