都市の景色は変わらない。
並びの揃った白い建物。
感情のないまま淡々と歩く人々。
広場での処刑を終えた後も、街は変わらなかった。
それでも、ウェディングの中にはかすかな違和感が残っていた。
「今日の視察はここまでだ」
隣を歩いていた執行官が足を止める。
「お前の役目は終わった。神殿へ戻れ」
「……承知しました」
視察は終わり、帰還命令が出された。
だが、ウェディングはその場を動かなかった。
執行官は彼女を一瞥し、何も言わずに歩き去る。
淡々とした足取り。
彼にとって、この都市の姿は何も問題のないものなのだろう。
都市は静かだった。
それは、この世界にとって正しいことなのだろう。
争いがない。
誰も感情を乱さず、ただ”生きている”。
ウェディングはもう一度、都市の様子を見た。
人々は変わらない。
何も変わらない。
しかし、本当にこれは正しいのか?
そう考えてしまうこと自体が、間違いなのだろうか。
足音を響かせながら、ウェディングは歩き続けた。
神殿に戻るべきだと理解している。
それでも、なぜか足は前へ進んでいた。
住人たちの間をすり抜ける。
市場では、変わらず言葉のない取引が続いている。
まるで、先ほどの処刑など存在しなかったかのように。
果物を受け取り、金を置く。
売り手は無言で頷き、再び次の客を迎える。
同じ動作が繰り返される。
淡々と、正確に。
誰一人として、それに疑問を抱く様子はなかった。
ふと、視線を感じた。
背筋にかすかな違和感が走る。
何かが、自分を見ている。
足を止め、周囲を見渡した。
通りの先、建物の影。
そこに、一人の男が立っていた。
黒い外套を羽織った小柄な人物。
この都市の住人たちとは異なる雰囲気を持っている。
何より――
その瞳に、確かに感情があった。
他の者たちと違う。
果物を手に取る住人。
金を置き、何も言わずに歩き去る者たち。
誰も彼に目を向けていない。
しかし、彼は確かにウェディングを見ていた。
ゆっくりと、男が歩み寄る。
足音は軽い。
しかし、その歩みには迷いがなかった。
ウェディングは無意識に盾を構えた。
何者なのか――?
その問いを発する前に、男が口を開いた。
「お前……本当に、それでいいのか?」
都市は相変わらず静かだった。
人々は淡々と日常を繰り返す。
だが、ウェディングの中で何かが揺れた。
何の話だ?
言葉にする前に、男が続けた。
「お前は処刑人だろう?」
「ならば、わかるはずだ」
「この世界の”静寂”の異様さが」
風が吹いた。
広場の噴水の水面が、わずかに揺れる。
だが、それ以外のものは何も変わらない。
人々は歩き、物を売り買いし、言葉を交わさず、何事もなかったかのように動いている。
男はウェディングの目をじっと見つめていた。
まるで、彼女の中の”迷い”を見透かしているかのように。