沈黙が降りた。
異端者の言葉は消え、都市は再び、ただの機械のように動き続ける。
住人たちは淡々と歩き、果物を手に取り、金を置く。
売り手はそれを受け取り、無言で頷く。
彼らは変わらない。
それが、正しい世界のはずだった。
しかし、今までと違って見えるのはなぜか?
「……あなたの目的は何です?」
ウェディングは静かに問いかけた。
男は肩をすくめ、薄く微笑む。
「処刑人殿に問いを投げかけること」
「無意味です」
ウェディングは冷徹に言い放つ。
「私は処刑人。あなたのような異端者を生かしておく理由はありません」
男は微笑を消さないまま、ゆっくりと首を傾げる。
「なるほど。それなら、なぜ処刑人殿は”今”処刑を執行しない?」
ウェディングの指がわずかに動く。
なぜ?
異端者を排除するのは、処刑人として当然の行為――
それなのに、なぜ言葉を交わしている?
盾を構えれば、すぐにでも終わるはずだ。
「あなたの盾は、何を守るのか」
男は、広場の静寂を見渡しながら言う。
「この都市には、処刑人殿の”守るべきもの”が残っているのですか?」
ウェディングは視線を落とした。
盾――それは、秩序を守るためのもの。
だが、処刑の場では、“断罪の武器”として振るわれていた。
「秩序は完全です」
ウェディングは淡々とした声で答えた。
「この都市に必要のないものは排除される。それが、ゼロ計画の理です」
男は口元に手を当て、考えるように視線を遠くへと向けた。
「秩序が完全……ね」
彼の声には、わずかに笑みが含まれていた。
「だが、処刑人殿は、どうやらそう思ってはいないように見えます」
ウェディングはその言葉に、盾を握る手に力を込める。
「言いがかりです」
「そうでしょうか?」
男はゆっくりと歩みを進めた。
ウェディングは一歩も動かずに彼を見据える。
「あなたは、今ここで私を処刑できるはずだ」
男は立ち止まり、じっと彼女を見つめる。
「では、なぜためらっている?」
ウェディングの心に、僅かに波紋が広がる。
盾を構えれば、この異端者は消える。
迷いなく、それを行ってきたはずだ。
なのに、なぜ――
「私は――」
ウェディングは言葉を探した。
しかし、その答えはすぐには見つからなかった。
男は静かに、彼女の目を見据える。
まるで、彼女の中の”迷い”を確かめるかのように。
都市の静寂の中で、二人の間に冷たい風が吹いた。
ウェディングは盾をわずかに下げる。
「処刑人殿が迷う姿など、なかなか見られるものではないな」
男は静かに言った。
「あなたの話を聞くつもりはありません」
ウェディングは再び盾を構え、目の前の存在を冷徹に見据えた。
「今ここで、あなたを処刑する」