名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様とピンチ再び

……………………

 

 ──邪神様とピンチ再び

 

 

 私たちは館長室を出て、図書館の外に集まった。

 

「あの魔導書の意味が事実ならば、あの神殿は腐肉の女王と呼ばれる異端の神を崇める場所だったのだろうな。しかし、東方の異国で、それも1500年も前に崇拝されていた邪神をどうしてこの学園の地下で……」

 

 クラウスは先ほどエーリッヒ館長から聞いたことを整理している。

 

「……その存在には距離や時間はさしたる問題ではないのかもしれない……」

 

「フェリクス。どうしたんだ? 顔色が悪いぞ……」

 

「いや。あの地下神殿で何かを聞いた気がするだけだ。人間にとって膨大な時間も、上位の存在にとっては瞬きをする程度の時間でしかないと」

 

「聞いた気がする? あそこにはネズミ以外は何もいなかったんだぞ」

 

「ああ。だから、聞いた気がすると言っている。聞いたとは言っていない」

 

 やばいです。フェリクスの記憶が戻りつつある。

 

「きっと私が言ったんですよ。そういう考えもできるかなって」

 

「そうだったか……?」

 

「そうです、そうです。他に誰から聞くっていうんですか? あそこには誰もいなかったんですよ?」

 

「それもそうだな……」

 

 フェリクスは『そうかな……そうかも……』という顔をしている。

 

「そ、それよりこれで一応魔導書については分かったのですが、次はどうしますか? これ以上調べられることはなさそうですが……?」

 

 私は話題を切り替えようとそう言いだす。

 

「確かにこれ以上調べられることはなさそうだ。ひとまずは解散としよう」

 

「引き続き、何か学園内の異変に気づいたらクラウスか私に報告してくれ」

 

 クラウスがそう言い、フェリクスがそう求めた。

 

「分かりました。何か分かれば必ず」

 

 私はそう言ってフェリクスたちと一度別れた。

 

 さて、冒険も楽しかったし、家に帰りますか。

 

 と、思っていたときである。突然、背後から私の手が掴まれた。ひやりとした死人みたいな手に掴まれて、私が思わずその手を振りほどいて背後を振り返る。

 

「ああ、ああ。私は今まさに偉大なるお方を前にしている。我々の想像もつかないほどの高次元の存在を前にしている。信仰は、崇拝は、献身は、探求は、今まさに報われたのです。ひひっひ、ふふ!」

 

 そういうのは若い女性の司書で、病気のようにこけた頬と目を隠してしまいそうなほどに伸びた前髪をしている不気味な女性であった。

 

「誰です……?」

 

「あなた様の崇拝者です。あなた様のもたらす知識を探求し、人間という名の無知な獣から、ただの肉の塊から、少しでも世界を、宇宙を、この世の裏側にあるものを知らんとするものです……」

 

「そ、そうですか。それは頑張ってください」

 

 カルトがやっぱり学園内にいた~! それも私に接触してきた~!

 

「それで……私に何か御用なのでしょうか……?」

 

「あなた様に捧げる贄を準備しております。どうか我々の捧げるものをお受け取りください。我々が捧げる血と肉の贄に、きっとあなた様も喜んでくださると、そう思っております。ひひひっひひひひ!」

 

「贄……? 生贄ですか?」

 

「あなた様はかつてそれを我々から受け取り、知恵を授けてくださりました。今回もまた同じように我々に知識を与えてください。我々のような下等で、愚鈍な生き物にも慈悲をおかけください……ふひひっ!」

 

 なんだろう。猛烈にいやな予感がする。

 

「その贄というものを教えてくれますか?」

 

「あなた様が気まぐれに目をかけた小娘。あなた様のご友人を名乗る無礼なもの。それを捕えております。間もなく、あなた様に捧げることができるようになるでしょう。我々はまずは生贄の臓腑を生きたまま取りだし、それから意識を有したまま脳を抉り、そうして空っぽになった体を蟲の群れへと放り投げるのです。ふひいひひひっっ!」

 

 うげえ。吐き気がしてきた。

 

 生きたまま臓物や脳を取り出すなんて、正気の沙汰じゃない。

 

「そういうのはいりません。お断りです。余計なことをしないで」

 

「もはや止めることは不可能です。全ては動き出しておりますから……」

 

 そう言って司書の女性は図書館の奥に消えていった。

 

「これは誰かに相談した方がいいのかな……」

 

 今度は自殺や自殺未遂じゃなくて殺人だよ~。今のは殺人予告だよ~。

 

 そう言えばクラウディアさんが何か余計なことをするって言ってたっけ。迷惑だなー。やめてくれないかなー。

 

 狂信者も狂信者で崇拝対象の私がいうことを全然聞いてくれないし、もう彼らにはうんざりですよー。

 

「お嬢様」

 

 ここで我が家のメイドさんが突然現れた。びっくり。

 

「ど、どうしました?」

 

「報告しておくべきことがあります。お嬢様のご学友のフリーダ様が行方不明です」

 

「え……!」

 

 メイドさんの報告に私は一瞬呆然としてしまった。

 

 フリーダが行方不明? どうして? 何かの事件に巻き込まれた?

 

 ……さっきの狂信者は何と言っていた……? 確か私の友人を贄に捧げるみたいなことを言っていなかったっけ……?

 

 不味い。とても不味いですよ。何ですぐに気づかなかったんでしょう。連中はフリーダを殺す気です!

 

「フリーダを探さないと……! 何か手掛かりは……!?」

 

 私は頭をフル回転させて考える。

 

 地下神殿は調べたし、今も教職員が見張りに立っているから、あそこで生贄を捧げる儀式を行うとは考えにくい。しかし、学園内で他にあの手の施設があっただろうか? カルトが儀式を行うような空間が……。

 

「学生寮!」

 

 そこで私は思い出した。学生寮にもカルトの痕跡があったことを。

 

「学生寮に急ごう……!」

 

 私はメイドさんとともに学生寮に向かう。

 

 本当は誰かに報告した方がいいんだろうけど、それで誰かを連れていくことになると、また地下神殿でフェリクスが陥ったような事態になりかねない。ここはメイドさんだけを連れていくのがいいでしょう。

 

 私とメイドさんは学生寮に向けて走る。

 

 学生寮は学園の敷地内にあり、図書館からは走れば30分もあれば到着する。学生寮は前にフリーダに案内してもらっていて、それで場所を知ったのだ。

 

 けど、30分で到着したとして、学生寮に隠された施設を見つけられるだろうか? もし、カルトがフリーダをさらった先が学生寮ではなかったら?

 

 いろいろと疑問と懸念は浮かび、私を悩ませるが他に方法はない。

 

「ちょっと廊下を走らない!」

 

「すみません!」

 

 先生に注意されながらも私は学生寮に飛び込んだ。

 

 学生寮は旧校舎と同じくらい古い建物で、ちょっとした貴族の屋敷のようでもあった。この学生寮では最大で200名の学生が暮らすことができるとフリーダは言っていましたっけ。それだけ広いということです。

 

「ここはひとつ、私の感覚にかけてみましょう」

 

 この私が正真正銘の邪神様ならばどこで私に向けて生贄を捧げようとしているか分かるはず! ……はず!

 

 目を閉じて耳を澄ませる。感覚器を研ぎ澄ます。

 

「む! こっちです!」

 

 何か感じました。私の名前を呼ぶようなものを!

 

 私はその気配がした方向へと駆ける。幸い学生寮には今はほとんど生徒はおらず、がらがらであったため、学生寮の生徒ではない私が怪しまれることもなかった。

 

「この辺りの地下から気配が……。しかし、どこに地下室への入り口が……?」

 

 私が1階の開いている部屋の中を見渡す中で、メイドさんが部屋にあった本棚に注目した。本棚は空であったが、何か目につくものがあったのだろうか?

 

「お嬢様。見てください。何度も棚を移動させた傷があります」

 

「おおー!」

 

 ゲームとかでよくある謎解きだ! メイドさんを本棚を床の傷に沿って移動させると本棚の背後に隠し通路が現れた。真っ暗な空間がぽっかりと口を開けて私たちを出迎え、そこからかすかに腐臭を帯びた空気が漂っている。

 

「急がないと!」

 

 私たちは隠し通路に入り、中を進む。

 

 隠し通路は案の定、地下に向かっており、私たちはメイドさんが召喚した炎を松明代わりに地下へ、地下へと進んでいく。

 

 やがて地下から詠唱するような声が響いてきた。それは意味不明で、文字に示すことすら難しい獣の唸り声にも似た音であった。

 

「この先で間違いない……!」

 

 私は強い確信を抱いた。

 

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