『ゼロの聖域』   作:てんま10

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「揺らぐ盾」

 沈黙が降りた。

 

 異端者の言葉は消え、都市は再び、ただの機械のように動き続ける。

 

 住人たちは淡々と歩き、果物を手に取り、金を置く。

 売り手はそれを受け取り、無言で頷く。

 

 彼らは変わらない。

 

 それが、正しい世界のはずだった。

 

 しかし、今までと違って見えるのはなぜか?

 

 「……あなたの目的は何です?」

 

 ウェディングは静かに問いかけた。

 

 男は肩をすくめ、薄く微笑む。

 

 「処刑人殿に問いを投げかけること」

 

 「無意味です」

 

 ウェディングは冷徹に言い放つ。

 

 「私は処刑人。あなたのような異端者を生かしておく理由はありません」

 

 男は微笑を消さないまま、ゆっくりと首を傾げる。

 

 「なるほど。それなら、なぜ処刑人殿は”今”処刑を執行しない?」

 

 ウェディングの指がわずかに動く。

 

 なぜ?

 

 異端者を排除するのは、処刑人として当然の行為――

 

 それなのに、なぜ言葉を交わしている?

 

 盾を構えれば、すぐにでも終わるはずだ。

 

 「あなたの盾は、何を守るのか」

 

 男は、広場の静寂を見渡しながら言う。

 

 「この都市には、処刑人殿の”守るべきもの”が残っているのですか?」

 

 ウェディングは視線を落とした。

 

 盾――それは、秩序を守るためのもの。

 

 だが、処刑の場では、“断罪の武器”として振るわれていた。

 

 「秩序は完全です」

 

 ウェディングは淡々とした声で答えた。

 

 「この都市に必要のないものは排除される。それが、ゼロ計画の理です」

 

 男は口元に手を当て、考えるように視線を遠くへと向けた。

 

 「秩序が完全……ね」

 

 彼の声には、わずかに笑みが含まれていた。

 

 「だが、処刑人殿は、どうやらそう思ってはいないように見えます」

 

 ウェディングはその言葉に、盾を握る手に力を込める。

 

 「言いがかりです」

 

 「そうでしょうか?」

 

 男はゆっくりと歩みを進めた。

 

 ウェディングは一歩も動かずに彼を見据える。

 

 「あなたは、今ここで私を処刑できるはずだ」

 

 男は立ち止まり、じっと彼女を見つめる。

 

 「では、なぜためらっている?」

 

 ウェディングの心に、僅かに波紋が広がる。

 

 盾を構えれば、この異端者は消える。

 

 迷いなく、それを行ってきたはずだ。

 

 なのに、なぜ――

 

 「私は――」

 

 ウェディングは言葉を探した。

 

 しかし、その答えはすぐには見つからなかった。

 

 男は静かに、彼女の目を見据える。

 

 まるで、彼女の中の”迷い”を確かめるかのように。

 

 都市の静寂の中で、二人の間に冷たい風が吹いた。

 

 ウェディングは盾をわずかに下げる。

 

 「処刑人殿が迷う姿など、なかなか見られるものではないな」

 

 男は静かに言った。

 

 「あなたの話を聞くつもりはありません」

 

 ウェディングは再び盾を構え、目の前の存在を冷徹に見据えた。

 

 「今ここで、あなたを処刑する」

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