名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様は見守りたい

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 ──邪神様は見守りたい

 

 

 第二皇子レオンハルト。

 

 エスタシア帝国の皇族であり、私たちの学友。

 

 前に述べたように時代は20世紀も開けて10年近くが過ぎている。近代化によってブルジョワ層の発言力が強まり、貴族が力を失っていったように、皇族も以前ほど政治的影響力があるわけではない。

 

 今の帝国の政治は議会が中心だ。

 

 そんな帝国にて第二皇子の地位がどういうものなのかと言えば、まあ、一応は愛される国の代表者というものだろうか。

 

 レオンハルトは顔が良く、弁舌が上手く、そして慈善事業などにも積極的に顔を出しているため、国民には広く好かれている。

 

 かつての皇子たちに存在した政治的権力は今やほとんどないが、財政状況は恵まれているし、今も皇族であることの恩恵はしっかり受けている人物だ。

 

 しかしながら、問題点も多々ある。

 

 顔が良くて、トークが上手く、その上にお金持ちの男子。恐らくはモテモテだろうそんな男子が結婚まで清らかな生活をしているか? という話だ。そう、レオンハルトは週刊誌というものが存在したら連日目玉を飾るだろう問題児なプレイボーイである。

 

 泣かせた女の子の数は数知れず。女の子に刺されかかったことも数知れず。その上、そのことに全く懲りていない。そんな男子だ。

 

 私もレオンハルトルートは最後までレオンハルトがあれやこれやと浮気しており、非常に腹が立ったのを覚えている。

 

「レオンハルト殿下かあ……」

 

 フリーダが何とも言えない顔をしているのも、彼女が事情を知っているためだろう。

 

「殿下には入学したときにも凄く優しくしてもらっていて、今も手紙のやり取りをしているんです。身分差があることは分かっていますけど、わ、笑わないでくださいね」

 

「笑いはしないんだけど……」

 

 フリーダは『君が恋している男は顔がいいだけの浮気性のクズだよ!』と言いたいけど言えないという様子だった。その気持ちは凄く察する。

 

「私、その恋を応援させていただきます」

 

「本当ですか、イリスさん?」

 

「はい。もちろんです」

 

 私がそういうのにエミリアさんはもちろんフリーダも驚いた表情でこっちを見た。

 

「私はあなたとお友達になりたいんです。だから、私にもあなたの恋を応援させてください。エミリアさんがそれだけ思っているのですから、きっとレオンハルト殿下も好意を理解してくださいますよ」

 

「ありがとうございます、イリスさん。私なんかが殿下を好きだっていうのは笑われてしまうかと思ったけど、話してよかったです!」

 

「ええ」

 

 レオンハルトはクズだけど、現状は私に好都合だ。

 

 生徒会ルートと文芸部ルートが潰れ、私もフリーダも安泰。

 

 しかしながら、レオンハルトをそのまま押し付けるのは気が引ける。私は別にエミリアには何の恨みもないし、あれは相当なクズですからね……。

 

 ここは私がどうにかしてみよう。試したいこともあるので。

 

「では、失礼しますね」

 

 昼食を終えたエミリアはるんるんと効果音が付きそうなほど嬉しそうに立ち去った。それを見届けてから、フリーダが私の方に寄ってくる。

 

「あのね、イリス。イリスは休学してたから知らないと思うけど、レオンハルト殿下は、その、女遊びが酷いというか……。あたしの友達のひとりも前にレオンハルト殿下と付き合ってたんだけど、ある日いきなり新しい恋人ができたからって振られたんだ。そう言うことをする人なんだよ、レオンハルト殿下」

 

「そうなのですか。酷い人ですね」

 

「そうなんだよ。だから、エミリアさんには諦めてもらおう?」

 

 フリーダの懸念は分かるし、納得する。しかし、こうしなければならないのです。

 

「では、殿下と()()()してみます」

 

 私はにこりと笑ってそう請け負った。

 

 それから午後の授業があり、レオンハルトを見る機会があった。

 

「──今週末は傷痍軍人の慰問があってね。帝国に尽くしてくれた軍人たちに敬意を示さなければならない。これは私がどうしてもと引き受けた公務なのだよ」

 

「まあ! 常に帝国臣民のことを考えているなんて素敵ですわ、殿下!」

 

 そう自慢げに女の子を何人も侍らせている男性がレオンハルトである。

 

 この男子の顔がいいのは確かです。プラチナブロンドの髪をお洒落に纏め、整った端正な顔立ちをしており、背も180センチ以上と高い。何も知らない女子が、このルックスに惹かれるのは分からなくもない。

 

 だが、既にこの時点で4名の女子ばかりを周囲に置き、その4名が視線と動作で牽制し合っているというのが、この男子を物語っている。そう、女の敵ってやつです。

 

 エミリアさんは輪に加わらず遠くから羨ましそうにレオンハルトを見ていた。

 

 それはルックスもよくて舌もよく回るなら、ハーレム作りたい気分は男性だった身として理解できなくもない。だが、私が嫌いなのは不誠実なことだ。

 

 新しいガールフレンドが出来たらあっさり前の女の子に何のフォローもせず捨てるなど言語道断。男としても、女としても許せません。人間として許せません。私は今絶賛人間じゃないですけど。

 

 というわけで、放課後になったら行動開始だ。

 

 午後の授業が終わり、放課後になったら早速レオンハルトに接触──。

 

「どこに行く、イリス嬢」

 

 うわ。フェリクスだ。

 

「今日から生徒会の仕事があるぞ。そして、お前の行こうとしている先は生徒会室の方角ではない。分かっているな?」

 

「は、はい。その、レオンハルト殿下に少しだけ用事がありまして」

 

「……レオンハルト殿下にか」

 

 凄く渋い顔をするフェリクス。何か大量の害虫が蠢いているのを見たような顔だ。

 

「やめておけ。不敬を恐れず率直に言うが、あれは顔がいいだけだ」

 

 存じております。

 

「お話をするだけです、フェリクス様。すぐに戻ってまいります」

 

「何の話をするんだ? 今度茶でも飲もうとでも? 遊ばれるだけだぞ」

 

「ご安心を。私はレオンハルト殿下に一切の魅力を感じておりません。ただ友人が殿下に惹かれておりまして、私も殿下の、その、交友関係を憂慮しているのです。ですので、その点についてお話をと」

 

「お前が友人のために?」

 

 信じられないという顔をするフェリクス。私はそんなに薄情に見えますか。

 

「……そうか。一応用心はした方がいい。殿下は女は皆が自分に靡くと思っている」

 

 そう言ってフェリクスは私の手に何かを握らせた。

 

「これは魔道具、ですね? いいのですか?」

 

「ああ。何かあれば使え。警報がなる」

 

「ありがとうございます」

 

「貸すだけだ。後でちゃんと返せよ」

 

「はい」

 

 微妙にケチですね。でも、この手の魔道具は本当にお高いはずだ。壊すかもしれないのに貸してくれるのは、私を信頼してくれているからなのだろうか……。

 

「何だ。何か言いたげだな」

 

 私がじいいっとフェリクスの方を見るのに、フェリクスが睨み返してくる。怖い。

 

「いえ。ちゃんとお返ししますのでご心配なく。それでは」

 

「ああ」

 

 そして、私はレオンハルトを探す。

 

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