名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様は知っておきたい

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 ──邪神様は知っておきたい

 

 

 異端の礼拝堂での、狂乱の一夜が終わった翌日。

 

 今日も学園に通うぞ。

 

 いつものように可愛い制服と手袋、タイツを身に着けて、メイドさんと馬車に乗り、アーカム学園を目指す。

 

「おはようございます、フリーダ」

 

「おはよう、イリス!」

 

 教室に入るとフリーダに挨拶。

 

「おはよう、イリス嬢!」

 

「お、おはようございます、クラウス様」

 

 と、ここでクラウスまでやってきた。フェリクスもセットで。

 

「……おはよう」

 

「おはようございます……」

 

 私とフェリクスの間だけ、通夜でも行われているかのような暗さだ。

 

「今日から早速、仕事があるから放課後は生徒会室に来てくれよ」

 

「分かりました」

 

 はあ。生徒会にいるとうっかり間違えば主人公であるエミリアと接近遭遇してしまうのだが、もうこうなってしまったものはどうしようもないです。覚悟を決めましょう。

 

「諸君、おはようございます」

 

 それから老紳士エーミール先生がやってきて、ショートホームルームにて私たちに連絡事項を伝えた。

 

 それによれば美術と音楽、そして哲学の先生は休職したため、代わりの先生がやってくるということであった。休職の理由については知らされなかった。

 

 そして、いよいよ学園の授業が始まりました。

 

 私が必死に覚えた教科書と推薦本の知識が火を噴きますよ!

 

 と、思ったのだが……。

 

「勉強というのはただ記憶するだけじゃなくて、その記憶したものを応用しなければいけないのですね……」

 

「そうだね」

 

 私ががっくりとうなだれているのにフリーダがそう慰めるように言う。

 

 私の敗因は述べた通りです。応用が、応用ができない。

 

 知識を覚えるのは前世と違って凄く簡単だ。何でも一回読めば、見れば、聞けば覚えてしまう。絶対に忘れないくらい強く記憶される。

 

 だが、文学の感想にせよ、数学の図形問題にせよ、覚えた知識を適切に応用することを覚えるのを、私はすっかり忘れてしまっていた。

 

「でも、その応用方法もイリスは一回教わったら、もうちゃんと覚えているから偉いよ。あたしは記憶するのはなかなか苦手だから」

 

「ええ。その点は何とかやれそうです」

 

 何でも覚えられるならば応用方法も覚えてしまえばいい。私は教わった応用についても記憶力が発揮されないわけではなかった。

 

 並外れた記憶力。

 

 これはイリスの邪神としての側面に由来しているのだろうか? 超越者としてのイリスを示しているのだろうか?

 

 私には知る由もない。

 

「イリス嬢」

 

 私がフリーダとそんな会話をしていると、やってきたのはフェリクス。げえ。

 

「どうなさいました、フェリクス様」

 

「休学中に行われた試験の問題と解答だ。渡しておく」

 

「これはどうもありがとうございます」

 

 おお。過去問は今の私にはありがたいものだ。

 

 何せ応用方法を自分で考えられない貧弱知性で取れる作戦は、問題ごと記憶して応用も覚えてしまうのが一番いいからである。

 

 私はありがたくフェリクスから過去問を受け取った。

 

「生徒会で勉強ができないのはクラウスだけで十分だからな」

 

「クラウス様も勉強が?」

 

「ああ。常にテスト前の一夜漬け頼りだ。そのせいでテストの成績こそ優秀なものの、日ごろの成績は散々だ。ほら、あれを見ろ」

 

 私が驚いてクラウスの方を見ると、彼はグーグー寝ていた。

 

「授業中からああだぞ」

 

「あはは……」

 

 フェリクスが苦い表情で居眠りしているクラウスを見るのに、私もともに苦笑するよりほかなかった。

 

「勉強はしっかりとやれ。1年の休学は勉強ができない理由にならない」

 

 フェリクスはそう言って去った。

 

「厳しいね、フェリクス様」

 

「仕方ないです。勉強ができない私が悪いので」

 

「それだけかな」

 

「と言いますと?」

 

 フリーダが言うのに私が首を傾げる。

 

「フェリクス様、イリスのことが気になるんじゃない?」

 

「???」

 

「イリスの顔、凄いクエスチョンマークが浮かんでる」

 

 私が生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えを突然説かれたような顔をしているのに、フリーダがにやにやと笑っていた。

 

「気になるというのは、その、警戒しているということでしょうか?」

 

「違う違う。好きだってことだよ」

 

「ええ?」

 

 どう見てもフェリクスは私のことが嫌いだと思うのですが。私も過去問には感謝するが、生徒会入りを押し付けたことは依然として恨んでいる。ぐぬぬ。

 

「だって、好きでもない人に生徒会に入ることを勧めたり、わざわざ過去問を持ってきてくれたりする? 口数こそ少ないけど、きっとフェリクス様はイリスのことが気になってるんだよ」

 

 フリーダはそう言ってにまっと笑った。

 

「そうかな、そうかも……」

 

 私は考えてみたが、よく分からなかった。

 

 ここも応用の問題です。これまでいろいろな恋愛を見てきて知ってるけど、その知識を自分に応用することができない。

 

 でも、フェリクスはやっぱり怖いとしか思えない

 

「それより聞きたいことがあるのですが」

 

「何かな?」

 

 私は懸念材料について知らなければならない。

 

「エミリアさんはどの殿方と恋をしていますか?」

 

 そう、エミリアのルートの問題だ。

 

 文芸部入りならフリーダの恋がピンチ。生徒会入りなら私の運命がピンチ。

 

 というわけで可能な限り早く、エミリアの動向をつかんでおきたい。彼女は私たちの運命を握っているに等しいわけなのだから。

 

「い、いきなり変なこと聞くんだね、イリス。あたしもそれは知らないかな」

 

「そうですか……」

 

「何で気になるのか理由を聞いてもいい?」

 

「エミリアさんとは友人になりたいので、彼女のことを知っておきたいな、と」

 

 私はそうでっち上げてフリーダの方を見た。

 

「分かった。じゃあ、本人に聞いてみよう。今日のお昼休みにでも」

 

 フリーダは私の話を疑わず、そうもちかけくれた。

 

 友人を騙しているみたいで心がとても痛む。しかし、こうしなければ私の運命も、フリーダの恋も、この先どうなるか分からないので、どうか私を許してほしい。

 

 それから授業があって、昼休みが訪れた。

 

「エミリアさん!」

 

 私とフリーダは早速エミリアに接触する。

 

「どうしました、フリーダさんにイリスさん?」

 

「少し聞きたいことがあるからお昼は一緒に食べない?」

 

「ええ。構いませんよ、むしろおふたりとお話できるなんて嬉しいです!」

 

 エミリアはそう快く唐突な私たちとの昼食に応じてくれた。

 

 さて、アーカム学園には大きな食堂がふたつある。ひとつは貴族や富裕層向けの学園ならではの高級感がある食堂で、出て来る食事はなかなかのものだが、テーブルマナーなどを教師に徹底されるので、ちょっと堅苦しい場所でもある。

 

 もうひとつの食堂は出て来る食事は安っぽいが、そこら辺が自由な場所で、好き勝手に談笑できるので友達づくりの場にもなっているものだ。

 

 当然、今回私たちが選ぶのは後者です。

 

 出てくる食事はサンドイッチとチーズ、スープ程度で、それをセルフサービスでお皿に乗せると私たちは席に着いた。

 

「それで、おふたりは私に何か用事だったのでしょうか?」

 

 エミリアがサンドイッチを手にそう尋ねてくる。

 

「あのね。答えにくかったら答えなくていいよ。エミリアさんは好きな人、いる?」

 

 流石は私のフリーダ。ゴングと同時に右ストレートです。

 

「え。それを知りたいんですか?」

 

「うん」

 

 フリーダが首を縦に振るのに私もこくこくと頷く。

 

「いないわけではないのですが……。笑ったりしないでくれますか?」

 

「もちろん」

 

 またフリーダが首を縦に振り、私も頷く。

 

「第二皇子のレオンハルト殿下が……その、好きです……」

 

 ああ! そのルートだったか!

 

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